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1995/1996

諸々の準備を進めました

ブックマーク登録をしてくれた方々、評価を下さった方々、本当にありがとうございます。


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「それって……意識的にそうしているわけですよね? だとすると……」

「私はそういった事に詳しくないのですが、特殊な訓練を受けた人、というのが原因な気がします。単純に訓練を受けただけ、という事かもしれませんが。いつでも、動き出せるようにしていたという感じでしょうか。それから……」


 いつでも何かに対応できるように、腕の位置を意識して動き出しやすい場所に置いていた、という事なのだろう。

 さらにデリアさんは、主な臭いは消されていたけど体のあちこちに金属臭……さらに具体的に言うと、血に触れた事のある刃物の臭いを感じたとか。


「タクミ様の薬草のおかげで、そういった小さな臭い、覆われている臭いもわかりました」


 覆われている……服の内側に隠されているという事だろう。

 血に触れた事のある刃物、か……それ自体は珍しい事じゃない、この世界ならではだけど。

 魔物もいるから、刃物を持ち歩き、また生き物に使用する事は日常茶飯事と言っていいからな。

 出身地はともかく、遠くから来ているのは間違いないし、道中で刃物が必要になる事もあるだろう。


「感覚強化薬草が役に立ったみたいで、良かったですよ」

「身体強化薬草の方も、ですね。おかげで、レオ様から木の枝をもぎ取れました!」

「ははは……あれはそれもあったんですね」


 どうやら、まだ身体強化薬草の効果が残っていたため、木の枝を追いかけるレオ達の中に乱入して、見事獲得できたらしい。

 レオやフェリーは、リーザがいるから加減をしているとはいえ、元々素早く動けるデリアさんならではなのだろうけど……潜んでいるのに気づかなかった事とは、多分関係ないとは思うが。

 ちなみに、身体強化薬草や感覚強化薬草の効果時間は、大体二時間から三時間くらいで、少しだけ幅があっていつも一定ではない。

 これは、森へ行く調査隊の人達や自分でも試しての推測だけど、薬草を食べて消化されるまでの時間なんじゃないかと思っている。


 体調とか他の要素で、毎回消化までの時間が一定じゃないだろうというのがある。

 胃の中で消化されるまでの間、魔力に干渉して身体能力や感覚を強化する作用が発生しているんじゃないか、とユートさんとも話してそう結論付けた。

 この際だから話しておくと、以前の俺が倒れたように持続時間という話があったが、あれは薬草の効力を越えて効果を出した際に限るだろう、と考えている。

 さらに、シェリーを助けた時は薬草でけがを治癒させたけど、摂取する形で効果を出すものに関しては持続させる物ではないんじゃないかとも。


 体内に入り込むと、魔力に包まれる事になって繫がりのような物はなくなって、持続できなくなる、とも推測していた。

 他にも、ユートさんが気にしていたように、本来ないはずの薬草かどうかなども関係しているんじゃないかなどだな。

 あとロエは、致命傷は治癒されず、それ以外の外傷を癒す物であって、瞬間的に行われるからロエその物の効果だけであり、持続時間は関係ないなどだ……少々脱線してしまった。


