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1983/1996

対処が面倒な国のようでした



「そう。レオちゃんが従っているタクミ君だからこそ、だよ。多分、どんな事があってもレオちゃんと一緒にいるタクミ君は、絶対にセイクラム聖王国から酷い扱いを受ける事はないだろうね」

「巻き込まれてはいるけど」

「そこがあの国の悪いところさ。自分達の考えで正義だと断定する。捕まえた奴らがいたでしょ? 例えばだけど、あいつらにもしタクミ君が怪我をさせられてしまったとしても、それは自分たちの正義のもとに仕方のなかった事でかたづけられるんだ。実際に何をする気だったのかはわからないから、タクミ君が怪我をするような事だったかはわからないけど」

「酷い扱いは受けないって言ったのは?」

「あくまで、向こうの基準でだね。まぁ、多少怪我はしても表向き下手な真似はしないと思うし、そんな事をしたらタクミ君に従っているシルバーフェンリル……レオちゃんが許さないと思う」

「ワッフ!」


 当然! と言うようにレオが頷く。

 リーザは尻尾を立てて自分には何されてもそういう事はなかったのに、怒ったような表情になっていた。

 気持ちは嬉しいけど、例え話だから落ち着こうな?


「歴史上、シルバーフェンリルとまともに意思を通わせた人っていうのは、ほとんどいないんだ」

「我が公爵家の、初代当主様もその一人ですな」

「うん。多分、片手で数えるくらいいるかどうか、と言うくらいだね。僕……はまぁ、いいか」


 自分の事を言おうとしてバルロメスさんやヴェーレさんに視線をやり、言葉を濁した。

 特殊な例だけど、初代当主様のジョセフィーヌさんを通して、ユートさんはシルバーフェンリルと会った事があるらしいから、そのうちの一人って事なんだろう。

 初代当主様を知っているだけならまだしも、その人を通じてなんて事情を知らない人の前では言えないからな。


「んで、さらに言うならレオちゃんはタクミ君のいう事をよく聞いて、傍にいる。これは少し調べればわかる事だし、ラクトスとかでもそうだったでしょ?」

「ラクトスで広く知られている事だ、当然向こうは調べているだろうな」

「確かにそうですね」

「だから、タクミ君に何かすれば……あくまでも、向こう基準での悪い事をすれば、レオちゃんを怒らせる事になるって考える。だからないがしろにせず、発言力もあるとも考えられるわけだね」


 俺、知らないうちに、知らない国での発言力を得ていたらしい。

 全部レオのおかげだけども。


「んで、シルバーフェンリルを怒らせたらどうなるかなんてのは、これも歴史が証明しているわけだ。以前にも話したけど、人どころか一国がどう頑張っても敵わないってね。荒ぶるシルバーフェンリルなんて相手にしたくない。セイクラム聖王国は古い国でもあるから、正義だとか基準がずれていてもそれくらいは知っている。そもそも、シルバーフェンリルを敵に回すなんて、彼らの考えが許さないはずだしね」


 セイクラム聖王国の考えは、この世界はこの世界で完成して完結している……みたいな感じだったはずだ。

 シルバーフェンリルは異世界とは関係ないから、この世界の頂点みたいな感じで考えているのかもしれない、それこそ世界の王みたいな。

 ……そういうと、ホームランバッターを思い出すフレーズになってしまうけど、あれは日本での事で俺が日本人だからだろうし、こちらの世界とは関係ない。


「とはいえまぁ、だからと言ってタクミ君があの国に働きかけるのも良くないと思う」

「それはどうして?」


 望んで得た発言力ではないけど、俺が言っておとなしくなるなり反省するなら、それでいいと思うんだけど……。


「直接関わりがないから、今はこうして様子を見つつの接触……接触しようとしているのかはわからないけど、暗部がこちらに来ているから同義としよう。それが表立って直接接触したら、今後も何かしら関わってくると思う。下手をしたら、公爵家の領地にいる事すら難癖付けてくるかもね」

「……それは面倒だ」


 国との関わりなんてどうすればいいかわからないのに、難癖まで付けてくるのか。

 向こう側の人と話した事がないからなんとも言えないけど、話を聞いている限りではいいイメージのない国だし、危険な薬も使っているから印象は悪い。

 でも受け流すにしても向こうは長く歴史の続く国だし、海千山千の人だっているだろうからそのうち、言いくるめられそうだ。

 エッケンハルトさんやクレアといった、公爵家の人達は協力してくれるだろうけど、迷惑をかけ続けるのも気が引ける……もしくは、そういった俺の気持ちすら利用されるかもしれない。


「だから、タクミ君はこの場で、ここでの対処を考えているくらいがいいと思う」

「タクミ殿を、かの国との関係に際して矢面に出すわけにもいかぬからな。レオ様も同様だ。シルバーフェンリルを敬う公爵家の意義にも反する。それに、後々には義理の息子になるのだ、そのタクミ殿にわかっている苦労をさせるわけにもいかん」

