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1965/1997

エルケリッヒさんの推論を聞きました



「さらに言えば、今はフェンリルがタクミ殿に従っていると言えます。タクミ殿自身はあまり自覚がないようですし、私としてはこのままの方が好ましいと思いますが……いえ、それはともかく。そのため、タクミ殿には自分なりの判断でとはしていますが、我が公爵家ではできる限り外に漏らさぬようにしております」

「うむ、そうだな。私が当主であったとしてもそうするだろう。だが、レオ様とフェンリルに関しては、どれだけ公爵家が力を注ごうとも隠し通す事はできん。閉じ込めておくなどと畏れ多い事も出来ぬしな」

「まぁ、レオは……フェンリルもそうですけど、目立ちますからね」


 人を乗せられる大きな体だ、街に行けば当然視線を集める。

 絶対に人が来ない森の奥で暮らすとかならまだしも、レオ自身も子供達との触れ合いを楽しんでいるし、そういう部分での不自由はさせたくないからな。

 エルケリッヒさんだけでなく、公爵家の人達には甘えっぱなしだけど、レオには気を付ける部分は気を付けてもらうとしても、一緒に街に行くなどはさせてもらっているし、シルバーフェンリルである事は隠していない。

 だから、完全に隠すなんて事はできないわけで……。


「最初から予想はしていたが、シルバーフェンリルに関してはこの国の者、主に貴族や商人、他に耳ざとい者ではあるが、既に知れ渡っているに近い状況だ。クライツ男爵領でも、その存在を知っている者もいたそうだ」

「それなら当然、クライツ男爵自身も知っていますよね」

「だろうな。その事から、この場所……つまり、リーベルト公爵領、そしてランジ村。さらに言うならこの屋敷になるが。ここに戦力が集中し過ぎているのではないか、というのをクライツ男爵は考えているようだ」

「戦力、ですか。確かにレオだけでなく、フェンリル達も大量にいますし、森から魔物が出て来ようものなら戦ってくれるでしょうね。フェンリル達は狩りの気分でしょうけど。あ、あと今は兵士さん達もかなりいますし、確かに戦力という意味ではかなり集まっているんですかね」


 俺の基準というか、頭の中にあるのが地球の現代兵器で戦う数万の兵士だから、剣や槍で戦う兵士さんがどれだけ集まればどのくらいの戦力になるのか、というのがあまりわからない。

 魔法もあるから、それなりの戦力ではあるんだろうとは思っているけど。

 ただ、村の外に並んでいるテントの数々を見て、大勢いるなぁくらいは考えているが。


「そこで、魔物が相手とだけ考えるのがなんともタクミ殿らしいな。いや、兵士の方は後からの事だからおそらく気にしないでいい。フェンリル数体で全ての兵士を蹴散らせるだろうから、戦力としてはあまり考えないでも良さそうだしな」

「そ、そうですか……?」


 兵士さん達は、戦力というより調査の人でという方向で考えた方が良さそうだ。

 まぁ確かにフェンリルとの訓練で、大勢の兵士さん達が頑張っても一度も勝てていないからなぁ……兵士さん達には悪いけど。

 ただここ数日は、エルケリッヒさんの思い付きとやらで運用を変えたため、徐々に訓練での形勢が変わりつつあるらしい。

 それでも一体相手であり、フェンリルは魔法禁止などのハンデなどがあってだけども。


「まぁともあれ、この場所に戦力が集まっているのは確かだ。おおよそ、人間を相手にするのであれば国を一つどころか、複数の国々を相手にだってできるだろう。……過剰戦力ではないか?」

「そう言われても……狙って集めたわけではありませんし。そもそも、戦力という考えはしていません。フェンリルには駅馬などを手伝ってもらって、その見返りに美味しい物を食べてもらえればってだけですから」

「その方がタクミ殿らしいし、だからこそ私達も協力していられるのだろうな。クレアも、良き相手をえらんだ」

「……もう、お爺様」


 からかっているわけではないだろうけど、突然水を向けられて頬を少しだけ赤くするクレア。

 俺も少し照れてしまう。


「そういうわけでな、ここからは私の予想も混じるのだが……戦力が集中し過ぎているこの場所。クライツ男爵から見れば、公爵領にというように見えるだろう。実際は我々公爵家が自由に動かせるものではないのだがな」

「俺という存在を知らなければ、そう見えるのかもしれませんね。いえ、知っていても取り込まれている、公爵家に協力しているとも見られますか」

「うむ。クレアと仲が良い事なども、ラクトスでは有名らしいしな。報告で聞いたぞ? ラクトスでフェンリル達を連れ、レオ様に乗って大行進したそうじゃないか?」

「大行進って……いやまぁ、そう見えたのかもしれませんけど」


 この屋敷に引っ越す際、ラクトスを通る時の事だろう。

 あれは、クレアの事を見ている男性が多いという話を聞いて、独占欲みたいなのが暴走した結果だと、今更ながらに思う。

 もう少し穏便に通り過ぎても良かったかもしれない。


 エッケンハルトさんやユートさんが、見たかったなんて言っているけど見せ物じゃないですから……と言いたいけど、自分で見せ物になりに行ったものだよなぁとちょっと後悔。

 クレアと一緒にレオに乗って、見せつけるように姫抱っこをしていたのは、後悔していないけど。


「仲が良い姿を見せるのは、我々としてだけでなく民達にも良い事だが、それはともかくだな。なんにせよ、公爵家を羨むクライツ男爵がこの場所に過剰な程戦力を集めていると知る。するとどうなるか」

