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1981/1997

非人道的な取り調べは却下しました



 やはりプリンの美味しさは異世界の人をも魅了するみたいだと再確認した夕食だったが、個人的にはチョコレートの方が好きだったりする。

 日本にいる時はレオが欲しがるから、食べる機会が限られていたんだよなぁ……犬にチョコは厳禁だから、あげるわけにはいかないし、でも欲しがるレオを我慢させながら食べるのも気が引けて。

 そういえば、今はシルバーフェンリルとなって玉ねぎとかも平気になったらしいし、チョコも食べられるんだろうか? まずはチョコというかカカオがあるかどうかだけど。


 あと、甘い物続きで太ったりしないかと、ちょっと心配だけど今日くらいはいいかと考えた。

 カンゾウは、俺が知っている物ならカロリーゼロだけど、こちらでも同じかはわからないが。


「ワフゥ? スンスン……」

「ん、レオ。どうした?」


 そんなこんなで、時折ヴェーレさんがリーザに迫る事がありつつ、バルロメスさんもペータさんと土の話をして過ごし、三日程が経った頃。

 夜の鍛錬をしている時に、レオが突然首を傾げて鼻を高く上げた。

 匂いを嗅いでいるようだけど……。


「ワッフ、ワフワフ!」

「……またか」

「どうしたのだ、タクミ殿?」

「タクミさん?」

「あーえっと、また来たみたいですね。すでにフェンリル達が発見して、向かっているみたいです」

「……そうか。何か、フェンリル達に頼らない対策を練らねばならんな。すまないタクミ殿、公爵家の兵が囲むように配置していても、抜けて来られているようで不甲斐ないばかりだ」

「いえ、今のところは何も被害とかは出ていませんし、レオやフェンリル達の嗅覚とか気配察知にはさすがに……向こうはそれ専門のようですし、仕方ないですよ。それに、捕まえた後はお任せしていますし」


