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1990/1996

とある商会長と商会員の驚き



「とにかく、消臭剤が作れれば便利に使ってもらえるかもしれないって事でいいかな?」

「まぁね。さっきも言ったけど需要はあると思うよ? でも、作れるの? あれって植物由来だけじゃなかったと思うけど」

「まぁ、同じ物は無理だと思う。けど、何かしら作れるかもって考えてはいたんだ」

「ワフ?」


 そこでまた、レオをチラリと見る。

 時折、獣臭がするからな……それで消臭できる物を、なんて考えた事がある。

 直接レオに振りかけるためってわけじゃないが。

 レオが汚れて臭う時は、風呂で洗っているし。


「除菌消臭って方向になるか、臭いの上書きに近い消臭になるか、まだわからないけど、それっぽい薬草が作れるかも。まぁ今は他にもやる事があるから、もしかしたら作れるかも。作れたらどうかな? くらいなんだけど」

「成る程ねぇ。まぁ、タクミ君が作りたいなら、僕も協力するよ。お風呂が面倒だと思う事もあるし、そういう時には悪くないかもしれないしね」


 お風呂に入れる環境にあるなら、面倒に思わず衛生的な意味で入って欲しいが……疲れて面倒だと思う事があるってのはわからなくもないので、何も言わないでおく。

 ともかく、消臭剤に関しては需要があるなら便利に使える物を作ってみれば、程度の思い付きだ。

 もしできたら商品化する可能性は高いが、これも色々試してみないとどうなるかはわからない。


 そもそも、本当に消臭剤と言える物が作れるかはわからないのだから、今回の事もあってちょっと聞いてみたかっただけ、というのが大きい。

 そのうち余裕ができたら、本格的に考えるかもしれないが――。


―――――――――



「おかえりなさいませ、会長」


 人の少ない村に不釣り合いな程大きな宿、その一室で私を迎える者達。

 我が商会の者達だが、信頼のおける者達でもある。

 大きな街でもそうないような、広々とした部屋には複数の仕切りによって、複数人が寝泊まりできるようにしてあった。

 その部屋で、連れてきた者達は私が戻って来るのを待ち望んでいたようだ。


「くふふふふ……実りのある商談だった」

「我々は、会長が兵士に捕まってしまわないかの方が心配でしたが」

「……いくら私でも、公爵領の兵に捕まるような事はしないのだが」

「いえ、会長は実際に行ってなくとも、何か悪事を働いていそうな見た目をしていますので」

「連れて来る人員を間違えたようだ」


 そもそも、雇う人員を間違えたのかもしれない。

 遠慮も何もなくそういった男……商会員でありながら、会長である私を敬う気持ちは一切感じられない。

 とはいえ、我が商会では忌憚なく意見を言い合えるよう、私に対しても思った事を言うような方針にしているからなのだろう。


 それにしても、この男は気にせず言い過ぎではあるが……そういったところも気に入っているのは、本人には言っていない。

 言うと調子に乗りそうだから。


「はぁ……私自身が、そういう見られ方をされるのは自覚している」

「だからこそ、交渉に臨む際、危険がある場合を除けば相手を警戒させないよう一人で臨むのでしょう? 人数に関係なく、会長自身が警戒させるのですが」

「……方針とはいえ、さすがに言い過ぎではないか?」

「慣れてください」

「慣れでどうにかなる事でもないと思うのだが。私だって傷つくのだぞ?」


 自分の人相、というより体形や笑い方の癖など、「悪徳商人に見える」と言われているのは知っているし、自覚もしている。

 だがそれでも、直接言われるのはさすがに少々堪えるのだが……まぁ、慣れたくないしどうにかならないと言いつつも、実際慣れてきているのは確かだが。


「そんな事よりも、こちらを見なさい」

「これは?」

「いくつかの種類の薬草、そして薬だ」


 私を散々傷つけた男とは別の者、商品の品質管理を任せている女性に、持って帰って来た物を見せる。

 レミリクタ……多少間に合わせで建てたような店ではあったが、細部はしっかり造られていた店。

 そこで売っていた商品をいくつか購入した物だ。


「私自身も確かめているが、品質について意見を聞きたい」

「畏まりました……ふむ。これは素晴らしいですね。薬の方は実際に確かめねばわからない部分もありますが、薬草の品質はこれまでに見た事がないくらい高いと言えます」

「そうだろう?」


 薬は調合されているため、実際に使用するまで品質を確かめるのが難しい部分がある。

 それでも、ある程度は高い品質であると目の肥えた私や、品質管理者にはわかるのだが。

 ただそれ以上に、薬草の品質が素晴らしい。

 薬師の腕によって品質は多少左右はされるだろうが、それでもこの薬草の品質であれば、誰が調合しようとも調合の手順を間違えなければ、高品質になるのがわかる。


「会長、一つ試してもよろしいでしょうか?」

「これは商品としてではなく、品質確認のために購入した物だ。必要ならやりなさい」


 品質管理人に頷く。

 試す……実際に薬草や薬を使用するのではなく、魔法によって品質や効果を調べる事。

 魔法具の力を借りて、品質管理人が得意な魔法も使っての事であり、私はこれを鑑定と呼んでいるが、魔力がおかしな作用をするらしく、一部の物はその後使用ができなくなってしまうのが弱点だな。


