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1945/1997

もしかしての狙いを教えられました



「そうですね。まるで、近くだとすぐ感付かれるからとか、フェンリルやレオを避けているかのようにも感じました。ランジ村の人も森に入るので、そういった人達に見つからないためとも考えられますけど、それにしては距離が離れすぎているようにも思えます。ですけど、完全に離れるわけでもなく……何かランジ村付近でやりたい事があるような感じでしょうか」

「そうだな。そこでだ、あくまでもはっきりしない中での推測なのだが、向こうはレオ様とタクミ殿の事は既に知っている。タクミ殿の事はおそらくギフトを持っているまでは掴んではいないだろうがな。ギフト関連は秘されているわけではないが、男爵では知らない事の方が多くそこまで考えが至らないだろう」


 ユートさんの事は確か、侯爵以上の爵位を持つ当主にのみだったっけか。

 だから、男爵だとユートさんからギフトの話を聞く事はできないし、だから俺という薬師の存在は知っていても、ギフトとは繋がらないってところか。

 まぁレオのインパクトが強いから、意識がそちらに向くのもあり得そうだしな。

 薬師としての認識があるかはわからないけど、一応表向きにはそういう事にしているから多分そこ止まり。


 本当は薬師でもなんでもないただの隠れ蓑に近い。

 今では一緒に勉強を始めたミリナちゃんの方が、立派な薬師と言えるしな。


「おそらくタクミ殿は、レオ様と共にいる人間程度の認識だろう」

「レオといるから、公爵家の人達ともいるとかそんな感じですかね」

「うむ。理由は定かではないが、シルバーフェンリルと共にいる人間と言ったところか。ギフトを持っている事よりも、クライツ男爵からすると喉から手が出るほど欲しい情報源、いや人間かもしれないがな」

「ギフトは関係ないのに、そんなにですかね?」

「シルバーフェンリルは、初代当主様の事はあれどそれ以外ではこれまで誰かに従う、共にいるという存在ではなかった。そして、数々の歴史に登場しておきながら、共に過ごした人間はこれまでタクミ殿と初代当主様を除けば誰もいない」

「誰にも従わない、最強の魔物……ですね」


 実際にレオのあれこれを見ていて、理屈が通用するような存在じゃない部分も色々あったし……どれだけの数がいようと人間が敵うわけもなく、言葉通りの最強なんだろう。

 そして最強であるからこそ、誰も従える方法がないとも言えるか。

 初代当主であるジョセフィーヌさんも、力で従えたわけではなく、ギフトの力のおかげで親しくなれたってだけのようだし、俺も偶然かなんなのかレオがシルバーフェンリルになったってだけの事だからな。

 何もなしに、シルバーフェンリルと親しくなった人間というのはこれまでにいないんだろう。


「そんなシルバーフェンリルと親しく、そして共にいる人間なのだ、タクミ殿は。さらに言えば、向こうからすると公爵家との橋渡しもしているように見えるだろう。リーベルト公爵家は初代当主様とシルバーフェンリルがいたからこそ、現在も王族を除く貴族の最高位である公爵だと考える者もいるし、それも大きく間違っていないからな」

「つまり、俺がいればシルバーフェンリルを従える……少なくとも、親しくなる方法などがわかるかもしれないと考えておかしくない、という事ですか?」

「そうなる。さらに言えば、シルバーフェンリルが協力してくれる状況。従わせられたりなどすれば、貴族を飛び越えて国すら取れる。いやそれ以上か……ともかく、どういう状況か、公爵家がシルバーフェンリルを利用できているのかの判断のためや、タクミ殿がどうやって共にいるのかなど、外から見れば知りたい事ばかりだろう」

