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1986/1996

二人の商人さんと商談を開始しました

ブックマーク登録をしてくれた方々、評価を下さった方々、本当にありがとうございます。


書籍版最新7巻、8月29日発売です!

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「知らないのも無理はありません。私共の村は、北の端にあるような小さな村ですので」

「北の端……そうですか」


 バスティアさんの商会があるという、タロンメルという街よりもさらに北という事だろう。

 俺はともかく、ライラさんやキースさんも全ての村の名を覚えているわけではないので、遠いのもあって知らないのも無理はないか。

 大きな街とかならまだしも、小さな村という事なのでさらにだ。


「そのような遠い場所からわざわざここまで。大変だったのではないですか?」


 バスティアさんは商会を率いているため、資金力もあるんだろうし、簡単かはともかく街道が繫がったこの村に来れるのはわかる。

 ただトレンツァさんは商会をというわけでもないし、小さな村からというのは大変だろう。

 というより、ここまで来るよりも近場にある街などで薬を取り扱うお店探して、そこと取引した方が楽そうだ。

 遠いという事は、もし取引できるとしても輸送する必要があり、そのための費用が嵩んでしまうのだから。


「……私も、バスティアさんと同じく、村に有益な商品がないかを探しにラクトスまで足を延ばしていたのです。そこで評判を聞き、ここまで来たのならと」

「成る程……」


 少し考えてそう答えるトレンツァさん。

 まぁ、遠い北部の村からラクトスまで来ているんだ、そこから馬で数日程度のランジ村まで来るのは、そう難しい事じゃないしついでと考えるのも無理はないか。

 なんとなく、チラリと窺ったライラさんの雰囲気がちょっと変わっている気がしたけど、俺以外は特に気づいていないようだ。

 ライラさん、基本的には表情とかが表に出づらい人だからなぁ。


「それにしても、驚いたんじゃないですか? 村は今公爵領の兵士さん達が駐屯していますから。いち商会の商会長には、どういった理由で兵士がここに派遣されているのかは、わからないのですけど……。ただ、領民の安全を考える公爵様です。森に近いこの村の事を考え、森に棲む魔物を追い払ってくれているのかもしれません。公爵領ではよくある事ですから」


 さすがに、カナンビスの薬などの事を調べているから、なんて初対面の人達に言えないので、とりあえず俺は知らないで通すという話になっている。

 深く関わっていけばその限りじゃないけど、基本的にエッケンハルトさん達公爵家の人達は畑を見る時以外屋敷の敷地から出ないし、見られる事はないだろう。

 侵入を試みた人達を察知して捕まえていた、フェンリル網があるしな。

 大きな屋敷に俺がいる、という部分は隠しようがないが……。


「実際に見て驚いたのは確かですが、ラクトスでその辺りの事は聞いておりました。むしろ、タロンメルにまで届く公爵様の評判であれば、その兵士が周囲に多いというのは、安心できる材料であると私の商人の勘が申しておりました」

「私は、そうだからこそそこには何があるのだろう、と好奇心が刺激されるくらいです。多少の調べは受けましたが兵士さん達は友好的でしたし、さすがだと思うくらいでした」

「そ、そうですか……」


 商人の勘は、俺は生粋の商人ではないのでよくわからないが、ラクトスで情報収集をしてランジ村の現況をある程度知っていたのなら、兵士さん達に気後れせずここまで来たのも頷けるか。

 何をしているかはともかく、公爵家の兵士が多く集まっている事くらい、ラクトスでは知られているだろうしな……近いし。

 まぁ、トレンツァさんの言う好奇心というのは、商人の勘以上に俺にはわからなかったが……好奇心猫をも殺す、なんて言葉もあるから少し危うい気がするが、俺が心配する事でもないか。


「えーとそれで、お二人がここまで来た経緯はわかりましたが、どのような薬をお求めですか?」

「ししょ……商会長、先にお話を伺っておきましたので私から。このお二人は傷薬が気になっているようです。他にも――」


 俺の質問に、ミリナちゃんが答えて向かいの二人が頷く。

 傷薬か……確かに目玉商品としてミリナちゃんが調合したものだし、ラクトスにもニックが運んでカレスさんに販売開始してもらっている。

 だから、評判になるのはわかるけど、もう取引のために商人さんが来る程になるとは、動きが速いな。


 他にもミリナちゃんは、自分が作った傷薬を評価されたからだろうか、上機嫌で二人が興味を持つ、つまり取引したい薬や薬草などを教えてくれた。

 俺が来るまでに、ある程度話を聞いていたんだろう。


「ありがとう、ミリナちゃん。――取引に関してはわかりました。こちらとしましても、そろそろ商会で取り扱う薬草や薬を広く販売する予定でしたので、渡りに船と言いますか、ちょうど良いと思います」


 というより、カナンビス関連の事などがなければ、当初の予定ではクレアが販売網を広げるための営業をしに、各地へ行っていただろうからな。

 まずは公爵領内からと考えていたから、バスティアさんとトレンツァさんの出身地にまでは行かなかっただろうけど。


「それは僥倖。やはり私の商人の勘を信じて正解でした。先程、店に並んでいる商品――薬草や薬などを拝見させて頂きましたが、ここにある物はどれも品質の良い物ばかりですからな。これらが我々の商会で取り扱えるとなれば、大きな利となるでしょう」

