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1964/1996

隣国の話を聞きました



「杯は国を表し、雫は始原の世界からの恵み……だったか。この世界はこの世界だけで、多くの恵みを得られ国は発展していく、とかそういった考えがあるのだとか。これまで公爵領は反対側にあるうえ、出身者はいても直接的な関わりはなかった」

「始原を至高としていて……つまり世界が始まった時からこの世界はこの世界であり、別の世界の理を必要としない完全な世界である、という感じかな。別の世界の理ってのはギフトの事だね。ギフトはこの世界に異世界から来た人が持ち得るのだから、この世界の者とも言えるのに、強情で意見を聞こうとしないんだ。揶揄も込めて、一部の国々からは始原の国カッコ笑いって呼ばれてるよ」

「カッコ笑いって……」


 ユートさんの物言いに苦笑する。

 見れば、俺以外の幾人かも同じように苦笑しているから、本当に一部ではそう呼ばれているのかもしれない。

 ただ強情だからって、一国家をそう呼ぶのはどうなのか……それだけ、他を認めない態度などに他の国部には辟易しているのかもしれないが。


「まぁそのカッコ笑いが付いたのには理由があってね。ギフトを嫌っていて認めないってのはさっき言った通りなんだけど、元からの世界だけでと標榜しているくせに、ギフトを持った人が広めた文化や技術なんてのは、受け入れているんだ。実際にセイクラム聖王国でもそういった物は使われていてね。どういう事か、タクミ君にはわかるかな?」

「……元々この世界の人間じゃなかった人から広まった事でも、受け入れているって事、かな?」

「そう。ギフトの恩恵があるからこそできた技術や文化ってのもあるのにね」


 ギフトを持っている人は、今は遺伝とかである程度異世界からの人間だけに限られたわけじゃないらしいが、元々は異世界からの人だけが持つ能力だったはずだ。

 なのに、ギフトを持った人が広めた技術や文化……必ずしもギフトが必要なわけじゃなくとも、それは異世界の知識がもとになっている可能性が高い。

 つまりは、元々この世界にあった考えや知識だけで成り立っているわけじゃないものも、受け入れていると。

 それって……。


「外の世界って言い方でいいのかわからないけど、別の世界を忌避しておいて、それは受け入れているんだ」

「そこなんだよねぇ。結局は、ギフトを嫌う事でこの世界の中心である――と勝手に考えている聖王国だけど、広められた文化や技術はギフトを持っている人じゃなくても使えるものばかり」

「まぁ、じゃないと広まる事はないだろうから」


 ギフトを持っている人限定なら、使える人が少なすぎて技術なんて広まらないだろう。

 一時だけ、その技術を開発したギフト持ちの人がいる間だけの恩恵になるわけだし。

 俺で言うと、色んな種類の薬草を簡単に栽培できて増やせるまでになったのもそれだ。

 クラウフェルト商会がやろうとしている事は、俺という『雑草栽培』の使い手がいなくなってしまえば、同じように続けて行くのは不可能だからな。


 その代わり、元になる薬草を作っておき、さらに栽培する方法などの手段を確立しておけば、続けられるし他でも広まる可能性はあるが。

 実現すればだが、これがユートさんの言っているような技術や文化が広まるという事なんだろう。


「うん。つまりさ、結局は自分達が世界の中心であり、始原の世界をと言い張っているんだけど、セイクラム聖王国としての利益があればいいって事なんだよね。もしかすると、今はわからないけど以前に向こうの国にもギフト持ちがいたかもしれない。表には出さないようにはしているけど」

「ギフトを有効活用すれば、もたらされる技術革新、文化の発展、それにとどまらず国家の利益は計り知れませんからな。我々公爵家は、現当主であるエッケンハルトの方針の元、タクミ殿の望まない利益の追求はしないようにしておりますが」


