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異世界転移したら飼っていた犬が最強になりました~最強と言われるシルバーフェンリルと俺がギフトで異世界暮らしを始めたら~【Web版】  作者: 龍央


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2001/2008

ユートさんの独り舞台が始まりました



「でも、トレンツァちゃんと、それからそっちにいる全員もきっと知っていると思うけど、ギフトは外からの力だよ? 進化をしたら備わるかどうか、なんてのは僕にもわからないけど、いいの?」


 わからない、と言いつつ違うと確信しているように見える。

 ユートさんの経験から、ギフトは異世界からこちらに来た人、そしてその子孫に対して稀に遺伝して発現する、というのがわかっている。

 ティルラちゃんにもギフトが発現した事や、俺がギフトを持っている事から、ほぼ間違いない考えだろう。

 進化と関わりがない、という感覚がある俺からしても違うという確信を持てるくらいだ。


「そ、外からの力、というのは違う、はずよ……!」


 ユートさんの指摘に対し、急に勢いがしぼんだようになるトレンツァさん。

 連れの人達も、これまで俺を睨んで窺っていた視線を、ユートさんに向けた。

 外からの力、という言葉に反応したらしい。

 元々異世界から来た人に備わる力、というのを知っているみたいで、表に出さず、よく見知っている人くらいしか感じないユートさんの剣呑な雰囲気には、気付いていないようだ。


「違うと否定しながら、それが正しいと知っているはずだよ。トレンツァさんだけでなく、そっちのもね。セイクラム聖王国の深部に関わる君たちなら」

「っ!」

「んぐっ!」


 突然セイクラム王国の名をユートさんが出したので、トレンツァさん達より先に俺が驚いた。

 エッケンハルトさんも同様みたいだ。

 外からの力なんて言っている時点で、仕掛けているなぁとは思ったけど、ここでぶっこむかぁ。

 いやまぁ、流れ的にというかユートさんの雰囲気的に、もう突っ込むしかないとは思っていたけど。


「な、なななな、何を言っているの!? わ、私達はセイクラム聖王国となんて、関係してなんか……」


 わかりやすく動揺するトレンツァさん。

 腹芸という程ではないかもしれないけど、駆け引きとかって苦手なんだろうな。

 話からすると研究者っぽいし。

 というか、自分から覚悟したように聖王様、なんて言ったのにな……詰められると弱いらしい。


「だってさっき、聖王様って口走ってたでしょ? この国……我が国の者はそう呼ばない。聖王国の国王様とかは言うけどね。そもそも、聖王という呼称は自称だし、セイクラム聖王国の民にしか通用しない」

「貴様っ……」

「おっと、下手に動かない方がいいよ。ここに何がいるか、君達は知っているでしょ? このタクミ君が一声かければ……いや、異変が少しでもあれば、とんでもないのが飛び出してくるからね?」

「くっ!」


 ユートさんの物言いに侮辱されたと感じたのか、連れの人達が動こうとするのに対し、釘を刺す。

 レオが屋敷の中で待機しているのは間違いないけど、もう少し言い方があったんじゃないかな? とんでもないのとかはさすがに。

 ただ俺が声をかけなくても、異変があればというのは正しく、レオのいる屋敷の方ではなく庭を囲む壁の向こう側で、感覚強化薬草で拾えるくらい小さく、激突音がしたくらいだ。


 ……連れの人達が動き出そうとしたのを察知したんだろうけど、あっちは何をしているんだろう?

