兄弟と起こっている事を話しました
「成る程、報告があってからその場を調べても、カナンビスはなく掘り返された後だったと……」
「そうですわ。実際に調査をしたのは私達ではなく侯爵家の手の者ですが」
話によると、クズィーリさんの話を元にユートさんからの連絡が侯爵家に届き、そこから調査の人を向かわせたがそこにカナンビスはなく、誰かが掘り返した、つまりカナンビスを採取しつくした跡だけが残っていたらしい。
クズィーリさんは、カナンビスの事を多少くらいにしか知らなかったため、直接侯爵家の方に報告をしたわけではなく、カッフェールの街での契約商店であるハンボルトの店へと報告したらしいからな。
そこから本来は、カッフェールの街を領地に持つリーベルト公爵家を通して、アルヒオルン侯爵家へと伝わるはずがそれがなかったと。
発見されたカナンビスの群生地は人が入るような場所ではなく、ユートさんからの連絡があるまで、アルヒオルン侯爵家の方では把握していなかったらしい。
ちゃんとした報告をしていなかった時点で、ハンボルトの店、というかハンボルトその人が怪しいが、まぁおそらくクライツ男爵や背後にいる可能性のある、セイクラム聖王国が絡んでいるんだろうと推測できた。
元々カナンビスを探していたらしいし、必要だから秘匿して自分達で入手したんだろう。
そうして、重大事が起きているのだと把握したアルヒオルン侯爵は、ユートさんと密に連絡を取って対処を考える……という段階で、そのユートさんがいる公爵家に目を付けたのが今目の前にいるバルロメスさんとヴェラリエーレさん達兄妹。
母――アルヒオルン侯爵家の現当主は女性らしいが、その母親の手を煩わせるよりも自分達が行く事で、早期解決を望めるだろうとの考えだったらしい。
……クレア達リーベルト公爵家もそうだけど、貴族の人達って行動力が凄いよなぁ。
俺だったら、もっと確かな情報が揃ったり、離れた地での事だからもっと動きは遅いだろう。
この行動力は一部だけなのか、それとも多くの貴族家がそうなのかはわからないが。
ちなみに話の間中、レオにしがみついて隠れようとしていたリーザだが、落ち着いたアルヒオルン兄妹に見つかり、簡単に自己紹介。
名前と、身寄りがないので俺とレオが面倒を見ている、というくらいだが。
国の北側にあるアルヒオルン侯爵領は獣人の住む国が近くにあるためか、交流もあり、数が多いという程ではないけど、獣人を見る事も多々あるためリーザを見ても、あまり驚いていなかった。
ただ、尻尾が二本ある事と、南側の公爵領に獣人がいるという事には驚いていたようだ。
リーザの二本ある尻尾、獣人の中でも珍しいのか……。
「次期当主として自分がやらねば、と考えて……いました」
「そうか。いささか勇み足なのは否めないが、侯爵家の事情を考えると、気持ちはわからなくもない」
「僕が連絡をしているんだから、任せておいて欲しかったんだけどなぁ。でもまぁ、楽しめたからいっか」
「ユートさんは本当に、まったく……はぁ」
侯爵家の事情というのは次期当主としての自信だとか、周囲に納得させるだとか、色々あるらしい。
跡取りとしては二人の兄妹どちらかしかいないらしいけど、兄を次期当主に推す妹と、自分でいいのかと思う兄、という血生臭くはないけどちょっと面倒くさいあれこれがあるみたいだ。
まだ会ったばかりで、どちらが相応しいかなんて俺が言える事じゃないけど、レオを前にしてからの受け答えなどでは妹のヴェラリエーレさんの方がいいのでは? と思ってしまったのは心にしまっておく事にする。
首を突っ込んでもいい問題じゃないと思うから。
「して、先程も軽く話はしたが……ここまで来た二人はこれからどうするのだ?」
「まずは詳しい話を聞かないとなんとも。ですが、アルヒオルン家としては、自領が発端の部分もありますのでその責任は負うべきだと考えています」
「そうか……ふむ」
まだチラチラとレオを気にしてはいるけど、ほんの少しでも慣れたのかエッケンハルトさんからの問いにはちゃんと答えているバルロメスさん。
レオの方は、アルヒオルン兄妹に対して気になる事はないようで、伏せをして尻尾を揺らしている。
背中から降り、レオの体の後ろに隠れているリーザは相変わらず人見知り発動中だが……。
「とりあえずは、情報の共有だな。クレア、構わないか?」
「……えぇ。タクミさんへの態度は気になりましたが、それ以外は特に。レオ様も気にされていませんし」
「ワフ? ワウ……ワフ!」
「っ!?」
レオが鳴くと、体をビクッとさせるバルロメスさん。
完全に慣れるのは遠そうだ……。
それにしても、エッケンハルトさんがクレアに聞いたのは……成る程、人を見る目とやらで確かめたんだろう。
人の考えが見透かせるわけではないようだけど、クレアはなんとなく人となりがわかるらしいからな。
エッケンハルトさんも似たような目を持っているけど、クレアの方がより深くわかるとか……。
まぁ元々会った事のある人達だし、一応確かめた、という程度なんだろう。