「バスティアさんの言う通りです。私は小さな村のしがない商店でしかありませんが、村の者達への助けになることは間違いないでしょう」

「二人共、薬草や薬の品質などもよくわかるのですね」


 薬草なら、物によっては葉の状態などもあり素人でもなんとなくわかるのもある。

 粉末とか乾燥している状態だと微妙だが……。

 けど薬となると、複数の薬草を混ぜて調合している物もあり、一目どころかじっくり見てもわからない事が多い。

 ある程度知識がないと判断できないってわけだな。


「私の商会では、薬品の扱いもありますからな。商会を率いるものとして、薬の知識、品質の見定めができなければなりません。粗悪な薬を売りつけようとする者もいます。商人として、商会としての信頼を得るためには、そのような品物を販売するわけにも参りませんので」

「成る程……」


 初めてラクトスで薬草を販売する時、カレスさんが見てすぐ品質が確かなものだと判断していたっけか。

 俺が来るまで、カレスさんの店では薬や薬草の取り扱いはしていなかったようだけど、お店を任せられるうえでそういった知識は必要なのかもしれない。

 特にあれこれといろんな種類の商品を扱うお店や商会なら。

 完全に門外漢である、仕立て屋のハルトンさんとかだと、服飾に関してはともかく薬などの知識はあまりない可能性はあるが。


「小さな村ですので、昔から周辺の薬草などに触れる機会が多くありました。村の長老達からも、よく薬草や薬の話をされています」


 トレンツァさんの方は、年の功による知識というか、村だからこその知識でってところか。

 完全な自給自足とは言わないけど、小さな村だからこそちょっとした病や怪我に対処するため、そういった知識が受け継がれているのかも。

 間違いもあるが、意外と効果が実証される事もある民間療法とかに近いのかな。


「品質に関しては、仰るようにこちらとしても自信を持っています。ただ、何分必ずしも良い品質の物が手に入るわけではありませんので……」


 基本的に『雑草栽培』によって作られている薬草は、最高品質と言える物しかできない。

 まぁもしかしたら、作る過程で品質の低い物を望めばできるのかもしれないけど、それをする必要もないしな。

 ただ、おだてられて唯々諾々と契約するわけにはいかないし、それは交渉ですらない。

 薬草を作っている俺も、薬を調合するミリナちゃんも、褒められるのが嬉しいのは間違いないが、そういったのは商人としては常套手段だろう。


 という事で、上手くいっているかはわからないが、渋る様子も見せるのは事前にキースさん達と打ち合わせしていた。

 あと、高圧的になりすぎないように注意する必要はあるが、下手に出すぎないようにとも言われている。

 これは最初の交渉なのもあって、相手に与し易いと思われないためだ。

 交渉を受けているこちらが優位なのは、どんな内容でも同じだが、あくまで対等な商売相手としてという話をしていた。


 演技とか、こういう事は苦手なんだが、商会長としてはやるしかないし、ミリナちゃんの前で情けない姿を見せるわけにもいかないからな。

 トレンツァさんはわからないが、歴戦の商人と思われるバスティアさんに見抜かれていないか、内心は恐々としているんだが。

 ちなみに、こういった交渉事は本来クレアが担当する予定だったんだが、今回はカナンビスの調査などで兵士さん達が集まっているのと関係ない、という体なのでひとまず公爵家との関わりを伏せるためにこうなった。

 まぁ、ランジ村内での事だからってのもあるけど……少し不誠実な気はしたが、取引が決定して長く付き合う事になるなら、その時にだな。


「品質に関しましては仕方がありません。ただできれば、良い物を仕入れたいと考えておりますので……」

「それは仕入れをするなら当然ですね。こちらとしても、良い品質の物を取り扱っていただく事で、商会の評判も上げたいですし」


 粗悪な物を売る、卸す商会だとは思われたくないし、広まってしまえば商会だけでなく確実に公爵家の評判にも関わるからな。

 ギフトのおかげであまり大きな心配はないとはいえ、品質の悪い物を出す事はしない。


「ですので……キースさん」

「はい。先程、取引されたい商品についてお聞きしましたが、こちらとして出せる数は――」


 キースさんが、バスティアさん達が取り扱いたいらしい薬草、薬の取引可能な数を言う。


「もちろん、品質は保証します。ですが、先ほども商会長が申しました通り、必ずしも良い品質の物が手に入るというわけではございません。それと、広める段階と考えてはいましたが、まだ準備途中であるため、申し訳ありませんが提示した以上の数は難しいかと」