「そう、ですか……」


 うーん、『雑草栽培』の便利さは確かにあるから、自分に利用価値があるとかはさすがにあり得ないとか考えないけど……。

 というか、自覚なく価値がないなんて考えていたら、ギフトの事をできるだけ大っぴらにしないように……なんてしないからな。

 エッケンハルトさんに習っている自衛のための剣もそうだし。


「父上の言葉を要約するとだ、向こうの狙いがまだわからぬにしても、タクミ殿を狙っている可能性があるという事だな」

「俺を……可能性は、今回の事に限らず狙われるかもという意味で、これまでも考えてはいましたけど」


 さすがに、はっきり狙われているかもと言われたら、身が引き締まるというか背筋が冷たくなる気がするというか……。


「ガウゥ? ガウゥガウゥ」


 ついつい、ブラッシングする手に力が入ったために、リルルから抗議するような鳴き声を上げられた。

 こちらの世界に来てあれこれあったけど、やっぱり直接狙われているかもなんて言われたら、変に意識してしまうのは仕方ないと思うけど、ちゃんとしないとな。

 レオだけでなくリーザもいるし、今は屋敷を持って使用人さんや従業員さんもいる。

 情報を引き出したい方向だから、命を狙われるのとは違うだろうけど……しっかりしないといけない。


「あぁ、ごめん。つい力が入っちゃった。痛くなかったか?」

「ガウゥ~」


 リルルに謝って、深く呼吸を意識しつつブラッシングで平静を取り戻す。

 とりあえずリルルのブラッシングを続けていて良かった。

 レオとは違うけど、こうしていると心が休まるような、癒しに近い効果がある気がする。


 ブラッシングで安らぐのはされているほ方だけでなく、する方もだったようだ……緊張感はやっぱりなくなるけど。

 なんて、余計な事を考えられる余裕は取り戻せたな。


「……大丈夫か、タクミ殿?」

「えぇ、まぁなんとか。さすがに狙われていると言われて驚きましたけど、リルルのおかげです」

「すまんな。どう伝えるかは迷ったが、タクミ殿にはそのままを伝えた方がいいと思ってな」

「ありがとうございます。その気遣いだけで十分ですよ。ちょっと想像していたのとは違いましたけど、狙われるかもっていうのは、剣を習うかどうかの時に聞いていましたから。心構えができていたとは言い難いですけど、いきなりという程でもないですから」


 鍛錬を続けて来て、少しくらいは自信にも繋がっている。

 思い上がるつもりはないけど、オークなどの魔物とも戦って俺自身ある程度やれるという自信。

 それがあるおかげで、驚きはしたけどちゃんと受け止められる……もちろんリルルをブラッシングしている効果もあるんだろうが。

 ともかく、早いうちになんらかの形で狙われる可能性などを考慮して、剣を教えてくれたエッケンハルトさんには感謝だな。


 もちろんだから全てなんとかなるなんて事はないだろうけど、鍛錬やこれまでの経験がなければ、今頃落ち着きなく右往左往していたかもしれないし。

 何もしていなかった場合、平和な日本で生まれ育った俺が狙われていると言われて、平気でいられるはずがなかっただろうとは、簡単に想像できる。

 もちろん、頼りになる人が周囲に多くいてくれるし、レオがいてくれる事も大きいけどな。


「まぁ、レオ様やフェンリルが周囲を固めているからな。タクミ殿自身に直接何かしようとするのは不可能に近いだろう。行動を起こすかどうかはともかくとしてだ。当然、我々もタクミ殿に被害が及ばないよう尽力するつもりだしな。私達よりも、レオ様の方がよっぽど頼りになりそうではあるが……」

「兵士達の警戒網などよりも、フェンリル達の方が察知能力に優れているからな。こうして、ブラッシングをしてくつろいでいる姿が印象的ではあるが、人間が簡単にすり抜ける事はできまい」

「ははは、少なくとも不用心に一人でフラッとどこかへ行ったりしない限りは、安心ですね。ありがとうございます」

「ガウゥ」

「ガウッ!」

「キャウー!」


 エッケンハルトさん達だけでなく、リルル達も意気込むように鳴く。

 シェリーもやる気のようだけど、さすがにシェリーはクレアに付いていて欲しいかなぁ。

 あと、ブラッシングを続けて今は仰向けではないけど、尻尾をフリフリしながら気持ち良さそうに毛を梳かされてくつろいでいる姿は、頼りになるとはちょっと違う気もするけど、まぁいいか。

 いざとなれば、驚く程に動いてくれるのを知っているから……野生が残っているかはわからないけど。


「俺はともかく、レオの方を狙うというのはあり得ないんでしょうか? いえ、まぁレオを直接狙うより、俺を狙った方が楽というか……現実的だというのはわかりますけど」

「まぁ、タクミ殿も考えているように、シルバーフェンリルを直接どうこうというのは、いくらなんでもな。この国全体を相手しても、レオ様ならなんの問題にもならないのではないか?」

「ハルトの言う通りだな。直接シルバーフェンリルが戦う場面などは見た事がないが、それでも話を聞かされ続けているからな。レオ様を見て真実だと確信しているが、聞いた話通りならそれこそプチッとされるだけだ」

「プチッとって……まぁ、言いたい事はわかりますけど」


 武力でレオをどうにかできないというのはまぁ、俺もわかるしさすがに理解しているけど、さすがにそんな簡単に踏みつぶすような事……できるのか、まぁレオというかシルバーフェンリルだしな、最強だからな。

 ただレオの事だからなぁ、こちらに来て待てを覚えさせて我慢できるようにはなっているし、実際お腹が空いていても好物を前にして飛び出すような事はなくなったけど。

 それでもなんというか、ソーセージを餌に釣られないかという心配が少しある、そんな事を考えているのは俺だけなんだろうけど。

 まぁ、マルチーズだった頃の事をよく知っているせいでもあるんだろうな……実際、見せるだけだったり匂いだったりで、我慢できなかった以前の事見て知っているから。


「まぁ話は多少逸れたが……タクミ殿には気を付けて欲しい」

「はい。これまで以上に鍛錬をして備えつつ、注意はしておきます」


 念を押すエルケリッヒさんに頷く。

 とはいえ、屋敷やランジ村は現在大量のフェンリルと兵士さん達がいるわけで、俺をどうこうしようとする何者かが入り込む余地もなかったりするけどな。

 でも、気を付けるに越した事はないし、不用意な行動は控えよう……少なくとも、レオかフェンリル、もしくは兵士さんや護衛さんと一緒に行動するようにかな。

 注意一秒怪我一生だ……ちょっと違うかな? まぁいいか。


「うむ。それで先程の続きだが、国全体の貴族は、ユート閣下が牽制をしてくれるだろう」

「そういえば前に、全ての貴族にって言っていましたね」

「大公爵という特別な貴族だからな。ほぼ表には出ず、国内を巡っているからユート閣下の存在は知っていても、関わった事のない貴族は多いが……王家を巻き込……通して全貴族へ通達する、いや、もうしているようで届く頃合いだろう。下手に動く者は余程の馬鹿者くらいだ」


