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1946/1996

クレア達に様子がおかしいのがバレました



「ん、よし。うんうん、綺麗になったなリルル」


 追加の調査隊などの事をとりあえずだけど決めて、リルルのブラッシングも終わらせた。

 スクッと立ち上がったリルルは、ブラッシングしたばかりなのもあって流れるような毛並みが、誇り高い狼……いやフェンリルを体現しているようで美しいと言える姿だ。

 お風呂に入ったわけではないので、完全に綺麗になったわけではないけど。

 雌だから雄々しいと表現していいのかわからないけど、野性的な雰囲気がない事を考えなければ、立派な姿と言えるだろう。


「ガウゥ! ガウ、ガウゥ」

「ははは、お礼のつもりか? 気にしなくていいんだけど、またやって欲しい時は俺か使用人さん達に言うんだぞ?」

「ガウゥ~」


 感謝のためか、俺に向かって鼻先を床に付けるくらい頭を下げたリルル。

 エッケンハルトさん達との話に緊張感は一切出なかったけど、おかげで色々と俺も平静を保てたし、癒されもしたからお互いに良かったってところだな。

 

「キャウ、キャウ~」


 別の方では、シェリーがリルルの真似をするように、マリエッタさんに対してお礼の鳴き声と頭を下げる仕草をやっていた。

 フェンとリルルの子供であるシェリーだから、真似をするのもわかるんだけど……どことなくクレアの姿を思い出したのは、従魔だからだろうか。

 あれかな、飼い主に似るってやつ。


「あらあら、こちらもお礼を伝えているようね。ふふ、こうしてみるとやっぱり可愛いわ。まだ少しだけ恐れる気持ちはあるけれど、私も大分近づけたかしらね?」

「そうですね。シェリーは特にクレアと一緒にいる事が多いので、色々教えてもらっているんでしょう。クレアと、それに実際の両親であるリルルとフェン……リルルの方からのが多いかな?」


 リルルはよく、シェリーに何かを教えるようにしているのを見かけるけど、フェンは背中に乗せたりとむしろ甘やかしている感じだからなぁ。


「ガウ!? ガ、ガウガウ」

「ガウゥ!」

「こらこら、喧嘩するんじゃないぞー?」

「ガウ……」


 そんな事を考えつつ言った俺の言葉に、フェンが抗議するように鳴いてリルルにたしなめられていた。

 ちょっとだうなだれたフェンは、尻尾も一緒に垂れている……ブラッシングしてもらって上機嫌だったのに。

 相変わらず、フェンはリルルに勝てないようだ。


 なんというか、エッケンハルトさんはクレアに、エルケリッヒさんはマリエッタさんにと、俺の周囲は女性に勝てない男性が多い気がするのは気のせいか。

 ユートさんもルグレッタさんに……いや、あれは特殊な例だから一緒にしてはいけなかったな。



「さて……と……」


 エッケンハルトさん達との話を終えて、屋敷の廊下で立ち止まって少しだけ考える。

 フェン達は、エッケンハルトさん達と一緒に他のフェンリル達の待つ庭へと向かった。

 マリエッタさんが、そろそろフェンリル達にも慣れてきたのもあって、恐怖心を払しょくするためにちょっとだけ近付いてみよう、という試みも行われるらしい。


 俺はそんなエッケンハルトさん達と別れ、一人で先程の話の事を考えていた。

 なんとなく、一人で考えたい気分だったから。


「危険な事は、一切ないってわけじゃなかったけど……日本は治安が良かったから、注意こそすれ自分が狙われているなんて基本的に考えなくて良かったんだけど」


 一応取り乱す事はなかったし、ある程度冷静に受け止めている。

 それに考えてみれば、エルケリッヒさんやエッケンハルトさんが言っていたように、下手な事をしなければレオやフェンリル達、そして兵士さんや護衛さん達のいるこの場所で、狙われているからって簡単に危険にさらされるなんて事はありえないだろうとも思う。