 そう言って、レオの方を見ると何やら頷いているので、フェンリル達が捕獲に成功したようだ。

 アルヒオルン兄妹が来て少し経ったくらいから、夜間に屋敷へと侵入を試みる複数の人物が何度か現れた。

 村の方には行っていないようだけど、駐屯して巡回もしている兵士さん達の警戒網も抜けてきているので、ここのところエッケンハルトさんの頭を悩ませている。

 ただそんな人物達も、レオやフェンリル達の警戒網の方を潜り抜ける事はできないらしく、もれなくフェンリルに押さえつけられるようにして捕まるのが常になっていた。


 その侵入を試みている人達は、ユートさん曰くセイクラム聖王国の暗部だろうとの事。

 装備など、ユートさんの知っているそれと一致するのだとか。

 フェンリル達が捕まえた後は、エッケンハルトさんや兵士さん達に任せて、聴取という名の尋問を行っているらしいが、訓練されているらしく口を開かない。


「そろそろ、幾人かを送らねばな。いつまでも近くに置いてはおけん。済まないが、タクミ殿とフェンリルの力を借りる事になると思うが」

「はい、それに関してはフェリーにも話してありますから。大丈夫ですよ」


 捕まえた人達は、兵士さんが駐屯している場所に置いているんだが、何度も来るのでさすがに数が多くなってきている。

 場所を移して取り調べをするために、逃走などに注意しながら護送する必要があるので、フェンリルを借りたいという話だ。

 単純に、幌馬車などに詰め込んでフェンリルに曳いてもらうなり、一緒について来てもらうってだけなんだが。

 フェンリルがいればもし逃げても追いかけられるし、簡単に捕まえられるからな。


「……やっぱり、拠点となる場所をなくしたために、実力行使に出ようとしているのでしょうか?」


 珍しく、俺たちの鍛錬を見学していたクレアからの言葉。

 拠点と言うのは森の中などにあった野営地で、調査隊が発見するまで継続して使われていたうえに、川向うにいくつか見つけた。

 さらにラクトスなどの街での物資輸送なども、厳しく取り締まる事で補給を絶っている状況だったりする。


 まぁ、俺達の知らない所で何かしらの補給拠点などがあれば話は別だろうけど、動きを考えればそれがないのだと確信できる。

 公爵領を治めている公爵家が全面協力だからな、他国からの刺客なんてのは、そう簡単に活動を続けられないんだろう。


「まぁ、場所を移してしっかりと取り調べをすれば、いずれなんのために動いているかなどはわかるだろう」

「そうですね……」


 どういう尋問をするのか、さすがに立ち会ったりはしていないのでわからないが、今ここに来ている兵士さん達は調査をするための人達だ。

 ある程度魔物と戦う力などはあっても、そういう取り調べなどは専門じゃない。

 とりあえずそれができる人がいるような場所に送るんだろう、今はとりあえず朗報を待つのがいいんだろうな。


「なんなら、僕が取り調べしようか? どんなどぎついのでも、やれるよ?」

「ユートさん、一体どこから生えて……」


 急に話に加わってきたユートさん、ニョキっとエッケンハルトさんの背中から生えてきたようにしか見えない。

 全然気づかなかった……エッケンハルトさんも「どわぁ!?」と大きな声を出して驚いているくらいだ、完全に気配を消していたんだろう。

 そういう魔法でもあるのかな? レオは溜め息を吐いていて、気づいていたようだけど。

 クレアやティルラちゃんも驚いていたけど、一緒にいるリーザは驚いていなかったし、匂いか何かかな? 気配は消せても匂いはさすがに消せないようだ。


「生えるなんてひどいよタクミ君。僕はキノコじゃないんだから。まぁ、こんな風にね、誰にも気づかれないように近づく方法はあるって事だよ。暗部の奴らも、似たような方法を取っているんだろうね」

「な、成る程……」


 魔法なのかなんなのか、気配を消す方法というのはあるようだ。

 よく武術で気配を消すとかあるけど、達人の域になれば魔法がなくともできるのかもしれない、それか忍者か。


「そんな事よりもさ、捕まえた奴らの事だけど。僕が尋問するよ?」

「ユートさんが?」

「いやしかし、それはさすがに……ユート閣下自らというのは少々」


 さすがに、狙いがなんであれ公爵領で起きた事であり、捕まえた相手を表向きは大公爵で、領主貴族とは別の人に任せるのは気が引けるんだろう、エッケンハルトさんが難色を示している。

