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1957/1979

レオは圧倒的でした

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「タクミさん?」

「うーん、皆、少し衝撃というか揺れに備えておいた方がいいかもね。こちらは大丈夫……だとは思うけど、驚くだろうから」


 不思議そうに俺を見るクレアと、腕を組んで考えつつ、忠告をするユートさん。

 やっぱり、そうなるよなぁと思いつつ、皆に驚かないよう言っておく。

 ……多分一切驚かないというのは無理だろうけど、一応備える事はできるはずだから。

 ユートさんによれば、こちらは大丈夫っぽいから多少驚くくらいはいいんだけど、変に混乱させちゃわないように。


「ワフー!」

「レオ!?」

「レオ様!?」

「ママだー!」


 大きく吠えながら地面に潜っていたレオが、最初に作った大きな穴から飛び出した。

 次の瞬間……。


「ガウ!?」

「ガッ!?」

「ぬお!?」

「ひゃあ!?」


 ゴゴゴゴゴ……という地鳴りのような音、というより本当に地鳴りなんだろう。

 地震大国の一つで生まれ育った俺としては、恐怖すら感じる音と共に届く揺れ。

 距離があるからなのか、立っていられない程の揺れではないが、それを感じた数秒後……。


「じ、地面がっ!?」


 クレアの叫び声と共に、フェンリル達がいる場所……それよりももっと広い範囲で、俺達を守ってくれている氷の壁付近まで。

 数十メートルにわたって地面が陥没した。

 もうもうと立ち上る砂煙と、陥没に巻き込まれるフェンリル達。


「っ!」

「大丈夫、落ち着いてタクミ君。タクミ君が行っても、というか誰が行っても何もできないとは思うけど、フェンリルならあれくらい問題ないだろうから」


 危険かも、と感じて飛び出そうとした俺を手で制するユートさん。

 立ち上る砂煙からは、規模と深さが感じられる。

 それでも確かに、フェンリル達なら大丈夫……なのかもと少し落ち着いてようやく思えるようになった。


「ガウー!」

「ガフ!」

「……ほんとだ。良かった」


 風に流され、少しずつ晴れて行く砂煙の中から、複数のフェンリルが飛び出してくる。

 それに続いて他のフェンリルも。

 ユートさんの言う通り、確かにフェンリル達は無事なようだ。


「はぁ、心臓に悪い」

「ははは、タクミ君の気持ちはわからなくもないけどね。僕も、地震となるとやっぱり身構えちゃうし。色々見て育っているし」

「まぁ、ね」


 日本でそだっていれば、実際の被害に遭っていなくてもニュースとかで一度くらいは悲惨な場面を見た事がある人がほとんどだろう。

 まぁ、レオが引き起こしたものだし本物の地震とは違うけど、地面が揺れて陥没とかになったら身構えてしまうのも仕方ない。

 ……本物で一番危ないのは、揺れたその後のあれこれや、倒壊する建物に巻き込まれたりする事だとは思うけど。


「レオのやつ……後で注意しておかないと」


 レオとしては、自分が凄い事をアピールしてフェリーのように褒められたいって気持ちだったんだろうけど。

 でもさすがになぁ……。

 大分砂煙が腫れて来たけど、かなりの広範囲で地面が陥没しているし、レオがその巨体を完全に埋もれさせて移動できる程だから、結構な深さにもなっているようだ。


 穴だらけにしたのもどうかと思うけど、地形が変わっちゃってるじゃないか。

 いやまぁ、フェリーとフェンの戦いで小さなクレーターぽい物ができていたから、今更かもしれないけど。


「んー、レオちゃんというか、シルバーフェンリルが全力で動いたら、魔法なしでもこれはまだマシな方だと思うよ? 本当に殲滅するくらいの気合でやったら、もしかすると僕達が作った氷も無事じゃなかっただろうし」

「……そこまでだったんだ。これまでは実感とかほとんどなかったけど。でも、そんなレオに魔法抜きとはいえ、物理で挑もうとしていたユートさんって……」

「はっはっはー、自分でも無謀だと思うしそれはわかっているんだけどねぇ。でも、挑まずにはいられないのがゲーマーの性なのだよタクミ君」


 何故だか誇らしげに笑うユートさん。

 裏ボスとか、ゲーム的な感覚だからこそ、ゲーマーは挑まなければいけないと考えているんだろうか?

