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1985/1996

クラウフェルト商会にお客さんが来ました



 調査担当が休みで、訓練も終わったのか休みなのか……そもそも非番だったのだろう、コリントさんに迫られているニコラさんを発見して二人共遊びのメンバーに追加。

 コリントさんは、結婚相手を求めてクラウフェルトで働こうとしたという動機を持つ、ある意味での猛者だが、ニコラさんとの仲は進展しているのか微妙なところだ。

 ニコラさん、悪い気はしていないし武士のあれこれを俺から聞いて、前向きに考えるようになったみたいだけど、それでも今はまだ戸惑いの方が勝っているようだからな。

 いずれ、コリントさんに押し切られるだろう、と俺やクレアは見ているが……。


 さらにフェヤリネッテやコッカー、トリース、フェンリル数体も追加された。

 ティルラちゃんは勉強らしく不参加で、ラーレは空のお散歩中でこちらも不参加。

 ちなみにラーレはただの散歩というだけでなく、空からの監視のような事もやっており、夜目も効くためフェンリル達が察知する程近づく前に、怪しい人物を発見した事もあった。

 ただラーレが本当に怪しく捕まえていい相手なのかの判断ができないため、屋敷に戻って兵士さんやフェンリルと共に再出動、という事になっていたけど。


 ともあれ、参加できる皆でレオ達との遊び……ちょっとだけ遊ぶとか、じゃれ合ったり構ってやるというのはあったけど、改まって遊ぶとなるのは久しぶりな気がするな。

 それならと、庭を出て畑の近くでさらに広い場所を使って遊ぶことに変更。

 そちらで、フェンリルやレオに乗って競争したり、何を思ったか走っている途中の急制動、要はカーブする速度を競ったりなど、体を動かす遊びを多くやった。

 コッカーとトリースが、一緒にフェンリルの背中に乗って自慢げにしていたのは可笑しかったが。


 あと、クレアはある程度慣れてきたので道具さえ使わなければ、それなりに運動をする遊びについてこられるのだが、ヴェーレさんは全然だった。

 すっかりペータさんと一緒に畑の土いじりをする姿が板についた、バルロメスさんも同様で、割と運動は苦手な家系だという事が判明。

 まぁ、貴族だし運動神経が良くないといけないって事もないよな。

 何はともあれ途中で勉強が終わったティルラちゃんや、空の散歩から帰ってきたラーレも加わって、日が傾きアルフレットさんやクレアの執事であるヴァレットさんが呼びに来るまで、思いっきり体を動かして遊んだから、皆ストレス解消はできただろう。


 いろいろあって、周辺の警戒とかで神経を使っていただろうし、気にするだけでも多少のストレスはかかるもんだしな……途中から、ランジ村の人や公爵家の兵士さん達、アルヒオルン兄妹についてきた使用人さんや護衛さんも加わっていたし。

 泥だらけになったから、洗濯をしてくれる使用人さんには申し訳なかったが――。



 ――レオ達と遊んでから数日、仕事を後回しにすると大変という事を学んだり、パプティストさんが捕まえた人達の護送をまたフェンリルに頼んだり、クラウフェルトとしての通常業務をこなしたりと、それなりに忙しく過ごしつつ、取り調べの結果などを待った。

 パプティストさんが野営地を潰したからなのか、片っ端から捕まえた結果、人員がいなくなったのかはわからないが、この数日は屋敷に侵入しようとしてフェンリルに捕まる人はいなくなっていた。

