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1954/1996

フェリー対フェンの対決が始まりました



「グルー、グルルル」

「成る程、じゃあ前みたいにフェンとやってもらうのがいいか。とはいえ、張り切り過ぎて怪我とかはできるだけしないようにな?」

「グルゥ」


 というわけで、フェンとのリベンジマッチが決まった。

 まぁ、フェンを呼んできて事情を話すと、少し嫌そうだったけど……そこはそれ。

 シェリーやリルルによっておだてられたというか、要は格好いいところが見たい! みたいに鳴かれてやる気になっていた。

 フェンとしては、フェリーのような闘争心みたいなのはあまりないみたいだけど、それは以前勝っているからなのかもしれないな。


「それじゃあ、レオとリルル、それから他のフェンリル達はこちらが巻き込まれないようにしてもらって――エッケンハルトさん、あまり前に出ないように気を付けて下さい」

「うむ。リルル達よりは前に出ないようにしよう」

「あれがもう一度見られるのは、ちょっと楽しみですね」


 フェン達を呼ぶ際に合流したクレア達とも一緒に、場所を移して向かい合うフェリーとフェンから、安全な距離を取りつつ注意事項を促す。

 前回も、レオやリルルがいなかったら、風とか飛んできた石とかで結構危険な感じだったからな。

 体の大きなフェンリルより後ろというのは、観戦条件としてはあまり良くはないだろうけど、安全のためだから仕方ない。

 ともかくそれを、さらに集まった村の人達や使用人さん、従業員さんにも徹底してもらい、ついでに兵士さん達には前列で盾を構えて並んでおいてもらう。


 少しでも、危険な事にならないようにという配慮だな……大丈夫だとは思うけど。

 ちなみに兵士さん達は、フェンリルとの訓練でへばっていた人も含めて、調査に行っていてこの場にいない人以外のほとんどが集まっている。

 なんというか、かなり大勢での観戦モードになってしまっているけど、まぁいいか。


 フェンリル同士の戦いというのが、本当に兵士さん達などへの参考になるかは疑問だが、あまり気にしないようにしよう。

 言葉は悪いが、見世物的には悪くないのかもしれない。


「タクミ殿は、どちらが勝つと思う?」

「楽しそうですね……んーと、今回はフェリーが勝つ気がします。なんというか、魔法禁止なので全力ってわけではないんでしょうけど、勝利への渇望みたいなのがフェリーの方から強く感じますから。前回見た限りだと、大きな力の差みたいなのはなさそうでしたし」


 一度だけだし、お互い死に物狂いで戦ったとかではないはずなのでわからないが、前回見た限りではフェリーもフェンも大きく力の差があるようには見えなかった。

 それでも、人の身からすると明らかに異次元と言える動きだったんだけど。


「実力が伯仲している場合は、気の持ちようで変わる事も多々あるのはわかる。私もどちらかと言えばフェリーかとは思うが……今回はフェンにしておこう」


 そう言って、懐から金貨を出すエッケンハルトさん。

 恒例……ではないが、以前もやったどちらが勝つかの賭けをしようというようだ。

 前回は銅貨だったと思うけど、剛毅に金貨を出すのがエッケンハルトさんらしい。


「どちらかと言えばフェリーなのに、あえてフェンなんですか?」

「先程様子を見ていたが、なんというか他人事には思えなくてな。気持ち的に、フェンを応援したいというわけだ」


 多分、シェリーやリルルにおだてられていた部分だろうか。

 エッケンハルトさんなら、こういう模擬戦とかを嫌がる事はないと思うけど、クレアやティルラちゃんに言われたら、ものすごいやる気を出してしまいそうだからわからなくもない。

 俺も、リーザから言われたら多分……。

 そんな事を考えつつ、懐からお金……は持ってきていないので、ある程度管理を任せているライラさんから金貨を受け取り、差し出す。


「私は、タクミさんと同じくフェリーで。気力というのでしょうか、フェリーの方が充実しているように見えます。あと、こちらに来てからは特にですが、フェリーとフェンの様子を見ていると……ですね」


