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1973/1980

アルヒオルン兄妹は確かに個性的でした

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「バルロメスさん! タクミさんを平民と侮ってはいけないと、先程お伝えしたはずです!」


 どうしようか、クレア達は気にしなかったけど貴族だから、それなりの対応をすべきか……でもどうしたら、とりあえず平伏するかな?

 なんて考えていたら、クレアが強めの口調でバルロメスさんに言い募った。


「しかし相手は平民で、我々は貴族だ。立場の違いというものを示しておかねばならないだろう?」


 けどバルロメスさんも負けておらず、薄く笑って怒るクレアさんを受け流した。

 うぅむ、涼し気だ。

 ほんの少しだけ、口の端が引き攣っているように見えるのは気のせいだろう。


「お兄様の言う通りですわ。お兄様はただ、貴族としての示しを付けているだけなのですから」


 対してヴェラリエーレさんの方は、相変わらずキラキラとした尊敬するような視線を兄に向けている。

 ライラさんから聞いた話だと、妹のヴェラリエーレさんは兄のバルロメスさんを支えているという事だけど、この様子を見た限りでは兄を深く信頼しているように見える。

 まぁ、兄妹の仲がいいのは悪い事じゃないんだろうけど……。


「貴族としては、時にそういった事を求められるのは確かだ。だが、タクミ殿はただの平民ではない。いや、平民や貴族というくくりではないと言った方が正しいか」


 頭を押さえるのを辞めたエッケンハルトさんが、冷静に口を開く。

 というか俺、平民とか貴族とかのくくりじゃないならなんなんだろう? いや、貴族ではないから、平民が正しいと思うんだけど。


「公爵様、平民や貴族ではないのならなんと? それなりに上等な物を身にまとってはいるようですが、見るからに平民。へりくだった様子に見て取れますが」

「タクミ殿のこれは、相手を油断させるための物だ。その表面的な事に騙されるのではいかんな」


 ……いや、初対面の相手だからとりあえずにこやかに、と思っているだけなんだけど。

 深刻な表情で部屋に入って自己紹介なんて、辛気臭いだけだろうし。

 それがバルロメスさんにはへりくだったように見えるのか……このあたりは、日本で仕事をしていた時に、意識せずできるよう身に付いたものだけど。

 いいのか悪いのかはわからないが、とりあえず相手を油断させるためではない。


「……ユート閣下、笑っていないでフォローしてください。でないと、レオ様が怖いのですが」

「くふふふ……おっと、バレてた? 僕がフォローしなくても、レオちゃんはこんな事くらいで怒らないと思うけどなぁ」


 エッケンハルトさんが話を振ると、笑うのをやめて少しだけ真面目になるユートさん。

 それでも、目の奥は笑っているから面白がってはいるんだろうけど。


「この中で一番発言力と言いますか、地位としては高いのですからしっかりして欲しいものです」

「僕はずっと発言力を持ち続けたいとは思っていなかったんだけど、まぁいいや。そうだね……バルロメス君」

「はい、なんでしょうか?」


 エッケンハルトさんもそうだけど、ユートさんが少なくとも大公爵だとは知っているみたいで、二人の言葉に関しては一応聞く耳を持つみたいだ。

 さっきの様子のままだと、俺から何か言っても鼻で笑われそうな雰囲気だったから良かったのかもしれない。

 他に偉い人がいる場合は、状況次第だけど黙っておくというのも大事なのかも? ちょっと勉強になった。


「タクミ君が本気になったら、それはもう凄いよ? うん。本当に凄いんだ。何が凄いかって、言葉では言えない程、とにかく凄いんだよ!」

「小学生かな?」


 おっと、思わずユートさんの凄いの連呼に突っ込んでしまった。

 ヴェラリエーレさんは相変わらず兄しか目に入っていない様子だけど、バルロメスさんからギロリと睨まれる。

 平民なのに貴族が話した事に突っ込むとは、とでも言いたげだ。


「さすがタクミ君! ちゃんと突っ込んでくれたね!」


 ただユートさんはその言葉通り嬉しそうなんだよなぁ。

 ちょっと真面目な場でも、おちゃらけてしまうのはユートさんの唯一……ではないけど、欠点かもしれない。

 あと、後ろに控えているルグレッタさんから吹雪が発せられそうなくらい、冷たい目で見られているから程々にした方がいいと思う。

 むしろユートさんはその方が喜ぶし、狙っているのかもしれないけど。


「もう、話しが進みません。いいですか、バルロメスさん。おそらくユート様が仰ろうとしていたのは、タクミさんが本気になれば、国王様でも逆らえないだろうという事です」

「な……国王様がとは、それはさすがに不敬だぞクレアさん」

「そうそう、僕はそれが言いたかったんだよ。うん」


 怒って睨むクレアを睨み返すバルロメスさん。

 ちょっとピリッとした空気になった中でも、お気楽な態度を崩さないユートさん。