 そんなある日、ミリナちゃんからランジ村で作った薬局、レミリクタへ呼び出される。


 なんでも、薬草や薬を取り扱いたいと商人さん達が来ているらしい。

 達、というのは商人が一人ではなく二人で、別の場所から来たとか。

 ランジ村は現在、森の調査のためにエッケンハルトさんが集めた公爵家の兵士さん達が野営をして囲んでいる状態だが、別に閉鎖しているわけじゃない。

 これまで街道が繫がっておらず、訪ねて来る人は少ないがいなかったわけでもないし、今は街道が繫がっているからな。


 一応、公爵家の兵士さんに簡単な調べを受けたりはするようだが、それでも村を訪ねて来る人はいるわけだ。

 商人さん達も、そのうちの二人だろう。

 俺達が新しくできた屋敷に移住してからも、村に来る人はいたようだし。

 基本的には、俺やクレアなど公爵家に用のある人や、そもそもここにクレアがいる事などを知らないため、単純に村を訪ねてきただけで、対応はランジ村の人達がしてくれていたが。


 それが今回、初めて薬草や薬に興味を持った人、商人さんが来たという事で、キースさんを連れてレミリクタへ向かう。

 レオやリーザも、懸念が解決されるまではと一緒で、ライラさんやゲルダさんもいる。

 とはいえ、レオはレミリクタのお店内には入れる大きさではないため、外で待機。

 レオを見て子供や犬達が集まってきたので、そちらの相手をしていてもらおう。


「ワフゥ?」

「んにー?」

「どうした、レオ、リーザ?」


 レミリクタに到着してから、レオの予定などを考えていると、レオとリーザがほぼ同時に首を傾げた。

 お店の建物に近く、もうすぐ到着といった辺りで急にだ。


「ワッフ、ワフワフ」

「んとね、臭いがするんだけど、臭いがしないような……変な感じなんだよ、パパ」

「臭いがするけどしない? それってどういう……?」


 レオとリーザの両方が、同じ感覚らしい。

 臭いがするのにしないって、矛盾しているような言葉だけど、どういう事だろうか?


「それは、嫌な臭いなのか?」

「うーん……変な感じはする、かな」

「ワフ……」


 はっきり嫌な臭い、という感覚はないようだが変だとは感じているようだ。

 特にレオは病の原因が混ざったお酒を判別したり、カナンビスの薬の臭いを薄い残り香から感知したりと実績があるからな。

 同じくリーザも嗅覚が鋭いし、そんなレオ達が感じているんだから、信頼できる。

 ただ、何が原因でそうなっているのかはわからないな……だけど一応、警戒はしておこう。


「ゲルダさん。レオとリーザが妙な気配……臭いですかね。それを感知したって、クレアやエッケンハルトさん達に伝えてくれますか?」

「急いで行ってきます!」


 とりあえず、一緒にいたゲルダさんに伝言を頼む。

 バースラー元伯爵が仕掛けた疫病騒ぎなど、レオの実績を知っているから臭いというだけでおろそかにしない。

 それを知っているゲルダさんも同様だ……けど、屋敷に向かって走っていくゲルダさんを見送りつつ、転ばないよう祈っておく。

 ドジの原因がフェヤリネッテとわかってから、落ち着いていればほぼ失敗しなくなったけど、焦るとやっちゃうからなぁ……。


「あちらはゲルダさんに任せて、行きましょうか。キースさん、交渉などで気になる事などがあればお願いします」

「はい」

「畏まりました」


 ゲルダさんを見送った後、レミリクタに到着。

 ライラさんはともかく、キースさんも連れてきたのは交渉事があった時に備えてだ。

 ただお店で売り買いしたいというだけでなく、薬草や薬を取り扱いたいという商人さんとの事だったから、そういう事もあるだろうしな。

 俺にはわからない事もまだまだ多いし、事務方というかほぼクラウフェルト商会の金庫番とも言える人だし、頼りにしている。


「ワフゥ……」

「んー……」


 レオとリーザは、臭いに関してまだ気になっているようだけど、原因を突き止めるまで待たせるわけにもいかない。

 後ろを付いてきていた子供達にレオとリーザを任せ、お店の中に入る。

 レオは大きさ的に仕方ないが、リーザは俺について来ようとしたけど、子供達とも遊びたそうにしていたからな。


「いらっしゃ……商会長、お待ちしておりました!」

「ど、どうも」


 お店に入ると、すぐにヘルンソットさんが俺に気づいた。

 最近は、従業員さん達から商会長と呼ばれ始めているんだけど、なんだか慣れなくて少し戸惑う。

 店内には他にも、子供達と一緒に販売員をやってくれている、カールラさんとピタッシさんがいた。

 女性としては少し上背がありロングヘアのカールラさんは以前クレアと共に話を聞いた、カッフェールの街近くで働いていた女性で、クライツ男爵との関わりなどのきっかけになる情報を教えてくれた人だ。


