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1951/1977

フェリーがレオに叱られました



「とりあえず、そちらには私から連絡を取っておこう。既に、ユート閣下からの報せが行っているだろうから、話しは通しやすい」

「お願いします」


 そういえば、ユートさんが全貴族に――とか言っていたっけ。

 カナンビスの事も含めて、調査をするというのなら一大事として許可も出やすいか。


「あとはそうだな……ルグリア殿、発見した野営跡ではどれ程の人数がいた見込みだ?」

「そうですね、こちらもフェンリル達にも確認していただきましたが、十人と思われます。我々人間だけであれば、もう少しあいまいな答えになっていたでしょう」

「そうか……」

「頑張ったな、フェリー」

「グルゥ、グルル!」


 ルグリアさん達だけだったら、十人いたかどうか――という報告になるところだったのが、フェンリル達がいてくれたおかげで十人だと断定できたわけだ

 褒めるようにフェリーに声を掛けつつ撫でると、レオが良くするように尻尾を振りながら顔を上げて胸を張って自慢気な様子。

 行き帰りの移動だけでなく、調査に関しても相変わらず活躍しているようだし、ご褒美はちゃんとあげないとな。


「予想より多いが、場所が場所だけにそこに留まるならそれくらいは必要か。ただ、規模で考えるとそれなりの者が関わってそうだな」

「そうですね。ユートさんの見込みが当たっているのかもしれません」


 十人で、しかもカナンビスを使ってとなると、ちょっとした組織とかでできる事じゃない……と思うから、エッケンハルトさんの言う通りだと思う。

 言外に、貴族が関わっている可能性も示唆しているようだし、多分ユートさんが言っていた通りっぽいなこれは。

 ともあれ、他にルグリアさん達が調べてくれた事をいくつか、俺やクレア、エッケンハルトさんが質問する形や、ルグリアさんからも気付いた事という形、フェリーからも確認を含めた報告を受ける。

 まぁ、さすがに一度調査をしただけで、広範囲に調べたわけでもないからこれまで報告されて話し合った内容以上の事はなかったけど。


「えーっと……ご苦労様でした、ルグリアさん。フェリーも」


 話し合いというか報告会みたいなのが終わり、ルグリアさんとフェリーを労う。

 わからない事もまだまだ多いけど、こうして調査に協力してくれたからこそわかった事もあるからな。

 こういうのは慣れていないけど、一応調査隊のトップ役らしいから、エッケンハルトさんやクレアではなく俺がいうのが正しいらしいが……。


「いえ、もっとお役に立てる調査結果を持ち帰る事ができれば良かったのですが……フェンリル達にも協力してもらいながら、不甲斐ないばかりです」

「グルゥ」

「それでもわかった事もありますから。数日間、森を抜けて戻って来る……長距離の移動でしたし、疲れたでしょう。労うというと偉そうに聞こえるかもしれませんが、今日の夕食はお楽しみを用意したので期待していてください」

「はっ、ありがたく!」

「グルゥ……グルゥ?」

「ワッフ、ワフワフ」


 騎士らしく、疲れを見せない様子で立ち上がり俺やエッケンハルトさん達に向かって、礼をするルグリアさん。

 対してフェリーは、俺が行ったお楽しみという言葉に反応したようだ。

 夕食とも言ったから、食べ物という事がわかったのもあるんだろう。

 レオが通訳してくれたが、ハンバーグじゃないの? という事らしい。


「うーん、ハンバーグの一種というか、まぁアレンジだな。美味しくハンバーグを食べるための、ちょっとした工夫を加えてみたんだ。フェリーにとってはご褒美になるかと思ってな」