 壁を越えて来ないから、突入してくるわけではないようだけど。


「そうそう。そうやっておとなしくしておいてくれた方が、僕達にしてもやりやすいよ」


 外に意識を向けていると、ユートさんがトレンツァさん達の様子を眺めながらそう言った。

 おとなしい方が、というのはむしろ俺がやりやすいと思うくらいで、ユートさんやエッケンハルトさんは動いてくれた方がやりやすいと思っているような節があるけども。

 二人共――いや、俺も含めてこちら側に座っている皆、机の下で向こう側から見えないように、隠していた武器をそれぞれいつでも使えるように備えているし、俺も油断しないようにしておこう。


「僕はね、話が聞きたいんだよ。君達が何を考えているのか、をね。まぁ大体の事はここまで話した内容で見えてきてはいるけど」

「私達が……私は、話したように人の進化を。そして、多くの人がギフトを持って世界が変われば、魔物の脅威すら取り除ける。そして、恒久的な人の繁栄を――」

「うんうん、そうだね。トレンツァちゃんは本気でそう考えているのかもね。できる、できないはともかくとして……」


 できない、という部分を強調するユートさん。

 トレンツァさんが言う進化を、ユートさんはできないと考えているからだろうか?

 ユートさんの言葉の棘に気付いたトレンツァさんは、少し怒ったように言い返す。


「私の研究は正しいわ! 絶対に、人は進化できるはずよ! これまでも、進化してきたからこそ人はこの世界で繁栄する事が出来たのだから! そして、そのための道筋ももう見えているの!」

「進化が何を指すのか次第だけど……人が繁栄できた理由の一旦、少なくとも一つの理由は進化のおかげじゃないね。まぁ、その辺りは古い歴史の話になるし長くなるから今はしないでおくけど」


 古い歴史というのはもしかして、過去に魔物によって人が追い詰められ、理由はわからないけどシルバーフェンリルが人に味方をしたおかげで、絶滅しなくて済んだという、以前聞いた話の事だろうか。

 レオとは違うシルバーフェンリルが、どういう理由で魔物達に攻撃をしたのかはわからないけど、それは人に味方をするためだったのかも、わかっていない事だ。

 ただ単に、気に食わなかったから魔物を攻撃しただけで、人はどうでもいいと思って味方をするつもりはかけらもなかった、なんて事もあるかもしれないし。

 ……歴史の議論は、よく知らない俺が頭の中で考えても答えは出ないだろうし、議論するのも長くなるだろうから、ユートさんも言っているように今は止めておこう。


「何を言っているの! 人が人として世界に繁栄しているのは、我がセイクラム聖王国が人を守るための旗頭となり、魔物との戦いの先頭に立つ事で成し遂げたのよ! そしてその中で、多くの人が戦いに適応する事で勝ち得た!」

「その適応が、進化だと?」

「えぇ! 進化した人は、魔物を寄せ付けず跳ね除け、人の生存権を広げ、世界に繁栄する礎となったのよ!」

「生活圏の次は、生存圏か……まぁ、今は共存とは決して言えないけど、ある程度境界ができて安心して暮らせる場所ができたからね。それを生存圏と言うなら、今度は生活圏を広げて何処にでも行けるようにってところかな。ただまぁ、魔物と戦って退けた人は進化したわけじゃなく………」


 やれやれと言った風に首を振るユートさんは、きっとギフトの事を考えているのかもしれない。

 話に聞くくらいで想像するしかないけど、人が追い詰められていた時代は相当過酷で、そして異世界から来た人が持つギフトのおかげで


「それにしても、随分と偏った歴史の知識だね……。まぁそれもあの王と、セイクラム聖王国のやり方っぽいけど」


 なんて小さく呟くユートさん。

 偏った歴史の知識、か。

 その言葉の意味するところは、セイクラム聖王国では正しい歴史ではなく改竄した知識を伝えているって事だろう。

 俺はユートさんから聞いた歴史くらいしか聞いた事がないけど、一応今のところは偏っているとは感じないし、多分真実なんだろうなとは思っている。


 とはいえ、全く知らない無垢な状態で間違った歴史を教え込まれたら、それが真実だと信じてしまうものなんだろう。

 歴史というのは考察など色々あるけど、後々の人が改竄する事も容易かったりもするものだから。

 権力者が都合よく捻じ曲げて伝える、なんて地球でもよく使われる手法らしいしな。

 国と国民をまとめるためと考えれば、全てが悪と断定する事はできない。


「っと、歴史を議論する場ではないからとりあえずそれも置いておこう。トレンツァちゃん……いや、トレンツァちゃん自身はそれを信じているんだろうけど。そうだね、そっちの人達は知っているんじゃない?」

