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1997/1997

疑念が確信に変わりました

ブックマーク登録をしてくれた方々、評価を下さった方々、本当にありがとうございます。


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 何度か、契約書の最終稿を作るために確認している事だけど、最後に一応の合意確認。

 商売人としては、品質の高い物を仕入れられるというバスティアさんはわかるけど、トレンツァさんは相変わらず村のため、というくらいしか言わないなぁ。

 これも加点、かな。

 あと、バスティアさんの所にはキースさんが直接行っていたけど、トレンツァさんの方にはキースさんとは別の人、ここにはいない人に行ってもらっていた。


 さっきはここにいる全員で屋敷……本部を維持していると言ったのに、そこは気にならないのか、気にしていないのか。

 いや、知っていて俺が嘘を言っている事なども全て見抜いている、とかか? さすがにそれは考えすぎか。

 トレンツァさんの様子から、エッケンハルトさんと目を合わせようとしていない事以外、屋敷の方に興味を持っている以外、どうでもいいと考えている雰囲気が少し見える気がする。


 まぁそれも、全員がそうだけど感覚強化薬草を食べているから、鋭くなった感覚のおかげなのかもしれないが……だからこそ、逆に品質管理の女性から前のめりに色々言われたのは、少しだけきつかったりもした。

 声が大きいと、耳がね……。


「ありがとうございます。それでは、こちらへ」


 何はともあれ、契約の合意は取れたので全員を案内するように動き出す。


「おや? どちらへ行くのですかな?」


 俺が向かったのが、屋敷の玄関ではなかったからだろう。

 バスティアさんが疑問の声を上げた。


「お互い対等な契約ですし、息の詰まる屋内よりも外の方がいいかと思いまして」


 そう言って案内するのは、屋敷を迂回しての庭だ。

 理由については、割と強引ではあるけど必要な事だからな、そのために色々と準備したし。


「本部の中は、後でご案内します。何も見る所などはありませんけどね、ははは」

「これほど立派な建物なのです。楽しみですなぁ」

「……」


 庭へと案内しながら話しているけど、楽しそうなバスティアさんはともかく、トレンツァさんは寡黙だ。

 レミリクタで交渉した時は、そういう印象はなかったんだが、こちらの方が素なのかもしれない。

 そんなトレンツァさんは、庭が近づくにつれてほんの少し口角を上げて笑っているような表情になる……何かに期待しているような、そんな感じだ。

 気づいたのも、感覚強化薬草のおかげだな。


 それぞれ、連れている人達は俺やバスティアさん達の後ろを付いてきている。

 エッケンハルトさん達、俺側の人達は全員、固い雰囲気でどんな反応も見逃さない、と言った雰囲気だが。

 ……ちゃんとやれているか不安な俺が言うのもなんだが、もうちょっとなんとかならないかな? 俺を含めてこんな事をするのは初めてだから仕方ないのかもしれないけど。


「ほほぉ、これはまた。庭も立派ですなぁ」

「ははは、ありがとうございます。景観は大事と、手入れには気を使っていますから」


 庭に到着すると、全体を見回して感心しているバスティアさん。

 この日のために特別に準備しているのは、一部と契約のための机と椅子程度だけど、普段から使用人さん達が整備してくれているので、立派だと言われると嬉しくなる。


「そうですかそうですか。おや、あれに見えるは……もしや!?」


 バスティアさんが庭の一部、隅で木の陰になっている場所で視線を止め、目を見開いて驚く。


「あれは、まさかロエではありませんか!? 貴重な薬草なはずですが……」

「はい。群生地から採取して来た物を、試験的に植えて栽培できないかと試みているんです。契約する前段階ですが、実を言いますとあのように薬草を栽培して、増やす手法を確立させたんですよ。だから、品質の保証ができるわけですね」