 クレアは俺と同じようにエルミーネさんから受け取り、こちらも同じく金貨。

 最初にエッケンハルトさんが金貨を出したからっていうのもあるけど、結構賭け金が大きくなってしまっているから、管理はちゃんとしてもらおう。


「では、私が仕切らせてもらいます。割合としましては、フェリーの方が優勢のようですな」


 さらにエルケリッヒさんやマリエッタさん、テオ君やオーリエちゃんなども加わり、他の見物人や兵士さん達も含め、賭け金の徴収や管理はセバスチャンさんが担当。

 エルケリッヒさん達やテオ君は俺達と同じく金貨だけど、オーリエちゃんに関してはちょっと教育に悪そうなのが心配だ……。

 見物人さん達は、それぞれ出せる範囲でほとんどが銅貨らしく、用意されたテーブルに積み上がっている。

 それぞれの表情を見る限り、無理をしている様子はないので皆賭けにのめり込んでやり過ぎないようにというのはわかっているんだろう。


 ある意味、これも学びとしては悪くない……のかな?

 リーザやティルラちゃんも、お小遣いから出せる範囲で出している。


「僕はこれで! 手堅くフェンだね!」

「さすがに多すぎると思いますが……まぁ、損をするのは閣下なのでいいでしょう。いつもの事ですし。私はフェリーです」


 楽しそうに金貨を数枚出したのはユートさん。

 溜め息混じりにそれを見つつ、そっと銀貨を出したルグレッタさん。

 なんとなく、ルグレッタさんの様子を見ていると、ユートさんはこういう賭け事には強くないのかもしれない。 

 いつも負けて損をしている、というように聞こえるからな。


 あとは、簡単な賭けのルールを確認。

 通常は胴元が儲かるように払い戻しの倍率、オッズが変わるが、今回は簡易的なもの。

 負けた方の賭け金を、勝った方へと均等に分配する方式で、もちろん勝った方は自分の賭け金は戻って来る。

 賭けの比率は大まかに見て、フェリーが三でフェンが七といったところだ。


 これは、前回やった時にフェンが勝ったという情報が周知されたためだと思われる。

 ちなみにリーザも含めて子供達の多くはフェリーに賭けていて、見た感じの雰囲気とかで決めていたりもする。

 前回の勝敗を重視する、もしくはパパとしての気持ちを考える大人達と、普段一緒に遊んだりしている子供達の感覚のどちらが正しいのかがわかる……というのは大袈裟か。

 大人だってフェリーに賭けているし、フェンに賭けている子供もいるわけだしな。


「グル!」

「ガウ!」


 こちらの準備が終わったのを見計らったわけではないだろうけど、いつでもいいよ! というように、フェリーとフェンが向き合いながら俺達に向かって鳴く。

 フェリーに至っては、いつでも動き出せるように姿勢を低くしての臨戦態勢だ。

 ……やる気だなぁ、空回りしないといいけど……いや、傾向的に空回りするのはフェンの方か。

 よく、シェリーにいいところを見せようとして、リルルに叱られたりしているからなぁ。


 何はともあれ、開始を待つフェリーとフェンを待たせ過ぎないように、お座りしているレオの横に行く。

 リーザは身長的にちょっと見づらいようなので、俺が肩車をし、ティルラちゃんはエッケンハルトさんが、他の子供達もそれぞれ大人達に肩車されている。


「それじゃレオ、頼むよ」

「ワフッ」


 ポンとレオの体に手を当て、軽く撫でつつお願いする。

 頷いたレオが、空へと顔を上げて――。


 アオォォォォォォォン――。

 ガオォォォォォォォン――。


 レオに続いて、リルルを筆頭に集まったフェンリル達が大きく遠吠えをする。

 その次の瞬間。


「グルッ!」

「ガウ!?」


 先に動き出したのはフェリー。

 開始位置から一瞬にしてフェンへと距離を詰める。