「それで、デリアさんの感じた刃物の臭いっていうのは、話しぶりからするといくつもあったようにですけど」

「そうですね。懐や太もも辺り。他にも、袖の内側からも感じました。なんと言いますか、刃物を持っている事を隠している、隠すための場所という感じですね」

「成る程……暗器とか、そういう事なのかな?」


 特殊な訓練を受けている可能性、を考えると益々「暗器」という単語が当てはまりそうだ。


「そういえば、フェンリル達が捕まえた人も、そういった物を持っていたみたいだし……」

「村に入る前に、フェンリル達は何も感じてなかったんですか?」

「多分、デリアさんも言っていたように、臭いを消していたから気付かなかったんじゃないですかね。それか、村の入り口からお客さんとして入って来たからか……」


 消臭剤の効果か、トレンツァさん達一行がランジ村へ入る時に、フェンリル達が反応する事はなかった。

 臭いで村や屋敷に近付く不審な人を発見していた事もあるから、臭いが消される、または上書きされていたから気付かなかった可能性。

 それと、捕まえた人達は村の入り口とは別方向から来ていた。

 だからちゃんと村の入り口から入って来たトレンツァさん達には、意識を向けていなかった可能性もあるな。


 村の入り口の方は、兵士さん達が多少いるくらいで、ちょっとした調べは受けてもそれだけだ。

 特別に怪しい素振りなどがなければ、身体検査などもしないだろうしな。


「ありがとうございます、デリアさん。おかげでまた少し、情報が得られました」

「いえ、お役に立てたのなら良かったです。それでその……あちらに混じっても……?」


 そう言うデリアさんが気にしているのは、話している間も何度か俺が投げている木の枝と、それに群がるレオ達。

 ……いつの間にか、他のフェンリル達も数体混じっているけど。

 話している最中、ずっと木の枝から目線を外さなかったからな、よっぽどやりたいんだろう。


「なんなら、デリアさんが枝を投げてみます?」

「いえ! それよりも私は、追いかける方が!」

「そ、そうですか……」


 尻尾を揺らし、前のめりなデリアさん。

 狩猟本能的に、獲物を追いかける方がいいのだろうか? リーザもそうだが、レオ達も追いかける方が好きだからそういうものなのかもしれない。

 尻尾と耳の形から、デリアさんがネコ科だと考えると、納得できなくもない。

 ネコ科は狩猟動物でもあるからな……獣人に、動物的な本能がある程度あるのはわかっている事だし。


 そうして、さすがに俺一人では手が足りないため、近くにいた使用人さんに協力してもらい、デリアさんやさらに追加のフェンリル達、それとフェンリルと遊びに来ていた子供達も混ぜて、遊びに興じた。

 子供たちはさすがに、追いかける側ではなく木の枝などを投げる役割が多かったが。

 いつの間にかラーレが混じっていたり、体の小さいコッカーとトリースが、フェンリルの背中に乗って混じったりもしていた。

 ……コッカーとトリースも、今の環境に随分なれたもんだなぁ。


 ただ、椿の花を採取した後の枝を投げた時は、フェンリル達が興奮しすぎてちょっと危険だったから、今後はやめようという事があったりもしたけど。

 遊びは、遊びの範疇で興奮しすぎは良くないからな――。



「サニタ―ティムは、このくらいでいいかな? っと」


 デリアさんの報告からさらに数日、やはりトレンツァさんが怪しいとして、何を狙っているかわからなくとも、その何かに対応するための備えをしていた。

 サニタ―ティムもその一環で、もしカナンビスの薬を使われた時の対応手段として量産。

 『雑草栽培』を使う俺の横で、デリアさんとリーザ、それからフェヤリネッテがせっせと丸薬を作ってくれている。


 何故か、丸薬の効果は人間が作るより獣人や妖精などが作る方が効果が高くなるからだ。

 レオやフェンリル達も手伝おうとしてくれているんだが、体の構造と肉球の影響で上手くいっていない……まぁ、捏ねるだけだから手は足りているし、無理に手伝わなくてもいいんだけど。


「リク様、ご報告が」

「はい?」


 そうこうしていると、アルフレットさんがキースさんを伴って現れる。


「バスティアさん、トレンツァさん、共に契約がまとまりそうです」

「そうですか。ありがとうございます」


 取引契約、トレンツァさんが怪しく本当に取引契約をする気なのかわからないが、こちらの考えや動きを悟られないため、表面上はクラウフェルト商会として契約を進めている。

 バスティアさんの方は、契約書に関してあれこれ意見を交わして、初案から多少変わったりもしたけど、それだけこの契約に意気込んでいると感じられた。

 トレンツァさんの方は逆に、こちらが出す契約書の内容をそのまま受け入れて、さらにそれが怪しさを感じる。

 というか、本当に商人であれば……という以前に、商人としてのノウハウがほぼないと言っていい俺ですら、どうかと思うような契約内容を示しても、一瞥するだけで受け入れていたらしい。