レオの方も気にしていないのもあるし、リーザは人見知りってだけで怪しんでいる風でもないしな。
「では、そうだな……タクミ殿、よろしく頼む」
「俺ですか?」
「この件は、タクミ殿主導で我々も動いている部分が大きいからな」
「まぁ、確かに。俺が自分で名乗りを上げたわけではありませんけど、いつの間にかそうなっていましたし。あと、報告は俺に集中していますから」
「そういう事だ」
カナンビスを含む森の調査などは、まず俺に報告されるようになっているからな。
調査隊のトップ、司令官……名目上という部分が大きいと俺は思っているけど。
「……何故、そちらの平み……いえ、タクミ殿でしたか。そのタクミ殿に?」
疑問に思ったのか、バルロメスさんが訝し気にするが、途中で目を細めたクレアに見られてちゃんと俺の名前を呼ぶようになった。
レオも顔を上げてバルロメスさんを見たのも大きいかもしれない。
「簡単な事だ。調査も含めてタクミ殿に任せている部分が大きいからな。我々もそうだが、村の外に駐屯している兵士を見ただろう?」
「はい。小さな村にどうしてあれだけの兵士がいるのかと、疑問に感じていましたが……」
「調査のために公爵家傘下の兵を集めたのだがな。それら全てを現在任せているのがタクミ殿だ。レオ様の事もあるが、それだけタクミ殿に信頼を置いていると思ってくれていい」
「そ、そうなのですか……そこまで……」
目を剥いて改めて俺を見るバルロメスさん……近くにレオがいるので、すぐに目をそらしたが。
ヴェラリエーレさんは、少し俯き加減でブツブツと小さく呟いていたけど。
何か考え事だろうか?
「ともかくだ、タクミ殿の協力あってこその調査になっている。――タクミ殿、頼む」
「……わかりました」
俺というより、レオやフェンリル達の協力が大きいと思うけど。
仕方ないので俺からアルヒオルン兄妹にこれまでの経緯というか、カナンビスがどう使われているか、推測も交えてだが話す事にした。
間違った事を言ったり、忘れて抜けてしまう部分もあるだろうけど、クレアやエッケンハルトさんがいてくれるから、その場合はフォローしてくれるだろしな。
ユートさんは……今回はあまり期待しないでおこう。
既に話を聞いた兄妹の反応を見て、楽しむ気満々の雰囲気を醸し出しているから。
「……まさか、セイクラム聖王国が干渉しているとは」
「あの国には、私達アルヒオルン侯爵家もちょっかいを出されていますわ」
「まだ断定できる証拠はないが、今回の件セイクラム聖王国が関係していると仮定するなら、我が公爵家としては初めてではないが、珍しいのだがな」
クライツ男爵の話を伝えた時は、あまり驚いていなかったバルロメスさん達だけど、セイクラム聖王国という他国が関わっているとなるとさすがに驚いた様子だった。
ただ、アルヒオルン侯爵家もセイクラム聖王国にはあまりいい思いがないようで、兄妹揃って顔をしかめていたのが特に印象的だった。
嫌がらせというか、困らされている事もあるみたいだ。
リーベルト公爵家の方は、そういった事は少ないみたいだけど……成り立ちとしては、ギフトを持っていた初代当主様がいるから、むしろ目の敵にされそうではあるけど。
ただ一般に広まっている初代当主様とシルバーフェンリルの関係を考えるに、ギフトを持っていた事は広まっていないようでもあるので、もしかしたら知らない可能性もあるか。
シルバーフェンリルと親しく、協力してくれたというのはインパクトがあるようだからな、俺も人の事は言えないが。
あと、戦争もあったみたいだし、その時にセイクラム聖王国ともいざこざがあったとかも考えられるか。
初代当主様とシルバーフェンリルに蹴散らされて、それ以来あまり関わらないようにしていたとか……物理的に距離がかなり離れている、という事も関係しているらしいけど。
「本当にあの国は、どう見られているかよりも、どう見せるかしか考えていないですね。対外的な事よりも、自国内の民に目を向け、発展させる事に努めるのがそもそもの貴族や国の役目であるというのに」
そう言うバルロメスさんの表情は、セイクラム聖王国への感情のせいで苦々しかったが、目は真剣だった。
成る程、エッケンハルトさん達がまともな貴族と言っていた理由がなんとなくわかった。
私腹を肥やすとかよりも、領地を治める貴族として民の事を考えている人であり、貴族家なんだな。
もしかしたら、そういった責任感のようなものや立場を明確にする、というのもあって俺が部屋に入ってすぐの態度だったのかもしれない。
考えてみれば平民だとか貴様だとか呼ばれたし、割と無遠慮に見られはしたが、見下されたような感じはなかった。
態度や言葉は、見下されていると思ってもおかしくないようなものだったけど……だから、クレアが怒ってエッケンハルトさんは焦っていたんだろうけど。
それは、ヴェラリエーレさんも同様だな。