「な、なんと! 薬草をそのような……」

「ロエは、その生育条件などが不明で、植えてもすぐに枯れてしまう物のはず。それが、あんなに青々と……」


 バスティアさんと同じく、品質管理の女性も同じく驚いている。

 注目の的になっている薬草は、まぁ植え替えたというか俺が『雑草栽培』で作った物だから、新鮮、青々としていて当然なんだが、まぁそちらは秘密なのでそういう事にしておく。

 ちなみに、ロエという事にしているが、それは見た目が同じロエもどきで、以前ラクトスで従業員として雇ったガラグリオさんとリアネアさんに使った、後遺症を治す薬草だ。

 ロエは致命傷以外の外傷を即座に治す効果だが、ロエもどきは傷が治ったが残ってしまった後遺症を治す効果で、血が流れている怪我などを治す事はできない。


 そんなロエもどきを見せたのは、驚かせるためともしもの際に使われないためだ。

 思惑通り、バスティアさん達は驚いているようだが……トレンツァさんの方はあまり芳しくないな。

 いや、連れている人達は驚いているか。

 トレンツァさんの反応が鈍いのは、ロエに対する興味がないからのように見える。


「薬草や薬品について、色々話したい事もありますが……まずは契約をしてしまいましょう。こちらです」


 庭の一角、全員が座れるように用意された大きな机と椅子。

 机の上には、契約をするためのセットが揃っている。

 まぁ、契約書とインクやペンくらいだけど。

 商取引での契約を締結するのは基本的に、サインだけや印章を共に捺印する事で締結される。


 サインのみというのは印章を持っていない人がするのだが、印章があるとないとでは信頼度が違うらしい。

 場合によっては、後から印章を作って捺印する事もあるらしい。

 前もって、クラウフェルト商会の印章を作っておいて良かった。


 バスティアさん、トレンツァさんを机の中央辺り、その横並ぶように連れている人達が座ってもらう。

 向かい側に俺が真ん中で座って、左右にエッケンハルトさんやキースさん達が座る配置だ。


「タクミ君、ちょっといいかい?」

「ん……?」


 それぞれが椅子に座るのを待っていると、声を潜めた従兄という設定にしたユートさんに声をかけられた。

 クラウフェルト商会は家族や親類で作ったので、親戚関係にした方がいいだろうと。

 まぁ見た目年齢も近いしな……実年齢はともかく。


「タクミ君の判断はどうだい?」


 そう言って、気付かれないよう視線を向けるのはトレンツァさん。

 バスティアさんはここまでもそうだし、セバスチャンさんによる調査で、怪しい点などはないとわかっているから、単純に取引契約がしたい商人として安心している。

 失礼ながら、見た目の印象では何かを企んでそうだし、連れの人にも似たような事を言われていたけど。

 人は見かけによらないというか、見た目で判断しちゃだめだな。


「まだ、確定とは言えませんけど……加点はされていますね」


 全力で怪しいというか、疑ってかかっている相手はトレンツァさんとその連れの人達。

 加点方式のようにしているけど、それは黒かどうか判断するためのもの。

 確実に黒と言えるならこのまま進み、白と判断できれば、バスティアさんと同様の契約書に差し替える予定だ。

 まぁ、今の時点でもう白とは言えないし、調べてもらっていた範囲でもグレーだったけど……出身地が嘘だった事から、白はあり得ないんだろうけども。


「ふむふむ。僕の方は、間違いなく黒と言えるのを発見したよ」

「え? それって?」

「トレンツァ、だったっけ。あの子……じゃないあの女でいいか。そっちじゃなくて連れている奴らの方だね、ボロを出しているのは。まぁタクミ君との会話から、あの女の方もちらほらボロを出しているけど」