 らしいというのは、最初の交渉依頼俺がトレンツァさんと会っていないからだが……。

 トレンツァさんは、相変わらず宿から出ず、外部との接触はなしで契約書の確認を使用人さんが持って行って確認してもらう程度だった。


「それぞれ、もう別物の契約と言える程の物になってしまいましたね」


 後はお互いの署名や捺印をするだけ、という契約書の最終稿を確認しつつ呟く。


「はい。バスティアさんとは擦り合わせをして、お互いが納得いく形になり、正しく取引契約書と言える物になっていますが……トレンツァさんの方は……」


 バスティアさんとの契約書は、初案から細かな部分が変わっているが、ちゃんとした取引契約書だ。

 薬品の、特に単一の薬草を使った物を絶賛しているためか、損失補填の負担が五分五分になっていたりもする。

 フェンリル便だとほぼ損失する可能性がないし、こちらが全額負担で良かったんだが、まぁそれだけバスティアさんがなんとしても契約したいと思っている、と考えておこう。


 実際に損失があるかはともかく、商人として、商会として一方に負担をかける内容というのは看過できないとか、そういう事もあるかもしれないが、ともあれやり手だが善良な商人だとの評価が、キースさんやアルフレットさん達から出ている。

 そんなバスティアさんとの契約に対し、トレンツァさんとの契約は……。


「見方を変えれば、合併。しかも、クラウフェルト商会の傘下というか、完全吸収みたいなものですからね……」

「はい。戦いに例えるなら全面降伏、無条件降伏……いえ、全ての財産を差し出しての命乞い、ですか」

「そこまで酷いかどうかは微妙ですけど……」

「まさか、これらが全て頷かれるとは思いませんでした。少々、調子に乗った感もありますね……」

「それだけ内容を見ていないか、考えていないか。興味がないのかもしれませんね」


 おそらく、本当に商人としてクラウフェルト商会と、取引契約を結ぶ気はないんだろう。

 というより、結ぼうか結ぶまいがどうでもいいのかもしれないな。


「取引契約の内容もまとまりましたので、そろそろになりますが……」


 少し迷っている様子で、キースさんが俺に言う。


「もう少し、準備をしたいような気もしますけど、これ以上何をしたらいいのかもわかりませんし、仕方ありませんね。今のところ、他に動きはないんですか?」


 アルフレットさんに聞いてみる。


「セバスチャンさんによりますと、やはり本人は宿から出る事はないそうです」

「そうですか。俺と話をしてから、一度も出て来ていないんですね」

「はい。宿には裏口もありますが、そこは宿の従業員のためのもの。念のため見張りをしていたようですが、そこからも出て来ていませんので、間違いなく宿の部屋にこもりっきりです」


 さすがセバスチャンさんと言うべきか、隠れて外に出る可能性も考えて、そちらも見張っていたらしい。

 他には窓から出入りなんて事も考えられるが、トレンツァさんに限らず、宿の宿泊者部屋は三階以上、高所になるうえ見張っている人がいるのに、そんな目立つ場所から抜け出すような事はないだろう。

