各地の調査報告会になりました
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「物語に驚きを求めるのは構わないけど、それは理解できるかどうかにもかかって来るから」
懲りないユートさんに、溜め息を吐きながら首を振る。
実際のところ、多少矛盾があるような物語でも既に何度か採用されて演劇として、夕食後などに皆を楽しませている。
だからこだわり過ぎなければ採用されるのは簡単な方だと思うんだけど……。
一応起承転結というか、ある程度フェンリルと人が協力して活躍する、という部分があればヴォルターさんはいいと言っているし。
綿密ではなくとも、物語を考えるというのはこれまでやって来なかった人が多く、難しいらしいので一部で流行ってはいても持って来る人は多くないようだからなぁ。
エッケンハルトさんとユートさんは、一日に一回は考えた物語をヴォルターさんの所に持って行っているみたいだけど。
「あと、驚きに満ちたのが好みなら、魔法でなんとか……できるんじゃないかな? 演出というか効果というか……」
「はっ! それだよタクミ君! 効果、効果だよ! 爆発なんて、実際に火薬や爆薬を使わなくても魔法でできる!」
「この世界で魔法を長く使ってきて、何故それを思いつかなかったのかは疑問だけど……絶対に怪我とかの危険はないように気を付けて。じゃないと、また却下されるというか、俺が許可しないから」
目を見開くユートさんに、もしかしなくても不味い事を言ってしまったかもと思い、注意だけはしておく。
基本的にヴォルターさんが許可して、ある程度演劇をしたい人達に共有すればいいだけだけど、ユートさんに関しては俺が検閲した方がいいかもしれない。
後で、ヴォルターさんに言っておこう。
「タクミ殿、私の方には何か助言はないか?」
「そうですね……エッケンハルトさんの方は単純に規模が大きすぎるので」
数千人対数千人の戦いを数度なんて、演劇でやるような事じゃないからな。
まぁ、できなくもないけど……。
「数千人という部分を、背景――書き割りでなんとかすれば可能かもしれません。でもそれには絵が描けないといけないので、今すぐは無理でしょう」
写本などで、本に描かれている絵を書き写したりもするので、ある程度絵が描ける人くらいはいるだろうけど、それでも舞台の背景になるような大きな絵を描くのは難しいだろうしな。
「後々はそうする事も考えられるかもしれませんが、今はとりあえず人数を減らすとして……そうですね」
とりあえずエッケンハルトさんの好みに合いそうな完全懲悪から、戦隊ヒーローのような話はどうだと持ち掛ける。
こちらはユートさんも結構好きらしく、俺と一緒に説明してくれた。
途中、戦隊の色でどれが好きかとユートさんと俺が激論を交わしそうになったが、それはともかく。
「ほぉほぉ、成る程な。悪は実際の物よりもわかりやすく、それでいてやっては駄目な事をか」
「まぁ、俺やユートさんの知っている戦隊もの、というのはそういうのが多かったですね。子供が見る事が多かったですし」
探せば色々あるだろうけど、俺とユートさんが伝えたのは、悪の秘密組織が世界征服のために子供達の乗るバスをジャックをするとかだ。
バスジャックがどう世界征服に繋がるかは疑問に残るが、わかりやすい悪で子供達も理解できるだろう。
さすがにこの世界にはバスがないから、隊商の連なる馬車だったり、街と街を繋ぐ乗り合い馬車にしたけど。
「わかりやすい悪に、わかりやすい正義、か……」
「エッケンハルトさんの場合は、悪こそ大軍勢でって感じでしたし、それもわかりやすいと言えばわかりやすいんですけど。でも子供達には規模が大きすぎてよくわからないんじゃないかなと」
わかりやすすぎるくらいにわかりやすい方が、子供達には親しまれる気がする。
あと、エッケンハルトさんの考えた物語で示す悪は、政治的な部分があったりとちょっとわかりづらい部分もあった。
それだけでなく、見方によってはそれも悪ではないようなのもあったからな。
物語的にそれは悪だと断じる強行手段はあるだろうけど、誰の目から見ても悪だとわかる方が、やりやすい。
「僕達のいた世界では、ヒーロー物。わかりやすくて絶対の正義で、子供達には大人気だったね。一部、大きなお友達もいたけど」
「まぁ、好きな人はずっと好きなんじゃない? そこは好みの問題だろうし。大人でも楽しめる部分ってのはあると思うから」
ごちゃごちゃと細かい事を考えなくても、正義は正義、悪は悪で、しかも最後は必ず正義が勝つから、安心感みたいなのもあったかもしれない。
ただそれを前提としているから、子供はともかく大人もハラハラドキドキさせる展開、というのを演出するのはかなり難しいだろうけど。
斜に構えた人が見ると、どうせ最後は……なんてひねくれた見方になるだろうし。
こちらの世界では、そう言った王道な物語が浸透していないから、むしろ真新しく映って大人ものめり込む可能性はあるか。
逆に、綺麗事やご都合主義な部分で受け入れられない可能性はあるけども……。
「ふぅむ、子供達に人気になるというのは良さそうだ。タクミ殿、ユート様、ありがたく参考にさせていただきましょう」
「ハルトが考えると、どっか変な方向に行きそうではあるけど、楽しみに待ってるよ」
「意外と、こちらの世界での感覚なんかも混ざって、全然別物や面白いものができるかもしれませんね、期待しています」
こちらの世界の人が、日本のヒーロー物を参考にして考える、勧善懲悪ものか……。
ちょっと失礼だけど、ユートさんの言っているようにエッケンハルトさんだから、おかしな方向性に向かうかもしれなくても、斬新な物語ができるかも?