「お、お父様!!」

「もう決定事項なんですのね。ちょっと羨ましいですわ……」

「その羨ましさは、異性関係とはまた違うように見えるぞヴェーレ」

「おっと、失礼しましたわ」


 完全に外堀が埋められている気がするが、俺自身そうなれたらいいなという気持ちなので、照れる気持ちはあれ否定はしない。

 ただ、リーザを見る目が血走りそうなヴェーレさんの視線だけは、バルロメスさんの突っ込みと同時に動いてコッソリと遮っておく。


「話が逸れていますよ、エッケンハルトさん」

「おっと、そうだったな」

「もう、お父様ったら。こんな時に……それは、私もそうなったらいいなくらいは考えていますけれど」


 クレア、話が進まないから顔を赤くしながらもそんな事を呟かない。

 できればこういう話は、もっと日を改めてというか……頃合いを見てにしたいところだ。


「タクミ君とクレアちゃんのこれからは楽しみにしておくとして、捕まえた奴らとセイクラム聖王国のつながりが確定すれば、こちらも多少は強く出られると思うんだよね」

「そのためには、取り調べを進めなければなりませんが、いずれわかる事でしょう」

「そうだね。間違いなく奴らは、セイクラム聖王国の暗部に所属している奴らだけど」


 印があったとはいえ、それだけで確証になるわけではないみたいだ。

 その印も、暗部の存在を知る少数しか知らない事だかららしい。

 いろいろと面倒だなぁとは思うけど、とぼけられたり難癖を付けられないようにするには、確証などは必要な事なんだろう。


「カナンビスの線から、責めるというのはできないのかな? 所持すら禁止されているような物だし、それをバルロメスさん達の領地から運び出したっていうのは、問題だと思うんだけど」

「それもありだな。だが……」

「こちらの国で禁止されている植物だからって、向こうはそうとは限らないんだよタクミ君」

「え、そうなの?」


 依存性が強く、危険な植物だからてっきりどこの国でも禁止されている物だと思い込んでいたけど……。


「ヘルマンが薬を研究して開発したのは、ある種特例でもあるし、向こうでもその依存性は危険視されている。けど、所持を禁止だとか、厳しく取り締まっているわけじゃないんだ」

「そ、そうなんだ」


 考えてみれば、地球だって日本では禁止で厳しく罰せられる物でも、海外の国では禁止されていない、なんてのもあったか。

 国によって考え方や法、それに基準が違うんだろうし、それは異世界であるこちらでも変わらないのか。

 もしかすると、カナンビスに関しては元々日本人であるユートさんの考えなどが、強く反映されているのかもしれないな。

 何せ、建国した人だし、そういう法律を決めるなんて事もしているだろうし。


「まぁそれでも、禁止としている我が国からというのは、問題にはなるだろう。そこを突くのは悪い手ではないな」

「そうだね。それだけじゃ弱いけど、向こうの国を糾弾する一つの手段にはなると思う。はぁ、まったくあの国は、対処を考えるだけで面倒なんだから」


 外交も関係するから、他国とのあれこれというのは総じて面倒なのは間違いないけど、特にセイクラム聖王国に対してはユートさんの言う通り面倒だなと思う事ばかりだ。

 エッケンハルトさんもそうだけど、ユートさんならやっちゃえ! みたいに勢い任せで対処しそうにも思ったけど、そうもいかないんだろう。

 ただそこまで慎重になるのはなぜなのか、と疑問に思って聞いてみると、セイクラム聖王国は最終手段にもいかない段階で、武力に物を言わせようとしてくるからだとか。

 こちらにレオがいるとかそんなのは関係なく、後先考えずそういった手段に出る相手だから、逆にユートさん達が慎重にならざるを得ないらしい。


 武力……つまり戦争に発展したら、多くの人が犠牲になる。

 国の利になるどころか、害しかない状況にするわけにはいかないか。

 というか、上手くいかなかったら暴力に訴えるとか、かんしゃくを起こす子供かなと思ったけど、大体その認識でいいと思う、とユートさんだけでなくエッケンハルトさんやバルロメスさんにも言われてしまった。


