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1942/1980

気になる話もありました



「幸い、村では特にお金を使う事は多くなかったですし、蓄えはあったので。それに、村だと外から来た私が働くのは、農作業をちょっと手伝う程度しかなく、村は村の中の人だけで完結していました。街の方も、人手が足りない所は多くないみたいで……まぁ、私が積極的に探していなかったせいもあるのでしょうけど……」


 さらにカールラさんが言うには、カッフェールの街で人の往来というか公爵領内外からの人の出入りが多いのをなんとなく見て、ラクトスを思い出したんだとか。

 それで、ラクトスが恋しくなって、どうせなら一度戻ってから考えようとしたって事らしい。

 ラクトスの方なら、何かしら働く当てはあるというのもあったみたいだけど。

 結局一年近く経ってからラクトスへ戻ったら、すぐに俺に雇われるだのという話になって、孤児院を運営しているアンナさんの勧めもあって、今に至るという。


「自分でも、結構行き当たりばったりなのは自覚しています。ただ、言い訳になるのですけどお店が急になくなるというのは、これまで一生懸命働いてきたつもりだったのに、結構な衝撃でして……」

「あぁまぁ、そこは仕方ないですよ。それにしても、一年前くらいなら確かに時期が合いますね」


 クレアや俺が神妙に話を聞いていたのを、カールラさんが微妙に勘違いしたのか、言い訳をするように慌てていた。

 俺はそんな経験はないけど、一生懸命働いている人、仕事に打ち込んでいる人程、解雇や倒産、もしくは定年もかな? ともかく、急に仕事がなくなってしまうとどうしていいかわからなくなるみたいだしな。

 ある意味、突然仕事がなくなるというのはこちらの世界に来た俺も似たようなものかもしれないが、俺の場合は異世界とかレオの事などで考える事が多かったから、そんな事にはなっていないけど。


「タクミさんの言う通り、時期が合うという事はそこに何かがあると見るべきでしょうか……?」

「うーん、今のところはなんとも言えないかなって思う。全てが繋がっているっていうのは、ちょっと強引かなと思うし……他に何か要素があればかなぁ。――カールラさん、お店を畳む前後で何か他に気になるような事ってありましたか?」


 気になるとはいえ、それが繋がって一つの物ごとになるとは限らない。

 判断は慎重にするとして、悩むクレアに言葉をかけつつ、カールラさんにさらなる情報がないかを聞いてみる。

 ちょっとした事でも、何かあればもしかしたら繋がる糸になるかもしれないし。

 いやまぁ、繋がって欲しいわけではないんだけど、それでも調べている事の解決に向けて、少しでも材料が欲しいのが現状だから。


「そうですね……気になる事、というわけではありませんけど、先程話した取引先がなくなった後の事なんですけど。新しい取引を行う相手が、貴族の方だったみたいです。私もその使いという方ともお話ししましたが」

「貴族、ですか?」


 カッフェールの街の話をクズィーリさんに聞いた時にも、貴族の話が出ていたっけな。

 まぁ領地の境界に近い場所だから、公爵家とは別の貴族が関わっているお店があっても、不思議じゃないらしいけど……。


「その言い方って事は、クレア……えっと、リーベルト公爵家とは違う貴族って事でいいんですよね?」

「あ、はい。そうです。公爵家の方々と取り引きのあるお店、というのもありますが、私の働いていたお店はそういう物ではありませんでしたから」

「カッフェールの街に近い村だったわね。なら、村の村長との取り引きとかならあるでしょうけど、今の所個別のお店との取引を公爵家ではあまり行っていませんから」


 カールラさんとクレアの二人に言われ、予想通り別の貴族だというのがわかった。

 ランジ村もそうだったけど、カレスさんのお店のような直営店みたいなところはともかく、一般の領民がやっている小さなお店との取引はあまり多くなく、村そのものとの取引となる事が多いらしい。

 村の特産というか、ランジ村やブレイユ村で言うと林業……つまり木材の取り引きとかだな。

 そもそも、直営店があるように公爵家自体が商売をしているから、小さなお店と直接取引をする必要がないんだとか。


 その直営店が、仕入れや何やらで他の商店と取り引きをする事自体はあるようだけど。

 公爵家と直接取引したり物を卸したり、使いを出す事自体がほぼないようなものとの事だ。

 これから先、薬草を各地域のお店に卸す交渉をする、という事になっているけどこれはあくまで、公爵家と契約をしている俺、そしてクラウフェルトという商会を通してとなっている。

 表立って交渉するのがクレアだとしても、直接というわけではないという名目みたいなものだ。


 公爵家が直営店以外で直接となると、不公平さが出てくる可能性や、それがなくても不満に思う者が出てくるかもしれないとの考えらしい。

 まぁ、別の貴族はまた別の貴族で、考え方ややり方の違いでそういう事もあるみたいだが。

 というか今サラッと自分で考えたけど、クラウフェルトもまだ開始前とはいえ一応商会になるんだよな……俺の立場は商会長という事になると思うけど、しがないブラック企業のサラリーマンが、異世界で商会長になるとか出世したもんだなぁ。