 エルケリッヒさんの言葉に、エッケンハルトさんだけでなくクレアなど、この部屋に集まった人達が頷く。

 レオがいるから、というのも大きいんだろうけど、多少こうしたらいいのでは? という提案はあれど、強制されないとか利用され過ぎないというのは、公爵家の人と関われて、この世界で最初に出会えてよかったと思う。


「まぁとにかくね、そんなわけだから周辺の国々は揶揄を込めてカッコ笑いを付けて呼ぶ事があるんだよ。ギフトは嫌い、だけどギフトがもたらす恩恵が広く享受できるものなら受け入れるってね。ダブルスタンダードみたいなものだよ」

「それはまぁ、国として一貫性がないと言えるかな」

「一部、賛同する国がなくはないが、隣接する国々は困らされる事も多いため、浸透してしまっているな」

「困らさられる事、ですか?」

「ギフトを嫌っていると隠さず公言しているのだからのう、この国を始め周辺の国々にギフトを持ったものが現れた際には、色々とな……」


 その色々が気になるんですけど……本当に色々とやらかしてくれているのか、それを言ったエルケリッヒさんだけでなくユートさんも遠い目をしている。

 国家間のあれこれなんて俺にはわからない事だらけだけど、ちょっと反発するとか抗議するとかでは済まないんだろう。


「まぁ、そうだね……タクミ君には以前にも話したけど、この国の歴史としてだけでなく、リーベルト公爵家が成り立つ以前は、特に戦争が頻発していたようだけど、それの多くはセイクラム聖王国が発端だったらしいってね」

「そ、そうなんだ」


 戦争の発端、何をしたかはともかく実力行使も厭わないとかだろうか。

 あと、ユートさんが聞きかじったような知識みたいに言っているのは、この場にユートさんの事情を知らない人がいるからだろう。

 ある程度察している人はいるっぽいけど……セバスチャンさんとか、マリエッタさんとか。

 それに、この国の歴史という部分では、ユートさんがギフト持ちだからセイクラム聖王国としては、敵対する選択しかなかったのかもしれない。


 国の上層部のさらにその一部とかは、ユートさんの事やこの国の成り立ちみたいな部分も、ある程度知っているみたいだし。

 ギフトを排除するような風潮の国なのに、隣でギフトを持った人間が国を興したうえ発展するとか、許しがたい所業なのかも。


「話が逸れちゃったね。あまりセイクラム聖王国について知っている人は、この中には少ないだろうから、ついつい解説しちゃったけど」


 後で聞いた話だが、他国の事なんて隣接した領地に住んでいるか、貴族でもなければあまり知らない事が多いらしい。

 多少噂レベルで聞こえてくる事はあるけど、それだけだとか。

 簡単に他国へ旅をするなんてできず、観光気分でちょっと行ってくる、なんて難しいから基本的に自国、さらに自分達が住む地域へと向けられるからだろう。

 貴族家は別だろうけど、そこで働く使用人さんとかも全員が他国の知識を持っているわけではないとか。


「えーっと、とりあえず話を戻すと……クライツ男爵領で、そのセイクラム聖王国の紋章の一部を掲げているお店が増えている、という事ですよね?」

「うむ。クライツ男爵領はセイクラム聖王国に面している事から、多少なりとも影響を受けるのは仕方あるまい。過去のあれこれはともかく、現在は国交を閉ざしているわけではないからな」


 すぐ近くなんだから、向こうから人が入って来る事も当然として、出身者が店を開くなんてのはよくある事だろう。

 ちなみに、爵位での地位の差みたいなのは領地の広さや何やらと各種あるらしいけど、それでも厳然とした身分差というわけではないというのは、ユートさんが建国時にそれを嫌ったかららしい。

 だから王族は別として、男爵と公爵と言っても法としては明確な差があるという程ではないとか。

 まぁ国が続く中で、意識として差があるように感じてそれが常識のようになっている部分はあるみたいだが。


 それを踏まえて、身分差などはともかくとして敵対とまでは言わなくとも、あまり関係が良くない国と男爵領が隣接しているというのは国防的にどうなのかな? という疑問はあった。