 そして、薬草や薬はそのおかしな作用をしてしまう対象物の一部に入っている。

 だから購入してきた私に許可を求めたのだろう。


「ありがとうございます。見た目によらず、会長が寛容で助かります」

「見た目は余計だ。どうしてこうも、我が商会の者達は一言多いのか……とにかく、商品とする候補なのだから、そのために確かめるのは当然の事。粗悪な品を売るなど商売としてあり得ない事」

「……粗悪な品を高く売りつけてそうな会長なのに、頭が混乱しそうになりますね。んんっ! 失礼、鑑定を開始します」


 余計な一言に私が睨むと、品質管理人は逃げるように鑑定を開始。

 取り出した質感がガラスに似た不思議な材質の箱、透明なそれに品物を入れ、外から魔力を注ぐ。

 箱は魔法具、魔力を注ぐ事で作動する。


「ウィンドエレメンタル・チェックアップ・アプレイソル――」


 長々とした魔法の詠唱を、呟くように発する品質管理人。

 風の魔法によって、箱の中にある物を調べていくらしいが、私にはよくわからない。

 品質管理人は元々魔法具の知識が豊富だが、その魔法具と作用して内部を調べる方法を編み出したらしい。

 これは、我が商会の強みでもあり、だからこそ品質の確かな物を商品として売り出す事ができるため、タロンメルの住民に信頼されている。


 商会を大きくできた一因でもある。

 まぁ、ほんの数年前に雇った者であり、利益と信頼が得られたのはそれだけではないのだが。

 ……商会発足直後は、街の衛兵にすら監視される程怪しまれていたのは、今となっては良い思い出……ではないな。


 あの時の衛兵、許すまじ。

 今では、タロンメルの衛兵をまとめる立場にあるようだが。


「会長、商談の方はどうだったのですか? 実りある、と仰っておりましたが」


 鑑定を行っている間、さらに別の者が聞いてくる。

 この者は、私の片腕として商会を切り盛りしている男で、だからこそ商談の内容の方も気になったのだろう。


「そちらの方は、品質と同じように驚きに満ちていたよ。この私が圧倒される程に」

「会長が圧倒されるですか。失礼ながら、会長が怪しまれるのが常ですのに」

「本当に失礼だな。お前も見ただろう、あの品質でありながらタロンメル……いや、その周辺の村々だけでなく、別の街にまで手を伸ばせるほどの品数の取引を提示されたのだ。しかも、品質は保証するとまで言っていた。これが驚かずに何を驚くというのだ?」

「正確な品質はともかく、一目見ただけでも高品質だとわかる物をですか……それは確かに驚くのも無理はありません。私は、会長が圧倒されていたというのも理解しつつも、そちらに驚いておりますが」

「余計な言葉が多いぞ」


 本当に、商会の者達は一言二言多い。

 私が一体何をしたというのか……有能なのだが、人選を間違えまくっているかもしれない。

 まぁ、それが災いして、私以外雇おうと思うものがいなかったのは確かだが。


「思わず、私が手の内を明かす程の驚きだったぞ。さらにその後、驚く提示もされたがな」


 あれは、一体どういう手段を取ろうというのだろう?

 薬品の輸送方法、費用を抑えるための手段を持っているらしいが、話によると輸送にかかる日数もかなり短縮できるらしい。

 商人にとって、遠くの場所からの仕入れに伴う輸送、その費用や日数はどうにかしたくともどうにもできない問題のはず。

 タクミと言ったか……レミリクタを作ったクラウフェルト商会、その商会長は人が良さそうな好青年であり、商人としては頼りない印象を受けた。


 だが、その脇を固める者達、共に商談に臨んだ二人の人物はとても油断できない相手だと、一目見て商人の勘が叫んでいた。

 特に、交渉中ほとんど話す事のなかった女の方、あちらは表情が読めず、何を考えているのか一切わからなかった。

 もう一人の男の方は、商売のいろはがわかっていそうで話しやすくはあったが……とはいえ、油断すると足元を掬われるようでもあった。


「薬品の製法を買い取ると意気込んで行った会長が、それを明かしたのですか?」

「あぁ。これは私の勘であり、驚き圧倒された事だけではないのだが、内心で企みを持ったまま交渉するのは得策ではないと感じだのだ。それこそ、実際はどうあれ元々考えていた事を明かしてしまう程にな」

「会長がそう思う程の人物が、このような村にいるとは思えませんが……」

「埋もれていたのかもしれん。だが、今後必ず頭角を現すだろう」


 タクミ商会長……脇を固める二人にも驚いたが、あの商会長は決して侮ってはいけないと感じだ。

 一見すると人が良さそうで、そのつもりは私にはないが騙そうとすれば、いくらでも騙せそうだったのだが。

 しかしその奥に、言い知れない何かを秘めているような……獣のようなとてつもない何かがあると、私の商人の勘が叫んでいた。

 公爵家との繋がりがあり、それに飛びつくかのように見せた私だが……。


「実際に信頼して契約をするかはともかく、あれには欺瞞を振りまくなどはやってはけない。誠実な商人として付き合わなければいけない、と思ったものだ」

「会長にそう思わせるとは……」


 公爵家との繋がりを得るよりも、タクミ商会長個人との繋がりの方がよっぽど大事なのだと、そのために誠実に向き合わなくてはならない。

 あの奥にある、絶対に逆らってはいけないような何かは、一体なんだったのだろうか……?

