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1970/1996

ユートさんから提案がありました



 念のため外では『雑草栽培』やギフトという言葉を口に出さない警戒をしている。

 その理由は魔法、というか魔法具で遠くの音を聴くという物があるらしいから。

 レオやフェンリル達が魔法具を使われていたら感知できるらしいし、意味のない警戒かもしれないが。


 あと、外から屋内など壁に隔てられていたら効果を出せない魔法具らしく、使い勝手はあまりいいとは言えないとか。

 ともあれ、今はユートさんの用件だな。


「タクミ君は植物を作る事ができる、これは間違いないよね?」

「何度も見てもらっているけど、間違いなく。制限はあるけど」

「確か、作物などの人の手が入った植物と、樹木は無理なんだっけ」


 何故かはわからないけど、改めて『雑草栽培』の使用条件を確認される。

 人の手が入った植物というのは、大量に栽培されていたり、品種改良みたいな事をしている部分に人の手が入っているんだと俺は解釈している。

 ただ樹木の方はちょっと不明な点もあって、椿とかは一応分類としては樹木のはずなのに作れたし、その他の物も似たような状況だ。

 試した感覚としては、大きくない、一メートル前後までの樹木ならできると考えている、俺が作った椿もそうだった。


 まぁそもそも、椿を樹木と分類しているのは地球での話だし、もしかしたらこちらの世界では草花としての判定なのかもしれないけど。

 あと、実際に日本で見知っている椿とは少し違うようでもあったしな、そもそも大きさが全然違うし。


「あと他に、どこにでもって言うのも聞いたけど、対象に制限は?」

「そっちはほとんど試した事がないから、はっきりとは言えないけど……土だけじゃなくて、石とかにもできるのは確認しているよ」

「生き物は?」

「前に一度だけ、その時は偶然だったけど。あまり生き物相手にはやりたくないし、そういうのは制限というか抵抗みたいなのがあるみたいだから――」


 以前、オーク相手に偶然『雑草栽培』を発動させた事がある。

 あの時は必死だったけど、思い返してみるとまさに生命力を吸い取って枯らしてしまうようなのも感じられて、背筋が凍るような感覚がしたりもする。

 調べてくれたイザベルさん曰く、魔力と意思が関係して抵抗力として働くため、人間も含めて生き物相手には発動させにくいらしい。


 それがなかったら、今頃俺は誰にも触らないよう、人を避けて暮らしていたかもしれないな……。

 何かの拍子に人に触れた瞬間発動して――なんて、結果も含めて考えたくもない。


「成る程成る程……できるかどうかは試してみる必要があるけど、タクミ君には二つ、危機的状況を脱する手段があると思う」

「それは、力を使って?」

「うん。名前の響きはどちらかというと有用とは思えないかもしれないけど、物凄い力だと思うよ。その事は日常的に使っているタクミ君が一番よくわかっていると思うけど」

「ワフ!」

「ははは、レオちゃんもタクミ君の事をわかっているって言いたいのかな? そうかもね、相棒だもんねぇ」


 主張したかっただけかもしれないが、ユートさんも言っているようにレオは相棒でよき理解者だからな、ちなみにリーザはよくわからないのか首を傾げているだけだけど。

 ともあれ、『雑草栽培』が物凄い力を秘めているというのは言われた通りわかっている。

 最初はその名を聞いた時、雑草という事から役に立たなそうに思えたし、そもそもギフト自体よくわかっていなかったけど。

 こうして薬草畑を作り、この世界で商売として成り立ち、公爵家の人達だけでなく多くの人のためになるだけでも、俺には十分すぎるくらいだし。


「それで、二つの危機的状況を脱する手段ってのは? 危機的状況にはなりたくないし、なるつもりはないけど……」