 いや、どう考えても人間の身であんなことをするレオに挑むのは無理無茶無謀のスリーエムだろうに。

 命の取り合いとか、そういう方向ではないからまぁ、いいのかもしれないけど。


「まぁよくわからないユートさんのこだわりは置いておいて……」

「えぇ!? 結構重要だよ!? なんなら、一晩と言わず数日くらい語ってもいいくらい!」

「なんかそれ、好きなゲーム談義の方向に行きそうだから遠慮しておくよ。それはともかく、そろそろ見えるようになったかな?」


 どうでもいい事……ユートさん的にはどうでもよくないのかもしれないが、ともかくと視線を戻してみると、ようやく立ち上っていた砂煙が晴れてほぼなくなり始めていた。

 フェンリル達は全て無事なようで、よく見てみると体が汚れている程度で、おそらくだけど怪我はないように見える。

 そして、陥没から逃げ出し、場所が少し変わったフェンリル達とは別に、晴れて行く砂煙の中で悠然と立っているレオが……ブレた!?


「キャウン!」

「キャフー!」


 瞬間、フェンリル達の悲鳴が上がり、数体が大きく弾き飛ばされた。


「……見えなかったけど、レオが何かした……んだろうね」

「そうみたい、ですね。風のように走るシルバーフェンリル。以前から、何度も目で追えないくらいの速さで動くのは見ていますが……」

「グルゥ、グルル……」


 俺だけではなく、クレアも、そしてフェリー達もレオの動きはよくわからなかったらしい。

 ただ、ブレただけのレオは元の位置にいるけど、フェリー達からは一応レオが動いたというのはわかったみたいだ。

 多分目にもとまらぬ速さで動いたレオが、体当たりか何かをして弾き飛ばしたってところかな。

 悲鳴を上げたフェンリル達は、そのまま地面に投げ出されたけど、怪我はしてなさそうだしフェリー達も血の匂いはしていないし大丈夫とも言っていたのでホッとする。


 理解の範疇を越えた動きをするから、心臓に悪いな……。

 あくまで模擬戦だから、あまり怪我とかはして欲しくないんだけど。

 レオは心配ないかもしれないけど、それでもなんとなく心配してしまうのはマルチーズでか弱い小型犬だった頃を知っているからだろうし、フェンリル達は丈夫で俺が心配する必要はない存在だと頭では分かっていても、どうしても心配してしまうんだよな。


「ワウーーー!!」


 悠然とフェンリル達を見渡して立っているレオが、空に向かって大きく遠吠え。

 どうやら、かかって来い的な事を言っているみたいだ。

 確かに開始してから、レオが動くばかりでフェンリル達はレオに対して逃げる以外の行動はしていないからな。

 ……これまでで、既にレオの凄さとかはよくわかるし、もう終わらせてもいいんじゃないかと思うんだけど。


「ガウゥ!」

「グルゥァ!!」

「ワフ!」


 そんな俺の考えを他所に、挑発されたわけではないだろうけど、二体のフェンリルがレオに向かって大きく飛び掛かる。

 一体は前足を上げ、もう一体は大きく口を開けている。

 が……レオが小さく鳴いたと思った瞬間、前足を上げて爪を向けていたフェンリルがレオに咥えられ、口を開けて噛みつこうとしたフェンリルへと放り投げられた。

 二体がもみくちゃになって大きく飛んで行く。


「ワッフ……」


 口角を上げるレオ。

 そこに残っていたフェンリル達が殺到。

 レオのように目で追えない速度というわけではないけど、人間からするととんでもない速度で動くフェンリル達。

 それに対しレオは、噛みつき……というより咥えて振り回し、前足で叩き落し、あるいは大きく飛んで避け、後ろから追いすがったフェンリルに対しては馬のように後ろ足で蹴り、対処していく。