 そういえば、この公爵領はあのシルバーフェンリルの伝説が残る地だったか。

 関係があるとは思えないが、初めてシルバーフェンリルの伝説を聞いた時と、似たような畏怖、憧憬、敬慕を感じたような……。


「こ、こんな事がっ……!?」

「どうした!?」


 深く考えている私の耳に、大きく叫ぶ品質管理人の声。

 これまで鑑定は何度もやっているが、叫びをあげる程の事は初めてだ。


「これも、これも……これも!?」


 私の言葉が耳に入っていない様子で、慌てて次々と購入してきた薬品を鑑定していく品質管理人。

 他の者達は、そうなっている理由がわからず顔を見合わせている。

 部屋の外にいた、商会で雇った護衛達も何事かと様子を見るため、扉を開けて入ってきていた。


「一体どうしたというのだ!? いや、まずは落ち着け!」

「はっ! も、申し訳ありません。信じられない結果が出てしまいましたので……取り乱しました」

「信じられない結果、だと?」


品質管理人が取り乱すほどの結果、信じられないというのはどういう事か。

多少の目利きができる者なら、高品質であると断言できる物であるはずなのだが。


「どれもこれも……いえ、正確には薬草に限りで、調合された薬は少々事情が異なるようですが。その薬草は全て、これまで見た事がない程の高品質です」

「それは良い事ではないか」


 品質が高い事が証明されたわけだ。

 それだけで取り乱す理由にはならないと思うのだが?


「確かにそうなのですが、あり得ません。会長も見た事があるでしょうが、薬草は群生地から採取しますが、全てが均一の品質になるわけではありません」

「うむ」


 薬草の生育がという話になると詳しくはわからないが、群生地と言ってもその生育状況はまちまちだ。

 それこそ、枯れかけでとても薬草としては使えない物などもある。

 ん、待て……先ほどこの者は全ての薬草、と言ったか? それはつまり。


「品質に、差異がないという事か?!」

「はい。会長の仰る通りで、薬草の全てが均一の品質。しかも私ですら見た事がない程の高品質です」


 品質管理人はその役職通り、これまで様々な物を鑑定してきた。

 我が商会では多くの種類とは言わないが、薬品を扱ってもいる。

 自然、薬草や薬の品質も様々な物を見てきているのだ。

 その品質管理人が、見た事もないというのはそれほどまでに高品質なのだろう。


 取引を考えているこちらとしては、それ自体は良い事だ。

 だが、全てが均一の品質というのはあり得ない……。


「作物ですら、厳しく管理しても多少の差異は出るはずだ。それが薬草で均一の品質だと……?」

「間違いありません」

「それは……どういう事なのだ? いや、驚くべき事だというのはわかるのだが」


 さすがに薬草の専門家ではない私には、驚きこそすれどれだけの事なのかまではわからない。

 商会長ではあっても、全ての知識を持っているわけではないからな。

 だからこそ、その知識を埋め、補助をするためにこの者達が必要なのだが。


「どう言葉にしたものか……これらの薬草は、常に一定の管理がされ、一定の生育状況で採取されています。つまり、通常の群生地で採取という手段とは異なる方法が使われています。もしかしたら、手ずから薬草を栽培し、管理しているのかもしれません。それでも、均一の品質になるのは信じられませんが……」


 先程私が口にしたように、どれだけ厳しく管理しようとも差異がでる、それが植物だ。

 人でも魔物でも、全てにおいて全く同じ個体が存在しないようなものだ。

 しかも、薬草となると管理するという話では済まない……。


「薬草を栽培だと? 一種程度なら可能だろうが、ここにあるのは複数だぞ?」

「はい。薬草は環境によって生育できるかが変わるはずです。それこそ、環境さえ合えば放っておいても勝手に数を増やす事もあります。それが群生地なわけです」


 ですが、と続ける品質管理人。

 群生地にしろ、栽培に成功したにしろ、複数種類が同じ環境で育つ事はあり得ないし、品質が高い物もあれば低い物もある。

 作物のように、人が手を入れて管理する事でいくつかの種類を同じ環境、もしくは近くの畑で栽培する事ができたとしても、購入してきた薬草は実に十種類以上。

 それだけの種類を同じ場所や環境で栽培するなど……。


「何か、特殊な方法を用いていると考えるべきか」

「はい」


 輸送手段もそうだが、薬草を栽培できる手段、我々が考えもつかないような方法が確立されているのかもしれない――。



読んで下さった方、皆様に感謝を。


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面白いな、続きが読みたいな、と思われた方はページ下部から評価の方をお願いします。

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