「えーっと?」

「自分もと思うのは自然な事と言えるのかもしれない。現に、クライツ男爵領では強制するほどではないにしろ、募兵に力を入れてもいるようだ。戦争を仕掛けると言えるほどではないので、今はまだ問題にもなっていないし、私の予想も混じっているのでここまでの話と関係しているかは断言できぬがな」

「うむぅ、領地で募兵に力をですか。我が公爵領では、あまりそちらには力を入れていませんが……場合によっては必要な事だとはわかっておりますが、今のところそうではありません」

「ハルトは、勝手に見込みのある者を捕まえて来ては、自分で訓練を施して兵や護衛として組み込んでしまうからな。あと、私と違いマリエッタの方に強い影響を受けてか、商売に力を注いでいる。まぁそれは状況によって当主が選ぶ事だから、私は何も言わんさ」

「捕まえて来るとは人聞きが悪いです、父上。ちゃんと本人の意思も確認していますから」


 なんてエッケンハルトさんとエルケリッヒさんが話しているけど、それだけでなく自分から志願する人なんてのもいるんだろう。

 ラクトスでもそうだったけど、ランジ村でもレオと遊ぶために集まった子供達の中には、大きくなったら兵士になって皆を守る、というような子供もいるしな。

 どちらかというと衛兵の方に憧れを持っている子が多かったから、軍隊方面の兵士とは少し意味が違うようだけど。

 まぁ地球で言えば、将来警察官になるって夢を持っているようなものだろう、多分。


「クライツ男爵領が徴兵に力を入れているのが関係しているとなると、男爵の考えている事はわかりやすい。ここから調べるだけでもわかったのだから、隣国であるセイクラム聖王国も動きはすぐに察知できるだろう」

「そうなると、敵対行動というか、戦争を仕掛けて来るんじゃないかと考えて警戒したりしそうですけど」

「だが、もしクライツ男爵が以前から既にセイクラム聖王国に取り込まれている、もしくは取り込まれかけているとしたらどうだ? そこまでではなくとも、ある程度の繋がりがあるとすれば……」

「最悪の場合、寝返りとかで敵対戦力ではなく、セイクラム聖王国の戦力になるかも、ですかね?」

「うむ。本当に最悪の場合はそうなるかもと考えられるが、そのクライツ男爵、そしてセイクラム聖王国がこの場所に何かを仕掛けようとしているのは何故か、という疑問が出る」

「それは……」


 公爵家とその領地を羨むクライツ男爵だから、とも言えるだろうけど……。

 現状のこの場所をどうにかしようとしているという事、かな?

 それこそ、フェンリル達との協力関係を崩したりとか、シルバーフェンリルをどうにか自分達の方に引き込もうとか……。

 もしくは、戦力というものをそのまま公爵領で暴走させて大打撃を、とかも考えられるか?


「色々考えているようだが、私はこう考えている。セイクラム聖王国がクライツ男爵を唆して、ちょっかいをかけさせているのではないかとな。というより、クライツ男爵一人で、レオ様もいらっしゃるここに何かを仕掛けるなど不可能だろう。男爵領の様子から何かしらの援助という繋がりを持っていてもおかしくはないとな」

「他者を羨む者、他もそうだが、そう言った考えで凝り固まってしまうと、ろくでもない事を考える者達にとってはこれ程操りやすい者はいない、という事ですな父上」

「あくまで、私の予想、というより推論だがな」


 もはや国家間の話になっているので、報告会だったものが会議みたいになっている。

 俺はさっきセイクラム聖王国の事を聞いたばかりだし、あまり口は出さないようにした方が良さそうだ。


「ふむ……この中で、一番セイクラム聖王国に付いて詳しいと思われる、ユート閣下の意見はどうでしょう?」


 口に手を当て、少し考えた後にエッケンハルトさんはユートさんに水を向けた。

 そのユートさんは、ちょっと前から腕を組んで何かを考えていた様子だけど……。


「うーん……何か思い出せそうなんだけどなぁ……。ん、あぁえっと、僕の意見は聖王国ならやりかねないってところだね。もちろんそれはエルケの推論であり、証拠などもまだないけど。聖王国が裏で糸を引いているくらい深く考えているようなのは、少し驚きだけどね。あそこ、基本は実力行使で陰謀とか策謀とかは苦手だし。あぁでも、暗殺とかは策謀とも言えるのかな?」

「暗殺って……」

「いやいや、国家の手段だからね。そういう事も考えてはおかないといけないんだよ。というより、実際に行われた歴史があるんだけど。あでも、この国はそういうの嫌っているから、基本的には情報を得るための密偵だけで、そんな行為は自国にも他国にも許していないよ。だからこそ、僕が各地を旅している部分も一割くらいはあるし」

「一割ではありません。半分くらいと言ってもいいでしょう」

「そうかな?」


 ルグレッタさんの補足に、首を傾げるユートさん。

 国内を回って、そう言った怪しい動きなどをしている貴族や組織なんかを暴いているのだろうか?