 ちなみに二階と三階以上の一部の部屋は、要人用になっているらしく、トレンツァさんやバスティアさんは一般客として泊っているので、そこではない。

 部屋に入ったり、直接確認しなくとも、宿のみならず村の人達が味方になってくれていると、色々と情報が入るし、間接的にでも調べるのがやりやすいな。


「ただ……」

「ん?」

「これは、どう関係するのかわかりませんが……連れの方が村に出る際、小さな水晶のような物を持っていたそうです」

「小さな水晶、ですか?」

「はい。タクミ様もご存知のように、魔力検査のための水晶に似ている、との事です」

「魔力検査の? そんなものを何故……誰かに触れてもらった、とかそういう事は?」

「ありません。村の者達と雑談など会話をする事はあるのですが、その水晶を見せる事すらなかったそうです。決まって、連れの方々のみの時に取り出していたと」

「……よくわかりませんね。そんな水晶で何かがあるとは思えませんけど……一応、留意しておきます」


 魔力検査の水晶、何度かラクトスにあるイザベルさんの魔法具商店で見たけど、あれは検査対象者が触れ、取り扱いを熟知する人が反応を見て調べる道具だった。

 だから、同じ物であれ誰かが触れないと意味がないはずだけど……大きさは、大小様々で一定じゃないようだから、小さいと言うのはあまり関係なさそうだけど。

 持ち運びのために小さい物を、という可能性はあるか。

 それにしても、誰にも触れさせないというのは……まさか、自分達の魔力を調べているわけでもないだろうし、それなら、他の目がない宿の部屋で調べればいい事だ。


「他に、セバスチャンさんの報告だけでなく、アルフレットやキースさん。それにレオやリーザも、気になる事はありませんか?」


 取引契約に臨むにあたって、いくら準備をしてもし足りない気がして、そんな事を聞く。

 気になる事など、不確定要素というかもしもなどに備えられるなら、なんでもやっておきたい。

 もちろんできる事に限られるけど。

 考えているアルフレットさんとキースさんより先に、レオとリーザが声を上げた。


「ワッフ、ワフワウ」

「んーとね、ママも言っているけど、私もなんだかちょっと変な臭いを感じる事があるよ」

「変な臭い? それは、悪い臭いなのか?」

「ワウー、ワッフ」

「遠くからほんの少し流れて来るだけだから、なんとなく悪いかも? ってくらいだって。私もそう。すぐに消えるから」

「ふむ……」


 それが何なのかわからないし、聞いただけ不安が増した気がするが……悪い『気』がする臭いか。

 もし関係しているなら、消臭剤などですぐに消しているのかもしれない。

 レオとリーザが気にしているから、俺も気にはして頭の中に入れておこう……これに対しての準備は何をしたらいいのかわからないが。


「臭いに関しては、旦那様の感覚強化薬草を使った者が、これまで嗅いだ事のないような臭いを、宿の付近で感じたそうです。ただ、レオ様やリーザお嬢様程の嗅覚が元々なく、臭いで情報得る事にも長けていませんので、詳しくは……ただ、仰っているようにすぐその臭いは消えたそうです」

「成る程。何をしているかはわかりませんが、関係しているので間違いなさそうですね」


 嗅いだ事のないような臭い、か……騒ぎにもなっていないから異臭というわけではないんだろうけど。

 感覚強化薬草は、セバスチャンさんに言って、調べてもらっている人に渡してもらっている。

 それで強化された嗅覚で、ようやくわかる程度なんだろう、消臭剤がまかれているからかもしれないが。

 ちなみにだが、いくら強化されている嗅覚であっても、獣人のリーザやデリアさん、さらにレオやフェンリル達んは人間は敵わない。


 村の北端にあるこの屋敷と、村の南端――正確には西南入り口付近だが――にある宿で距離があっても強化されていないレオとリーザは感じるが、人間だと強化されても宿のすぐ近くまで行かないとわからないというくらい大きく違う。

 臭いから様々な情報を感じ取る事にも慣れていないため、ただ臭いがある、というだけでは人間にそれが何か、と理解するのは難しいんだろう――。



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■7巻書影■mclzc7335mw83zqpg1o41o7ggi3d_rj1_15y_1no_fpwq.jpg


■7巻口絵■ mclzc7335mw83zqpg1o41o7ggi3d_rj1_15y_1no_fpwq.jpg


■7巻挿絵■ mclzc7335mw83zqpg1o41o7ggi3d_rj1_15y_1no_fpwq.jpg


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