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1941/1997

カールラさんから話を聞きました



「それでえっと、カッフェールの街の事をカールラさんが知っている、というのは?」

「は、はい……その、私は以前こちらに来る前は、別の場所で働きに出ていたのですが……」


 ラクトスの孤児院で育ったカールラさんだけど、十五歳で成人してから最近までは、離れた所で働いて暮らしていたのは知っている。

 その働き先がなくなって、仕方なく一旦知り合いや頼る人も多いラクトスへと戻って来たところを、俺に雇われたって経緯だな。

 その場所と言うのがカッフェールの街のすぐ近くにある村で、何度か街には行った事があるって事みたいだ。

 ちなみにクレアは、全部ではないけどカールラさんがどこで働いていたか程度を聞いて、これは調査に関係あるのではないかと思い、執務室に連れて来たうえで俺を呼んだらしい。


 流れとしては、屋敷の使用人さん……クレア側のメイドさんが談笑する中で、調査の事などを聞いていてこれはもしや? と思いクレアに報告。

 報告を受けたクレアが判断して今この状況になっているってわけだな。

 ただカールラさんは自身の話を世間話として話していたら、突然クレアから改めて話を聞きたいと言われて驚いている、という現状だ。


 まぁカッフェールの街云々が現在調査対象で、森の事と関係あるかもというのははっきり皆に周知されているわけではないから、カールラさんも自分が重要な話をしている自覚などはなかったんだろう。

 いや、重要な話になるかは、カールラさんが知っている事次第かもしれないが。

 

「確か、カールラさんが働いていたお店が、なくなったんでしたよね?」

「はい。その、私はまだお店がどうしてなくなってしまったのか、その詳細を教えられる程の立場ではなかったので多くはわかりませんが……ある日突然、お店を畳む事になったと言われました」

「突然? 前もってその兆候……そうね、お店が立ち行かなくなる程に商品が売れていない、とかはなかったの?」


 お店という事は、何かを売る商売をしていたとなるわけで、それが畳む事情となれば物が売れずに赤字続きになる、というのが一番に思いつくだろう。

 他にも病気や後継ぎだとか、様々な理由は考えられるけど……まず真っ先に疑うのはそこかなと思う。


「いえそれがそうでもないのです。私は働き始めてまだ数年程度で、深い部分までは関われていませんでしたが、それでもお店はそのまま続いて行くと安心していられる程でした。店主さん達や、私以外に働く人、それに村の人達もここと同じく優しい人が多かったですし、お店の商品もちゃんと売れていました。突然の事で、私も何がなんだかわからなかった、というのが正直なところです」

「そうなのね……」

「……つい最近、似たような話を聞いた覚えがあるなぁ。というかさっきその似た話をしていた、クズィーリさんを見送ってきたばかりだし」


 まだ一時間も経っていない先程、見送ったクズィーリさんから聞いた内容に似ていた。

 あちらはお店で直接働いていたわけではないけど、突然なんの前触れもなく店がなくなる、と言うのが共通しているな。

 ……クズィーリさんをもう少し引き留めて、この話を聞いてもらった方が良かったかもしれないな。


 向こうは馬でゆっくりの移動だから、追いかけて呼び戻す事もできなくはないけど……いや、それはとりあえずカールラさんの話を聞いてからでも遅くはないか。

 レオかフェンリルに協力してもらえば、馬が歩くくらいの移動速度ならすぐに追いつけるだろうしな。


「クズィーリさん……私は直接話していませんが、なんとなくカッフェールの街と関わりがあるというのは聞いています。それで、ふと懐かしくなって思い出したんです。街で働いていたわけではありませんが、近くで何度も出入りしていましたので。そのクズィーリさんも、私と似たような経験を?」

「あぁいや、カールラさんのように働いていたお店がってわけではないんですけどね。契約していたお店が、急になくなって困っているという事だったんです。それがカッフェールの街にあるお店で。場所が近くて、突然お店を畳むという似ている状況なので、何か繋がりがあるんじゃないかと……」

「ここまで聞くと、関係性があるような気しかしなくなりますね。カールラ、できるだけ知っている事を話してくれるかしら?」

「は、はい……」


 それから、クレアに促されてカールラさんの身の上話というか、お店が畳まれる前後の話を聞いた。

 さっき言っていたように、そのお店は存続が危ぶまれるような状況ではなく、むしろ安泰だと思う程村でも評判が良く、商品も売れていたらしい。

 さらに言えば、店主の人の人柄もカールラさんが見る限りでは良くて、村の人達との関係性も良好、病気をしたような様子は一切なく、他に何か特別な事情を抱えているようにも見えない……と、お店を畳むのが不自然にしか見えない状況だったとか。