 そういえば以前、マリエッタさんがユートさんに役割をみたいな事を言っていたけど、そう言う意味合いがあったのかもしれない。


 マリエッタさんにはユートさんの過去は明かされていないけど、ある程度察しているっぽいし。

 ……まぁ昔から年を取らずにいるのを見れば、何かあると考えるのが当然だろうしな。


「ではやはり、セイクラム聖王国がクライツ男爵を利用しようとしている可能性が高い、と見ますか」

「そうだね。ここまでの話を聞く限りではそうとしか考えられない気がするよ。ただ、何か引っかかっているんだよね。こう、重要な事を忘れているような……?」


 そう言って、再び腕を組んで考え込みながらうんうんうなり始めるユートさん。

 ユートさんにとってセイクラム聖王国が関わっているというのは、あまり重要じゃないのかもしれない。

 いや、これまで色々と困った事をされて来て慣れている、といった風かな?

 国からのちょっかいとか、あまり慣れたい事じゃないけど。


「ユート閣下の忘れている事というのは気になるが……ともあれ、シルバーフェンリルであるレオ様やフェンリル達。それによってクライツ男爵が刺激されたのであろうことは間違いないだろうな。そして、裏でセイクラム聖王国が動いている可能性も高い。わからないのは、奴らが『王』という存在だが……」

「あぁ! そうそれだ! 王!」

「ワフ!?」


 話をまとめてくれていたエルケリッヒさんの言葉を遮るように、突然ユートさんが大きく叫んだ。

 すぐ隣で伏せをして、おとなしく話を聞くだけだったレオが、驚いて鳴く。

 レオだけでなく、俺を含めた他の皆も驚いて一斉にユートさんを見た。


「そうだった、そういえば王って呼ばれていた事もあったんだった! いやー、すっかり忘れていたよ。って、あれ? どうしたの皆、そんなに僕を見て。やだなー、照れちゃうじゃないかー」

「……ユートさん、王と呼ぶ何かに思い当たる事があったようだけど」

「おやタクミ君、突っ込んでくれないと寂しいじゃないか」

「いや、それどころじゃないというか……思い出した事の方が気になるから」


 むしろ、わざとらしく皆の視線を受けて照れて見せるユートさんに関しては、こういう人だと慣れているからの対応でもある。

 全て突っ込んでもいられない、とも言えるが。


「ふんふん、タクミ君は僕の扱いがわかってきたようだね」


 ユートさんの扱い方はあまりわかりたくないけど……ルグレッタさんが「仲間ができた!?」みたいな目でこちらを見ているのは、気付かなかった事にしておこう。

 姉のルグリアさんが溜め息を吐いているのも見なかったことにして……。


「ユートさんの扱いはともかく、王って呼ばれていた事もあった、って言っていたけど?」

「あぁ、そうだった。つい喜んじゃってたね」


 喜んで欲しくないところで喜ぶんじゃない。

 と言いそうになったけど、これ以上は話が進まないので黙っておく。

 それはともかく、王と呼ばれていたとユートさんが思い出したって事は、以前にユートさんと何か関わりがあったという事なんだろうか?

 候補からは外したのは浅慮だったか……と思ったんだけど。


「んーとね、何度か昔のシルバーフェンリルの事……あーっと、歴史、歴史をね? 話した事があると思うんだ。うん、僕は歴史について詳しい学者みたいな側面もあるって思って欲しい」


 実際に見てきた事をではあるはずだけど、誤魔化すようにそう言うのは一応とはいえ、秘匿されている事に触れるからだろう。

 ちょっと面倒だけど、それも必要な事っぽいし仕方ないか。


「歴史って事は、レオとは違う前からこの世界にいたシルバーフェンリルの事でいいのかな?」

「うん、そうだよ。この国ができる前……いや、できてからもか。ハルト達リーベルト公爵家はよく知っているだろうけど、活躍したからね。ともかく、シルバーフェンリルはこの世界で圧倒的な強さを持つ最強の魔物。これは間違いないし、活躍なんかも話したよね? あくまで歴史として、知られている範囲だけど」

「ま、まぁ、うん」


 どれだけレオ、というかシルバーフェンリルが凄いのかは、レオを見ていてある程度把握してきている。

 大勢の訓練された兵士さん達を相手にして、訓練とはいえハンデ付きでも簡単に勝ってしまうフェンリル。

 そのフェンリルを複数相手にしても、これまた簡単に勝ってしまうレオ。

 それだけでも、レオというシルバーフェンリルがどれだけ圧倒的な強さか、というのがわかったからな――。




どうしてもこういう話し合いになると、楽しくなって長くなってしまいます……。

まだしばらく続くかもしれませんが、お付き合いくださると幸いです。


読んで下さった方、皆様に感謝を。


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