 上から襲い掛かるように、右前足を振り下ろすフェリーに対し、フェンが驚きつつも後ろに大きく飛んで避けた。

 ズドンッ! という大きな音と振動、そして吹き荒れる風や砂を撒き散らす。


「……凄まじいな」


 聞こえた呟きはエッケンハルトさんだろうか。

 レオやフェンリル達によって、俺達や見物人には強い風が遮られているのは何かの魔法だと思うけど、ともあれフェリーは最初から全力でフェンに向かうのが窺えた。


「ガウ!」

「グルゥ、グルッ!」


 フェンがシュタッと距離を取るように飛んで着地した瞬間、やり返すとばかりにフェンが大きく飛び上がった。

 それに対し、フェリーも飛び上がり空で交差。


「ガウ!?」


 高さを取るために大きく空へ飛んだフェンに対して、フェリーは一直線にフェンへと飛び上がる。

 フェンを捉えたフェリーはお腹へ強烈な体当たり。

 一応他の獣と同じように、お腹は毛も薄く急所や弱い部分ではあるようで、そこを狙ったんだろう……かなり痛そうだ。

 だがフェンは、驚いた鳴き声を上げながらも弾き飛ばされつつも空中で姿勢を立て直し、地面ではなく宙空を蹴ってフェリーに襲い掛かる!


「グルゥ!」


 それを読んでいたのか、フェリーも宙空を蹴って地面へと着地。

 狙いを失ったフェンはそのまま別の場所の地面へと激突した。

 再び吹き荒れる砂埃と風……小さなクレーターのできあがりだ。

 相変わらずの威力で、人間が当たったらひとたまりもないだろうなぁ、というのが離れてみているとよくわかる。


「ガウゥ!」

「グル!?」


 さらに、地面に着地して振り返るフェリーに向かって、激突したはずの地面から躍り出たフェンが襲い掛かった!

 前足ではなく大きく口を開けての噛みつき、意表を突かれたフェリーだが、それをなんとかすれ違うようにして回避。

 通り過ぎたフェンに対し、空に飛びあがってバク転するように回転しつつ、宙空を蹴ってフェンへと向かう……のを待っていたかのように、地面に着地するより先に、フェンが宙空を蹴って高く飛んだ。

 目標を失ったフェリーはそのまま地面へ、フェンはさすがに追撃をかけられないのか、そのまま落下して着地。


 かなり高く飛んだようなのに、着地時には特に衝撃もなく優雅に見えたのはさすがフェンリル、という言葉で片付けていい物か少し悩む。

 その後も、激しい攻防……フェンが避けて反撃しようとすれば、フェリーがそれを潰すし、フェリーの攻撃の動きを利用して逆にフェンが弾く。

 砂埃と風……いやもう、砂嵐と言って良さそうなくらいのものを発生させ、大地を揺らす。


「なぁ、タクミ殿。フェリーもフェンも、空中で動きを変えているというか……何もないのに地面があるような動きをする事があるんだが……?」


 時折、レオやフェンリル達が防御のためか小さく鳴くのを除いて、フェリーとフェンの戦いを全員が固唾を呑んで見守る中、そっと近づいてきたエッケンハルトさんから呟くような疑問。


「前もそうだったんですけど、どうやらフェンリル達ってそう言う動きができるみたいなんです。どういう理屈かはわかりませんけど……ただ、見ている分には一回だけって制限があるみたいですね」

「そ、そうなのか。兵達との訓練ではあんな動きをしていていなかったのだが。それは、やる必要がなかっただけなのだろうな……」


 どういう理屈でやっているのかはわからないが、フェンリル達は何もない宙空を蹴って軌道を変える事ができる、というのは以前も見ていた。

 ただ魔法を使わない事以外は、全力で戦っているフェリーとフェンを見ていると、必ず一回のジャンプにつき一回しか使っていないようなので、何かしらの制限みたいなものがあるんだろうと思う。