 接客業の経験がある事から、レミリクタの販売班の班長のような事を任せてある。

 俺を迎え入れてくれた小柄で肩口まである髪を揺らすヘルンソットさんは、明るく働き者で接客業に向いている性格から、レミリクタ専属での販売員として働いてもらっている。

 ラクトスに住んでいた女性で、数の多い弟妹達への仕送りのために割のいい仕事を探していたところ、俺が雇った人物。


 こちらも小柄なピタッシさんは、活動的なショートカットに反して少し引っ込み思案なところはあるけど、人と接するのは嫌いじゃないらしく商品知識を覚えるのが得意で、お客さんに丁寧でわかりやすい説明をしてくれそうだと期待して、販売員になってもらった。

 ラクトスとは別の村出身で、引っ込み思案な性格を治すために村を出て働き口を探そうとしていたところを、俺が雇ったわけだ。


「ミリナちゃんから呼ばれましたけど……」

「はい、奥で商会長をお待ちです」

「わかりました」


 ヘルンソットさんに教えてもらい、ライラさんやキースさんと一緒にレミリクタの奥へ。

 途中、お手伝いの子供達が休憩に入るとの事だったので、外にレオとリーザがいる事を教えると、嬉しそうにそちらへ行った……休憩よりも遊びの方が重要なのは子供らしい元気さだなぁ。

 他にも、お客さんとしてお店に来ていた兵士さん達に挨拶されたりとしつつ、カウンターの奥にある部屋に入った。


 部屋は、簡易的な椅子と机が用意された応接室のようになっている。

 お店を作る時、商店であればこういった部屋も必要だ、と言われて間に合わせで作った物だけど本当に使う時が来るとは。


「ししょ……商会長、お待ちしておりました!」


 部屋で俺を迎えたミリナちゃん。

 こちらも、俺の事を商会長と呼ぶようになっている……まぁそれでも、屋敷の方では師匠呼びに戻るんだけど。

 椅子から立ち上がったミリナちゃんと、机を挟んで向かいに男性と女性が一人ずつ。

 入ってきた俺を見て、椅子から立ち上がって軽く会釈しているので、こちらからも返しておく。


 部屋の奥にはさらに奥へと続く扉があり、そちらは護衛さんが待機するような場所になっている。

 元は休憩室とかだったんだが、怪しい人物を捕まえたりなどもあったので、屋敷の護衛さんが交代で詰める事になったからだ。

 そこに通じる扉は今も少し開けられており、何かあればすぐに飛び出せるようにしているみたいだ。

 商人さん達と何かある、と決まったわけではないけど、護衛としては頼もしい心構えだと思う。


「あなたが、こちらの商店の主ですかな?」

「はい。クラウフェルト商会の商会長を務める、タクミです」


 ミリナちゃんの隣に移動し、男性商人さんからの質問に答え、自己紹介と共に頭を下げる。


「クラウフェルト……? こちらは、レミリクタというのではないのですか?」

「あぁそれは――」


 お店と名称が違う事に首を傾げる女性商人さん。

 簡単に、薬草や薬を扱うクラウフェルトという商会がやっている、販売のためのレミリクタというお店だ、という説明をした。

 わかりやすく、クラウフェルト・ランジ村レミリクタ支店、とかにした方がいいのだろうか? と思ったが、微妙にややこしい気がしたので却下だな。


「そのような商会が……存じ上げませんでした。商人は耳ざとく、私のように各街を行き来するような者は、商会などの情報は頭に入れておかなければならないというのに、申し訳ございません」