 ただそれは、セイクラム聖王国から見て男爵領の後ろに強固な領地を築いている辺境伯領があるから、今のところ問題ではないとの事だ。

 元々、その辺境伯領が隣接していたけど、過去……公爵家の初代当主様であるジョセフィーヌさん、それからジョセフィーヌさんと仲が良かったシルバーフェンリルが活躍した時代、つまり今から五百年以上前だけど。

 その時代にこちら側が反攻して国土を削り取った場所に、新しく貴族領を制定したという経緯があるとか。


 辺境伯領に加える話もあったらしいが、そうなると辺境伯領が広くなりすぎて手が回らなくなるなどの問題があり、新しい貴族領を立てたとの事だ。

 ただ貴族領と爵位を賜ったクライツ家は今も続いているわけだが、その当時は伯爵家だったらしい。

 今は男爵と、爵位を落としているのは何かやらかしてしまったのだろうか……お取り潰しにならない程度で、爵位が下がる事って一体……。

 と思ったが、「聞きたい?」と言ったユートさんが邪悪な笑顔をしていたから、ろくでもない経緯なんだろうし、聞かない方が良さそうだと感じて辞退した。


 昔の貴族家の闇みたいな部分なんて、聞いてもあまりいい事はなさそうだし。

 それはともかく、話しを戻して……。


「つまり、そのセイクラム聖王国の影響力が強くクライツ男爵領で出ていると……」

「そういう事だろうな。細かな村や街の調査はまだだが、領主のいる場所の大きな街ではそのようだ。少なくとも、セイクラム聖王国との関わりはあるだろう。向こうが関わって来ているのか、クライツ男爵が自ら関わったのかはわからんが……どちらにせよろくな事にはなりそうにないな」


 溜め息を吐くようなエルケリッヒさん。

 その様子に、話しだけしか聞いていない俺は実感できないが、セイクラム聖王国が関わるのはあまり良くない事というのはわかる。

 まぁ、さっき聞いた話だけでも、良い印象は受けないからなぁ。


 少し前に、フェンリルと兵士さん達の訓練でエルケリッヒさんが思いついた事……というのは別として、何かよからぬ予感のようなものを感じると言っていた。

 少しずつクライツ男爵領での報告を聞く中で、セイクラム聖王国の事も耳に入って、そういった予感を感じ始めていたのかもしれないな。


「何をしてくるか、というのは予想ができなくもないが……それよりもまず、かの国の関与をさらに示すように、クライツ男爵領では紋章を掲げる事で優遇措置もとられているようだな。そのために関わりは確定的と言えるだろう。それだけでなく、放った密偵が気になる言葉を耳にしたそうだ」


 自国ではなく、他国の商売を支えるような優遇措置というのに、話を聞いていたエッケンハルトさんが唸っていた。

 同じく領地を持ち、商売をしている身としては思うところがあるんだろうが、俺はそれよりも耳にした言葉というのが気になった。

 密偵の人が気になるというのは、よっぽどの事なんだろう。


「言葉ですか? 何か、合言葉とまでは言いませんけど、決まり文句みたいなものでしょうか?」

「余所者という事もあるが、一部の者。はっきり言うなら領主であるクライツ男爵直属の者達のみが口にしたそうだが、王を迎える、王を従える、王にする、などといった内容のようだな」

「王、ですか? それって、この国の王をクライツ男爵領に連れて来るとか、そういう事ですか? それとも、セイクラム聖王国の方のという事もありますか」

「いや、セイクラム聖王国ではその国名通り、聖王と呼ばれている。もしくは聖王陛下だな。他国とはいえ、隣接している以上聖王国の出身者もいる。そこは間違えないだろう。貴族直属の者達なのだからなおさらな。だから、この場合の王というのはセイクラム聖王国ではなく、我が国の王の事だとは思うのだが……うーむ」

「何か、他に気になる事でも?」


 顔をしかめて顎をさするようにするエルケリッヒさん。

 エルケリッヒさん自身も、本当にその王と呼ばれているのがこの国の王様とは断定していないようだけど……?


