表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1989/1996

屋敷の皆に心配をされていました



「……トレンツァさんが、嘘を吐いているかもしれないと?」

「いえ、そこまでは……見る限りでは、嘘を言っているようではなかったので」

「私も、嘘を言っている様子は見られませんでした。ただ、そう見えなかっただけで本当のところはわかりかねますが……それこそ、クレア様やレオ様に見てもらわないと」

「ワフ?」

「そうですね。とりあえず話した様子から判断するしかないですよね」


 俺達の後ろを歩くレオが首を傾げたが、とりあえずトレンツァさんが嘘を言っているかどうか、確かめてもらうのは止めておこう。

 レオならわかりそうだし、リーザも獣人として悪意などに鋭いようだけど、向こうはレオの事などを知らない様子だったからな。

 はっきり聞いたわけじゃないが、知っていたら話の途中でレオというか、シルバーフェンリルの話になっていただろうし。


「それから、輸送手段の話でこちらが曖昧に話しているので、疑問を感じていたバスティアさんはともかく、トレンツァさんがすんなり受け入れたのも気になりました」

「フェンリル達の事は、まだ話していませんからね。ただ、知っていた可能性もあります」

「ラクトスにいたなら、フェンリルについても聞いて知っているかもしれませんからね。まぁ、そこから輸送手段と繋げるかどうかはわかりませんが」


 従魔契約があると言っても、大量のフェンリルに商品を運んでもらうなんて発想が出て来るかどうか……。

 ウルフなど、従魔にした魔物に荷物を運ばせるのではなく、よく使われている移動や輸送手段は馬車を見てわかる通り馬だ。

 それなのに、馬以外を使っての方法をすぐに思いつくかどうか……そこは未知数だな。

 というか、その発想に至る以前にフェンリルの話を聞いていたら、俺の事やクレア達公爵家の事、それにレオも知っていておかしくないだろう。


 ラクトスでは、特に関係を隠したりはしていなかったんだから。

 バスティアさんもそこまで情報収集していなかったようだし、知っていたらキースさんが公爵家との繋がりをほのめかした時に、何かしらの反応がある気がする。

 それこそ、トレンツァさんが知っていて嘘というか、俺達にわからないくらい上手く隠しているとかでない限りは……。


「初めての契約交渉だというのもありますが、少々警戒しておいた方が良いかもしれません」

「そうですね、わかりました」


 キースさんの警告通り、バスティアさんもトレンツァさんも、甘く見てなんとなくで簡単に契約をしていい相手じゃないと、肝に銘じておこう。

 クラウフェルト商会の商会長、という立場だけでなく雇った従業員さんのためにもな……これが、雇用主や事業主の責任感なのかもしれない、と肩に圧し掛かる何かが重く感じた。

 利益ばかり求める商会でなくとも、最低限屋敷の維持やレオとリーザ、フェンリル達、それに使用人さん達や従業員さん達など、多くの人達が食いっぱぐれる事のないようにしないとな。

 俺自身もそうだが――。



「タクミさん、大丈夫でしたか?!」

「クレア。ただいま。特に何事もなかったんだけど、こっちは何事?」

「ワフゥ?」

「んー?」


 屋敷に戻ると、玄関の外で待っていたクレアに迎えられる。

 声もそうだけど、表情も俺を心配してくれていた様子がありありと出ていた。

 それだけでなく、兵士さんや護衛さん、それから近衛護衛さんにフェリーやフェンにリルルを含むフェンリル達が十体程、集まっていた。

 あ、使用人さんもいるな……それだけでなく、ユートさんやエッケンハルトさんもいるようだ。


「ゲルダから報告を受けました。レオ様とリーザちゃんが不審な臭いをと……森での事もありましたから……」

「何かあったって心配してくれたんだね、ありがとう。この通り、何事もなく、ただ薬品に関しての交渉を商人さん達としてきただけだよ」


 ゲルダさん……どれだけ大袈裟に報告したんだろう?