「屋敷、と言っていたし……なんというか、本当に薬品を仕入れたい風には見えなかったから。でも、トレンツァさん以外の人がボロを出しているっていうのは?」


 多少ユートさんの口が悪い気がするけど、出身地がセイクラム聖王国にある街の名に似ている事から、その繋がりを考えてだから、そうなるのも無理はないのかもしれない。

 ただトレンツァさんの連れの人は、手の位置などが不自然という事以外俺には違和感を感じなかったけど……。

 トレンツァさん自身は、俺が「本部」と言ったのに「屋敷」と返したり、色々と怪しめる反応があった。

 バスティアさんのは俺の言葉を受けて「本部」と言ったのに……ちょっと強引かもしれないが、元々屋敷というのを知っていたのではないか? という考え。


 だから、それだけで断定せずに一点を追加したってわけだ。

 それだけではなく、エッケンハルトさんを見た時の反応や、バスティアさんは言葉を尽くしてくれようとしているのを感じるのに対し、トレンツァさんは交渉した時と同じような事しか言っていないからというのもある。

 俺は特にその部分は引っかからなかったんだが、事前にキースさんから商人が本当に取引をしたいのであれば、似たような事を繰り返し言うのではなく、相手の心象を良くしようと言葉を尽くすもの、だと聞いていた。

 その例にぴったり当てはまったバスティアさんはともかく、そうして相手の心象をよくする事で、取引契約や今後も含めて自分達に有利に働くようにするのが、損得勘定に優れた商人でもある、とはキースさん談。


 と、そんな事を考えながらユートさんの話を聞く。

 座ったから早速契約を、ではなくまずはいったん落ち着くためにライラさんやアルフレットさんが、全員分のお茶を用意してくれいるので、もう少し話す余裕がありそうだ。

 俺とユートさんが話しているのを見て、ちょっとした時間稼ぎをしてくれているのかもしれない……いつもより、ライラさんの動きなどがゆっくりに見えるし。


「えっとね、どこの村にもいそうな服装だけど、妙に綺麗な事かな」

「……確かに綺麗だけど、それだけで?」

「もちろん他にもあるけど、まずはそこだね。タクミ君はハルトやクレアちゃんと一緒だから、あまり実感がないだろうけど、通常はあんな小綺麗な服って言うのはあまりないんだ。汚れているって言うわけじゃなくて、もっと綻びとか、布の材質とかね」

「言われてみれば……」


 ランジ村の人達の事を思い出せば、確かに納得する部分があった。

 布というか服という物が、日本よりも価値が高いため、一般的には何の綻びもないような服を持っていない事が多いらしい。

 新品の服をしょっちゅう買い替えるとかは限られた人にしかできず、中古の服や持っている服を繕ったりして使っているとか。

 村の人達もそれは変わらず、ボロボロとは言わないが修復跡やサイズを調整したなど、なんらかの痕跡が見れたりする。


 だが、トレンツァさんを含めて、連れの人達も村に溶け込むような服装ではあっても、そんな痕跡はなく綺麗な新品の服のようだった。

 おろしたての服という程ではないんだけど。


「契約という大事な場だから、一張羅とか、一番きれいで上等な服を着てきたっていうのは?」

「可能性としては低いかな。本当に小さな村から来たんだったら、新品の服を買う余裕はないと思うよ。村の規模、お店の規模はそのままイコール資金力でもある。それこそ、ここまであの人数で来るだけで精一杯かな。それに、バスティアさんの方は護衛がいるけど、あの女の方はそれがいない。さらに遠くから来ているのに」


