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1958/1996

エルケリッヒさん達が何かを感じているようでした

ブックマーク登録をしてくれた方々、評価を下さった方々、本当にありがとうございます。


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「よしよし、レオはやっぱりすごいなぁ」

「凄く早く動いてた! リーザもだけど、皆も驚いてたよ!」

「本当に凄かったです、レオ様。はっきりとは見えませんでしたが、フェンリル達を圧倒するのは見応えがありました」

「ワッフー!」


リーザやクレアと一緒に撫でつつ、褒める言葉をかけると満足げに鼻から息を出すレオ。

 他の子供達もレオに集まってきたな、子供好きのレオにとっては、俺に褒められるだけじゃなく子供達が喜んでいるのも嬉しいんだろう、尻尾が大きく振られている。


「ねぇママ、あれってどうやるの?」

「ワフ?」

「んっとね、あれなんだけど――」


 そんな中、リーザが興味深そうにレオへと質問された内容、それを聞いて俺だけでなくクレアも驚いていた。

 レオの体がブレたと思った瞬間の事、俺達からは何をしたのかすらわからなかったんだけど、リーザにははっきりとまでは言わなくとも、多少は見えていたらしい。

 ちゃんとあの時レオがフェンリル達を弾き飛ばした時、何をやったのかくらいはわかっていたみたいだ。

 まぁ内容としては、予想したとおりに体当たりが多かったみたいだが。


 リーザ……あれが見えていたのか。

 エッケンハルトさんですら捉える事ができなかったみたいなのに……俺達より動体視力がいいとかなのか?

 感覚が鋭い獣人というのも関係しているのかもしれない、と思ったらデリアさんにはわからなかったらしい。

 その話を聞いたエッケンハルトさんが、かなり感心していた。


 思わぬところで、才能の片鱗を垣間見た気がする。

 もう少し、鍛錬を頑張ろうと思ってしまった。

 いずれかなわなくなる可能性が高いけど、まだもうしばらくはリーザに尊敬されるパパでありたい、という気持ちからだけどな。


「それはそうと……レオ」

「ワウ?」


 皆に感心されたり、褒められたりしてご満悦なレオに、残酷かもしれないが現実を教えなければいけない。

 レオが陥没させた場所を埋める作業や、氷の壁を溶かし始めた兵士さん達を横目で見ながら呼びかける。

 まぁ、別に叱ろうとかそういう事じゃないんだけどな。


「レオが凄いのはわかったし、これまで以上に実感できたわけだけど……土の中にもぐったりしたからこうなるのもわかる。でもこのままにするわけにはいかない。何が言いたいかわかるよな?」

「ワ、ワフ……?」


 目を大きく開いて、レオがまさか……みたいな反応をする。

 そんなレオに、決定的で残酷な言葉を捧げよう。


「思ったよりは汚れていないけど、毛に土が絡まっているしな。お風呂に入らないと大変だろう?」

「ワフーー!」


 やっぱりー! というような叫びにも似た鳴き声を発するレオは、お風呂で汚れを洗い流す事が決定した。

 いや別にレオが嫌がる事をしたいわけじゃないんだが、あれだけ地面を掘って中を移動するなんて、予想外の事をしたんだから当然そうなるわけで。

 深く潜ったせいなのか、ここらの地質は浅い部分にそういった物があるのかわからないが、粘土質の土の塊が毛に絡まっていて、簡単には落とせそうにない。

 水はけの問題なのか、乾燥した土だけでなく泥なども混じっているし、腐葉土みたいなものもあちこちにくっ付いている。


 さすがに、絡まりに絡まった毛玉みたいに毛を切らないといけない、という程ではないけど……それでもこのまま屋敷内で自由に過ごしたら、掃除が大変な事になりそうだ。

 とはいえお風呂場に行くまでにも落ちるだろうし、使用人さん達には申し訳ないけど、廊下が汚れるのは仕方ない。

 まぁ、フェンリル達も土の中に潜ったレオ達程じゃなくとも、結構汚れているので洗う必要があるだろうけど、お風呂場か水浴びかは後でフェリーと相談だな。

 子供達が手伝ってくれるようだが、大きな体のフェンリル達を一度に複数洗うのは大変だし。


 露天風呂って程じゃないが、屋敷の外に洗い場を作った方がいいかな?

 お湯を用意するのは大変だろうから、色々考える必要があるだろうけど、場所はありそうだから俺も露天風呂を作ってみたいとも思うし……。

 その辺りは、余裕が出て来てからかな。


「タクミ殿、少し相談があるのだが」

「エルケリッヒさん?」

「お爺様?」


 とりあえず、レオやフェンリル達には人から離れた場所で、体を震わせてある程度の土を落としてもらうように頼み、それを見守っていると、エルケリッヒさんから声をかけられた。

 マリエッタさんも一緒だ。

 あぁレオ、フェンリル達に土をとばすんじゃない!


