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1966/1996

クレアが何か考えているようでした



 最強と言われるシルバーフェンリルの強さを垣間見たが、普段は子供達と遊んでいたり、ソーセージを筆頭に美味しい食べ物に目を輝かせ、お風呂と聞けば萎れてしまうレオを見ていると、そんな感じはしないんだけど。

 人と関わるために、色々と加減しているんだろうなというのはわかっている、これまで遊びに夢中になっても、フェンリル達もそうだけど子供達だけでなく誰かに怪我をさせた、という事はないからな。

 子供達の方が走っている時に転んで擦り傷をってくらいはあるが、それもレオやフェンリル達が察知して助ける事だってあった。


 まぁそれはいいとして、レオだけでなくフェンリル達も食べ物や遊びで楽しそうなのは、窮屈な思いばかりさせていない事の証明でもあるので、それが救いではあるな。

 っと、思考がまたズレてしまっていた。

 今はユートさんが言う王の事だ……流れとしては、シルバーフェンリルが王と呼ばれていたって事になるのかな?


「圧倒的な強さで、魔物達を制圧。人も当然かなわない。シルバーフェンリルは直接的に支配しているわけじゃないけど、ある時誰かが呼び始めたんだ。『世界の王、シルバーフェンリル』ってね」

「世界の王……」

「別にシルバーフェンリルがそう呼べとか、そういうわけじゃなかったんだけどね。以前、タクミ君には話したと思うけど、リーベルト公爵家とは違う意味で、シルバーフェンリルを敬う集まり? みたいなのがあるって」


 それは聞いていて覚えていたので頷く。

 宗教っぽくなってしまっているとかだったか。

 話を聞く限り、圧倒的なシルバーフェンリルを神様のように扱っているんだろう。

 公爵家の人達は、レオを含めてシルバーフェンリルを敬って尊重してくれているけど、それはあくまで初代当主様の事があってこそ。


 神様のように扱ったりはしていないし、腫れ物のような方向性でもない。

 エルケリッヒさんと初対面の時はちょっと行き過ぎた感じが見え隠れしていたけど、実際は盲目的に崇める盲信者というわけでもないしな。


「その集まりは、多分今でもシルバーフェンリルの事を王って呼んでいるし、それ以外でもこれまで呼ばれていた事があったんだ。あとね、王と呼んでいながら、王様とかそういう呼び方はしないんだ。人とは違うからなのかどうなのか、呼び始めて定着しちゃったのかもわからないけど、必ず『王』とだけ呼称するんだよ」

「王とだけ……さっき、エルケリッヒさんも言っていた国の王様に対する呼び方としては、相応しくないというのと繋がる、か」

「……であれば、報告にあった王を迎える、王を従える、王にする、というのはシルバーフェンリルに対しての事なのでしょうか?」

「うーん、そこは僕にもわからないね、エルケ。ただ、王を迎えると従えるというのは、まぁここでタクミ君がレオちゃんと仲良くやっているように、そういう夢というか野望とも言えるかな? それを考えてもおかしくないとは思うよ。ただ……」

「王にする、というのが気になるかな」


 レオの存在は既に知られているなら、当然人と仲良くやっているのも知っているだろう。

 だからこそ、ジョセフィーヌさんと俺という稀有な例がなければ、基本的に人に従わない、従う事がないとされてきたシルバーフェンリルを迎えるとか、従えるという発想は出ないしな。

 ただそれだけでなく、王に「する」というのは、迎える、従えると言うのとはまた違った意味になる。


「そう。だって、シルバーフェンリルはただそれだけで存在として、王と呼ばれている。そんな古い呼び方を持ちだしているんだから、それを知らないわけじゃないし、シルバーフェンリルが何か別の物からなるなんて事もない。王にする、言葉として深く考えると、何らかの要因をもって王と呼べる存在にとも聞こえるわけだね」


 王ではなかった存在が、王になるという意味になるはずだろうから、他の二つとはやっぱり違うな。

 どういう事だろう……?


「ふむ、私の推論もまだまだだったか。もっと詳しく調査を、そして考える必要がありそうだな」

「ですな、父上。もしかしたら向こうの狙いはレオ様という事になりかねません。人間がシルバーフェンリルに対して害をなす可能性を考えれば、公爵家は誰を敵に回してでも止めねばなりませんからな」

「それが、初代当主様がシルバーフェンリルから受けた恩を、返す事にも繋がろう」

「はい。クレアも、タクミ殿と近しい者として、レオ様の事を……む、クレア?」

「どうしたのだ?」


 ユートさんの話を聞いて、深刻そうに相談していたエルケリッヒさんとエッケンハルトさんだけど、俺の隣にいるクレアに視線を向けて、首を傾げた。

 クレアは何やらエッケンハルトさんが考える時と同じ仕草、手に口を当てながら俯いていたからだ。

 エルケリッヒさん達の呼びかけには反応せず、深く考え込んでいるようだ。


「クレア……?」

「……あ、え、えぇすみません。ちょっと気になる事がありまして」

「気になる事?」


 隣にいる俺からも声をかけると、ようやく気付いた様子のクレア。

 パッと顔を上げて申し訳なさそうにしている。


「いえその……王にするという事は何者か、現時点ではシルバーフェンリル、つまり王ではない者を王にという事になりますよね?」

「まぁ、そういう事だと思う。さっきユートさんも言っていたけど」

「はい。それで今、この屋敷の周辺には多くのフェンリル達がいます。森での調査でカナンビスの薬を使っていた事が判明していますが、それはレオ様には一切の効果を見せていません」