 隣の街や村に行く場合でも護衛を雇う事があるのに、遠く離れたこの場所に来るのに一人も護衛がいないのは確かにおかしいか。

 バスティアさんの方は、護衛さんが二人いるのを紹介されており、その言葉通り武器を携帯しているのを確認している。

 反対にトレンツァさんは護衛ではなく、連れの人は全員同じ村からで、しかもお店で働いてもらっている人という。

 護衛を雇う余裕がないから、とも考えられるけど、それなら新品の服がさらにおかしいという事になる。


 旅の護衛を雇う相場は、食事などを提供するかの契約形態によって様々だけど、数人分の新品の服を購入するより安いからだ。

 旅の安全と綺麗な服、どちらを選ぶかと問われたら、ほぼ全員が旅の安全を選ぶはず。


「まぁそれも、タクミ君の加点方式にひっかかるくらいかな。それで、決定的なのはその服の一部。よーく見てみると、袖の内側に金刺繍がしてあるんだ」

「金刺繍……」


 袖の内側か……そこは気にしていなかった。

 今見ようとしても、皆座っているため机の下に腕が入っていて見えない。

 じっくり観察していたら、こちらが怪しんでいる事がバレる可能性もあるし、まさか見せてくれというわけにもいかない。


「その金刺繍がね、紋章の形をしているんだ。あれは、見た事のある人しかわからないけどセイクラム聖王国でのみ使われている物だよ」

「っ……か、間違いなく黒って言ったのはそういう……」


 セイクラム聖王国の名が出て来て、驚いて声が出そうになるのを慌てて抑える。


「そういえば、特殊な訓練を受けているかもって言っていたよね? 当たりだよ。あれはセイクラム聖王国の暗部に支給される服に着けられる金刺繍だ」

「暗部なのに、そんな目立つ物を?」

「ある程度地位のある人には、金刺繍を施した服を与えるって風習というか、決まりがあるんだよ。暗部は表に走らない人が多いけど、その金刺繍を見ればそれなりの地位を持っているって保証になるわけだね。多分、裏でも動きやすいようにだと思うよ」

「地位が保証されていれば、信頼もされやすいから……」


 国内では特に、裏で動くために便利な物なんだろう。


「んで、支給されるには、暗部でもさらに地位の高い者にならなきゃいけない。全員ってわけじゃないんだ。つまりあそこにいるのは……」

「幹部クラスとか、そういう意味?」

「うん。フェンリル達が捕まえたような下っ端じゃない。そんなのを連れているんだから、護衛なんて必要ないわけだね。気を付けてね、タクミ君」


 そう言って、机の方をチラリと見て俺から離れるユートさん。

 ライラさん達によるお茶の用意が終わったようで、これ以上ヒソヒソと話していたらおかしく思われるからだろう。

 今の話を経て、湧き上がる緊張感を表に出さないようにしつつ、俺も席へとつく。

 俺を挟んで座っているエッケンハルトさん、キースさんには机の下で見えないように手を動かし、合図を送って知らせておく。


 詳細は伝えられないが、ある程度の合図を前もって決めていた。

 二人は、向かいにいる人達に気付かれないよう、感覚強化薬草を使っている人にしかわからない程度に、頷いた。

 ちなみに、アルフレットさんではなくキースさんが隣なのは、これが一応名目上は取引契約の場だからだ。

 今回に限り、俺に一番近いのはキースさんとなっているし、そういった紹介をしている。


「「……」」


 俺の合図を受けたエッケンハルトさん、キースさんから他の皆へと同じく合図がされ、広がっていく。

 感覚強化薬草のおかげで、微細な気配が伝わるだけで、向かいにいる人達には気づかれていない。

 両端にそれぞれ配置されている、フィリップさんとニコラさんがほんの少し体重を移動させ、いつでも動き出せるように油断なく、それでいて表面上は何もない様子を装っているのがわかる。


「すぅ……ふぅ……」


 加点方式で黒と判断する前に、ユートさんから答えをもらった。

 ほんの少し、手が震えてしまいそうなのを小さく深呼吸をして抑え込みつつ、切り出した。


「さて、皆さんの準備もできたようですし、始めましょうか」


 取引契約の皮を被った何かが、始まった――。



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■7巻書影■mclzc7335mw83zqpg1o41o7ggi3d_rj1_15y_1no_fpwq.jpg


■7巻口絵■ mclzc7335mw83zqpg1o41o7ggi3d_rj1_15y_1no_fpwq.jpg


■7巻挿絵■ mclzc7335mw83zqpg1o41o7ggi3d_rj1_15y_1no_fpwq.jpg


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