「フェンリル達に関してなのだが、少々思いついた事があってな。いや、フェンリル達というよりも、兵士たちの運用と言った方が正しいか」

「運用、ですか」

「うむ。ハルトが兵士達にフェンリルとの訓練をさせているのを何度か見たが、負けてばかりのようだからな」

「確かにそうですね。エッケンハルトさんからは、今まで一度も兵士さんがフェンリルに勝てた事がないと聞いてます」


 訓練を全部見たわけじゃないけど、俺が見る限りでも勝てそうな場面というのはなかった。

 エッケンハルトさんからも、毎回同じような結果になっているというのを聞いている。


「それでな、フェンリル達に対抗というわけではないのだが、同様……というのは言い過ぎだが、それなりに強力な魔物に対して、兵士達の運用法を工夫すればある程度はなんとかなるのではないか、と思ってな」

「成る程」

「それでね、タクミさんに色々意見を聞いてみようって事なの。もちろん、タクミさんからだけでなくフェンリル達からも聞けると嬉しいのだけど」


 マリエッタさんからもそう言われる。

 要は、フェンリルとの相談窓口である俺に、兵士さん達の運用を考えるための訓練などの相談をしたいってわけだな。

 詳しく聞いてみると、今のエッケンハルトさんがやっている訓練は、襲い来るフェンリルを抑え込むためのもので、そうではなくフェンリル程でなくとも強力な魔物相手にした場合の想定で、とからしい。

 どう違うのか俺にはよくわからない部分もあったが、国や領内を魔物の脅威から守る必要もある兵士さん達のため、と思えば協力はするべきだと思う。


 俺の意見なんかで、役に立つかどうかは疑問だけど。

 多分一番重要なのは、俺を通してフェンリル達の意見を聞く、という部分なんだろう。

 レオやリーザにデリアさん、クレアもいればシェリーに協力してもらえば、フェンリル達と細かい話もできるからな。


「わかりました。そういう事でしたら協力させていただきます」

「すまないな。タクミ殿には他にもやる事があるだろうに」

「クレアとの時間も邪魔してしまって、申し訳ないわ」

「お、お婆様……!」


 ふふ、と微笑をもらしながらクレアをからかうマリエッタさん。


「ま、まぁやる事もありますしクレアとの時間も確かに大切ですけど、エルケリッヒさん達が必要だと思った事なら、それも大事だと思いますから」

「はっはっは、やはりタクミ殿は私が見込んだ男だな」

「ふふふ」


 クレア程ではないけど、俺も少し照れながらそう返すと嬉しそうに笑うエルケリッヒさん達。

 恋人の肉親にいいところを見せる、という気持ちがないわけじゃないが、少しでも俺が力になれる事があるのならなりたいからな。


「それにしても、何かあるんですか? 先程は深刻そうな表情でしたけど」

「確かにそうですね。お爺様とお婆様らしくないと言いますか……」

「ふむ、クレアの前ではあまりそういった姿を見せていなかったからな。タクミ殿もよく見ているな」


 いつもはにこやかな老夫婦……一部、マリエッタさんを怒らせた時だけ変わるけど、基本的には穏やかな夫婦と言った二人。

 そんな二人が先程俺に話しかけてきた時だけは、何やら深刻そうな表情だったのが気になった。

 それにはクレアも気付いていたようで、俺と同じく首を傾げていた。


「なに、今のところは何かがあるというわけではないのだがな。後で話すが……少しずつ報告が入ってきてはいるのでな」


 エルケリッヒさんが言う報告というのは、カンナビス関連やクライツ男爵について調べを進めている事に関してだろう。

 何かがあるわけではない、という事は決定的な事柄があったわけではないけど、気になる報告はあったのかもしれない。

 後で話すと言ってくれているので、落ち着いた場所で教えてくれるだろう。

 俺達がいるのは、屋敷や村からも少し離れた外だしな……色んな人がいて、騒がしいし話しをするには適していないし。


「あぁ、ごめんなさい。この人の言葉が足りなかったわ。備えたり、対処を考える段階の報告はまだないの」

「そうなんですか?」


 俺が深刻な表情で考え込んでしまっていたのか、マリエッタさんがフォローするようにそう言った。

 隣にいるエルケリッヒさんから「ぐふぉ!?」という、くぐもった声が聞こえたけど、マリエッタさんの肘がそれなりの勢いでエルケリッヒさんに刺さったのは、見ないようにしておく。


「えぇ。ただなんと言うのか、私とこの人だけが感じているのでしょう。漠然とした話になるのだけど、嫌な予感……という程大袈裟ではないの。でも、何かがあるような気がしているのよ」

「何かが、ですか」

「う、うむ……そ、それでな、何もしないでおくよりは何かしておいた方が落ち着くだろうとな」

「それで、兵士さん達の運用を?」

「まぁ訓練などを見ていて思いついたから、というのが一番だがな。タクミ殿とレオ様のおかげか、ここは気持ちのいい空気の流れる場所になっている。その中で何もせずにのんびり過ごしていると、それはそれで嫌な方へと考えが向いてしまいかねないのでな」


 要は、ちょっとした予感のようなものを感じて、ジッとしていられないという事なんだろう。

 人は何もせずただのんびりしていると、マイナス思考になる場合もあるらしいし、ある程度は考えたり動いていた方がいいしそちらの方が向いているという人もいるからな。

 まぁ、先代公爵様で、当主だった時には夫婦で俺が想像できない程多くの事を考えていたんだろうし、経験なども踏まえてその予感らしきものは、無視しない方が良さそうだ。


 虫の知らせ、というよりは亀の甲より年の劫の方かな?