 クレアだけでなく、エッケンハルトさんやユートさんまでもが、心配そうな面持ちだ。

 あの楽観主義が服を着て歩いているようなユートさんまで心配そうになるって、よっぽどだ。

 臭いがするのに臭いがしない……レオと話して、多分消臭剤のようなもので上書きして、臭いを誤魔化しているんだろうという事だが、それだけで危険な臭いとまでレオやリーザも言っていなかったからな。


 好きじゃない臭いがあったくらいの可能性もある。

 森で振り撒かれた、カナンビスの薬の事もあるから、「臭い」というのに皆が敏感に反応したのもこうなっている要因の一つか。


「そ、そうですか。良かったです……」

「しかしタクミ殿、報告にあった臭いというのはなんだったのだ? 何事もなくて良かったとは思うのだが」


 ホッと息を吐くクレアさんに代わり、エッケンハルトさんから問いかけられる。


「それなんですけど、はっきりとした事はわからないんです。えっと――」


 レオと話し、日本にあった消臭剤というのは置いておいて、臭いを消す何かが使われていただろう事を伝える。


「ふむ、悪い臭いというわけではないのか?」

「レオもリーザも、そこまではわからなかったみたいです。まぁ嫌な臭いって感じはしたみたいですが、悪いかどうかまでは……」

「ワフ……」


 病の気配や臭い、カナンビスの薬に関係する臭いのように、悪い感じがするかどうかまではわからず、嫌な臭いがするようで、臭いがしないという事だったからな。

 レオやリーザにだって、悪いかどうかは別として嫌だと感じる臭いもあるだろうし。

 それこそ、消臭剤は汗臭さなどを消すために使う事は日本では通常の事でもある。

 遠くからこの村まで旅をしてきているんだから、そういった臭いなどがある可能性もあるし、そのために臭いを消しているのかもしれないしな。


「一応、臭いに関してはこれまでに色々あったので、とりあえずゲルダさんには報告してもらいました」

「警戒はしておくべきかもしれんな」


 ちょっと過敏になっている気もするけど、臭いを発端に森での異変がわかってカナンビスの薬が判明したんだから、気にしておくのは悪い事じゃないはずだ。

 もし何かがあってからでは遅いしな。


「報告のあった臭いに関しては、我々にはわからんかもしれんが、気にはしておこう。それはそれとして、商人との話はどうだったのだ?」

「そうですね……あ、ここで立ち話をするのもなんですし、とりあえず中に入りましょう」

「うむ、そうだな」


 屋敷の玄関でずっと話すのもと思い、とりあえず中に入る事にした。

 落ち着いて話せる場所へ移動する中、簡単に商人さん達の事やフェンリルに関する話をしておく。

 付いてきているのは、エッケンハルトさんとクレア、それにユートさんだな。

 ライラさんやキースさん、レオとリーザも一緒だ。


「フェンリル達には、少々窮屈に感じるかもしれんがしばらくは北側でゆっくりしていてもらおう」

「まぁ、村の子供達も畑の近くに来てフェンリル達と遊ぶ事が多いですし、大丈夫でしょう」


 俺の執務室に移動して、ライラさん達使用人さんがお茶を用意してくれる中、フェンリルの話をまとめる。

 バスティアさん達が公爵領内の人ではないため、まずはフェンリル達やレオを見せるよりも、ひとまず取引契約の方に集中してもらう方向でとなった。

 見てもらった方が信じられやすいとは思うけど、驚かせたり怖がらせたりしてしまう可能性と、他領に住む人だからってわけだ。

 他領に対して秘密というわけではないけど、エッケンハルトさん達としては少し様子を見た方がいいとの事だったから。


「して、商人達だが……」

「そうですね、俺としては信用できそうな商人さん達、という印象だったんですけど……」


 帰り道、キースさんやライラさんと話していた事も含めて、皆に話す。

 俺としては、バスティアさんはやり手で失礼ながら悪徳商人というのが似合いそうな見た目だったけど、素直にどう考えて交渉に挑んできたかの話も含めて、内面は信用できそう。