「まぁ、人間があれだけ高く飛び上がる事もないので、使わないっていうのもあるんでしょうけど」


 人間相手に空中で軌道を変えるのを使うのが、正しいとは限らないしな。

 基本的に、お互い使えるから高く飛んでの空中戦っぽいのがあるから、利用できるとも考えられる。

 まぁ、使い方次第だろうし、訓練で使っていないからといって、兵士さん達相手にフェンリルが全力で動いていないとは言えないってわけだ。

 それはエッケンハルトさんもわかっているようで、真剣に見入っているティルラちゃんを肩に乗せながら、揺らさないように小さく頷いていた。


「相変わらず凄まじいですけど……本当にあれを見ていると、フェンリルがどれほど凄まじい魔物なのか、というのを実感させられますね。普段は可愛いのですけど。ね、シェリー?」

「キャウ」


 今度はいつの間にかシェリーを抱いていたクレアから話しかけられる。

 さらにその後ろから、ユートさんが感心するように頷きながら声をかけてきた。


「あれはねぇ、魔力を足場にしているんだよ。魔法じゃないし、フェンリル程の魔力があるからできる事だけどね。でも、かなり集中がいるんだと思う。だから、一度のジャンプで一回しかできないって感じかなぁ」

「魔力を足場にって……そんな事できるの?」

「人間には不可能だよ。どれだけの魔力がある人でもね。魔力の物質化、と言うのに近いからね……」


 魔力の物質化……だから地面のように蹴って軌道を変えられるってわけか。

 本来魔力は目に見えないし触れない、空気に近い性質っぽいし、それはとんでもない事なんだろう。

 多少魔法が使える程度で、魔法や魔力について詳しく勉強しているわけじゃないから、どれだけの事なのかは実感がないけど、人間にはできないとユートさんが断言する程だから、それだけでもかなりのものというのはわかる。


「ワッフワフ。ワウー、ワフガウ」

「そ、そうなのか」


 そんな話をしていると、レオが何やら主張。

 フェンリルと違って自分だったら、一回だけじゃないと言いたいらしい。

 そういえば、以前遊びの時に何度か宙空を蹴ってラーレが飛んでいる高さくらいまで飛び上がっていたっけ……。

 さすがシルバーフェンリルといったところなんだろう、と思いつつ、レオを撫でておいた。


「おっと、そろそろ決着がつきそうだね」


 そう言うユートさんの言葉に促されるように、激しい攻防を繰り広げていたフェリーとフェンへと、再び集中する。

 ……てか、ユートさんはフェンリルにも勝てるみたいな事を言っていた気がするな。

 もしかすると、『魔導制御』という魔力無限の効果があるギフトで、ユートさんにも同じ事ができるのかもしれない。

 まぁ、宙空を蹴って軌道を変えられるからといって、それだけでフェンリルに勝てるというわけではないだろうけど……。


「グルゥ……」

「ガウゥ……」


 そんな事を頭に巡らせている間に、フェリーとフェンは開始前と同じように少し距離を話して対峙し、お互い大きく息を吐いていた。

 特に怪我をした様子は見えないが、モコモコだった毛は砂埃などで汚れており、何度か地面に叩きつけられてもいたからか、いつもの力強さが感じられなくなっている。

 ユートさんの言う通り、そろそろ決着がつきそうだ。


「グル……グルァウ!!」

「ガアゥ……ガアァウ!!」


 お互い姿勢を低くし、全身に力をためて……大きく飛び上がった。

 空中で体がぶつかり合い、フェリーもフェンも大きく弾かれる。

 そのまま二体共地面に落下するのかと思っていたら、フェリーが動いた……!




読んで下さった方、皆様に感謝を。


別作品も連載投稿しております。

作品ページへはページ下部にリンクがありますのでそちらからお願いします。


面白いな、続きが読みたいな、と思われた方はページ下部から評価の方をお願いします。

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■7巻書影■mclzc7335mw83zqpg1o41o7ggi3d_rj1_15y_1no_fpwq.jpg


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