 その商会の共同運営者にクレアがいたり、主な契約先が公爵家で、国を興した人が協力……うーん、一応ユートさんは協力関係でいいかな? なんてしていたりしているけど。


 なんて考えて、頭の中でユートさんが「協力関係に疑問を持たないで!」なんて訴えかけていたのは、すぐ頭の隅に追いやった。

 おっと、また考えが変な方向に行っているな。

 意識をカールラさんに戻してっと……。


「その貴族の方というのは、どんな貴族……どこの貴族? の人かわかりますか?」

「いえ、私はそこまでは。すみません。使いの方と話す機会があったと言っても、商品に関するお話だけでしたので……」

「あぁいえ、謝る程ではないですから気にしないで下さい」


 カールラさんは詳細まではわからないとして、体を縮こまらせつつ謝らせてしまった。

 責める気はないし、お店の店員としての会話だけだったんだろうから、詳しく知らなくても仕方ないしな。


「……カールラ。その使いの者は紋章……身分を証明するための何かを見せられなかった? 貴族の使いだと証明するための何かでいいんだけど」


 少し考えて、クレアからカールラさんへの質問。

 貴族の使いと名乗る者は、基本的にその貴族から証を立てられる者を預けられていて、それを見せる事で本物だと証明する事ができる。

 じゃないと、誰でも使いだと名乗り放題だしな。

 以前俺がレオとスラムに乗り込む時、公爵家の紋章の入った物を借りたようなものだ。


「あ、はい。私ではなく、店主の方に見せていたのは見ました」

「その紋章は、どんなものだったか覚えている?」

「いえ、すみません。そちらも私は詳しく見られていませんでしたので……」

「そう……でも、その紋章を見て店主は納得していたのよね?」

「はい。あ、そうだ。遠いところからわざわざって話をしていました。えっと確か……」


 紋章がわかれば、どこの貴族かもわかる……とクレアは考えたんだろうけど、あいにくカールラさんは覚えていなかったらしい。

 ただ、その時交わされた店主さんとの会話をカールラさんは覚えていたみたいだ。

 なんでも、公爵領を通って来るのではなく遠回りになる道を通って、カールラさんのお店まで来ていたその使いの人。

 カールラさんとしては、公爵領は比較的安全な旅をする事ができると考えていたので、わざわざ遠回りしている事が不思議で、さらにその話から隣領の貴族ではないんだろうと思って印象に残っていたんだとか。


「公爵領を通るのが近いという事は、国南部の貴族ではない可能性があるわね……」


 隣で呟くクレアに、思わずそうなの? と聞きそうになるのを我慢。

 国全体どころか、公爵領やその周辺の地理もよくわかっていないからだけど……一応俺が雇っている従業員であるカールラさんの前で、情けない姿を見せなくてすんだ。

 さすがにある程度の地理くらいは、勉強しておかないとなぁ、カールラさんも隣領だとかそれなりに知っているようだし。


 ちなみに後で聞いた話によると、公爵領より北側、特に北東方面以外から公爵領南東にあるカッフェールの街に行くためには、北西……つまり別邸のある場所近くを通るのが通例だとの事だ。

 これは、別邸から西、つまり公爵領西側から他領にまで広がっているフェンリルの森があるため、西からではなく北から入るようになっているため。

 さらに、ラクトスの北にある山とランジ村北で今調査対象になっている森が東に延び、他にも障害があるため、北東方面以外からであれば北西にあるラクトスを通るような道筋を通るのが一番らしい。

 それ以外で、国南部以外の貴族がカッフェールの街に来る場合は、かなりの遠回りをして森や山を避け、さらに別の貴族領、アレント子爵領かバースラー元伯爵領を通らなければいけない。


 遠回りした場合の旅路にかかる日数の差は、馬では十日以上、馬車だとさらにかかるとの事だから、わざわざ遠回りするのは何かの理由がなければ不自然だ。

 といった事を後に聞いてカールラさんが印象に残り、覚えていたのにも納得した。


「カールラ、他にも……」


 それからしばらくクレアがいくつか質問し、覚えている限りでカールラさんが答える。

 とはいえ、一年くらい前の事でもあるためか、うろ覚えな事が多くて確実な答えはあまりなかったようだけど。

 はっきりと覚えていない事に、カールラさんは質問をされるたび申し訳なさそうにしていたが、クレアが柔和な笑みで微笑んで解きほぐしていた。

 やっぱり、女性同士の方が安心させられるんだろうなぁ。


 ちなみに横で話を聞いていて俺でもわかった事は、おそらくその使いの者というのは、貴族からというのはほぼ間違いないだろうとの事。

 貴族の使いを騙る者はもちろん罰せられるし、直に見ていなくとも証明する物を持っていたからだ。

 紋章やらを偽造して騙ったりしたら、それこそもっと大きな罪になるからだけど、それ以外にも身なりが整ってカールラさんから見て上等な服などを着ていた事などがあげられる。