「グルゥ!? グル、グルル!?」


 あれ以上、ハンバーグが美味しくなるの!? というように鳴くフェリー。

 さすが好物になっているだけあって、ハンバーグに対しては反応が強いなぁ。


「もちろん、今回の工夫以外にもハンバーグを美味しく食べるアレンジは、もっといっぱいあるんだけどな。とにかく、期待していてくれ」

「グルゥ!!」

「ワ、ワゥ……」


 カナンビスの薬なんかよりも、ハンバーグの方がよっぽどフェリーに対しては興奮作用があるなぁ、しかも食べ過ぎ以外で危険はないし。

 なんて考えながら、立ち上がってパンティングし、激しく尻尾を振るフェリーを見る。

 左右に振られている尻尾は、フェリーが俺の方に体を向けた事によってレオの顔にバッサバッサと激しく降りかかっている。

 痛くはなさそうだけど、ちょっと迷惑そうな鳴き声を出すレオが面白い。


「あ、そうそう、もちろん人が食べても美味しいはずですから、ルグリアさんも期待していて下さいね。俺だけだと不安かもしれませんけど、料理長のヘレーナさんも太鼓判を押しています」

「それは確かに期待できますね。いえ、タクミ様が仰るだけでも、十分なのですが。こちらに来てから、美味しい物は沢山食べさせていただいておりますから。少しだけ、食べ過ぎてしまって心配になる程です」

「……それは私も気持ちがわかりますね」


 なんて、ルグリアさんにも期待してもらおうと思ったら、最後はクレアと一緒に小さく溜め息を吐いていた。

 美味しいからと食べ過ぎて体重が増える事を心配、とかかな。

 ルグリアさんは騎士として、特に体を動かすわけだし問題なさそうだけど、体重が増えてしまえばその分動きにも支障が出るので心配しているとかもあるか。


 でも、そこはさすがにどうしようもないからなぁ……まぁ食べ過ぎないよう、ルグリアさん達の自制心に期待しておこう。

 味見をした身からすると、フェリーでなくとも自制心が働くのはかなりの覚悟と決意がいりそうだけども。

 ともあれ、ハンバーグの新アレンジに期待をしてもらいつつ、報告会を終わろうとしたところで……。


「ガフ!」

「グルッ!?」

「レ、レオ!?」

「レオ様!?」


 バタバタと、左右に激しく振られていたフェリーの尻尾が邪魔だったのか、何度も顔に当たっていたそれをレオが大きな口で叱るような鳴き声をだしながら咥えた。

 怒りたくなる気持ちはわからなくはないが、突然の事に俺だけでなくフェリーはもちろん、エッケンハルトさんやクレア達も驚いた様子。


「アフ、ガフアフアウ!」

「グ、グルゥ……グルル……」


 何やら、フェリーの尻尾を咥えたまま叱るように鳴き続けるレオに対し、フェリーは少し前までの喜びはどこへやら、耳を萎れさせてしょんぼりした。

 というか、咥えられている尻尾は痛くないのかな?