 これまでも、ランジ村がオークに襲われた時に立ち向かったりと、それなりどころか本当に命の危険はあった。

 けど、見えない何かに狙われている……見えざる手が暗闇から俺に手招きしているような、手を伸ばしてきているような、そんな錯覚を覚える。


 実際はそんな事はないんだけど、やっぱり精神的には結構堪えてしまっているのかもしれないな。

 体の疲れとかは、全然感じないんだけど……。

 熱を出した時とは違って、最近はライラさん達がよく見てくれて、根を詰めて何かをやる事も少ないしな。

 はぁ……。


「ん……よし! さっさとクレアにエッケンハルトさん達と話した事を伝えに行って、俺も庭に行くかな。少しでも鍛錬をして体を動かせば、不安も取り除けるかもしれないし」


 内心で吐いた溜め息を振り払い、一人でそう呟いてクレアのいる執務室へと足を向ける。

 そういえば、カールラさんとはまだ話し込んでいるのだろうか?

 というか、ここまで一緒にいたエルミーネさんがいつの間にかいないな……エッケンハルトさんの方について行ったのかな

 もしかすると、言葉に発しなくても一人になりたいと思っていた俺の気持ちを察して、離れてくれたのかもしれないが。


 ……あまり心配させるのも良くないな。

 後でいっぱい体を動かして、不安を払拭しよう。

 少しでも鍛錬していれば、狙われている事への対処としても機能してくれるはずだ。

 そう考え、少し足早にクレアの執務室を目指した――。



「タクミさん、何かありましたか? 先程とはこう……なんと言ったらいいのかわかりませんが、雰囲気が違います。心配事があるような、そんな感じです」

「ワフ、ワフワフゥ? ワウゥ」

「パパ、ぽんぽん痛いの?」

「……自分では気を取り直して、表面上は大丈夫なつもりだったけど……クレアやレオ達は誤魔化せないなぁ。――リーザ、心配してくれてありがとうな? お腹は痛くないから大丈夫だよ」


 屋敷の廊下、クレアの執務室へ向かう途中でレオやリーザと一緒にいたクレアと合流したんだが、俺の様子がおかしかったのか、心配されてしまう。

 表向きといいうか、顔には出さないよう気を付けていたけど……クレアの目とレオには隠せなかったか。

 リーザはまぁ、別の方向で勘違いしているみたいだけど、心配してくれる優しさが嬉しいので良しだ。


 クレアはカールラさんとのお話を終え、ライラさんにカールラさんを任せて俺の所……というかエッケンハルトさんとの話が長引いているのなら、とこちらへ来ようとしていたらしい。

