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1976/1976

思わぬ出会いのようでした

ブックマーク登録をしてくれた方々、評価を下さった方々、本当にありがとうございます。


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「リーザ、どうしたんだ?」

「うんとね、えっとね……」


 俺が声をかけて、皆の視線が集まったからだろうか。

 さらにもじもじして俯き、尻尾を垂れさせるリーザ。

 もしかして、ヴェラリエーレさんにリーザを紹介した時、北側では獣人が珍しくないとあまり驚かなかった事が気になっているのだろうか?

 自分以外の獣人の事が聞きたいとか……。


「あのね、パパ。あの人……」

「ヴェラリエーレさんだね。どうした?」

「私ですの?」


 リーザが示したのはやっぱりヴェラリエーレさん。

 本人は首を傾げているが、やっぱり思ったように獣人の事についてだろうか。


「そのね、クレアお姉ちゃんとかライラお姉さんも……ルグレッタお姉ちゃんもだけどね?」

「私もですか?」


 なぜかルグレッタさんも名前を呼ばれ、クレアやライラさんと共に首を傾げる。

 あれ、獣人に関する事じゃ……。


「どうやったらそんなに綺麗な髪になれるのかなって。聞いてみたいの」

「髪……髪かぁ」


 全然獣人に関する事じゃなかった!

 むぅ、俺のリーザを見る観察力がまだまだだったようだ、なんてよくわからない衝撃を受けたけど、とにかく髪だ。

 クレアやライラさん、それからルグレッタさんは元々、髪質が良かったのもあるんだろうけど、手入れを欠かしていないためか確かに艶も含めて綺麗な髪をしている。

 椿油が手に入ってからはさらに目を引く程の輝きと言っていい程で、ライラさんとかは特に女の子ながらに黒髪の貴公子と呼ばれていた昔の同級生が見たら、大変なことになるんじゃないだろうか? と思う程だ。


 そしてそれはヴェラリエーレさんもそうで、ツインテールにしているからなんとなくクレアやライラさんより幼い印象を受けるけど、赤い燃えるような髪色は室内の明かりを反射していて、それはもう本物の炎と言っても過言ではない程美しい。

 ……いや、さすがに本物の炎は過言だった。


「そうだなぁ、最近は椿油のおかげって事も多いけど、手入れを欠かさない事だと思う。ってそういえば、ヴェラリエーレさんもクレア達と同じってもしかして……ヴェラリエーレさん、椿油って知っていますか?」

「え、えぇ。最近開発された、万能セラムですわね。ちょっとした縁がありまして、ツテによって入手できましたの。ですが、男性にはあまり興味のない物だとばかり思っていました。椿油、タクミさんもご興味ありまして?」


 セラムって確か、美容液と似たような意味の言葉だったっけ? こちらの世界ではどうかわからないが。

 というかやっぱり知っていた、というか使っていたのか……どうりでクレア達にも負けず劣らず、綺麗な髪だと思った。

 いや、俺はあまり髪の綺麗さとかよくわからないけど、目を引くなぁと思っていたくらいだ。

 キューティクルとか、天使の輪って言葉くらいは聞いた事があるけど、それくらいだし。


「興味っていうか……」

「椿油はタクミ君が作った物だよ」

「いやいや待って、俺が作ったわけじゃないから。その、原料を作ったと言うかなんというか」

「そ、それは本当ですの!?」


 思わずといった様子で、大きな声を出しながら立ち上がるヴェラリエーレさん。

 その反応に、俺の服を掴んでいたリーザがビクッとして驚いていた。

 よしよし、大丈夫だからなー、怒ったとかじゃないからなー。

 と小さく声に出して宥めつつ、リーザの頭を撫でる。


「あ、あの椿油は、まさに革命と言えるべき物ですわ! 全ての女性が使うべき、至高のセラム! それがタクミさんの手によるものだったのですね……レオ様の事がなくとも、ひれ伏すべきでしたわ! いえ、今すぐひれ伏しますわ!」