「レオ、とりあえず尻尾を離してやってくれ。フェリーも反省しているようだから」

「……ア~フ。ワウ!」

「グルゥ……」


 俺に従って、ゆっくりと口を開けてフェリーの尻尾を離し、でもすぐに注意するように鳴くレオ。

 レオの涎でしんなりしたフェリーの尻尾は、耳やしょんぼりした様子に合わせるように、床へと垂らされた。


「大丈夫か、フェリー?」

「グルゥ、グルル」

「ワフ、ワッフワフワウ」


 一応尻尾は問題ないかと様子を窺うと、特に痛みとかはなかったらしい。

 レオとしても、注意するつもりなだけで痛くはしていないとの事だ。

 牙を立てずに、見たまま咥えただけだったか……。

 その後は、しばらくレオによるフェリーへの説教が始まり、何とも言えない雰囲気のままで報告会は解散。


 とりあえず、ルグリアさん達調査隊は、夕食まで休んでもらう事になった。

 ちなみにレオが特に念入りに注意していたのは、嬉しくて尻尾が勝手に振れるのはわかるけど、外ではないんだから気を付けないといけないって事だ。

 確かにレオは、室内でも尻尾を振る時はちゃんと誰にも当たらないようにしていたっけ……マルチーズだった頃はお構いなしだったのに、これが成長か。

 いや、シルバーフェンリルになって色々と変わった事の一つだろうな。


 以前、この世界に来てすぐの頃、別邸でテーブルにぶつかってラモギを落として以来、自分の体の大きさのせいで起こる事に、気を付け始めたような感じでもあるからな。

 ただフェリーに対して厳しく注意しているレオの様子を見て、リーザが二本ある自分の尻尾を左右から体に巻き付け、さらに両腕で抱きしめるようにしていたのはちょっと面白かった。

 リーザは多分、レオの説教を聞いて気を付けようと思ったんだろう。

 でもリーザの尻尾は、リーザの体に対しては大きめではあるけど、それはまだ幼くて体が小さいからであって、俺からするとそこまで大きくないからフェリー達の尻尾程危険じゃないんだけどなぁ。


 当たってもそこまで痛くないし……まぁ、物を倒したり、壊したりしないように気を付ける必要はあるか。

 なんて考えながら、フェリーに滾々と説教をするレオを見守っていた。

 特にそんなお願いはされていないから気にしていなかったけど、フェリー達フェンリルが屋敷の中で自由に動き回るのは、まだまだ先の事になりそうだ。

 広い場所で自由に過ごすのが好きだから、制限される屋内に留まるのは、あまり好きじゃなさそうだし、できてもあまり屋敷の中に入りたがらないとは思うけども――。



「ワフゥ」

「ははは、はいはい」


 フェリーへの説教を終えて、夕食のために庭へ出ると妙にレオが体を寄せて、というか頬を摺り寄せるように甘えて来る。

 多分、フェリーへのご褒美だとか、褒めて撫でていたのが羨ましかったんだろう。

 さっきはリーザが背中に乗っていたし室内だし、他にも多くの人やフェリーが近くにいたから、甘えられなかったのかもな。

 今はリーザがフェリー達を連れてフェンリルを集合させるために、俺やレオから離れているから、チャンスと思ったんだろう。


「そういえば、エッケンハルトさんやクレアが、レオは意外と厳しい……なんて言っていたぞ?」

「ワフゥ? ワウゥ……」

「ははは、まぁレオが言いたい事はわかる。さっきはレオだったから良かったけど、あれが屋敷にいる他の誰かだったら、痛いじゃすまなかったかもしれないしな」

「ワフ」


 ちょっとだけ落ち込むレオを慰めるように撫でる。

 前から、初めてティルラちゃんを乗せて飛んだラーレもそうだけど、人以外には結構厳しいところがある。

 それを、エッケンハルトさん達がこれまでほとんど見ていなかったから、今回改めてそう思ったんだろう。

 最初は甘やかしそうだったし、実際に頭の上に乗せていたシェリーも、つまみ食いと太ったのが発覚して以来、ダイエットなどに厳しくしていたしなぁ。


 意外とレオは、教育っぽい事に興味に近い何かがあるのかもしれない。

 ちょくちょく、フェンリル達に対して何やら指導っぽい事をしているのを見かけるし、リーザの耳や尻尾の撫で方も俺に指導してくれたしな。

 あと、最初はリーザにママと呼ばれて驚いて戸惑っていたけど、すぐに受け入れて今では優しくリーザを見守っているし……これは、教育というより母性の方かもしれないが。


「タクミさーん、フェリー達の準備が整ったみたいですー!」

「タクミ様、夕食の方も準備ができたようです」


 そうこうしている間に、フェンリル達がフェリーを筆頭に整列し、ティルラちゃんの楽しそうな声とほぼ同時にライラさんも後ろから声をかけて来る。

 ……ライラさん、いつの間に。

 こういう、気配を消していつの間にか近くにいるってのはセバスチャンさんだけかと思っていたら……もしかして、そのセバスチャンさんから学んだとかか?