 そこへ、レオやリーザがちょうど子供達と遊びを終えて戻って来て、ついでにと一緒に行動していたみたいだ。


「お父様との話で、何かありましたか?」

「ワフゥ?」

「うーん、何かあったというかあるかもというか……エルケリッヒさんとかマリエッタさんもいてね。その時に……」


 隠しておくのもできないだろうなと思い、クレアやレオに先程の話を伝える。

 何も話さず心配だけさせてしまうのもいけないし、俺が一人で抱えてもどうせ別の方から伝わるだろうからね。


「……そうですか。お爺様がそんな事を」

「まぁ、ここにいる分には、屋敷には公爵家の護衛さん達もいるし、それこそ利用するわけじゃないけどテオ君達の護衛もいる」


 まぁテオ君達に付いているはずの近衛護衛さん達のうち、ルグリアさんとパプティストさんとかは今、フェリー達と共に森の奥へ調査に行っていないけど。


「それにレオもフェンリル達もいるから、そうそう危険な事はないと思うよ。俺も、もし狙われた時のために剣の鍛錬をしているんだから。大丈夫」


 最初の名目は、ギフト関連で薬草や薬を欲しがる相手に狙われる、という事であってレオとの関係で狙われるとは想定していなかったけど。

 どちらにしろ何らかの方法で狙われるかもしれない、というのは変わらないしな。


「あくまでもしかしたら、であってまだ直接手を出そうとまではしていないようだしね」

「それでも、やっぱり心配です。もちろん、タクミさんが一人で抱え込んでしまう方が心配してしまっていたでしょうけど……」

「ワフ!」

「レオ様?」

「レオ?」


 おそらく、狙われていると言われた時の俺以上に、表情を暗くしているクレア。

 言わないでおいても、言っても結局心配させてしまっているのは少し申し訳ないな……と思っていたら、レオがリーザを背中に乗せたまま頬を俺の体に摺り寄せてきた。

 撫でて欲しいとかじゃないよな? これまでの話の流れとしては。


「ワッフワフ! ワフゥ!」

「パパの事は絶対に守るから、任せてって言ってるよ?」

「ははは、そうだな。俺にはレオがいてくれるから安心だ。クレアが心配しているような事にはならないよ」

「私も、パパの事守る! いなくなったら嫌だもん!」

「うん、リーザもありがとうな」


 主張するように、頼もしい表情で鳴くレオを撫で、同じく守ると腕を上げるリーザにも感謝。

 娘と思っているリーザに守られる、というのは情けないかもしれないが……気持ちが嬉しい。


「そうですね、レオ様にリーザちゃん。タクミさんもお父様から教えられて戦えますし、狙われても大丈夫ですよね。私は、何もできませんが……」

「何もできないなんて事はないよ。もちろん、もし荒事になったらって考えたりはするけど、それだけでなくこうしてクレアが心配してくれる。俺の事を考えてくれているって思うだけで、心強いからね」


 レオやリーザだけでなく、クレアの傍を離れたくない……どこかに連れ去られたりしたくない、という思いもある。

 それはきっと、自分だけで自分を守ろうとするよりも、行動を慎重にさせてくれたり、押し潰されそうな心を知らない何かから狙われているという恐怖から、助けになってくれると思う。

 要は、一緒にいてくれる人がいるから、暗くなってばかりじゃなくいられるという事だ。


「……わかりました! タクミさんを守るためにも、私もレオ様同様離れず一緒にいますね!」


 気を取り直してそう言うクレアだけど、好きな人に守られるというのは男として情けない気が……。

 男性は女性が守るなんて、日本ですらちょっと古いと言われかねない俺の考えがあるからそう思うのかもしれないが。

 そもそも、この世界には女性は男性よりか弱くて、守られる存在だという考え方があまりないからこそのクレアの言葉なんだろうけど。

 ルグリアさんとかルグレッタさんとかヨハンナさんとか……は三姉妹の事ばかりになるけど、他にも護衛さんの中には女性も多くいるし、調査に来た兵士さんも実際は半分近く女性だったりもするしな。


 一応、身体的には男性の方がという部分はあるんだろうけど、男女で大きな差があるってわけでもないらしい。

 それに女性の方が魔力の流れとか操作などが巧みな事が多いなどで、魔法を上手く使える事も要因の一つとしてあるとか……というのは後で聞いた話だが。


「ワフ!」

「クレアお姉ちゃんも一緒に、皆でパパを守るのー!」


 クレアに同意するように、意気込むレオとリーザ。

 早速とばかりに、レオが俺にくっ付いているけど……。


「いやレオ、意気込んでくれるのは嬉しいし心強いんだけどな? さすがにずっとくっ付いていられると歩きにくいんだが……」

「ワフ、ワウワフガウ!」

「いつ何が来るかわからないって? そうは言ってもこの屋敷の中で何が起こるわけでもないだろう? あと、レオなら何かが起こるどころか、何かが来る前に察知できるだろうに」

「ワウゥ? ワッフ!」


 そう言えば! みたいな風に鳴くレオ。

 俺が狙われていると聞いて、それすら忘れるくらい気にしてくれていたのかもしれない。

 頼りになる相棒だよほんと。

 どこか抜けているのは、これまでずっと俺と一緒にいたからかもしれないが……これぞ飼い主に似るってか?