「クズィーリさんの場合は、連絡が取れなくなって見に行くと……という事だったのでまったく同じとは言えませんけど。でもこれは――クレア」

「えぇ。少なくともこうして聞く限りでは同じと考えるのが妥当でしょうね」

「だよね。んー、そうなると……カールラさん、いくつか質問してもいいですか?」

「は、はい。なんなりと」


 クレアと顔を見合わせ、お互いに頷いてカールラさんへの質問へと移る。


「まず、カールラさんが働いていたお店の扱っている商品っていうのは、どんなものがありましたか?」

「あまり大きくない村だったので、これといった一定の商品をというものではありませんでした。そうですね……ラクトスで言うなら、一番大きくて目立つ雑貨屋は知っていますか?」

「ハインさんの雑貨屋、ですかね?」

「あ、はいそうです。あれを小さくしたようなお店と考えて頂ければ」


 要は、なんでも取り扱うようなお店って事か。

 ハインさんの雑貨屋は、それこそ部屋の奥小物から剣などの武器、それに少ないながら衣類の取り扱いもあるようだからな……ラクトス内で取り寄せれられるまたは作れる物であれば、大型の家具なども代わりに仕入れて売ってくれるし、実際この屋敷で使っている家具もハインさんの所で購入した物ばかりだ。

 質としては、取り寄せは除いて普段店頭に並んでいるもしくは在庫にある物では、専門店程の物ではない代わりに安価で購入できるってところかな。


 大体の物は売っているイメージで、俺の中では安さの殿堂を標榜するあのお店のような感覚だったりもする。

 ……まぁ、この世界の人に言ってもユートさん以外には通じないから、内心で考えているだけだけど。

 っと、考えてばかりじゃなくてカールラさんの話も聞かないとな。


「働いていたお店のあった村は、農村でした。そのため、街から仕入れたものを幅広く扱っていたんです。お店自体、他にはほぼないような村でしたから」

「成る程……」


 田舎に時折ある、扱える物、村での生活必需品も含めて必要な物を販売するためのお店って事だろう。

 伯父さんや父親の両親、要は俺の祖父母が住まう山に近い田舎に行った事があるが、便利なコンビニなんてなく当然のように周辺に住む人は、一つか二つしかないお店で買ったり、取り寄せてもらったりするようだったのを覚えている。

 それでも、そのお店が混雑する事がないというのは、都市部に住む人からは想像できないかもしれないが、それだけお店に対して周辺に住む人の数が少なかったというのもあるけど。

 多分カールラさんが働いていたお店というのは、それに近いのだと思う。


「大体は近くの街……カッフェールの街で仕入れた物を、村の人達に向けて売り出すのですが……」


 カールラさんに話を聞くと、カッフェールの街とお店のあった村は、ラクトスとブレイユ村との距離感をさらに縮めた感じ、という印象だ。

 村で作られた農作物は街に向けて出荷され、全てではないだろうけど街に住まう人達の食卓か、さらに街から別の場所へと運ばれる。

 作物を売って得たお金で、街かカールラさんのいたお店などで買い物をするなどだな。

 あと物理的な距離としても街に近く、徒歩でも朝出発すれば昼過ぎには到着できるくらいだとか。


 距離だけで言うなら、別邸とラクトスくらいかなと思う。

 そしてカールラさんは、時折お店の仕入れとして店主さんについて行く形でカッフェールの街には、何度か出入りしていたらしい。

 まぁ、常に働いているわけじゃないから、仕事以外でも街に行く事はあったみたいだけど。


「色んな商品を扱っていた、というのとカッフェールの街に出入りしていたらしいので聞きますが、香料を売っていたお店などはありませんでしたか?」 

「香料と言うと、クズィーリさんが扱っていた商品ですよね? いえ、そのような物を扱うお店はなかったと思います。ですがすみません、街の全てのお店を知っているわけではないので……香料という物自体、クズィーリさんがこちらに来るまで知りませんでした」

「あぁいえ、いいんです。知らないのならそれで。街の規模にもよるでしょうけど、全てのお店を知っているのはそこに住む人でも多くはないでしょうし」


 申し訳なさそうに謝るカールラさんに、手を振って気にしないよう伝える。

 聞く限りでは、ラクトスより規模は小さめらしいけど、街というくらいだから人もお店も村と比べると、かなり多いんだろう。

 そんな中で、時々村から出て来るくらいのカールラさんが、全てを知っているわけはないしな……そこに住む人でも、知らないお店というのはあるだろうし。

 ただ、香料を卸していたクズィーリさんはかなりの量を送っていたらしいのに、全く知らないというのは聞いていた話の通り違和感を感じる。


 特に香料は嗅覚を刺激する。

 売られていれば、口にしなくてもある程度香りとして印象に残る可能性はある……嗅ぎ慣れない匂いというのは、結構記憶に残るものだしな。


「やっぱり、クズィーリさんの言っていた通り、送られた香料は一切売られていなかった、という事なのでしょうね」


 考えている事は、大体クレアも俺と同じようだ。

 まぁ繋がりがありそう? と考えながら話を聞いているせいもあるのかもしれないけど。


「うん、俺も今それに近い事を考えていたんだけど……そうなるとやっぱり、香料はどこに行ったのかが気になるかな。調査に行った人達が、どれだけ調べられるかにもよるけど。――あ、そうだカールラさん。カールラさんが村にいた頃の事だと思うんですけど、周囲に理由もなく街にあったお店が一つなくなっているはずなんです。知らなくてもおかしくないと思いますが、これについては何か噂とかでも聞いたりしていませんか?」