 貴族間の関わりとかもあるのかもしれないけど。


「気にしないでハルト。今回の件、僕は解決まで全力で協力する事にしているんだ。だから、これくらいはね」

「むぅ……」

「そもそも、ユートさんに尋問とかできるの?」


 ユートさんはむしろ、相手を詰めるよりも詰められる側が向いている気がする。

 こういうのを向き不向きで語るのは、ちょっとおかしいかもしれないが。

 ルグレッタさんからよく詰められているし、尋問とは違うかもしれないけど押す方より押される方が好みというか趣味なのに。


「これでも人生経験は豊富なんだ。だから、不届き者の尋問くらいは簡単だよ」


 人生経験、という意味ではこの場の誰も……数百年は生きているフェンリル達ですらかなわないからな。

 それを言われると、できそうな気がする。


「……尋問が簡単と言えるくらいの人生経験は、あまり聞かない方が良さそうだから、聞かないでおくけど」


 それだけの事を経験してきているって事だからな。

 血生臭い話がこれでもかって程出てきそうだし、リーザが近くにいるこの場で聞かない方がいいだろう。


「でも、どぎついのもって言っていたけど、どんな尋問を?」

「そうだねぇ……相手次第だけど、ここにはタクミ君もいるからね。協力してもらえばどんな人物でも、どんな訓練を受けていても、丸裸にできるよ。具体的には――」

「「……」」


 あくまで例えばであり、実際に行うわけではないけど、ユートさんの尋問計画を聞いて俺とエッケンハルトさんは言葉をなくした。

 幸い、気遣ってくれたのかリーザには聞こえないような小声だったから良かったけど……レオが嫌そうな表情になっているから、あっちには聞こえてそうだが。

 ユートさんが話した尋問計画は、とにかく生きている事を後悔するくらいひたすら体を痛めつける方法だった。

 確かにきつめの尋問とか聞くとそういう事を想像しがちだし、それこそ中世っぽい雰囲気が強いこの世界だと、アイアンメイデン的な物も浮かんでくる。


 ……あれは、尋問というより拷問とか処刑の方向だけども。

 ただ、それが生易しく感じる程で具体的に想像する事すら脳が否定するくらいだが、とにかく俺がロエを作る事で致命傷でない限り、無限に治せるというのが大きいとだけ言っておこう。

 情報を引き出すのは重要だとは思うけど、そんな事に協力はしたくない……。


「ちょうど公爵家の兵士もいるんだし、強固で外に漏れない牢はなくても、いろいろできるでしょ?」

「そ、それをさせるのは、私としても気が引けるのですが……」

「というか、しれっと俺が協力する事になっているけど、その案にロエを使うのはちょっと……」


 直接か間接か、基本的にはユートさんがやるらしいけど、それでも関わる兵士さんがかわいそうなくらいの内容だから、エッケンハルトさんは難しい表情。

 そもそも荒事は多少想定していて、訓練もしているとしても、専門ではないからなぁ。

 あとロエはケガで困っている人のために作っているんだから、そんな無駄に消費をするような使い方はしてほしくないなぁとも思う。

 情報を引き出すためと考えれば、無駄ともいえないかもしれないけど。


「んー、手っ取り早く吐き出させるためにはいいと思ったんだけどなぁ。じゃあ、血生臭いのが好みじゃないなら、くすぐりとかどうだろう?」

「くすぐり、ですか? それで取り調べになるのですか?」

「ユートさん、それってもう尋問じゃなくて拷問だと思う。さっきの案もそうだったけど」


 くすぐり……それはちょっとしたいたずらとか、遊びの延長でも行われるし、かわいいもののように思える。

 だけど、いつ終わるとも知れないくすぐりを続けると、人は精神に異常をきたすと聞いた事もあるし、そういった拷問もあるらしい。


「むぅ、これもだめかぁ。まぁこれは、新しい世界の扉を開いちゃう可能性もあるからね。仕方ないか」


 そう言って、くすぐりも却下されてちょっとだけ不満そうにするユートさん。

 新しい世界の扉を開くのは、ユートさんのような趣味だと思うが……まぁそれはいいとして。

 エッケンハルトさんが世界の扉を開くと聞いて、俺やユートさんのような異世界との関わりが? と勘違いしたのを正しつつ、しばらく話し合う。


 結論としては、素人と言えるかはともかく、過激な尋問はここでは不十分だという事で、結局のところ場所を移して行われる事になった。

 目的はまだ定かではないし、フェンリル達がいなければ俺や周囲の人達が危険だった可能性もあるけど、とにかく捕まった人達が無事なうちに情報が引き出せる事を願うばかりだ……。


 ウォォォォォォォォン――


「ワフ?」

「いつもの遠吠えだな。終わったみたいだ」

「ワッフ。ワオォォォォォォォン――」


 遠くの方でフェンリルの遠吠えが聞こえてくる。

 それは、怪しい人物というかこちらに害意を持つ何者かを捕まえた、というフェンリル達からの報せだ。

 レオが答えるように遠吠えした。

 遠吠えはフェンリルやレオにとってのコミュニケーションらしく、獲物を捕らえたというフェンリル達の達成感も含めて、重要らしい。


 あれの後、というかもう深夜と言える時間なので、翌日の朝とかか。

 警備してくれた担当のフェンリルの機嫌がかなり良くなるんだよなぁ、遠吠えをする事でのストレス解消もあるのかもしれないけど。

 ただランジ村村長のハンネスさんや、屋敷の人達は平気だと言ってくれているが、多くの人が寝ていてもおかしくない時間に遠吠えするのは、ご近所迷惑とか騒音問題にならないか少しだけ心配だったりする。