 エルケリッヒさん、巻き込むって言いかけたな。

 色々とあるけど、あの時のユートさんは個人的な感情で動く感じだったから、まさしく巻き込むなんだろうなぁ……。


「我々公爵家、当主のハルトにも先程確認したが、こちらはクライツ男爵の調査に注力する事にする。というより、既に向こうへは調査の手を送ってある」

「そうなんですか? 北西の、国境付近の領地なので遠いでしょうし、必要ならフェンリルとって思っていたんですけど」


 遠いからこそ、移動に時間をかけずに済むフェンリルに協力してもらえば、調査も楽になるだろうし。


「いや、今回それは悪手だろう。こちらが探っている事は向こうもいずれ感付くだろうが、目立ってしまっては調べるどころではないからな」

「あぁ、そうですね」

「そして、向こうに感付かれた時のためにハルトではなく、私が動いているのだ。クライツ男爵はまだ、私がここにいて協力している事を知らないようだからな。バレてもなんとでもいいわけができるし、面倒な事にも……全くないわけではないが、少ないだろう」

「あなたが、レオ様に一度拝謁したいと隠居していた屋敷を飛び出した事が、良い方向に向きましたわね。ただ、これは偶然なのだから、今後こういう事はないようにお願いしますわね」

「う、うむ……」


 根回しとかそういう事をしていなかったからこそ、エルケリッヒさんの動きはまだ向こうも関知していないというわけか。

 マリエッタさんが釘を刺しているけど……ちょっと口調がいつもとは変わっているため、エルケリッヒさんが顔を青くしてたじろいでいる。

 ここにマリエッタさんが来た時の怒り方は、凄まじかったからなぁ。

 置いて行かれた事を、今もまだ完全に許したわけではないようだ、エルケリッヒさん頑張って!


「と、とにかくだ、調査は距離の問題もあってすぐとはいかないが、情報が入り次第逐一タクミ殿に報告する。改めて差し向けた者だけでなく、クズィーリから話を聞いて即日放った者達がいるから、一報はそろそろだとは思うがな」

「もうですか……あれから、そう経っていないはずですけど」

「多少、無理をさせてしまってはいるが、事は公爵領に関する事。そしてフェンリルだけでなくタクミ殿とレオ様に関わるのだからな。当主ではないからこそ、ある程度自由に動けるがだからこそだ」

「他領を跨ぐのでできないが、タクミ殿発案の駅馬をフェンリルを使わずにやれれば、父上の放った者達はもっと移動が早くなりそうではあるが……それは高望みだろうな。こちらでもまだ、始動前ではあるし」

「そうですね。わかりました、何かわかれば教えて下さい。それで……とりあえず、見方としてはカールラさんの事も今回と関係があるかもと考えておいていいですかね」


 クライツ男爵だろう、という予測は立っているけど証拠はまだない。

 そして、森での事なども含めて関係しているかどうかもだ。

 でも、ここまで色々と動いている事がわかって、さらにカールラさんの話を聞いた後だと繋がりがないと思う方が、むしろ無理矢理な感じもする。

 まぁ実際は、もっと調べてからになるけど……今のところはそう考えて良さそうだ。


「そうだな。そうだタクミ殿、カッフェールの街だが今の話を踏まえて、そのカールラがいたという村の方も調べた方が良さそうだ。それでだが……」


 エッケンハルトさんからは、カッフェールの街に向かった調査隊を追う追加の人員をフェンリルに運んで欲しいという頼みだった。

 カールラさんの話の内容や、街の近くにある村やそこにあったらしいお店なども調べてもらう、という指示も含めてだな……既に出発した人達は、村の事まで知らないだろうし。

 ついでに、向こうで合流した際には調査の進捗も持ち帰らせるという事でもあるしと、許可というかフェンリル達に話しをしてみると頷こうとしたところで、フェリーがいない事を思い出す。

 一応、ここにいるフェンリル達はフェリーが群れのリーダーであって、いない時にどうするかとかは決めていなかったな。


 リルルやフェンに聞いても、大丈夫そうかも? という雰囲気が伝わるような気がしなくもない、という程度の答えくらいしか返って来ないし。

 ……レオに間に入ってもらえば、大丈夫だろうか? フェリーとしても、レオには絶対服従的な雰囲気というか、それらしい事を言っていたし。

 フェリーが戻ってきたら、いないときに決めてしまったのも含めて、いっぱい美味しい物を食べてもらって労おうと思う――。




読んで下さった方、皆様に感謝を。


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