「理由もなく、かどうかはわかりませんが……いくつか入れ替わったお店というのはあるみたいです。ラクトス程ではありませんが、あちらも人の出入りが多い場所ではあるので。他へ行く人、入ってくる人でお店がよく変わるんです」

「そうですか……それじゃ、クズィーリさんと契約していたお店の事はわかりませんね」


 直接調査に行く以外で、何かこちらでもわかるかと思ったけど、そんなにうまくいくわけがなかったかな。

 でも、カールラさんのお店が急に閉店した事と、連絡もなく急になくなったらしいクズィーリさんと契約していたお店。

 この二つの不自然さは、なんとなく繋がっていそうな気がするから、こうしてカールラさんから聞けて良かったと思う。


「あ、でも……」

「ん?」

「どうしたの、カールラ?」


 はっきりとした進展はなしか……と諦めかけた瞬間、ふと何かを思い出した様子で声を漏らしたカールラさん。


「私が働いているお店が急になくなるより少し前……えっと、一か月ほど前だったかと思いますけど、そのくらいに仕入れ先のお店が一つ、急になくなりました。私は理由を聞かされなかったんですけど、店主は知っていた様子で、ある日突然そちらからの仕入れは必要ないと言っていましたから」

「店主さんは、前もってそのお店がなくなる事を知っていたんですか?」

「おそらく、ですけど。でないと、仕入れに行った時に何も知らずお店に行く事になりますから……」

「そうですよね……ふむ」


 まぁ仕入先の一つがなくなる理由を、一緒に働くカールラさんに必ず教えなくてはならない、なんて事はないからなぁ。


「ただ、そのお店は私が働いていたお店の商品、その多くの仕入れ先だったんです。だから、こちらのお店の方が困るんじゃないかなと思ったんですけど、店主は特に気にした様子もなくて。もしかしたら、あれがあったからこちらのお店もなくなったんじゃないかと思う事もありました」

「でも、違った?」

「はい。よく考えれば、それ以降も何も問題なく……という程ではなく、扱う品目や量は少なくなってしまいましたが、それでもなんとかやっていたんです。売れ行きとかを考えても、村では必要にされていたのでちゃんと売れていましたし」

「仕入れ先がなくなった事が、閉店の直接的な原因ではないと」


 仕入れ先がなくなったから、商品そのものがなくなってそのまま販売する方も共倒れのように、という事もなくはないからな。

 でもカールラさんの働いていたお店はそうじゃなかったと。

 話を聞く限りでは、その店主さんは元々そういう事があると知っていたか聞いていて、そのための準備をしていたと考えられるかな。


「ただそれは、クズィーリさんの契約していたお店とは、関係がなさそうですね。カールラはお店がなくなる一か月前という事でしたけど、クズィーリさんの方は一年くらい前から連絡が取れなくなったと言っていましたし」

「連絡が取れなくなったのが、つまりその時お店がなくなったのならだけどね。まぁでも確かに、時期が離れているかなぁ……」


 カールラさんが、働くお店がなくなりラクトスへ戻って来るまでに大体一か月前後と考えても、カッフェールの街にあるお店は今から二か月くらい前の事だ。

 ハンボルトという人がやっていたお店だったかな? そちらは一年以上前に閉店しているわけで、関係はない可能性が高い。

 ただまぁ、他に何かしらの繋がりがあるお店はないと決まったわけではないので、絶対関係がないとは言えないけど……。


「あ、いえ、一年前と言うのでしたらもしかしたら時期は近いかもしれません」

「え? でも……」

「その、お恥ずかしい話なのですが、働いていたお店がなくなったあとしばらく、村や街でしばらく過ごしていたんです。他に働く場所がないか探すのもありましたけど、急な事でちょっと、気が抜けたと言いますか……なので、実はお店自体がなくなったのは一年くらい前で、ラクトスに戻ったのが最近だったんです」

「そ、それは……」


 ま、まぁ一生懸命働いていたんだから、急にお店がなくなって途方に暮れる気持ちもあり、しばらくなんとなくで過ごしてしまう事もある……のかな?

 働き口を探そうとしても、これまで一生懸命働いていた反動で、動くに動けずとか。

 どうしてお店がなくなったのか? なんてグルグル考えていた可能性もありそうだしな――。




読んで下さった方、皆様に感謝を。


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