「い、いやいや待ってください! それはさすがに、というか大袈裟ですから! 俺はただ原料を作った……発見? しただけです。開発したのは別の人ですから!」

「そ、そうですの? タクミ様がそう仰るなら……」


 またタクミ様に戻っているし……。

 余計な事を言わないでくれ、と視線でユートさんに訴えかけると、楽しそうな表情が返ってきたので抗議は諦めた。


「それにしても、『国境を持たない美の探究者』の中でも讃え崇められているお方が、ここにいらっしゃるとは思いませんでしたわ」

「……え、今なんて?」

「讃え、崇められているのですわ」

「いえ、そこも気になりますけど、その前に……」


 原料を見つける、もしくは作るのはそれだけですごい事なのだというのはまぁわかるけど、讃えられたり崇められるのはちょっと。

 それはレオだけで十分だ、とは思うけどそれ以上に気になる言葉が耳に入った。


「『国境を持たない美の探究者』ですの?」

「そ、それです。その、もしかしてヴェラリエーレさんって、その『国境を持たない美の探究者』に?」

「えぇ、所属しておりますわ。国の北側にいる貴族令嬢の多くはそうですわね。そのおかげで、椿油という素晴らしいセラムを入手できたのですけれど」

「そう、なんですか……」


 クレア、エッケンハルトさん、ライラさんやルグレッタさんは違うか。

 あと最後にユートさん。

 それぞれに視線をやって伺いを立ててみるも、全員がブンブンと首を振っていた。

 ヴェラリエーレさんが『国境を持たない美の探究者』だとは知らなかったようだ。


 いずれここにメンバーの誰かが来る、という話をユートさんからされていたけど、思いがけず遭遇……もとい邂逅? いや出会ってしまったようだ。

 とりあえず、ヴェラリエーレさんに少し待ってもらって、ユートさんに集合をかける。

 ユートさんを俺が気軽に呼ぶ事を、ヴェラリエーレさんは少し驚いたようだったけど、椿油の原料をもたらしたのが俺だという事で、何やら納得していた様子でもあった。


 ……それだけ衝撃的な事だったんだろう、ヴェラリエーレさんの中でのヒエラルキー的なものが、俺を上へと押し上げない事を願うばかりだ。

 例の『国境を持たない美の探究者』の中で、讃えて敬う存在になってしまっているので、願うだけ無駄な気がしなくもないが。


「どういう事、ユートさん?」

「いやいや待って待って、僕も知らなかったんだって。それにほら、別に彼女はここに椿油の事が目的で来たわけじゃないでしょ?」

「それはそうだけど、もうちょっと心の準備が欲しかった……」


 いや、『国境を持たない美の探究者』のメンバーと会うのに、何か問題があるわけじゃないんだけど。

 でも椿の生産にもかかわるから、難しそうな交渉にもなると考えていた。

 だから、できるだけこちらで準備してから出会いたかったなぁ、というのが本音。


「……パパ?」

「あ、あぁ、ごめんリーザ。そうだな、今はリーザの話だな」


 コソコソとユートさんと話している俺に、不思議そうな様子のリーザに謝る。

 大分話が逸れてしまったが、リーザの興味を引き付けている髪の話だった。

 むしろそちらに集中する事で、一旦『国境を持たない美の探究者』や椿の交渉などの事は忘れよう。

 ヴェラリエーレさんはそのために来たわけじゃないし。


「まぁ、あまり近いうちに誰かを寄越すだろうから、心の準備とやらは早めにしておいてね?」

「……」


 とりあえず、ユートさんの声は聞こえなかった事にした。


「毎日の手入れ、これが本当に手間なのですけれど、椿油のおかげで大分楽になりましたわ」

「そうよね。以前は一日に数時間かかっていた場合でも、椿油一つで解決できるおかげで、半分にも満たない手間になったもの。ヴェラリエーレが言う通り、万能セラムね」