「危険なのは向こうも当然承知している。だけどそれでも完全に禁止しないのは、それだけ重要視しているからでもあるんだ」

「重要視って、あんな危険な物を?」


 実際に『雑草栽培』で作った事はあるが、禁止されている事と、散々危険だと聞かされているので使った事はないし、使おうとは一切思わない。

 けど、そんなカナンビスを重要視って……。


「利用法の一つとしてね、用量を間違えないように使用すれば、色々とね。さすがに問題がありすぎるから、ここでも言いたくないような事だけど……」


 遠回しに、どんな利用法なのかを聞かせてもらったけど、成る程そういう使い方があるのかとちょっとだけ納得した。

 だからって、使い方に理解を示したりはしないような方法だったけど。

 まぁ、なんというか……依存性を上手く操る事で、対象の人物に言う事を聞かせるというか……早い話が洗脳みたいな手段としての利用だったから。


 だからこそ、厳しく取り締まらず、完全に禁止とまではしていないという事らしかった。

 あくまで俺の中でのイメージだけど、セイクラム聖王国がさらに怪しい宗教国家のように見えてきたな。


「何はともあれ、面倒だけど放っておけないし……」

「このままやられっぱなしというのも、頷けませんからな」


 と、その場にいる全員で顔を突き合わせて、今後のセイクラム聖王国への対処などを考える。

 少し長引いて、ライラさん達使用人さんがお茶のおかわりなどを持ってきてくれた頃……。


「失礼します! タクミ様、ご報告が!」


 急いだ様子のルグリアさんが部屋に入って来た。

 相変わらず、人前にいる時はフルフェイスヘルメット装着のパプティストさんも一緒だ。

 何やら緊急性のある事のようだけど、どうしたんだろう。


「ルグリアさん、パプティストさんも……二人揃ってどうしたんですか?」


 暗部と思われる人達を捕まえたりはしていたけど、念のためまだ続けていた森の調査。

 今日は確か、ルグリアさんは休息日で調査はお休み――とはいっても、本来の仕事であるテオ君やオーリエちゃんの護衛にあたっていたわけだけど。

 代わりにパプティストさんがさらに範囲を広げて東方面の調査に行っていたはずだ。

 そんな二人が揃って報告とは……。


「副隊長、パプティストが広げた調査範囲の先で、新たな発見をいたしました。その後報告にと」

「新たな発見ですか? 何か、決定的な物が?」

「決定的、かは正直わかりかねます。が、最近周囲を嗅ぎまわっている怪しい者達に繋がる証拠かと。ルグリア隊長も、確かめて確証を得ております」

「ほんとですか!?」


 思わず、大きな声が出てしまう。

 捕まえた人達と、セイクラム聖王国と暗部……その繋がりなどについて、今しがた頭を悩ませていたばかりだ。

 結局は、取り調べが進むのを待つしかない、という結論になっていたタイミングでとは。

 それだけ、毎日皆やフェンリル達が頑張って調査をしてくれていた成果が、ようやく出たという事なのかもしれない。


「こちらになります……」


 ルグリアさんが、布に包まれた物を数個取り出し、俺の執務机に置く。

 それを、俺だけでなくクレアやユートさん、エッケンハルトさんにバルロメスさん、ヴェーレさんも注視した。


「フェンリルと共に、東へさらに調査範囲を広げたところ、森との境界で煙が上がっておりました」

「火事、とかではないんですよね?」

「はい。その煙は野営をしている者達による焚火のようで、様子を見るため近づきましたが……我々を見た者達が一斉に逃げ出したのです」


 パプティストさんが発見し、逃げ出した人達……川向こう、以前野営の跡を見つけたさらにその先、森との境界付近だから街道もなく、人が来ることもほぼないような場所だ。

 逃げ出さなくとも怪しむべきところだな。

 ともかく、その逃げ出した人達はフェンリルのおかげで簡単に追い付き、捕まえたのだそうだ。


「その者達は、ここ数日屋敷付近でフェンリル達が捕まえた者達と同様でした」


 捕まえた人達、あからさまに怪しい黒装束とか、そういうわけではないけど旅装でもなく、街中などならまだしも村からも離れた場所で、しかも兵士さん達にも見られず屋敷の近くまで来ていた状況では、怪しいとしか言えない服装だった。

 まぁ、魔物のいる森の近くで、旅装ですらなくそれらしい装備も、パッと見は身に着けていない人に紛れるような服装、要は一般的な街での服装は怪しんでくれと言っているようなものだよな。

 ……暗器と言うんだったか、捕まえた人達はその服の内側、外からは見えない場所に武器を隠していたんだけど。

 それと同様という事は、森の境界で焚火をして野営をしているような服装でもないという事だ。


「その者達が持っていた、武器になります」

「ふむ。捕まえた者達も持っていた武器と、同様だな。だが、それが何かしらの証拠になるとは……いや、それらと同様の人物達である、という証拠にはなるだろうが」


 机に置かれた、布にまかれたいくつかの物の一つの布を解いて中身を見るエッケンハルトさん。

 形状からナイフやダガーなどの類というのはわかっていたけど、その通りだったようだ。

 ただ、捕まえた人達から取り上げたとして見せてもらった武器……暗器と同じ物のようには見えた。

 素人判断だから、間違っているかもしれないが。


「いえ、公爵様。見た目はただの同じ武器なのですが、仕掛けがありまして……ここをよく見てください」

「む……?」


 布を解いた武器、手のひらにすっぽり収まりそうなダガーだけど、パプティストさんが示した場所、柄の一番後ろに指先程の小さな突起があるのがわかった。

 一センチあるかないかくらいの大きさで、目立たないようにしてあるためパッと見はわからないけど、なんとなくスイッチか何かのように見える。

 それは、捕まえた人達が持っていた武器にはなかった物のはずだけど、これがパプティストさん達の言う確証に繋がる仕組みなのか……?




読んで下さった方、皆様に感謝を。


別作品も連載投稿しております。

作品ページへはページ下部にリンクがありますのでそちらからお願いします。


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