「とりあえず、クレアとも合流できたし、不安が全て取り除けたわけじゃないけど……体を動かしたいんだ。そっちの方が、備えるって意味でも安心だろ? だから庭に行きたいんだけど、そのままだといけないからな?」


 レオは、俺を守るようにピッタリと体をくっつけている状態だ。

 子供達と遊んだからか、多少毛が絡まっているのが散見されるのが気になるのはともかくとして、柔らかいレオの毛があるのは気持ち良くていいんだけど、このままだと歩けないくらいだ。

 守ってくれると意気込んでくれるのはうれしいけど、さすがにこのままだと日常生活に支障がでかねない。


「ほらレオ……少しだけ離れてくれるとありがたい」

「ワウ。ワフゥ? スンスン……ワフ!?」

「え、どうしたんだレオ?」


 とりあえず両手でレオを押して……そんなことしても俺の力じゃビクともしないけど、レオの体を離そうとする。

 レオは仕方なさそうに鳴いて俺から離れようとした瞬間、首を傾げ、改めて鼻先を近づけて俺の体を嗅いでから驚いた。

 体は離れたから動けるようになったけど、そんな驚くような事があったのか? 俺が汗臭い……とかではないと思いたいが。


「ワッフワフガフ!?」

「え、いやそれは……さっきまでフェンとかリルル、それにシェリーと一緒だったしな……」

「ワフー! ワウワウ!」

「ズルイって言われても、ただブラッシングしていただけだぞレオ?」

「ワウゥ……ワウワフッ」

「わかったわかった。後でレオもちゃんとブラッシングするから、な? 機嫌を直してくれ」


 どうやらレオは、俺の体というか服に付いていたリルル達の匂いに気付いただけだったらしい。

 そりゃ、一緒の部屋にいたしブラッシングもしたから、匂いくらいついていてもおかしくないか。

 というかレオは、やきもちを焼いただけだったみたいだな……既にリルルのブラッシングで、少し手が疲れているしこれから鍛錬しようと思っているから、レオもやるのはちょっと辛いけど、仕方ないか。

 そんなやり取りをしている俺を他所に、クレアがレオの背中に乗っているリーザに話しかけている。


「リーザちゃん、レオ様は何と仰っていたの?」

「んとねー、パパの服にね、リルルとかの匂いが付いていたんだって。それで一緒に何かしてたってママがわかって、ズルイって思ったみたいだよー」

「リルル……シェリーもと言っていたけど、お父様の部屋にいたのね。まぁ理由はお父様の事だから、深い理由とかはないのでしょうけど」


 クレア正解。

 まぁリルル達がいた理由は、エッケンハルトさんではなくエルケリッヒさんが発端ではあるけど、深い理由というのはなかったな。


「クンクン……うん、ママの言う通りフェンとリルルと、それからシェリーの匂いもするー。うんと、リルルの匂いが一番強いかな?」

「ま、まぁ主にリルルのブラッシングをしていたから、一番強く匂いが付いたんだろうけど……そんなに匂いが付いているかな?」


 リーザまでレオの真似じゃないが、レオの背中から乗り出して俺の服の匂いを嗅ぎ始めた。

 はっきりリルル達の匂いがわかる程かな? と疑問に思って自分でも嗅いでみるが、全くわからない。

 自分が汗臭くないというくらいはわかった程度だ。


「リーザちゃんはお鼻がいいのね。私にもわからないわ」

「えへへー。なんとなくね、わかるんだよー」

「クレアまで……まぁいいけど。リーザは前からもそうだったけど、レオやフェンリル達程じゃなくても嗅覚は鋭いみたいだなぁ」

「えへん!」


 嬉しそうに、そして誇らしげに胸を張るリーザ。

 獣人であるリーザは、俺やクレアのような人間よりよっぽど嗅覚が鋭いというのは、前からも片りんを何度も見せていたからな。

 服に付いたリルル達の匂いをかぎ分けるくらいは、簡単なようだ――。




読んで下さった方、皆様に感謝を。


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神とモフモフ(ドラゴン)と異世界転移


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夫婦で異世界召喚されたので魔王の味方をしたら小さな女の子でした~身体強化(極限)と全魔法反射でのんびり魔界を満喫~


― 新着の感想 ―
タクミのギフトがバレたらそりゃ勿論狙われるだろうけど、レオやフェンリル達がいるからまず問題無いね。 問題があるとすれば、これからどんどん仲良く(最終的に結婚に)なっていくクレアが、タクミの弱点になりう…
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