「自国の王を呼ぶ際に口にするなら、国王陛下、もしくは陛下だろう。一部の者とは言え、密偵の者が耳にする程なのだから、密会でささやかれた言葉なだけではないしな。なんにせよ、ただ王というのは相応しくない。もし口に出すのなら少なくとも『王様』もしくは『国王様』だろう。まぁ、密偵の方はもう少し深く潜りこむように指示はしてあるから、後々になればもっとはっきりとどういう事かはわかるかもしれんが」


 クライツ男爵領にエルケリッヒさんが放った密偵は、まだ到着して日も浅いから、街に溶け込む程度が精いっぱいってところなんだろう。

 もう少し時間をかけてじっくりと、深くまで潜入させるって事だろうけど、セイクラム聖王国が関わっているからこそ、そう考えているのかもしれない。

 それはともかく、確かに話の中でただ「王」というのは確かに相応しくないか。

 自国の事なんだから、最低でも王様だろうとエルケリッヒさんの言う事もわかるし、しかも誰でもではなくとも密会と言える状態ですらないのに聞けているというのは気になる。


「まさか……あ、いや、これはないか」

「なんか、タクミ君から不届きな視線と思考が流れてきた気がするけど?」

「いやいや、そんな事は。気にしないで」


 今の国王陛下ではないのなら……と考えてもしかして、とユートさんの方を見たけど軽そうな雰囲気を放っている様子を見て、違うだろうなと首を振った。

 話は聞いているんだろうし、過去に凄い事をやってきた人であるのは間違いないけど。

 でもなんとなく、ユートさんを王と言って迎えるだの従えるだのってのは違う気がしたから。


「その王というのがなんなのか、というのが気になるが……意外と、うがった見方をしているだけでそのまま国王陛下の事という可能性がないとは言えないしな。だが、従えるというのが気になってな。迎えると言うだけならまだ、自領に招くと考えられない事はないが」

「従える、ですか。その言葉のまま受け取るなら、あまりいい想像はできませんよね」

「うむ。国王陛下でなくとも、王という存在に対してそれはあまりにも不敬が過ぎる。なんにせよ、注意して調べて行く内容だろう」

「はい」


 王というのがなんなのか、その言葉通り、本当にこの国の王様の事なのか……。

 あ、いや、王にするという言葉もあったか。

 だとするなら、現在は王ではないという意味だろうから、やっぱり国王陛下ではないとなるわけで……。


「……それから、もう一つタクミ殿に報告があるのだが」

「もう一つですか?」

「うむ。タクミ殿の事は公爵家としては秘匿するつもりで、関わる者には口外しないようにさせている、のだったな、ハルト?」

「はい。ギフトに関しては、特にタクミ殿のものはですが、利用価値が高すぎます。場合によっては経済だけでなく、人と植物の関わりようも破壊しかねないものかと」


 え、そんなに?

 確かに価値の高いロエなんかも簡単に作れるから、経済というか市場を荒らすとかはできそうではあるけど。

 でもそうか、ロエを量産するだけでも市場などを無視すれば軍利用などもできなくもないだろうからなぁ。

 一瞬で大きな怪我を治す薬草なんて、大量にあれば簡単に戦力差を覆すようなものと言えるだろう。



読んで下さった方、皆様に感謝を。


別作品も連載投稿しております。

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神とモフモフ(ドラゴン)と異世界転移


完結しました!
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申し訳ありません、更新停止中です。
夫婦で異世界召喚されたので魔王の味方をしたら小さな女の子でした~身体強化(極限)と全魔法反射でのんびり魔界を満喫~


― 新着の感想 ―
いやいやタクミくんさぁ、そこはちゃんとクライツ男爵が落ちぶれた理由聞いとこうよ。 絶対今回の問題の発端になるってぇ!
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