 そうならないように、今レオやリーザが警戒してくれているんだからな。

 ちょっとどころかかなり過剰な気はするけど。


「条件が合えば、二つ合わせるとほとんど無敵に近い気がするけど、まずは一つ目だね。これは最終手段と思っておいて欲しい」

「最終手段?」

「ワフワフ?」

「さしゅうしゅだん?」


 待つんだリーザ、最終手段という言葉が難しくて正しく言えなかったんだろうけど、それは一部の人にとって精神的に辛い手段になってしまいかねないぞ。

 こちらの世界ではなく、日本でだけども。

 なんて、どうでもいい事は置いておいて……。


「さっきタクミ君自身が躊躇っていたように、これは試す事は難しい。まぁ、適当な魔物相手にってのはできるけど、今は無理だね。早い話が、危機的状況を打破するために、そうした元凶なりなんなりを相手に発動させる。それだけだよ」

「……確かに、一度だけやったのと同じ結果になるのなら、状況の打破ってのもできなくはないだろうけど」


 ちゃんと状況を見定めていれば、ではあるけど。

 使いたくないし、使ってどうなるかはやってみなければわからない事でもある。



「でも、相手に抵抗される可能性もあるから、気軽にはできないと思う」

「うん、だから最終手段だね。それ以外に、どうしようもない場合に強く力を使う事でできるかなって。もちろん、相手次第だろうけど。そうだねぇ……試していないから憶測で言わせてもらうけど、多分フェンリル達くらいになると、弱らせる事くらいはできるかな? 逆に、意思と魔力の点で僕には効果がないと思う。あぁそうそう、多分栄養とか生命力みたいなのを糧にしていると推測するから、フェンリル達程になると一度で命を取る事にはならないと思うよ」

「うーん……」


 人間であるからか、意思の力が強くさらにギフトで魔力が溢れる程あるユートさんには効果がない、というのはわかる。

 フェンリル達の生命力が強くて、一度なら弱らせる程度というのもまぁわかるかな、試したくはないけど。


「でも、フェンリル達の魔力なら抵抗されるんじゃない?」

「そこはタクミ君の頑張り次第かなぁ。さっきのもあくまで憶測だからね。実際にはできない可能性もある。でも、一応言っておくとその力は魔力の上位互換なんだって僕は思っているよ。だから、相手の魔力の方が多くてもできるんじゃないかってね」

「上位互換……?」

「なんて言うのかな、僕の事はタクミ君に教えたけど――」


 はっきりとギフトとか『雑草栽培』、『魔導制御』という言葉を避けながらの話に耳を傾ける。

 『魔導制御』の力の一つである無限の魔力は変換効率がいいとかなんとかで、ギフトの力と魔力を数値化したとしたら、一のギフト力? で魔力は百以上になるとか。

 要は、ギフトの力は魔力よりも密度が濃くて強い力を秘めているって事なんだろう。

 ちなみに、アルコールなどを摂取せずに使えるギフトの力は、百と仮定した場合らしいけど、その辺りはよくわからなかったので割愛だ。


「なんとなく、対象の魔力が多くてもできそう、という意味がわかった」

「そうだね。それにフェンリル達もそうだけど人間にも意思の力って言うのがある。これは魔力程じゃないけど、それでも合わされば強い抵抗になるかもしれない。そもそも、ギフトの力を使うのも意思の力の内なのかなって考えているしね」

「まぁ、俺の力の方で考えると、イメージする事も重要だし」


 イメージしてこの植物が作りたい、という願いのような思い、意思と言い換えてもいいけど、それが『雑草栽培』を発動させるトリガーみたいなものになっている。

 意志の力とギフトは、もしかしたら何か密接な関係があるのかもしれないな。


「だから、もしもの時はタクミ君も強く力を使う意思を持てば、全てとは言えないけど大体の相手には発動できるんじゃないかと思うんだ。僕の見立てでは対象によってはかなり確率は高いと思う。でも、その結果などはタクミ君と相手次第。不確定な事も結構あるんだ」