 心臓に悪いので、近くにいる時はせめて存在感を出して欲しいと思わなくもない。


 ともあれ、準備が整ったみたいなのでフェリー達へのご褒美を兼ねた夕食の始まりだ。

 まだ配膳とかもあるけど。


「こちら、準備できました!」

「ありがとうございます。よーし、もう少し待ってくれよー。我慢、我慢だぞー」

「ワッフ、ワフワフ!……ジュル」


 今日の夕食はフェリー達が主役なため、俺も配膳というか大量の料理というか、ほぼハンバーグだけど、それを運んでフェンリル達の前に並べるのを手伝う。

 匂いでの刺激か、フェリーを始めとして整列しているフェンリル達がウズウズしているのを、レオと一緒に抑えながらだけど。

 レオは自分も我慢しているんだから、そっちも我慢、見たいに言っているようだけど、レオにソーセージを使って待てを覚えさせた時と比べると、フェンリル達はおとなしい方だな。

 まぁ、絶対的な存在らしいシルバーフェンリルのレオが目の前にいるから、怖くて動けないとかもあるかもしれないが……。


 あとレオ、我慢できているのは偉いが、涎が垂れそうになっているから気を付けるんだ。

 フェリーもそうだけど、好物だから仕方ないか。

 というか、フェンリル達っていつもは割と自由にしているのに、わざわざ整列する必要はなかったんだが……。


 と思ったが、フェリーによるとハンバーグをさらに美味しくと聞いてこうせざるを得ない、あとレオが見ているから、みたいな感じらしい。

 うぅむ、大好きな物だからこそちゃんとしないと見たいな感じか……ただ、整列しなくてもさすがにレオは怒らないと思うぞ?


「んー! リーザも我慢!」

「私も我慢です!」


 俺や使用人さん達だけでなく、リーザやティルラちゃん、それに他の子供達も手伝ってくれているんだけど、その子供達も美味しそうな匂いが広がっている中、頑張って我慢している素振りが可愛い。

 そんな俺達、というかフェンリルや子供達を、エッケンハルトさん達大人は微笑ましく見ていた。

 まぁ、そうしていながら、エッケンハルトさんはエルケリッヒさんやユートさんと何やら話をしているようではあるけど。

 多分、北の森の先、他貴族の領地への調査などに関してだろう。


「キャウ、キュウ~」

「シェリーも我慢よ。――それにしてもタクミさん、これまでよりハンバーグの……なんとも言えない美味しそうな匂いが濃厚な気がしますけど、これは?」

「ははは、シェリーももう少しだけ待っておこうな? んーと、そうだね。これはハンバーグのアレンジ法の一つ、だけじゃないな。いくつかあるうちのものなんだけど……んー」


 フェリーと同じようによだれを垂らす勢いで、ハンバーグの入った器を凝視してか細くなくシェリーを宥めるクレア。

 そのクレアも、美味しそうなハンバーグの匂いは気になっているようだ。

 これまでと大きく違うという程ではないと思うけど、多分アレンジが良かったからなのと、フェンリル達の前に並ぶハンバーグが大量なので、匂いが特に濃く感じるんだと思う。


 俺の乏しい料理知識と、ユートさんやヘレーナさん達との相談で実現した、という程大袈裟で大変な物ではないけど、とにかくそうして出来上がった料理だ。

 ――もう少しフェンリル達に行き渡るまでかかりそうだから、じっくり説明する時間はありそうだな。


「まずはこれを見て欲しいんだけど……」


 並ぶ器のえーっとなんだったっけ、クローシュだったかな? あのお皿にかぶせる銀色の蓋だ、それを開けてクレアに見せる。

 用意しているのはそれだけではないが、とりあえず見た目はこれまでのハンバーグと大きな違いはないこれの説明からだな――。




読んで下さった方、皆様に感謝を。


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