「いえ、新しくできたばかりの商会ですからね。まだこの村の外では、あまり商売の手を広げられていませんので、知らないのも無理はありません」


 そもそも、まだクラウフェルトが始動して一か月も経っていないからな、知らなくても当然だろう。

 一応すごい量の書類を書いての手続きや登録とかはしたけど、ラクトスに届けてもらったばかりだ。

 領主貴族である公爵様がすぐ近くにいるから、許可という意味ではエッケンハルトさんが頷けばそれだけでいいんだけど、貴族家が直に運営する商店ではないため、街などへの登録やそこから他の場所への周知などをしてもらう必要がある。

 まぁ、共同経営で俺と同じ商会長という立場にクレアがいるため、ほとんど公爵家直営とも言えるかもしれないが。


「申し遅れました。私、バスティアと申します。タロンメルの街にある商会で商会長をしております。タロンメルでは、それなりの商会と自負しております」


 バスティアと名乗ったのは男性商人さん。

 恰幅の良い体を折り曲げて深々と頭を下げるが、「それなりの商会」と言った時の笑顔は、それなりどころか結構大きめの商会だという自負を感じた。

 しかしタロンメル……どこの街だろう? と疑問を顔に出す前に、俺の後ろに立つライラさんがバレないようそっと耳打ちで教えてくれる。


「タロンメルは、公爵家の別邸よりずっと北にある街です。公爵領とは別の貴族領地になります」

「……ありがとうございます」


 最近、仕事の合間に少しずつこの国の地理などを教えてもらい始めたが、さすがに街の名称を一つ一つ覚えているわけじゃないからな。


「私は商会長の補佐を務めます、キースと申します。それにしても、タロンメルですか。随分と遠い場所からここまで来られたようで」

「ははは、一つの街に留まっていては、良い商品を見つけられませんからな。特にラクトスは人の通りが多く様々な交易が行われている街です。商売のために時折様子を見に私自ら訪ねるのですよ」


 ラクトスでは珍しい物を見つけたりできるらしいからな。

 商品の仕入れや目星をつけるには良い場所なのかもしれない。

 それにしてもバスティアさん、商会長自ら商品を探し回るのか……。

 あくまで俺の第一印象で、すごく失礼な事だから口には出さないが、恰幅の良さと微妙にうさん臭い感じのする笑顔からは、贅を凝らした部屋で指示を出すだけのような人に見えるんだが。


「それでそちらは……」


 何を考えているのかわからないけど、ニコニコと俺やバスティアさん、それにキースさんが話すのを見ている女性商人さん。

 俺が水を向けると、自己紹介を始めた。


「失礼。申し遅れました。私はトレンツァと申します。リカメフという村で商売をさせていただいているのですが、こちらの薬を村で活用できないかと、お尋ねした次第です」

「トレンツァさん、ですね。よろしくお願いします」


 村出身という事だけど、村娘というより妖艶な雰囲気が漂うトレンツァさん。

 丁寧にお辞儀をしているのを見ると、雰囲気はともかく真面目っぽい印象を受けた。

 俺から見ての第一印象としては、悪徳っぽいやり手の商人がバスティアさんで、真面目で商売っ気が薄いのがトレンツァさん、といったところだ。

 若干どころか、かなりバスティアさんには失礼な印象となってしまっているけど。


「トレンツァさん、無知で申し訳ありませんが……その、リカメフという村の名を聞いた事がなく……」


 ライラさん、キースさん共にリカメフという村を知らないようだったので、聞いてみた――。



読んで下さった方、皆様に感謝を。


別作品も連載投稿しております。

作品ページへはページ下部にリンクがありますのでそちらからお願いします。


面白いな、続きが読みたいな、と思われた方はページ下部から評価の方をお願いします。

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■7巻書影■mclzc7335mw83zqpg1o41o7ggi3d_rj1_15y_1no_fpwq.jpg


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