 トレンツァさんは、村のためとの事で真面目な店主さんって感想なんだが、キースさんとライラさんから見るとまた違ったようだからな。

 人を見る目には自信がある方じゃないし、近くにいる他の人の意見というのは大事にしたい。


「まぁ、タクミ殿はまだ初めての事だろうからな。人を見る目を養うのはこれからだろう」

「そうですね」


 エッケンハルトさんは経験、クレアは特別な目、リーザやデリアさんは獣人としての感覚などで、人を判断できそうだが、俺はそうじゃない。

 これから、多くの人を見て養っていければいいかな……養えればいいけど。


「公爵家との繋がりは匂わせてありますが、はっきりとした繋がりは示していません。まぁ、これも勉強ですね」

「うむ。タクミ殿がそうしたいとの事だったので、我々もそのように動こう。とはいえ、村の範囲でなら特に我々が見られる事もないだろうからな」

「そうですね。私を含めてお父様もお爺様達も、あまり屋敷から出ませんし。兵士達とフェンリルの訓練は、もっと村から距離を離してから行う方が良いでしょうけど」

「うん。俺のわがままで面倒をかけるけど、お願いします」


 公爵家の後ろ盾なく、交渉を進めたいというのは俺の希望。

 体験してみたかったというのもあるが、それくらいはできないとな、という思いもある。

 まぁ、信頼してもらうために繋がりを匂わせるくらいはすると、キースさんと前もって打ち合わせしていたんだが。

 完全に俺一人の力ってわけじゃないけど、そこはまぁ安全弁のように、不利な契約でクラウフェルトで働く皆が損をしないためと考えている。


「ただレオ様やリーザの感じた臭いの事もある。それとなく、こちらで探るくらいはさせてもらうぞ?」

「はい、お願いします」


 交渉を終えた俺にも、レオ達が感じた臭いが移っていたのだから、二人のうちどちらかに何かある可能性は捨てられない。

 俺と公爵家のつながりを感じさせず、調べられるならそれに越した事はないし、幸いにも今はそうした事で動ける兵士さん達が多くいるからな。

 兵士さん達、村の中に馴染んで村の人達ともよく話をしているし、怪しまれる事もないだろう。

 警戒はしておくべきだし、そこまで固辞はしないでおいた。



「あ、ユートさん」

「ん、なんだいタクミ君?」


 交渉に関する話や、契約内容などの話も終わり、それぞれに部屋を出ていく中ユートさんに声をかける。


「ちょっと聞きたい事があるんだけど、いいかな?」

「もちろん。タクミ君なら、国家機密だって話しちゃうよ」

「それはさすがに、面倒になる未来しか見えないから聞かないでおくけど、そうじゃなくて……」


 国家機密なんて知ったら、面倒ごとに巻き込まれたりとかいい事なんてないだろうし知りたいとも思えないからな。

 まぁ、ユートさんなりの冗談なんだろうけど。

 そもそも、ユートさんの事を知っている時点で、国家機密を知っているに近いし、これ以上は増えて欲しくない。


「消臭剤ってこの世界にもあるのかな?」


 冗談はともかく、聞きたい事をユートさんに投げかける。


「消臭剤? っていうと?」

「ほら、日本にもあったあの――」


 消臭剤として日本でも有名な商品名をいくつか口に出す。


「あぁ、あったね。お風呂に入れない時とか、臭いを誤魔化すのによく使ったなぁ」

「いや、よく使われるのは汗をかいたときとか、何かの匂いが服に付いた時とかだろうけど」


 日本にいて、お風呂に入れない状況というのはあまり多くないと思うんだが……あと、海外の国で最近はともかく昔はお風呂の文化などがなくて、臭いを誤魔化すために香水が使われていた、とかなら聞いた事はあるが、それみたいに香水の代用として消臭剤を使っていたのかな?。

 ただ、年々数が減っているらしいけど、銭湯とか……お風呂がない家というのも、多いわけじゃないからなぁ。

 ユートさん、日本で一体どんな生活をしていたんだろうか? まさか、こちらの世界と同じように、色々と旅をして見て回るなんてしていたとか?