「まぁ、それは考え方にもよるだろうが、そうだな。地盤を固めるというわけではないが、自国の民が苦しんでいても、他国を飲み込む事ばかりを考えている。利用しよう、という考えが透けて見えるな。最近は力ある者が上にいないためか、いやがらせ程度で済んでいたが……今はそれで済ませられるかどうか、と言った段階になっている」
そう言っているエッケンハルトさんだが、ユートさんも含めてそれだけでは済ませない、という雰囲気を感じる。
レオもいるからだろうか……フェンリルが協力してくれて、公爵領がこれから盛り上がるかも、って時に横やりを入れられている形になるからかもな。
まぁ俺も、フェンリル達を狙っているって推測が正しく、この先何かがあるようであればエッケンハルトさんに協力を惜しまないつもりだけど。
とはいえ、国家間のあれこれにはあまり関わりたくないなぁ、というのが本音でもあるから、その辺りはどうするのかなど、今後次第だな。
「あの国に対しては、侯爵家だけでなく周辺の貴族とも協力をするよう、既に話をしています。というより、北側の貴族のほとんどが同一意見でしょう。話を聞く限り、取り込まれていると見られるクライツ男爵以外は、ですが」
「南の貴族とは違って、あちらさんは色々やってくるからねぇ。近いから、ってのがその理由なのは知っての通りだけど、手を出しやすいんだろうね。僕も何度か、その場面を見たし対処もしてきた。南は分布的にフェンリルが多く、シルバーフェンリルの伝説の元になった場所もあるわけだし」
フェンリルが南の方が多くいると言うのは初めて聞いたけど、フェリー達の話を聞く限りでは確かにそうなんだろう。
別邸近くのフェンリルの森、その奥ではあるけどかなりの数のフェンリルがいるみたいだからな。
それに、公爵領とレオを除いて今は未確認でもシルバーフェンリルがいた場所であり、現在もいるのかもしれない森があれば、手を出しにくいのだと後で聞いた。
下手に手を出して、眠れる獅子……ではなく狼だが、それを起こして国の存亡に関わる可能性を、さすがのセイクラム聖王国でも考えているのだろう。
現在、レオというシルバーフェンリルがいるこの場所に、ちょっかいを出して来てはいるようではあるけども。
「何はともあれ、セイクラム聖王国の対応はこれからの課題だな。個別に貴族が対応できる問題でもない。王家、ひいては国家がまとまって対処する案件だ。まぁ、こちらに手を出しきているのが間違いないのなら、それには対処させてもらうが。ひとまず、カナンビスに関してだな」
「我が侯爵領から出た産物が使われていると思われるのなら、アルヒオルン侯爵家としては無視はできません。そこで……」
「ん?」
「ワフ?」
一旦言葉を切って、チラリと俺……じゃないな、レオを見るバルロメスさん。
ただ、レオが何? というように顔を上げてバルロメスさんを見ると、慌てて視線だけでなく顔を背けたけど。
怖がられているなぁ。
「し、しばらくの間、この場所に留まらせていただけませんか? 事の推移などを見る必要があると感じています」
「そうだな……アルヒオルン侯爵家が使われたカナンビスの薬に関わっているわけではないのは、わかっている。そして、自領からそんな物が出て使われているのであれば、何もせず放っておく事もできまい。――タクミ殿、どうだ? 二人を滞在させるのは私も賛成なのだが」
「エッケンハルトさん達が断らないのであれば、俺も特に反対はしません。部屋もありますし……大丈夫ですか、ライラさん?」
「はい、すぐにお部屋の準備ができるかと」
「手間をかけてしまいますが、よろしくお願いします」
テオ君やオーリエちゃんはいるし、近衛護衛さん達や公爵家の兵士達も時折屋敷で寝泊まりしてもらっているが、客室には空きがあったはずだ。
そう思ってエッケンハルトさん達に頷いた後、ライラさんに問いかけると問題ないと言うように頷いてくれた。
お客さん用の部屋だし、作られて間もない屋敷だから、慌てて掃除したり整えたりする必要もそこまでなさそうだしな。
「よ、よろしいでしょうか?」
「む?」
「どうしました?」
部屋の準備はライラさんに任せるとして、エッケンハルトさんやクレアとちょっと話していたら、おずおずと手を挙げて発言許可を求めるバルロメスさん。
許可を求める必要はないんだけど、クレアに怒られたり、レオがすぐ近くにいるから肩身が狭い感じがあるのかも。
「な、なぜその、タクミ殿に公爵様が許可を求めるような事を? ここは、公爵家のお屋敷ではないのですか? それに、先程の使用人もタクミ殿の言葉を受けて動いているようにも見えました」
「そこからか……」
「そういえば、言っていませんでしたね」
顔を見合わせたエッケンハルトさんとクレア。
屋敷に関する話はしていなかったのか……レオや俺の話を伝えるので、忘れていたのかもしれないな。
そこまで重要な事ってわけでもないし――。
読んで下さった方、皆様に感謝を。
別作品も連載投稿しております。
作品ページへはページ下部にリンクがありますのでそちらからお願いします。
面白いな、続きが読みたいな、と思われた方はページ下部から評価の方をお願いします。
また、ブックマークも是非お願い致します。