俺やユートさんにとっては、楽しめる物語になるかもしれない少し期待させてもらおう。
まぁ、フェンリルが広く受け入れられるように、という意図もあるからそこは忘れないようにとくぎを刺しておくけども。
「おぉそうだ、忘れるところだった。タクミ殿が戻って来たら、皆を集めて報告をする事があるのだったな」
「あぁ、そういえばそうだね」
「皆に報告ですか?」
「うむ。各地での情報が、完全ではなくともある程度揃ったようでな。父上も何か情報を掴んだ様子だ。確証などはともかくとしてだが」
「各地の……」
という事は、カナンビスに関連した森の異変やその他に関する事だろう。
却下され続けていたから、エッケンハルトさん達にとっては採用される可能性が重要なのかもしれないけど、そちらの報告の方がよっぽど重要だと思う。
というかそういう事は忘れそうにならないで欲しい。
「本題ばかりで忘れそうになってたよ。僕からも、タクミ君に話しておく事があったんだった」
「いや、むしろこっちの方が本題だと思うんだけど」
物語に関しての方が本題って、どれだけ入れ込んでいるのか。
問題という意味では確実に、こちらが本題だと思うんだけど……。
「父上はタクミ殿が戻るのを待って、客間で待機しているようだな」
「エルケリッヒさんを待たせて、物語の話をしていたって……怒られそうですけど」
「ふふふー、そこは僕もいるから怒るに怒れないと思うよ?」
「いやまぁエルケリッヒさんはそうかもしれないけど、マリエッタさんが……」
「ぐ、むぅ……」
マリエッタさんの名前を出すと、エッケンハルトさんが唸る。
ユートさんもあっ! と声を出しながら目を見張っている……さすがのユートさんでも、マリエッタさんに怒られるのは嫌みたいだ。
エルケリッヒさんとマリエッタさんは、常にという程ではないけどよく一緒にいるからなぁ。
特に今回は重要な情報に関してだから、一緒にいるのはほぼ間違いないだろう。
ちなみに、クラウフェルト開始後の二日酔いの状態だったエッケンハルトさんは、マリエッタさんにこっぴどく怒られたらしい、公爵家の当主として云々と色々言われたとか。
しかも、二日酔いの対処法を試す間もなく捕まってだったらしい。
「は、はやくタクミ殿が戻って来たと、父上を呼ぶ必要があるな、うむ」
「そ、そうだね。うん、急がなきゃ」
「はぁ……」
焦り始めたエッケンハルトさんとユートさんを見ながら溜め息を吐き、とにかく急いで皆を集める事にする。
エルケリッヒさんが客間にいるなら、そこでと思ったけど、機密性も考慮したのか、報告会は俺の執務室で集合となった――。
――報告会、それぞれ各地で行っていた情報収集の成果を共有するため、俺の執務室に集まった。
部屋にいるのは、俺、レオ、クレア、エッケンハルトさん、エルケリッヒさんとマリエッタさん、ユートさんとルグリアさん、ルグレッタさんにパプティストさん、テオ君。
あと、ライラさんとエルミーネさん、それからアルフレットさんとセバスチャンさんもいる。
結構な人数とレオがいても、手狭に感じない執務室の広さはありがたい。
それから、やっぱりマリエッタさんはエルケリッヒさんと一緒に待っていたらしく、呼びに行ったエッケンハルトさんは軽く怒られたらしい。
ただまぁ今回は報告する事があるため、長引く事がなかったのはエッケンハルトさんにとって幸いだったとか。
それでもかなりげんなりした表情になっていたけど。
「では、まずは私から報告させてもらおうか」
報告会はまずエッケンハルトさんからの報告から始まった。
げんなりしていた表情も、報告するにあたってキリッとしている。
ここで先程までの事を引きずっていたら、またマリエッタさんに何か言われていただろう。
「カッフェールの街を調査させていた者達からの報告になるが――」
エッケンハルトさんからの報告は、公爵領南東の端、領境付近にある街、カッフェールについてだ。
近くの村で働いていたカールラさんの話を元に、何か情報が得られるかもと、フェンリルと一緒に兵士さんに向かってもらった。
そのフェンリル達は、一旦戻ってきて交代して別のフェンリルを向かわせているんだけど、まぁそれはともかく。
「受け取った報告によると、我々……つまり公爵家以外の貴族、もしくはその使いの者か。それが出入りしていたのは間違いないようだ。その者の足取り、少なくとも街に出入りする際には隣領を通って来ていた」
「つまり、ラクトスとかを経由した最短距離の移動ではなくて、遠回りして公爵領に入り、カッフェールの街にという事ですか? いえ、その出入りしている人が、北側から来ているならですけど」
この国の北側からカッフェールの街に行くためには、ラクトスなどがある公爵領北東方面から街道を進むのが一番近いらしい。
それを通らずわざわざ遠回りをするというのは、結構な無駄になるわけだ。
「うむ、タクミ殿の言う通り、ラクトスなどできるだけ公爵領内での移動を少なくするためだと思われる。また、その者達……複数いるのだが、その者達は――」
曰く、幾度にもわたってカッフェールの街やその周辺の村に出入りしていた、北側の貴族関係者は、その時々によって人物が違う、または複数だったという事だ。
遠回りしての移動に慣れているはずの同一人物を使わないのは、目立たないためだろうか?