 それでも、旅先のホテルや旅館にお風呂……少なくともシャワーくらいはあっただろうし……まぁ、その辺りは今度機会があったら聞く事にしよう。


「うーん、消臭剤かぁ。香水みたいに、別の臭いで上書きするようなのはあるけど、消臭剤は聞いた事がないなぁ」

「そうなんだ……うーん」


 香水と同じような物はあるらしいけど、臭いを消すような物はないらしい。


「何々? また何か面白そうなことでも考えているの?」

「いや面白そうかどうかはわからないけど、消臭できる物があれば便利そうだなって。お風呂に入れる環境にある人はともかく、そうじゃない人も多そうだし」


 この世界で、というかこの国ではお風呂がある家は少ないらしい。

 基本的に街や村などでは、共同の浴場のような物があり、そこで体を洗うか濡れタオルで拭くかのどちらかだ。

 まぁ街や村に住む人はそれでいいんだけど、そうじゃない人、行商人さん達を始め、旅をしている人などは一日や二日程度体を洗えないというのは日常茶飯事。

 水を出す魔法が使えれば多少は何とかなるが、それだって完全に綺麗な水じゃないし……レオが出す水はともかく。


「旅のお供に消臭剤って、それなりに需要があるのかもなぁって思って」

「そういう事かぁ。うん、需要はあると思うよ。ただ、余裕があればだけど。僕なんかは、いつでもどこでもお風呂を作って済ませているけどね」


 お風呂をわざわざ作ってるのか……まぁ、色んな魔法が使えるユートさんなら簡単にできそうだ。


「これがねぇ、お風呂を作ったらまずルグレッタに入ってもらうんだけど、その時コッソリと……」

「自分がってわけじゃないというか、覗きが目的とかなんて邪な……」


 ルグレッタさんには、できるだけ早くユートさんから離れるよう言っておいた方がいいかもしれない。


「いやいや、僕も入るよ? それに、一番の目的はそこじゃなくてね?」


 ユートさんの目的、覗きではなくそれと同じくらいどうしようもない事だった。

 わざわざお風呂を作ったうえで、覗きをすると見せかけてルグレッタさんを怒らせ、その後の仕打ちに期待しているという……。

 本当に、ルグレッタさんはさっさとユートさんから逃げた方がいいと思う。


「それ、この屋敷ではやってないよね? もしやってたら……」

「ワフ……」


 俺の視線を受けて、丸くなっていたレオが顔を上げる。

 この屋敷で覗きなんて、使用人さん達がさせないだろうけど、もし見せかけだけでもしようとしていたら皆の平穏のために、レオをけしかける事を辞さないぞ。


「いやいやいや、さすがにここではそんな事をしてないよ。そうしなくても、落ち着いている場所だから他にいろいろと手段があるからね」

「……他の手段については、聞かないでおいた方が良さそうだ」


 どうせ、ろくな手段じゃないだろうからな。

 まぁ聞かないでおいても、アルフレットさんやライラさん達に伝えて、警戒はしておこう。

 ルグレッタさんに言っておく方がいいかな……?




読んで下さった方、皆様に感謝を。


別作品も連載投稿しております。

作品ページへはページ下部にリンクがありますのでそちらからお願いします。


面白いな、続きが読みたいな、と思われた方はページ下部から評価の方をお願いします。

また、ブックマークも是非お願い致します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍版 第7巻 8月29日発売】

■7巻書影■mclzc7335mw83zqpg1o41o7ggi3d_rj1_15y_1no_fpwq.jpg


■7巻口絵■ mclzc7335mw83zqpg1o41o7ggi3d_rj1_15y_1no_fpwq.jpg


■7巻挿絵■ mclzc7335mw83zqpg1o41o7ggi3d_rj1_15y_1no_fpwq.jpg


詳細ページはこちらから↓
GCノベルズ書籍紹介ページ


【コミカライズ好評連載中!】
コミックライド

【コミックス6巻8月28日発売!】
詳細ページはこちらから↓
コミックス6巻情報



作者X(旧Twitter)ページはこちら


連載作品も引き続き更新していきますのでよろしくお願いします。
神とモフモフ(ドラゴン)と異世界転移


完結しました!
勇者パーティを追放された万能勇者、魔王のもとで働く事を決意する~おかしな魔王とおかしな部下と管理職~

申し訳ありません、更新停止中です。
夫婦で異世界召喚されたので魔王の味方をしたら小さな女の子でした~身体強化(極限)と全魔法反射でのんびり魔界を満喫~


― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