 屋敷や村の人達が寝不足にならないうちに、問題を解決したいところだな――。



 ――さらに翌日、フェンリルに頼んで捕まえた人達を兵士さんと共に送り出し、一息吐いた頃。


「タクミ殿、母上からの報告が来たのだが、今いいか?」

「あ、はい、わかりました」


 ペータさんと畑の土壌などの話で盛り上がっていたバルロメスさんのもとに、伝令さんが到着。

 どうやら、アルヒオルン侯爵家の方で進めていた調べに関する報告が来たらしい。

 バルロメスさんとヴェーレさんの母親、アルヒオルン侯爵家当主のアリレーテ・アルヒオルン侯爵からの報告を聞くため、俺の執務室へ移動。

 怪しい人物達が周囲にいる事もあり、レオやリーザは常に俺といようとしているため一緒に、それからエッケンハルトさんとクレアさんも呼んだ。


「もう少し、土の改良について話しておきたかったのだが……ヴェーレから話を……」

「お母様は、お兄様に報告を寄越したのですよ? それに、次期当主として役割をこなしませんと、ここまで来た意味も減りますわ」

「……そう、だな。侯爵領の農場にも役立ちそうだったのだが、仕方ない」


 なんてやり取りもありつつ、合流したヴェーレさんも加わって話を聞く事に。

 ……いつの間にか、部屋にユートさんも来ていたけど、まぁどこでも生えてくる人だから気にしないでおこう。

 立場的にも話を聞いておいた方がいいだろうし。


「んん! は、母上からの報告ですが……」


 皆の注目が集まり、少しだけ気後れするのを咳払いで飛ばし、話始めるバルロメスさん。

 数日間、フェンリルに癒されながらパプティストさんという友を得られた事もあり、ヴェーレさんから必要以上に励まされなくても、視線を集めている状況でもある程度話せるようになったようだ。

 ちょっとおどおどしたところはあるけど、初対面の尊大っぽい態度は鳴りを潜めている……こっちの方が素なのかもしれない。


「ユート閣下の報せの後、群生地を調べると同時に、採取された物の追跡もしていたのですが、その報告のようです。採取され尽くしたカナンビスの行方がわかったそうですね」


 俺だけではなく、エッケンハルトさんやユートさんがいるためか、丁寧な口調で話すバルロメスさん。

 もしかしたら、レオがいるのも大きいかもしれない。

 ヴェーレさんは結構慣れてくれたけど、まだバルロメスさんはレオを前にすると少し及び腰になるんだよなぁ。

 まぁ、怖がっているだけで絶対近寄らないとかではないので、セバスチャンさんの息子で今も物語というか事が大きくなった演劇について頭を悩ませているヴォルターさんよりは、マシといったところだろう。


 それはともかく、カナンビスの方だな。

 余計な事を考えるのはやめて、話に集中する事にした。


「予想通りと言いますか、カナンビスはクライツ男爵領に運ばれたとの事です」

「ふむ、確定か」

「確証はあるの?」

「母上の報告によれば、アルヒオルン侯爵領で不審な動きをしていた者達が、カナンビスの群生していた場所に行った事は間違いないそうです。そして、その足跡を追った先がクライツ男爵領だったと。それから――」


 バルロメスさんによると、その群生地に行った人達がカナンビスを持っていた事は間違いなく、侯爵領内で入手したのだろうとの事。

 さらにその足跡を追うと、クライツ男爵領に入った後に男爵と近しい人物に渡していたという事までわかったみたいだった――。




読んで下さった方、皆様に感謝を。


別作品も連載投稿しております。

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■7巻書影■mclzc7335mw83zqpg1o41o7ggi3d_rj1_15y_1no_fpwq.jpg


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