「パパの作った物ってすごいだね。でも、リーザはちょっと苦手で……」

「あらそうなの? 確かに独特な匂いが苦手、という事もあるかしら?」

「リーザお嬢様は、匂いではなく髪に馴染ませるのが苦手なようでして」

「なんかね、違和感があるの。気になっちゃうとムズムズするような気もして……」


 キャイキャイと、椿油……もとい髪の手入れの話題で盛り上がる女性達。

 ルグレッタさんは加わっていないものの、こっそり耳をそばだてているのはいいとして、男性陣は少し肩身が狭い。

 男でもそういう事に興味があるならともかく、ここにいる俺やエッケンハルトさん、そしてユートさんは髪の手入れに関して門外漢。

 というか、はっきり言うとあまり興味がない。


 綺麗な女性の髪に目を引かれるのは、多くの男性に共通する本能みたいなものだと思うが、手入れの手間などの話に及ぶと全くわからない。

 エッケンハルトさん達もそうだろうけど、俺なんて大体はちょっと整える事があるかもってくらいだ。

 完全に放っておいて無頓着という程でもないが、さりとて丁寧に手間暇かけるなんて事もない、その程度だ。

 なんとなく会話に参加できず、あくびをして同じく退屈そうなレオを男三人で撫でて、間を繋いでいる……重要な話も終わったし、俺もバルロメスさんのように退室しようかなぁ。


「やっぱり獣人は、そういった事に敏感なようですわ。匂いが受け入れられても、毛や肌に何かを付ける事を嫌う傾向にありますわね」

「人間でも、そういった事が嫌いな人はいるわね。女性にもいないわけじゃないわ」

「んー、でもクレアお姉ちゃん達みたいに綺麗な髪の毛になれるなら、我慢した方がいいのかなぁ?」


 自分の髪をいじるリーザだが、俺から見ると十分だと思うんだがなぁ。

 クレア達と比べると、見る人によっては劣るような気がするかもしれないが、それでも日本にいた頃も含めて、リーザの髪は綺麗な方だ。

 ライラさん達が、頑張って日頃からリーザの髪の手入れをしてくれているからかもしれないが。

 ちなみにリーザは、耳や尻尾の毛と髪では色も質も違っていて、境目などは特にわかりやすい。


 少し太めの髪質は金と茶が混じったような明るめの黄色に近く、耳や尻尾の毛は細く繊細で焦げ茶に近い。

 あくまで詳細に比べればだが、髪の毛は撫でた時にちょっとゴワッとしていて、耳や尻尾の毛はサラサラと指通しがとてもいい。

 もしかしたらリーザは、そのゴワッとした自分の髪質が気になっているのかもしれないな。


「リーザちゃんも十分に綺麗な髪と、それに毛をお持ちでしてよ?」


 なんてフォローしてくれているヴェラリエーレさん。

 いつの間にかリーザちゃん呼びだが、リーザの方もヴェラリエーレお姉ちゃんと呼び、打ち解けたようだ。

 リーザは人見知りなところはあるけど、人懐っこくもあって最初のきっかけがあれば、割とすぐ仲良くなれるんだよな。

 今回は共通と言えるのか、話題があったからだろう。


「ほんと?」

「えぇ。私、嘘は嫌いなのですわ。特にリーザちゃんの毛は、毛並みと言っていいのかしら? 私が見てきた獣人よりも、綺麗に手入れされているのがわかりますわ」

「うんとね、これはね、ライラお姉さん達がやってくれるの! ブラッシングって言ってね、とっても気持ち良くて、綺麗にしてくれるの」

「そうなんですのねぇ」


 少し誇らし気な雰囲気を感じるライラさんと、褒められたのが嬉しいのか、尻尾をブンブン振って興奮気味に話すリーザ。

 そんなリーザを見るヴェラリエーレさんは、目を細めて微笑ましげだ。


「……リーザちゃん、妹にしたいですわぁ」

「え?」

「んん! いえ、なんでもありませんわ」


 何やら、不穏なつぶやきが聞こえたような……?