「だから、最終手段ってわけだ」

「うん。他にどうしようもない時に、使って欲しい。タクミ君なら、こうして話したとしても乱発するような人じゃないってわかっているからね」

「ワフ」


 そう言ったユートさんの視線は、俺の代わりにもちろん誰にでも使わないと保証するように頷いたレオへと向いている。

 シルバーフェンリルであるレオの力を利用して、あれこれやろうとしないからとかそういう事が言いたいんだろう、多分。

 『雑草栽培』もそうだけど、レオの力もそんな事に使いたくはないからな、本当に最終手段として頭の片隅に置いておこう。

 使う必要がなければ、使わないに越した事はない。


「あぁそれと、強く力を使ったらもちろん代償があるからね。タクミ君もご存じの通りに」

「……過剰使用になる、と」

「うん。最終手段として使ったのに、その直後に行動不能になったら状況の打破とまで行けるか怪しいからね。これは気を付けておいた方がいい」

「そもそも、使う事にならない方がいいからそっちを優先的に気を付けておくよ」

「そうだね、もちろん一番はその方がいい」


 つまりは、対象へ無理矢理『雑草栽培』の力を使おうとする程に、抵抗を押しのけようとすればする程、ギフトの力を使うって事か。

 ギフトの過剰使用は意識を失わせたり、最悪の場合は命を失う可能性もあるらしいからな。

 以前に一度昏倒して数日間目が覚めなかった経験もあるし。

 あの時は、レオだけでなくクレアとか多くの人に心配をかけちゃったし、気を付けないとな。


「というか、こうして最終手段とかって話をするって事は……?」

「まぁ気付くよね」

「そりゃ、これまでそういった話はしてこなかったから。セイクラム聖王国の話が出てすぐってのもあるけど」

「うーん、レオちゃんやリーザちゃんの前では、あまり言わない方がいいかなって思ったんだけど……まぁ色々とね。密偵、とかはタクミ君も知っているでしょ? 多かれ少なかれ、貴族なら私設で持っている事が多いんだけど」


 今回、クライツ男爵領を調べたのも、エルケリッヒさんの密偵だったっけ。

 その他にも、ラクトスのスラムに潜入している密偵というのもいたし……そういえば、リーザのお爺さんが持っていた鞘はどうなっただろうか? エルケリッヒさんが一度見て確かめたいと言っていたけど。

 ともあれ、自領他領問わず、貴族同士の情報を収集するなどは暗黙の了解に近い形で存在していて、密偵というのも公然の秘密のようなものになっているようではある。

 密偵という言葉からイメージされる、影の部隊とか裏の仕事、みたいなのとは少し違うみたいだけど。


「この国内で、私設として持っている密偵は基本的に情報収集のため。まぁ実際にどうかっていうのは置いておくとして……」

「置いておかれると気になるけど、あまり気にしない方がいい気もする」

「それが賢明だよ。あまり気にしすぎると、戻れなくなるからね」


 なんて言って、暗い笑みを見せるユートさん。

 嫌な汗をかきそうだからやめて欲しい……多分、脅し文句というか冗談も多分に含まれているんだろうけど。

 含まれているよね?


「国内ならまだしも、国外ではちょっと違うんだ。複数の国々があれば、当然お互いがどういう情勢なのかなんて探るでしょ?」

「まぁ、うん。それはわかる」


 国同士の関係なんて俺にはよくわからない事も多いだろうけど、隣国ともなれば情報を集めるのは当然だろうというくらいはわかる。

 何かをしようとしているとかではなく、単純に情報は武器にもなるからな。


「この国だけでなく、他の国もそういった機関をもっているんだよ。で、セイクラム聖王国は特にそれが顕著というか数が多い」

「……セイクラム聖王国の話を聞いた時から、どんどん悪いイメージが付きそうだけど」

「大体間違っていないと思うから、僕から訂正はしないよ。他の世界からの様々な流入を嫌うんだから、世界中の情報を集めないといけないというのはわかるし、表向きはそうなんだ。それだけならまぁいいんだけどね――」