 貴族関係というか、ある程度見栄を考えなければ、かなりの長旅をしてきているのに、身なりが完璧に整っているような人が、安易に騙りはしないだろうとの考えだ。


 まぁ確証はないけど、とりあえずそういう事でクレアは納得した様子。

 さらに、その貴族の使いの人が度々カールラさんのいるお店を訪れては、大量の商品を卸していく。

 そのうえで、何やら店主さんと話をする事も増えて行ったそうだ。


 周囲に聞かれないようにしていたため、何を話していたのかはカールラさんも知らないようだけど、商談という事であれば安易に外へ漏らすのもいけないだろう、とカールラさんは納得していたみたいだな。

 そして、ある程度話したところで……。


「そういえば、お店がなくなると言われた日の前日も、その使いの方が来られていました。その時、いつもよりお店に運ばれた商品がちょっと少な目だったので、不思議に思っていたんですけど。今考えれば、店主がもっと早くお店を辞めると決めていたなら、少ないにしてもあれだけの商品を仕入れるのはちょっとおかしいかなって……」

「お店を辞めるなら、仕入れた商品はそれだけ無駄になるわよね。もちろん、なにかしらの行き先や売り先を決めていたって事もあり得るけど……」

「いつお店を辞めるのか決めていたか、にもよるかな。遠くから来ていたのなら、連絡が遅れた可能性もあるし……ただ、卸された商品が少なかったというのはちょっと気になるかもしれない」


 商品が少ないのなら、元々その貴族の使いの人も知っていた可能性も考えられる。

 まぁここで話を聞いて、推測しているだけだし、何かしらの怪しい関係とか繋がりを探る方になっているから、そう考えてしまうのかもしれないけど……。


「ありがとう、カールラ。――聞ける話はこれくらいですかね、タクミさん?」

「そうだね。もしかしたら俺達もカールラさんも気付いていない何かがあるかもしれないけど……」


 なんとなく、ちょっとした情報から推理するような意識になってきてしまっていたけど、俺やクレアにそれができるとは思えないしな。

 とりあえず聞けるのはこのくらいだろう。

 現時点でも、多少は得られるものがあったわけだし。


「ありがとうございます、カールラさん。もしまた何か思い出したら、俺でもクレアでも……他の従業員さんや使用人さんにでもいいので、話して下さい」


 使用人、の部分で同じく部屋にいてくれているライラさんや、エルミーネさんを視線で示す。

 二人とも、すぐに頷いてくれたので他の使用人さんにもカールラさんと話をするというのは、伝わってくれるだろう。


「は、はい。わかりました。何かお力になれていればいいのですが……」

「十分ですよ。確実な繋がりかはわかりませんが、もしかしたらという考えにもできます」


 特に、貴族が関わっているという部分だと俺は思っている。

 クレアもそこに強く反応して色々質問していたし、俺と同じ意見だろう。

 クズィーリさんからも、貴族の関係する話を聞いていたし……わざわざ迂回した道を通って、日数を掛けてでもカッフェールの街に行っているという部分とかな。


「では、タクミさんはお父様と話に行かれますか?」

「うーん、そうだね。エッケンハルトさんなら、今か今かと落ち着かない様子で待っていそうだし、すぐに話してくるよ」

「ふふ、簡単に想像ができますね」


 エッケンハルトさんの事だから、早く話が聞きたいと落ち着かないなんて事はあり得るし、クレアも想像したのか楽しそうに笑っている。


「わかりました。私はこのまま、もう少しカールラとお話をしようと思いますけど……」

「わ、私とですか……!?」


 クレアはまだここに残って、カールラさんと話がしたいみたいだ。

 話しているうちに多少は慣れてきた様子ではあったけど、やはりまだクレアと話すというのは緊張するのか、カールラさんは驚いているようだけど。


「ふふふ、カールラは私ではなくタクミさんに雇われているわけですが、同じこの屋敷にいるのだから、もう少し親しく話してみたいわ。年もあまり離れていないし……私としても、使用人以外で年の近い女性と話す、というのも楽しそうでしょ?」


 多分、クレアはカールラさんの緊張をほぐすためにそう言っているんだろうけど、年齢が近くて同性と話したいというのも本音だろう。

 前はアンネリーゼさんがいたけど、なんとなく仲良く言い合うような感じだし、女性の友人とか気楽に話せる人っていうのは得難いのかもしれない。

 使用人さんや、クレアが雇っている方の従業員さん……エメラダさんとかだと、どうしてもお互い上下関係みたいな感覚もあるんだろうし。


 立場的にあまりそういうことができなかっただろう、というのはなんとなくクレアを見ていて感じるので、この機会に友人になるかはこの先次第だけど、話しをするのは良さそうだな、と思った。

 それとは別に、カールラさんがずっと緊張している様子なのを気にしている、というのもあるのかもしれないが――。



読んで下さった方、皆様に感謝を。


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