「っ!?」


 ユートさんが視線と共に、水を向けた先はトレンツァさんと一緒にいる連れの人達。


「ずっと僕の事を睨んでいるけど、君達は見た感じトレンツァちゃんのような研究者ではないでしょ? 結構、詳しいんだ。ここに来るまでにも、油断なく動いていたようだし。なんというかね、身のこなしが違うんだよ。研究者ではなく、訓練された者の動きだった。研究者だからって、訓練された動きができる人が絶対いないとは言えない。けど、君達は全員そうだ。おかしいよね? そんな研究者が五人もいるなんて。もちろん、ただ小さな村で生まれ育ったわけでもない」


 訓練された動きができる研究者が五人、かき集めればもしかしたらいるかもしれないが、簡単に集まるものじゃない。

 そのうえ、それが研究者らしきトレンツァさんと一緒にいる、というのは通常ではあり得ないだろう。


「貴様、一体……!」


 警戒を強める連れの人達。

 睨む視線がさらに強くなったけど、ユートさんはどこ吹く風だ。

 殺気というのだろうか? 俺に向いていないのに強く感じるそれは、複数を集中的に向けられたら俺なんかは怖気づいてしまいそうだが……。

 さすがにユートさんは、くぐって来た修羅場の数が違うな。


「今僕の話はどうでもいいんだけど、まぁそうだね。セイクラム聖王国の国王とはちょっと話した事があるんだよね。それだけの事だよ」

「なんだと!?」


 国王と話した事があるなんて、それだけで済ませる事じゃない気がするが、それもユートさんらしい。

 というか、話した事があるなんて俺も初めて聞いたけど、ユートさんの立場も含めてそれくらいの経験があっても不思議じゃないか。

 人脈としては、エッケンハルトさんが頭を抱えるくらいの相手とかもいるようだし。


「僕の事より、国王個人なのか、セイクラム聖王国自体なのかはわからないけど、トレンツァちゃんが言っていた人の進化だけが狙いじゃないでしょ?」

「聖王様は、進化が人と国、世界を進めてさらなる繁栄をさせるための方法だと……!」

「今、トレンツァちゃんには聞いていないんだよね。ちょっと黙っていてくれる?」


 そう言ったユートさんからは、これまで感じた事のないような威圧感が発せられた。

 普段飄々としているのに、こういった事もできるんだな、ユートさん。

 向けられているわけではない俺でも、結構な重圧というか恐れすら感じるのだから、直接当てられているトレンツァさんは顔色を青くして押し黙るしかできなかったようだ。

 研究者という事なら、威圧感などにも慣れていないだろうから当然か……俺も人の事は言えないし、立っていたら後退りしていたかもしれない。


 ただ、その威圧感にも多少怯むくらいで顔色を変えていない連れの人達。

 五人全員がそうなのだから、成る程、訓練を受けているというのは間違いないんだろう。


「本当の狙い、さすがに話すわけにはいかないんだろうし、口を割らないための訓練も受けているんだろうね。じゃあ仕方ない」


 自分達の口から言うわけにはいかない、と口を引き結んでいる連れの人達。

 直接話を聞けないと確信したユートさんが次の手を仕掛ける。


「例えばそうだね……『王を迎える』とか?」

「っっ!?」


 その言葉は、エルケリッヒさんがクライツ男爵の所で得た情報の中にあった言葉。

 再び目を見開き、五人全員が驚きを露にした。


「当たりだね。成る程、成る程。それで、進化に繋がっていくわけだね。まったく、見当違いも甚だしいけど、他者から……少なくとも僕も含めて他国からの忠告なんて、一切聞き入れないあの王とあの国らしいよ」