 深刻になり過ぎないのはいいんだけど、俺の事でそこまでもめないで欲しいんだが……あと、国王様でもっていうのは俺というよりもレオがいるからだろう。


「大袈裟でも、不敬でもなのだバルメロスよ。……ユート様に話を振った私がいけなかったのだろうが……」


 こういう時、エッケンハルトさんは割と真面目だ。

 普段ならユートさんと一緒に面白そうな方に動くけど、今回はちゃんとしてくれている。

 ……後でレオに怒られたくない、という考えが働いているからだろう。

 扉はライラさんが閉めてくれているけど、レオの耳なら今の会話もすべて聞き取れるだろうしなぁ……怒らないとは思うけど。


「先程も伝えただろう、タクミ殿にはシルバーフェンリルのレオ様が共にいる。従えていると言ってもいい」


 俺自身、従えているというよりは相棒として一緒にいる感覚だけど、レオとしては命令と言わなくてもお願いされる事が嬉しいらしい。

 傍から見れば、従えているように見えるのかもしれない。


「そういえば、そういう話でした。でも、こんな平民の男がシルバーフェンリルを従えるなど……魔物と戦うどころか、すぐに逃げ出しそうにも見えますが?」

「レオ様に関しては、戦えるかどうかが問題ではないのだ。それと、タクミ殿は私が直々に鍛えているからな。本人の真面目な気質もあって、バルロメス、お主よりも腕は確かだぞ?」

「わ、私よりも……? 公爵様のお言葉を疑うわけではございませんが、とてもそのようには……」


 うぅむ、俺そっちのけで話されているけど、やっぱりにこやかにというよりは表情を引き締めておいた方が良かったのかもしれない。

 あと、エッケンハルトさんから剣を習っているのはそうだけど、真面目だからではなく薬草のおかげが大きいと思う。

 バルロメスさんの腕前は知らないが、筋肉疲労回復薬草のおかげで、通常よりも多くの鍛錬ができているから。


「そうですわ。お兄様はお強く聡明な方なのです。シルバーフェンリルにだって負けませんわ!」

「い、妹よ、さすがにシルバーフェンリルは言い過ぎだぞ? シルバーフェンリルどころか、フェンリルにすら人は一人ではかなうようなものじゃないのだからな?」

「あら、そうですか? 失礼しましたわ。ですが、お兄様ならいずれフェンリルくらいどうとでもできるようになりますわ!」

「う、うむ、そうだな。妹の期待に応えられるよう、精進するとしよう」


 自信満々に兄を称えるヴェラリエーレさんだけど、何やら情けない表情で訂正するバルロメスさん。

 ……もしかしてこれ、妹に乗せられる兄の図では?

 さっき俺も、方向性は違うけどライラさんやリーザに褒められて、調子に乗りかけたし。

 男って、そういうところあるよなぁ……身内でも女性に褒められるとその気になるというか、猿もおだてりゃ木に登るというか。


「はぁ……! ともかくです、バルロメスさん。タクミさんと接する時は、シルバーフェンリルと接していると思うようにしてください」

「だが、平民を相手にそのような接し方など、周囲に示しがつかないではないか」


 怒気を込めて溜め息を吐いたクレアが、幾分か落ち着いて諭すように言うが、バルロメスさんはまだ納得がいかない様子。

 ただその際、少し自信をなくしたように目を泳がせ、後ろに控えている使用人さんをちらりと見ていた。

 使用人さんはその視線に気づかないのか、振りなのかはわからないけど、微動だにしない。


 いや……何やら汗をかいている様子なので、こちらはレオというかシルバーフェンリルと聞いて緊張とかしているのかも。

 エッケンハルトさん達を前にして、というわけではないと思う。

 ともあれ、もしバルロメスさんの俺に対する態度が、おだてられるなりなんなりで虚勢に近いのなら、少しだけ親しみが湧く気がした。


「それでえーっと、俺はどうしたらいいでしょうか? なんなら、ここで平伏しますけど……」

「タ、タクミ殿、それはいかん。いかんぞ!」

「そうです。このような者にタクミさんが平伏する事はありません!」

「ぷっ! くくくく……! この状況でそんな事が言えるタクミ君、僕が言った通りやっぱり凄い……くくくく……!」


 俺としては、プライドがないとまでは言わないが頭を下げるくらいなんでもないんだけど。

 ただ慌てて止めるエッケンハルトさんとクレアは、別の理由があるように聞こえた。

 エッケンハルトさんはわかりやすく、レオが控えているからだろうなぁ。

 あと、笑っているユートさんは後でルグレッタさんだけでなく、ルグリアさんとヨハンナさんの三姉妹をけしかけるから覚えておくといい……。


「ま、まぁ、とりあえず話をしましょう。このままじゃ、話が進みませんので」


 ユートさんを見て頬が引き攣るのを自覚しながら、そう提案する。

 俺が来てから、本来のアルヒオルン兄妹が訪ねてきた話が一切されていないからな。


「なぜ私が平民の言う事など……」

「そ、そうだな。バルロメスよ、ここはタクミ殿の言うように話を進めよう。大体は、先程まである程度聞いていたが。――タクミ殿、もうレオ様をここに呼んではくれんか? その方が、バルロメス達もおとなしく話をしてくれるだろう」