「そういった事を考えている可能性はある。もしくは、使えなかったかだが……まぁそこらの可能性は考えられる事が多すぎて、あまり気にしない方がいいだろう。そして肝心の、どこの貴族の者、もしくは手の者かという部分だが……やはり北側の、それも当初予想していた通り、クライツ男爵家の者だったようだな」
「クライツ男爵家……」
今一番怪しい相手、国の北西に領地を持つクライツ男爵家。
俺だけでなく、隣にいるクレアや他の人達も「やっぱり」という表情だ。
「確証はあるのか?」
ただはっきりとそう言える何かがないと、断定するのは危険だと考えているのか、エルケリッヒさんがエッケンハルトさんに問いかけた。
「はい、父上。カッフェールの街にいる数人、出入りした者達が接触した人物達が、貴族家の紋章を確認しています。他家、それも距離が離れている貴族家の紋章ですので、どこの貴族かというのはわかっていなかったようですが、特徴を聞く限り間違いなく。それに、国の紋章も持っていたようです」
「成る程な。それならば、クライツ男爵の名代として動いていたのだろう。他領で深い関わりがない場所で信用を得るためだろうが、多少迂闊と言えるか」
「通常、その土地土地を治める領主貴族の紋章、それから国の紋章は周知されていて、子供でも覚えさせられるものですが、他領を治める貴族の紋章はその限りではありません。隣領の貴族紋であれば多少目にする事もあって、覚えている人も多いかもしれませんし、勉強家であれば覚えている人もいるでしょうが……」
深刻そうに話すエッケンハルトさんとエルケリッヒさんとは別に、隣にいるクレアが補足するように教えてくれる。
紋章はそれぞれの貴族家に別の物があり、さらに国の紋章というのがあるというのは聞いている。
クラウフェルト商会でも印章を決めたが、それと同じように証明などのために使われるらしい。
要は家紋だな、現代の日本ではほぼ廃れているけど、武士の時代とかでは各大名、各武家ごとに家紋があったし、それと似たようなものと考えていいかもしれないな。
「国の紋章と一緒にっていうのは?」
「国の紋章を持っている、まぁこの場合はクライツ男爵家の当主や直系など、本人達ではなく使いの者だとしますが。その場合、貴族家の意向……いえ、直接命を受けて動いているのだ、という証明になります。国の紋章と貴族の紋章、二つを持っている事でその貴族家の名代とも言えるわけです」
「片方だけよりも、より強い証明になるって事だね」
「はい」
名代、つまりクライツ男爵の代理人と言えるわけだ。
さらに言えば、紋章を偽造して使うのはたとえ貴族ではなく商会の物だとしても重罪らしい。
国と貴族家の両方を持っているというのは、ほぼ偽造は考えられないと言っていいだろう。
カールラさんの話なども考えると、資金力とかもありそうだから、個人ではあり得ないだろうし、クライツ男爵が指示しているで間違いなく、確証と言えるわけか。
「クライツ男爵の使いの者……まさか本人というわけではないでしょうけど、その出入りしていた人達はカッフェールの街で何をしていたか、などは?」
俺に足りない知識を教えてくれたクレアに小さくお礼を言った後、エッケンハルトさんに聞いてみる。
「迂闊さはあるが、それはおそらく毎度人が変わるからだろう。多少偽装工作というか、足取りを掴ませないようにはしていたようだが……ある商店、カッフェールの街にあった店との取引が頻繁に行われていたようだな」
「それは、カールラさんの話にもあった?」
「おそらくそうだろう。その店は既になくなっている。こちらでも聞き取りをしたようだが、ある日突然という事だ。それから、カールラというタクミ殿が雇ったラクトスの孤児院出身の者が働いていた村も調べさせたが――」
今度はカッフェールで突然なくなったという商店に関して、エッケンハルトさんが話し始めた――。
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