 数秒程度だろうか、呼吸を忘れて息を飲む俺達が見ている前で、全てのフェンリル達がレオの前に倒れ伏した――。


 いや、レオの前と言うには放り投げられたりして、かなり距離が離れていたけど。

 二体程、俺達の前にあるユートさん達が作った防護用の氷の壁にぶち当たってもいたし。

 ただフェンリル達は全て、土などで汚れてはいるけど血が出る程の怪我をしているのはいないようだった。

 多少、打撲というか強く打たれて、もしくは地面などと激突しての痛みくらいはあるだろうけど。


 その証拠に、怯えて体を震わせながらもフェンリル達は「クゥーン」だの「キューン」だのといった鳴き声を上げている。

 痛みにというよりは、無理だーって言っているような感じだな。


「まぁ、こうなるよねー。力の差があり過ぎて、怪我すらさせないようにフェンリル達を圧倒ってところかな。フェンリル達も一応飛び掛かりはしたけど、どれもレオちゃんに触れる事すらできなかったみたいだし。レオちゃんからではなく、フェンリルからって意味でね」

「み、見えてたの? 俺、ほとんどよくわからないまま、フェンリル達が飛ばされたくらいなんだけど」

「わ、私もです。何をしたか、は多少わかる事もありましたけど、はっきりとまでは……」


 ユートさんが肩を竦めているけど、その言葉からはレオの動きが見えていたかのようなニュアンスが感じられた。

 クレアも頷いているけど、俺達からするとなんとなくレオが蹴ったとか、フェンリルの体を咥えたとかくらいしかわからない。

 まぁ大きくジャンプしたくらいはさすがにわかるけど……。


「伊達に、シルバーフェンリルを魔法なしで倒そうとは考えていないよ。とは言っても、その使わないはずの魔法を使って、一応認識できるようにしたってだけなんだけど。そうして慣らして、いつかは……」

「あれを見た後だと、それがどんなに無謀なのかよくわかってしまうんだけど、とにかくそういう事なんだ」


 どう考えても、魔法なしでさっきのレオの動きに対抗なんて考えられないんだけどなぁ。

 レオ以前に、フェンリル達に対しても無理だろう。

 あれは一体一でどうにかできる能力じゃない。

 とはいえ魔法が加われば、こちらに有利かというと全くそんな事はなく、むしろ戦うとしたらもっと絶望する事になるんだろうけど。


 そもそもに、魔法が使われたらさらに手が付けられないからこそ、ユートさんは魔法抜きでと考えていたはずだ。

 倒すと言っても、命に関係する倒すではなく、模擬戦で一本取るとかそういう方面ではあるけど。


「ほら、やり込みでよくあるじゃない? 裏ボスを倒すためには、最強の装備を整えてレベルも最高まで上げてって。それくらいしてやっとまともに戦えるし、それでも確実に勝てるとは限らないってね。だからこそ、やり甲斐があるんだけど」