 ともあれこの二人が何かを感じ、思いついた事ならやって損はないだろう。

 何もなければそれはそれで、ただ兵士さん達や公爵領のためになりそうな事みたいだしな。


「ハルトの方には、私から話をしておく」

「わかりました。フェリー、というかフェンリル達には俺から話しておきます。まぁ……あっちを見ると、拒否はしないと思いますから」

「兵士達にとっては訓練でも、フェンリル達にとっては遊びに近いのだろうな……」


 体に付いた土などを振り払っている方を見ると、レオにやられてしょんぼりしているフェンリル達だけど、兵士さん達の訓練の時は楽しそうにしているからな。

 エルケリッヒさんが何を思いついたかはわからないけど、一方的にやられるわけじゃないから、フェンリル達にとっては楽しい事になるかもしれない。


「あぁそうだ、クレア」


 エルケリッヒさんやマリエッタさんが離れた後、そういえばと思い出してレオ達の方を眺めているクレアに話しかける。


「クレアの方は、今後の進捗を待つ事になるだろうけど、畑の方も順調だからクラウフェルトは三日後から正式に開始、という方向になりそうなんだ」

「そうですね……森の異変とカナンビスやフェンリル達、心配事があるので私の方はまだ動く機会を窺っている状態ですが、タクミさんの方が順調なら」

「うん。まぁ、正式にって言っても毎日のやる事はほとんど変わらないんだけどね」


 基本的に俺は、『雑草栽培』で薬草を作って、従業員さん達と一緒にそれを増やしていくというのがほとんどだからな。

 クレアが動き出してから、本格的に商会としての利益がどうなるか……などはあるだろうけど、現状ではラクトスへの出荷もある。

 それに、多くの兵士さん達がいるから、それはそれで多少の薬や薬草の需要はあるし。


「こっちは、クレアが動き出すのを待つ間はできるだけ薬草や薬を増やすよう頑張るよ」


 薬草も薬も、日持ちして保存できる物が多い。

 今のうちにどんどん生産して、在庫を増やす期間と考えれば悪くない。

 差し当って、今すぐ利益を求めなければいけない程逼迫はしていないしな。

 もてあますようなら、エッケンハルトさんに頼んでラクトス以外の公爵家運営のお店へ、多く卸すとかもできるわけだし。


 というか、既にそちらにはある程度の薬草や薬を渡してあったりする。

 ミリナちゃんが作った目玉商品用の薬はまだだけど、一般的な物はな。


「無理はしないで下さいね? そのために、こうして商会という形にしていますから。私の方は、いつでも動き出せるように準備を進めておきます。もっとも、リルルも含めていつでも動けると言えば動けるのですけど」

「リルルがやる気十分だったからね。でも、ある程度調査の方の目途が付かないと、やっぱり不安だしね」

「ですね。せっかく協力してくれているのに、フェンリル達が苦しむような事は避けたいですから」


 カナンビスの薬、以前フェンリル達の一部が苦しんでいるのを目の前で見た。

 一応サニターティムという、予防薬が作れたけど……それでも不安だしな。

 エルケリッヒさんじゃないけど、なんとなくあれこれが片付いてから、本格的にフェンリル達に動いてもらった方がいい気がする。


「そういえば、畑の方は賑やかになっていますけど、通常栽培の方はどうでしょうか?」


 ここからは見えないけど、ふとクレアが薬草畑の方へと顔を向けながら言った。

 少し前までは何もなかった場所だけど、今では薬草が多く作られて確かに賑やかになっていると言えるかな。

 動いてくれている人も多いし。


「そちらもある程度上手くいっているみたいだね。まぁ、もう少し色々試してみないとわからないけど……いくつか、上手くいっていないのがあるから」

「やっぱり、難しいんでしょうか?」

「うーん、本当の意味での通常栽培よりは、難しいわけじゃないみたいなんだけどね。土が合わないのか、気候なのか、それとも水なのか……同じ薬草でも、枯れてしまう物があれば、根付くのもあってね」


 通常栽培というのは、数をとにかく増やす『雑草栽培』からさらに発展させて、そのまま生育させてみるという試みだ。

 要は『雑草栽培』の影響がほとんどなくなった物を、そのまま成長させるとどうなるか、というだけなんだけどな。

 ただ本来はこの辺りでは見かけない、つまり生育させるのが難しい薬草でも、そのまま枯れずに成長し、次の芽を出したりもしているから、そこは『雑草栽培』の影響が残っているんだろうと思う。

 付近で見ない、というのはつまり何かしらの理由で生育する事ができない、という事でもあるからな。


「そもそも、薬草を手ずから育てるという試みもあまり行われてこなかったわけだし、そこはこれからじっくりとだね」

「ですね。個人で少し、数種類の薬草をというのはやっている事もあるでしょうけど、ここのように大規模にというのはないはずですから」



読んで下さった方、皆様に感謝を。


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