「……わかりました」


 うーむ、レオを登場させる前にある程度話をして……と思っていたんだが、いなかったらいなかったで話が進まないとは。

 頬を少し膨らませているクレアに苦笑しつつ、エッケンハルトさんの言うようにレオを呼ぶ事にした。


「ワッフ」


 ライラさんに扉を開けてもらって外へ呼びかけると、のそりとリーザを背中に乗せたレオが入って来る。

 ジト目で客間内を見渡しているのは、室内での話が聞こえていたからだろう。

 でもまぁ、エッケンハルトさんが心配していたように機嫌が悪いとか怒っている、とかではなさそうだ。

 リーザがレオの背中に埋もれて隠れているからかもしれないが。


「っ!?!?」

「ほ、本当にシルバーフェンリル、ですの?」


 レオを見たアルヒオルン兄妹は、その姿に驚きを隠せない様子。

 一応エッケンハルトさん達が先に伝えていたようだけど、それでも実際に見るとそうなるのか。


「ただのウルフやフェンリルを、シルバーフェンリルだと言い張っているわけではない。実際にその力を我々は目の当たりにしているからな。レオ様は間違いなくシルバーフェンリルだ」

「私も保証します。まぁ、お父様の言葉の方があなた達には説得力があるのでしょうけど」

「ワフワフ」


 ヴェラリエーレさんの、咄嗟に出たであろう疑問の言葉に反論するエッケンハルトさんとクレア。

 エッケンハルトさんは、フェンリル達と戦うレオを見た事を言っているのかもしれない。

 クレアはまぁ、シルバーフェンリルに対して色々とあるからな。

 ともあれ、公爵家が保証しているんだからその訴求力が高いだろう、シルバーフェンリルと縁のある貴族家だから。


「っ……っ……」

「お、お兄様、お気を確かに!――そ、そのシルバーフェンリル……レオ様でしたか。レオ様は襲って来ないのですよね?」

「大丈夫ですよ、レオはおとなしくていい子ですから。な、レオ?」

「ワフ。ワフゥ、ワウワフ!」

「ははは、リーザの前だからいい子はなかったか?」


 体を震わせて、怯えているようにも見えるバルロメスさんに代わって、ヴェラリエーレさんの質問に答える。

 大体、レオを前にした人がまず気にするのはそこが多いなぁ、仕方ないけど。

 レオの体を撫でつつ、声をかけると心外とばかりに返された。

 リーザの前でいい子、というのはレオとしてはあまり良くなかったらしい……俺とレオだけの時は、そう言って褒めてやると嬉しそうに尻尾をブンブン振るのになぁ。


 ちなみにリーザは、レオの背中にしがみついて隠れようとしている。

 最近はマシになって来たけど、注目されたうえに見知らぬ人がいると人見知りを発揮してしまうらしい。

 注目されているのはレオだし、尻尾が立っているから隠れられていないんだけどな……頭隠して尻尾隠さずか。

 とはいえ、アルヒオルン兄妹はレオに驚いてかその背中のリーザに気付く余裕はないようだ。


「シルバーフェンリルを子ども扱いとは。確かに、仰る通りタクミさん……タクミ様はシルバーフェンリルを本当に従えているんですのね」

「従えているというか、昔からの相棒と言いますか」


 相変わらず、レオとのやり取りを見た人からは従えている、と勘違いされるのはどうなのか。

 レオは気にしていないようだけど、俺はずっと相棒だと思っているのに。

 それから、わざわざ様を付けて呼び直したのが気になったので、付けなくてもいいと伝えておく。


 使用人さん達から呼ばれるのはある程度慣れたというか、若干諦めているんだけど、貴族の人にそう呼ばれてしまうとなんだかこちらも畏まってしまいそうで。

 ……いや、貴族様相手だから畏まった方がいいのか? エッケンハルトさん達は、自分達に接するのと同じようにしていればいい、とは言ってくれていたが。


「……そろそろバルロメスも自分が何を言っていたのかわかっただろう?」

「は、はい……」


 俺が自己紹介をした時のような感じは一切なく、意気消沈に近くなった状態のバルロメスさん。

 レオの登場はインパクト大だったようだ。

 エッケンハルトさんやクレアさんも、バルロメスさんの様子にホッとした感じだな。

 ユートさんは、相変わらず皆の反応を見て笑っているが……面白がり過ぎだと思う。


「そ、それで、何の話でしたか……」

「バルロメス、そしてヴェラリエーレの二人がここまで来た理由だな」

「あ、あぁそうでした……」


 先程までの貴族然とした様子はなんだったのか、おとなしくなったバルロメスさんが、ポツポツとここまで来た理由、カナンビスの事なども含めて話してくれる。

 とは言っても、多くの話をヴェラリエーレさんが補足というか、表立って話してくれたんだけど。

 もしかしたらこれが素なんじゃ? と思われるバルロメスさんはおどおどしていて、話しが滞りがちだったからだ。


 まぁそれでも、途中途中に兄への励ましなどは忘れなかったが……ヴェラリエーレさんは、レオが怖くないとすぐに理解してくれて平常に戻ったんだろう。

 兄のバルロメスさんを見て、あまりレオを見ないようにしていただけかもしれないが――。



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