「レオは嫌な臭いとは言っていたけど、特に影響を受ける程じゃないみたいだね。――だよな、レオ?」

「ワフ。ワッフワフワウ! ワフーワゥ……」


 クレアの言葉を受けて、逆の隣にいるレオに確認すると当然とばかりに頷いて鳴く。

 さらに、近くでさらに強い臭いを嗅いでも平気だとも言っているように鳴いたが、嫌いな臭いだからあまり嗅ぎたくはないとも。

 それをクレアや他の人達にも伝える。


「やはりそうですか。もしかすると、レオ様にはカナンビスの薬が通用しない事はわかっていたんじゃないでしょうか? いえ、確実にそうだと知っていなくても、シルバーフェンリルなら通用しないと考えるかもしれません」

「絶対的な存在、と信じていればいる程、簡単に薬程度でどうにかできるとは思わない可能性は高いな」


 クレアの言葉にエッケンハルトさんが頷く。


「ですが、フェンリル達には影響が出ました。その際、タクミさんのおかげでフェンリル達はすぐに元気になりましたが……」


 サニターティムが作れたおかげで事なきを得たけど、あれがなかったら影響を受けたフェンリル達はしばらく動けなかっただろうな。

 素人判断だけど、見た限りではあの状態が続けば命の危険、という程ではなかったが。

 まぁ、フェンリル達が苦しむ姿を見続けたくはないから、一晩程度で元気になって良かったと思う。

 今ではそのフェンリル達も、また調査に参加したり子供達と遊んでいるからな……あんな事があったから、調査の参加は嫌がるかと思ったけど、むしろやる気十分なようだった。


「おそらくですが、向こうにタクミさんの事はあまり漏れていないと思うんです。さすがに、レオ様と共にいるという事くらいは、先程話していたように知られているとは思いますが」

「それは、ギフトの事だな?」

「はい。公爵家に連なる者達には漏らさないようにしております。タクミさんも気を付けていらっしゃるようですし、絶対はありませんが、少なくとも隣国まで伝わる程にはまだなっていないかと」


 片眉を上げたエッケンハルトさんに頷くクレア。

 確かに、情報の伝達速度なども相まって、俺が持つギフトの事まではセイクラム聖王国には伝わっていないと考えるのが自然だな。

 ランジ村近くの森で何かをしている人達も、知らない可能性が高い。


 何かを調べれば、怪しまれる確率も上がるから、下手に俺の事を詳しく調べようとはあまりしていないだろう。

 クレアが言うように、俺とレオの関係はある程度知られていて、それに関する事を聞き込むくらいはしているかもしれないが……。

 

「ですので、フェンリル達に起こった影響というのは目論見通りなのかまではわかりませんが、タクミさんが治したという事は計算外だったはずです」

「ふむ、それはそうかもしれんな。それでクレア、何が言いたいのだ?」

「私達が対処可能、という事を向こうは考えていないのだとすると、フェンリルを狙っているのではないか……そう考えられる気がします」

「フェンリルが、か」

「ワフ……」


 クレアの言葉を聞いて、エッケンハルトさん達だけでなくレオも考えるように小さく息を漏らす。


「シルバーフェンリルであるレオちゃんがここにいるのに、フェンリルの方を狙うの? まぁ確かに、絶対的な存在でないフェンリルの方が、何が目的であれ仕掛けやすいとは考えられるかもしれないけど」


 異議という程ではないけど、疑問を挟むのはユートさん。

 フェンリル達を簡単そうに一蹴したレオの事を考えると、確かに複数だとしてもシルバーフェンリルをというより、フェンリルの方を狙うのは理にかなっている、のかもしれない。


「レオ様を近くで見ていない者達の事なので、もしかしたら大量のフェンリルよりも、レオ様の身を狙った方が、と考える可能性はあります。どちらをどう考えるかは、向こうが何を考えているかをもっとよく知る必要がありますが……」

「まぁ状況から類推している段階だからね。向こうが何を考えているかなんて、わかるはずがないよね。せめて、誰か捕まえたとかならともかく」

「はい。ですがそこで、先程お爺様の仰っていた報告内容です。王を迎えると言うだけでなく、王にするという言葉です。そしてさらに言えば、従えると言うのもフェンリルが相手ならば可能なのではないかと。レオ様、というよりシルバーフェンリルはタクミ様や公爵家の初代当主様を例外としますが、誰にも従わないという事が広まっています」