「それにしても、尻尾が二本ですのね。間違いなくありますわ。とても綺麗な毛並みですわね」

「えへへー」


 ……積極的に話に参加するつもりはなかったが、このまま肩身が狭いのもなんなので、加わるならここか。

 というより、リーザを紹介してからずっと気になっていて、聞いてみたいと思っていた事があるし。


「ヴェラリエーレさん、リーザを紹介した時もそこに驚いていましたけど、獣人でも尻尾が複数あるのは珍しいんですか?」

「そうですわ、その事も話しておこうと思ってここに残ったのでしたわ。全ての獣人を見てきたわけではありませんが、少なくとも私が見た中では二本以上の尻尾を持っている獣人はいませんでしたわ。耳が三つ以上ある獣人はいましたが」


 耳が三つ以上、奇数なのはバランス的にどうなんだろう? と思ったが今はそこじゃないな。


「リーザの尻尾は、他の例がないと言えなくとも珍しいのは間違いないんですね」

「んぅ? 尻尾?」


 とてて、と俺に駆け寄って日本の尻尾を見せるリーザ。

 無邪気で可愛い。


「私は……お兄様もそうですが、貴族家の者として領内の各地を視察しています。特にアルヒオルン侯爵領は、開拓した地域が広いのでお母さま、当主だけでは目が届かない事が多いので」

「広さは違うが、我が公爵領でもそうだな。当主だけで領内全てを見て回るのは不可能と言えるだろう」


 そういえば、クレアが別邸で暮らすようになって、本邸と距離があるラクトス周辺の状況を見る役目とかも担っていたんだっけ。

 領地の端から端まで早くても数日、視察もする事を考えると月単位で時間がかかりそうだから、当主一人で全てを把握する事はできないんだろう。

 それを補うために、息子や娘、もしくは部下などを派遣しているってわけだ。

 ちなみに、リーベルト公爵領とアルヒオルン侯爵領は、人口は公爵領の方が多いが、農業を生業とする村の数や領地の広さは農地もあるため侯爵領の方が広いらしい。


 貴族として、単純に貴族位で領地の広さが決まっているわけではなく、何を担っているかで違うようだ。

 あとは、どの貴族も領地としていない空白地もあるため、そこを開拓するなどして自分の領地として広げるか、などもあるとか。

 まぁ、領地にしたとてそこに単純に人が定着して人口が増えたり、税収が増えたりするわけでもないから、無計画に開拓するわけにはいかないようでもあるけど。

 自領の範囲を増やせば増やすほど、領地を治める貴族が国に払う税金も上がり、見回り保全などに努める義務が生じるらしいから。


「そういうわけで、私やお兄様は領内に限ってはそれなりに獣人を見ています。ですがその中に複数の尻尾を持つ獣人はいませんでしたわ。ある時を境に、尻尾が伸びる、形が変わるといった事はあるようです」


 尻尾が伸びる、というのはデリアさんがそうだったはずだ。

 あちらは獣人として珍しい部類ではないんだろう。

 デリアさんもリーザと同じように、ブレイユ村で拾われて人間に育てられたから、リーザの尻尾の事を聞いても知っていそうにないな。

 家庭教師をしてもらっていても、特にリーザの尻尾について何も疑問に思っていないだろうし、他に獣人を知らないから知識などがないんだろう。


「リーザ、変なの?」


 話の内容を全て理解しているかわからないが、ヴェラリエーレさんが深刻そうに話し、俺達も少し真面目な雰囲気を出していたからか、リーザが自分の尻尾を抱きしめながら俯いた。


「ちょっと珍しい、ってだけできっと変じゃないよ」

「ワフ!」

「にゃふ! ママ、くすぐったいよー!」

「ワッフワフ!」


 落ち込んだ様子のリーザを元気づけようと、頭を耳と一緒に撫で、レオがリーザの頬を舐める。

 すぐに笑顔を見せるリーザにホッとしていると、ヴェラリエーレさんと目が合った――。




読んで下さった方、皆様に感謝を。


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■6巻書影■mclzc7335mw83zqpg1o41o7ggi3d_rj1_15y_1no_fpwq.jpg


■6巻口絵■ mclzc7335mw83zqpg1o41o7ggi3d_rj1_15y_1no_fpwq.jpg


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