 言外に、品質にこだわるならこれ以上の数は求めるな、と言っているようなものだけど。

 ただ、二人共……特にバスティアさんの方は、キースさんが提示した数に目を見開き、驚いてそこまで考える余裕がないようにも見える。

 そう見せかけているだけで、頭の中では深く考えている可能性はあるが。


「……本当にその数を、しかも品質を保証したうえで用意できるのですか?」


 しかしそこはさすが商会を率いる商人、というべきか。

 まだ少し戸惑いは残っているようだが、平静を装って質問を返してくる。


「はい。定期的に……そうですね、ひと月に一度であれば提示した数を毎回ご用意できます」


 頷くキースさん。

 二人に提示した数は、さすがに街や村の住民に対して絶対に十分と言える数じゃない。

 でも、薬草を畑で栽培ではなく群生地から採取する必要がある、というのが常識の手段であるならほぼあり得ない程の数だった。

 しかも品質が高い状態なのを保証されているなんて、少なくともこの国ではあり得ないと言えるんだろう。


 実は俺達側としては驚く程の量ではないんだが、完全に『雑草栽培』のおかげだな。

 畑では俺が直接作るだけでなく、順調に薬草は数を増やせているからというのが大きいが。

 ただ当初予定していた、クレアが赴いて交渉するはずの街などで卸す数より多くなっている……無理をしているわけではないんだけども。

 相手を圧倒するための手段でもあると、キースさんからのアドバイスだ、二人に提示したのもキースさんだが。


 要は、相手側の予想以上の提示でのみこんでしまう事で、優位に交渉を進めようってわけだ。

 相手からの要求より先にこちらから想定以上を提示する事で、足元を見られる可能性はあるらしいが、二人の様子を見てキースさんが実行したのだから、効果は見込めるんだろう。

 実際に、演技などでなければバスティアさんは、戸惑いを隠すのに必死な様子に見えるからな。

 トレンツァさんは反応が薄いが、それでも驚いていないわけでもないし。


「しかし、それ程の数をとなると……この村だけであればともかく、他との場所で取引ができなくなるのではありませんか? それだと、先程仰っていたように広めるという事には繋がらないかと。もちろん、私共の村ではクラウフェルト商会の名を広めさせていただきますが、何分小さな村ですので」


 バスティアさんが戸惑い、頭の中を整理している代わりにトレンツァさんからの疑問。

 確かに、トレンツァさんやバスティアさんの所ばかりに薬品を卸していたら、名を広める……というより薬品を行き渡らせる、というクラウフェルトを作った第一の目的には繋がらない。

 けど、その心配は無用だ。


「問題ありません。他の場所での取引をする事を踏まえて、こちらが出せる数を提示させてもらっています」

「ひ、品質を保証し、多くの数を用意してなお余裕があるという事なのですね……」


 表情を崩さず答えた俺に対して、さすがに驚きを露にしたトレンツァさん。

 まぁ、どこかで見つけた群生地などから薬草を採ってきて――と考えているんだろうから、安定して大量に用意できるという感覚はあまりないんだろうな。

 物にもよるが、バスティアさんが注目していた傷薬なんて、ロエを薄めて作っているようなものだからなぁ……調合も時間のかかるものではないし、人手が増えて調合法をミリナちゃんが確立してくれた今なら、大量生産は楽にできるし。


「……これは参りましたな。不足どころか、こちらが提示しようとしていた数を大幅に上回っています。ある意味、楽な契約交渉であり、難しい契約交渉とも言えますな。正直なところ、侮っていました。申し訳ございません」

「あ、いえ……謝られる程では……」


 持ち直したのかどうなのか、まだ表情には驚きや戸惑いが隠せていないが、バスティアさんがそう言うので今度はこちらが驚いた。

 侮っていた、など初対面で相手に伝えるような事じゃないからな。


「探ろうとするのもあまり意味はないようです。これからは私も腹を割ってお話いたしましょう」


 豹変したという程ではないけど、相手を警戒させかねない悪巧みしているような笑みを引っ込め、柔和な笑みになるバスティアさん。

 人相のせいだろうか、それでもまだ悪徳商人感が滲み出るようではあるけど。

 同じように、バスティアさんの隣ではトレンツァさんが笑みを消して、真面目な表情になった。

バスティアさんに引きずられたわけではないだろうけど、真面目そうに見える表情が鋭くなった気がする。


 なんとなく、貼り付けたような表情に感じてもいたが、こちらを射抜くような視線や表情は、バスティアさんに負けず劣らず、ベテランの商人のような……いや、商人とはまた別の何かを感じるような?

 ともかく、小さな村にいる商人さんとは思えない。

 そういえばトレンツァさんは、村娘と言うよりも大きな街にいそうなお洒落な女性のように見える。


 商人だからと言っていいのか、そういった見栄えなども気にしているのかもしれないな……。

 そんな事を考えて様子を窺っている間に、バスティアさんが居住まいを正して、話し始めた――。



読んで下さった方、皆様に感謝を。


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【書籍版 第7巻 8月29日発売】

■7巻書影■mclzc7335mw83zqpg1o41o7ggi3d_rj1_15y_1no_fpwq.jpg


■7巻口絵■ mclzc7335mw83zqpg1o41o7ggi3d_rj1_15y_1no_fpwq.jpg


■7巻挿絵■ mclzc7335mw83zqpg1o41o7ggi3d_rj1_15y_1no_fpwq.jpg


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