「……フェンリルならば、従えられると考えているという事か?」

「はい。実際に――」


 クレアが考えたのは、基本的に従えた例がないとも言えるうえそれが絶対だと広まっている、シルバーフェンリルは誰にも従えられないという事。

 俺やジョセフィーヌさんは従えると言うよりは、仲良くなったと言えるんだけど、まぁそれは置いておいて。

 その広まっている話を否定する事への挑戦よりは、フェンリルを従えるようにした方が成功確率は上がるだろうという事だ。

 実際に、レオが近くにいた事や命を助けた事など偶然が重なってではあるけど、シェリーという子フェンリルがクレアの従魔になっている。


「まぁ確かに、これまでの例というか……フェンリルを従魔にというのはなかった事じゃないね。フェンリルを従魔にした、という噂程度のものも合わせたらそれなりの数はいると思う。とは言っても数十程度かな? 他の魔物を従魔にしている数と比べたら、ほんの少しだね」

「ですが、ないわけではありません」


 フェンリルを従魔にしたというのは、クレアが初めてというわけではないようだ。

 まぁ、シルバーフェンリルの方はともかく、シェリーが従魔になった時にレオと俺のような驚きはあまりなかったようだから、なんとなくわかってはいたけども。


「だが、フェンリルとシルバーフェンリルは違う。王と呼ばれているのは、ユート閣下の話によればシルバーフェンリルの方だ。フェンリルを従えたとして、それが王を従える、ましてや王を迎えるや王にするという言葉にはならないはずだが?」

「その王にするという部分です、お父様。以前、トロイトと遭遇した際に少し話していましたが、魔物が別の魔物、または上位と言える存在に進化する、と。――そうよねセバスチャン?」

「実際に、トロイトが進化した魔物である、という証拠はありません。ですがその特徴などからそう言われる説が根強いようですな」


 クレアの問いかけに頷くセバスチャンさん。

 そう言えば、トロイトは家畜化された豚……確かポルクスだったかな? そこから再び野生化したとか、何かの要因で魔物になったって話をしていたっけ。

 ……深刻な話をしている時だけど、何か説明できる事はないかと様子を窺っていたセバスチャンさんが、機会を得られて生き生きしているのはまぁ気にしないでおこう、いつもの事だしな。


「他にも、ランジ村の北に生息する魔物。最近ではフェンリル達が狩ってくるため、馴染みになりつつある、ニグレオスオークとカウフスティア。他にも北の森にいる他の魔物の一部、それらは別の魔物から変化、もしくは進化したと言われているのだと」

「はい。クレア嬢様の仰る通りですな。トロイトが特に有力で、他の魔物は噂などの域を出ない物もありますが――」


 ニグレオスオークはオークから、もしくはポルクスからトロイトになり、トロイトからオークになり……という説があるらしい。

 カウフスティアはいくつか種類のある家畜牛のフィーという牛が、グガラーンナという魔物になり、さらにそこから変わったと言われる事もあるみたいだ。

 あくまで噂だったり、似ている部分などから推測されているくらいの事が多く、どれも確実だとは言えない事らしいけども。


 ちなみに、ブレイユ村にいる時に皆で狩ったアウズフムラもカウフスティアと同じような進化? をたどっているとも言われているとか。

 まぁなんにせよ、魔物であってもいずれかの種族とか似ている動物などから、進化や変化を経て今の姿になっているという考え方が一部でされているってわけだな。


「うーん……」

「ユート閣下は随分歴史などに造詣が深いようですが、どうなのです? これまでにそう言った記述の書物などはあれど、はっきりと明言はされていないようですが」


 難しい表情でうなりながら首を傾げるユートさんに、ズイッと迫るマリエッタさん。

 その雰囲気は言外に、もういいから吐いてしまえ……というのはさすがに言葉が悪いか。

 一応でもユートさん自身の事を隠しているのを、出してしまえと言っているように見える。

 知らされていなくても、ある程度察している人が多いからもう隠す必要はないんじゃないか? という事らしいが……。


「あはははは……さすがに歴史家とまでは言えないけどね。でもそうだね、僕が持っている知識に限られるけど……」


 いったん言葉を切るユートさん。

 笑っているようだけど目の奥は真剣そのもののように見えるから、マリエッタさんに負けず、自分の事を暴露する気はないようだ。


「結論から言うとね、変化はする事はあるよ、うん。変化と言うのか、進化とするべきなのか、どちらがいいのかはわからないけどね」

「じゃあやっぱり……?」

「うーん、クレアちゃんが言いたいのは多分だけど、フェンリルが変化なり進化なりをして、シルバーフェンリルになるんじゃないかって事だよね? 従えるなりしたフェンリルに何かをする、もしくは何かをしたフェンリルを後で従魔にして従える。そして、結果としてシルバーフェンリルにする、って」


 片眉を上げて、クレアに問いかけるユートさん。

 だけどその表情には懐疑的な何かがあるようだった――。



どうしてもこういう話し合いになると、楽しくなって長くなってしまいます……。

まだしばらく続くかもしれませんが、お付き合いくださると幸いです。


読んで下さった方、皆様に感謝を。


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