 ユートさんが言いたいのはつまり、そういった機関を持って数が多いのもあってか、裏で暗躍する事もあるそうだ。

 目の前にいる俺の今この時の状況……レオとリーザにおしくらまんじゅうされているのを見てか、はっきりと明言は避けたけど、要約するとその機関から狙われる可能性なども考えているようだった。

 ギフトを持っている人間が向こうの国でどういう扱いを受けるかはわからないが、歓迎されたり穏やかに迎えられる事はないだろうとも言われた。

 まぁ早い話が、裏で暗躍する人達に狙われる可能性がある、少なくともギフトを持っているとバレたら放っておかれないだろう、という事だった。


 のらりくらりと、迂遠な言い回しだったおかげか、リーザはよくわかっておらず、レオは少し警戒心を強くした程度で済んだのは助かった。

 これ以上、レオとリーザが常に張り付いている状態なのは困るしな……現状で、体を動かすのも難しいくらいだし。

 比喩ではなく、そのままの意味で。


「んで、ここからが本題なんだけどね。最終手段は使う状況などをよく考えて選んで欲しいってくらいだけど、もう一つの方はできるかどうか僕にもわからない」

「ユートさんにもわからない?」

「僕の力でってわけじゃないからね。もしかしたらできるかも、できたら有効な手段の一つになるかもってわけだよ」

「成る程……」


 長年生きているユートさんでも、さすがに他人のギフトが関わるから確定的な事はわからないんだろう。


「もしできたら、場合によってはいつもタクミ君がやっている戦闘訓練よりも役に立つかもね。僕が思い描いた理想通りなら、何かあっても傷つけずに無力化できる可能性もある」

「戦闘訓練なんてしていないけど……いやまぁ、見方によってはそうなるか。でも、相手を傷つけずに無力化なんて、そんな事……」


 エッケンハルトさんから受けている剣の鍛錬は、自衛のためだから戦闘訓練と言えるような言えないような……。

 その辺りは見方次第という事でいいとして、おそらくユートさんが考えているのは、俺が襲われたりなどの事が起こった時の対処としてだろう。

 ただ、戦闘になる可能性の高い状況で、というより確実に戦闘を想定している中で相手を傷つけずに無力化なんてできるんだろうか?

 そんな技術は俺にはないし、そもそも剣くらいしか使えないんだからできそうにない……さらに言えば、『雑草栽培』でそれが可能になるとか想像もできないんだけど。


「とりあえず、今から僕が教える植物をタクミ君が作れるかどうか、試してみてよ。それができれば、後は簡単だから。多分……」

「そこは、断言して欲しかったけど。俺に作れるか試させるって事は、人の手が入っていない植物って事でいいのかな?」

「そうだね。厳密には、植物の性質を持っていると言えるんだけど……タクミ君の力の制限には引っかからない。ただ、完全な植物ってわけじゃないから、できるとは断言できないってわけだね」

「植物だけど植物じゃないって事?……なんとなく、不安を感じるけど。危険は?」

「ないとは言えないけど、ここに僕やレオちゃんがいる限り、タクミ君や周囲の誰かに危険が及ぶ事はないよ。ね、レオちゃん」

「ワフ!!」

「私もー!」

「おっとそうだった、リーザちゃんもいたね」


 絶対に守る、という意気込みを感じさせて吠えるレオと、尻尾や耳をピンと立たせたリーザ。

 リーザは話の内容をすべて理解できたわけじゃなさそうだけど、俺を危険から守るという意気込みだけは確かなようだ。

 気持ちは本当に嬉しいけど、もしリーザに危険が及びそうだったら、俺が守るからなー。




読んで下さった方、皆様に感謝を。


別作品も連載投稿しております。

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面白いな、続きが読みたいな、と思われた方はページ下部から評価の方をお願いします。

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