「き、貴様……! 我が国を侮辱するか!」

「はっはっは! 馬脚を現すというのはこの事だね! もっとも、トレンツァちゃんの発言から既にわかっていた事だけど。やっぱりセイクラム聖王国からだったね!」


 それも挑発のためなのだろうか、勝ち誇った様子で笑うユートさん……素かもしれないけど。

 まぁ、確信したのはトレンツァさんの発言より前で、連れの人達の動きや金刺繍を見たからなんだけど。


「今も見せないように、というより構えているからかな? 机の下では袖の金刺繍がそれを証明しているはずだよね。ただの金刺繍じゃなくて特徴的なそれはつまり、君達がセイクラム聖王国の者。そのうえ王に近い特殊な立場だって事を証明しているはずだよ?」


 トレンツァさんの発言、と言っておきながら金刺繍の事も明かすユートさん。

 多分、向こうを追い込むために、考えをまとまらせないためにそうしているんだろう。


「な、何故その事を! それは我が国の者でも一部しか……!」

「なんでだろうねぇ? でもさっき言ったよ? 僕はそっちの王と話した事があるって。知っていても不思議じゃないでしょ?」


 暗部、というのが確かなら王様と話した事があるってだけで、それを知っているのは不自然だとは思うけど、まぁ俺がここで突っ込む事じゃない。

 ユートさんの邪魔をするわけにもいかないし、むしろ背中を押すというか備えておかないといけないしな。

 そう思い、勝ち誇るユートさんを余所に、こちら側にいる全員に小さく合図を送っておく。

 注目がユートさんに行っているおかげで、椅子を引いておくなどをしても、向こうの人達は全員気付いた素振りはないようだ。


「じゃあもっと核心的な事を言おうか。トレンツァちゃんのおかげで、確信もできたし――セイクラム聖王国の国王は聖王と呼ばれる。国内限定だけどね。ではセイクラム聖王国で聖王とは別に王と呼ばれる存在。それは原初の世界至上主義を掲げる聖王国が認める唯一無二の種。全ての生物の頂点とも言える魔物、シルバーフェンリル」

「なっ……んですって!?」


 威圧されていても、思わず声を出したトレンツァさん。

 それだけ驚いているのは、シルバーフェンリルに関する事を聞かされていなかったのかもしれない。


「世界の王、そして原初の王とまで呼ばれる存在。絶対的であり、人が進化しようが敵わないだろう最強の種。それがシルバーフェンリルだ。セイクラム聖王国では、表向き、そして対外的には他と同じく最強の魔物だとしているだけだけど、長く王と仰いでいるよね。そして、シルバーフェンリルを王と仰いでいるために、セイクラム聖王国の国王はただの王ではなく別の存在、人の中での王という意味で聖王としている」


 聖、というのは原初の世界というのを標榜し、正しく聖なる行いだからという事で、その国の王を聖王と自称するのだと、この場に臨む少し前にユートさんから聞いた。

 トカレフという地名の話が出た事から、セイクラム聖王国との関わりを感じて情報の一つで、備えるための知識としてだな。


「種の進化。そしてこの場に直接来た……というかまぁ、ちょっかいは出してきていたけど。それでどうにもできなかったから、直接乗り込んで来たんだろうね。ともかく、狙いは定まっているわけだ。つまり、シルバーフェンリルへの進化の道筋を示し、促す事でその存在を作り出す。そしてそれを自らの国に連れて行く事。それが『王を迎える』ってわけだ」


 トレンツァさんの進化の研究は、そのために使われる予定だったと。

 色々繫がったな……フェンリルが大量に、そして人に馴染むように暮らしているこの場所はうってつけだったわけか。

 シルバーフェンリルのレオがいる事も、大きな要因の一つなんだろうな――。



読んで下さった方、皆様に感謝を。


別作品も連載投稿しております。

作品ページへはページ下部にリンクがありますのでそちらからお願いします。


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