「生粋のゲーマーってわけかぁ。うんまぁ、それだけしても勝てる気がしないけど」


 そもそもレベルなんてものはないし、単純に体を鍛えるなどをしなければならないし。

 最強装備なんて言われても、伝説の武器とか防具なんてないしなぁ。

 あったとして、人間ができる範囲でレオというかシルバーフェンリルを単独でどうこう、というのはできる気が全くしない。

 まぁ、ゲームとして考えれば誰かが作っているわけで、どうにかして勝つ方法みたいなのはあるんだろうけど。


「レベル……? ゲーマー?」


 ユートさんと俺の会話に首を傾げるクレアは、ゲームの話がわからなくて当然か。

 まぁその辺りは置いておいて……。


「とりあえず、これで終了って事でいいのかな?」

「そうみたいだね。レオちゃんもこっちに戻ってきているし」


 めいめい、フェンリル達が起き上がっている中を、悠々と……誇らしげにゆっくりとこちらへ向かっているレオ。

 ユートさんの言う通り、レオ対フェンリル達の模擬戦は終了って事でいいみたいだ。

 フェンリル達に戦意は元々ないに等しかったけど、全然感じられないし、レオもそんな雰囲気じゃない。


「わかってたけど、本当にレオにとってフェンリルを相手にするのは簡単な事なんだろうなぁ」

「そうですね。実際に見ても先程フェリーとフェンのような戦いをするフェンリルが、とは思いますが。以前レオ様が言っていたのは、間違っていなかったと。もちろん、レオ様の仰る事でしたし、嘘だとは思っていませんでしたが」


 フェリーとフェンの戦いも凄まじかったけど、レオはそれこそ月並みな言葉になるが格が違うという事なのだろう。

 こちらに戻って来るレオには疲れた様子が一切見られないし、はっきり目で追えなくとも数の多いフェンリルが終始圧倒されていたのだから。

 ……いきなり、地面に潜って逆もぐらたたきのようなトリッキーな動きをするのは、ちょっとどうかと思ったけど。

 レオにとっては遊びに等しい感覚、なのかもしれない。


 俺やクレアだけでなく、エッケンハルトさんなど他に見ていた人達も同じように、呆気にとられているというか……これほどまで違うものなのかと、少しだけ信じられないと言った様子なのが垣間見られた。

 そのエッケンハルトさんからは、「すまぬタクミ殿。以前レオ様に剣を当てられたら一人前以上だろう、と鍛錬の一つに追加したが……相手がフェンリルだとしても、回避に専念するだけで剣を当てられれば達人の域だろう。以前私もレオ様に相手をしてもらったが、あの時は今回以上に手を抜かれていたのだろうな」なんて言われた。

 複数のフェンリルが襲い掛かって来るのを、軽々と回避しているレオを見ていると、確かに人間基準で一人前と言われる程度では、本当にレオへ当てるのは難しいでは済まないというのがよくわかるからな。


「しかし……あれはどうしたら消える、というか溶けるんだろう?」

「向こうがはっきりと見える程透明なのでわかりづらいですが、凄く分厚いものと思いますけど……溶けるのでしょうか?」

「永久凍結、とかってわけじゃないから放っておけばいずれ溶けるよ。まぁ、何もしなければ一週間くらいは形を保っているかな?」

「それ、永久ではないにしろそれに近い感覚な気がするんだけど……」


 レオが戦うからと、その防御壁として作られた氷の壁。

 終わってみればそれがどうなるのか少し気になったが、ユートさんの言葉を聞けば永久凍結? とやらとほぼ変わらない気がする。

 まぁ、確かに言葉として正しく永久というわけじゃないから、間違いではないんだろうけど。


「あれに関しては、こちらに任せてくれ。兵士達の訓練にもなるだろう」


 誰も来ないような場所だから、放っておいてもいいのかな? と思っていたらエッケンハルトさんが請け負ってくれた。

 ただの氷の壁ではあるけど、それも訓練に利用するのかぁ。

 聞いてみると、火を扱う魔法などで融かせば魔法の訓練になるという事だった。

 ……ちょっとだけ参加してみたい気がしたけど、とりあえず任せる事にしよう。


「ワフ、ワフ!」

「お、レオ。戻って来たか。お帰り」

「ママお帰り―!」

「ワフン!」


 兵士さん達に指示を出し始めたエッケンハルトさんと、フェンリル達の様子を見たりなど、解散の雰囲気になる中、レオが戻って来た。

 迎えると、お座りして顔を上げて誇らしげに鳴く。

 色々と言いたい事はあるけど……レオとしては張り切っていた事だろうからな――。



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