クズィーリさんのお見送りをしました
活動報告にも書いたように、本日より1週間に1話の更新となります。
更新頻度が下がるため、1話あたり6000文字前後での投稿です。
今後の更新は毎週土曜18:00を予定しております。
他にも俺達が食べて見せた卵と、そこから話される色んな料理に対して、児童館や従業員さんの子供達も、リーザやティルラちゃんと同じように期待している様子だった。
子供達には特に気を付けて、安全を確かめないといけないけど……美味しい物を食べさせてあげたいな。
あぁそういえば、目玉焼きができるならそれを乗せた目玉焼きハンバーグというのもできたか。
これもまた子供が好きそうなメニューだけど、人気が出そうだな。
熱を加えるわけだから、こちらは念入りに安全性を確かめる必要もほぼなさそうだし。
なんて考えつつ、卵料理のバリエーションについて話しながら夕食を進めていると……。
「キィ、キィキィ?」
「……もしかして、ラーレも食べたいのか?」
「キィ!」
俺が食べている卵かけご飯に対し、特に興味を示したラーレ。
レオもそうだけど、フェンリル達は特に匂いとかでも興味を持たず、コッカーやトリースも同様なのに……ラーレは好みが違うんだろうけど。
というかラーレ、鳥型の魔物なのに鳥の卵を食べるのか。
卵は日本で見た物よりも大きかったりと、ちょっとした違いはあるけど間違いなく鳥の卵らしいのになぁ。
……その鳥が、鶏なのかどうかはわからないが。
まぁラーレも鶏肉を食べたりするし、鳥が全て同類とかそういう感覚は一切ないんだろうけども。
ご飯の方はまぁ、穀物だから鳥が食べるようなイメージがなくはないが。
「そ、それじゃあ一応少しだけ……食べてみるか?」
「キィ!」
翼を広げて喜びを表しているラーレに、俺の食べていた卵かけご飯からスプーンですくって近づけてみる。
すると、くちばしの先を器用に使ってスプーンに乗った卵かけご飯を啄んだ。
「キキィ、キィ、キィ!」
「えーっと?」
「タクミさん、ラーレは凄く気に入ったようですよ!」
小刻みに翼を動かして鳴くラーレの言葉を、ティルラちゃんが通訳してくれた。
喜んでいるのはわかったけど、何を言っているのかはさすがにわからなかったからな。
「そ、そうなんだ……まぁ嫌うよりはいいんだろうけど」
鳥なのに、鳥の卵を使った物を気に入るとは……いや、これは偏見になるのかな?
ともあれ、卵かけご飯を気に入ってしまったラーレのために、急遽追加で卵かけご飯を作り、それを食べてもらう。
ラーレは割と肉類を好んで食べていたと思うけど、意外なところで好物ができたのかもしれない。
そんな事もありつつ、なんだかんだで夕食が始まった直後の生卵に対する忌避感や、俺とユートさんがゲテモノ食いのように一部から見られていたのは、多少は薄れてくれたようだった。
そうなるように色々話したのは俺だが、成功だったようだ。
ちなみにユートさんは、久しぶりに卵かけご飯を食べてご満悦で、ルグレッタさんと食べられる生卵を増やす方法の相談をしていた。
ジュウヤクを量産しないといけないし、しばらくは大丈夫と言っていたはずなのに……まぁ、今日明日でどうこうはないだろうけど、要請される可能性は考えておこうと思う。
俺も、卵は食べたいしな――。
――生卵の件があってから、プリンなどの卵料理を色々と試すというかおぼろげな俺の記憶を探りながら、完成目指しつつ二日程過ぎた。
一応あれから、何度か生卵を加熱せずに食べているけど、今のところ体調がおかしくなる事はなく、安全だと確かめられている。
念のため用意していた薬は無駄になったようだけど、まぁ薬なんて実際は役に立つ機会が少ない方がいいからな。
俺やユートさんが平気な様子を見て、慄いていた人の一部……ほんの数人だけど、興味を持って卵を食べようとし始めてくれているのはいい傾向と言えるだろう。
そんな事がありつつも、今日は追加でカレー粉を作ったりヘレーナさんと意気投合して楽しく過ごしていたクズィーリさんが、ラクトスへ向かって出発する日。
俺はレオやリーザを伴って、ランジ村の出入り口でお見送りだな。
「もう少し、ここにいても良かったんですよ?」
「いえ、居心地がいいのでいつまででもいたいと思ってしまいますが、さすがに公爵家の方々がいらっしゃるここに留まるのは畏れ多いと言いますか……それに私は行商人ですので。一つの所に留まるっていると、まだ見ぬ香料に出会えませんし。いずれ、自分のお店を持つ事があれば、この村にとは思ったりしますけど」
「公爵家の人達は、カレーやカンゾウをもたらしてくれたクズィーリさんなら、気にしないとは思いますけど……もしお店を出す時になったら、協力させて下さい。もちろん、契約もありますので定期的にカンゾウなり他の香料は届けます」
「ありがとうございます! お店の方はいつになるかはわかりませんが……香料の方はありがたく!」
クズィーリさんとの契約は、俺が『雑草栽培』で作った香料に関する事だが、カンゾウに限らず余裕があって作れる物は屋敷やランジ村で使う事と、クズィーリさんに届けるというもの。
また、こちらでカレー粉も含めて香料をブレンドして新しい何かを作ったら、クズィーリさんとも共有する事なども追加されたりしている。
それはヘレーナさんとの会話の中で出てきた事らしいが。
ともかく、契約によってこれからクズィーリさんとは協力関係を築いていくって事で、お互い同意しているわけだ。
「ワフ、ワフワフ!」
「美味しい物、いっぱい食べられたしこれからも食べられそう。えっとえっと、クズィーリお姉ちゃん、ありがとう!」
「ははは、レオもリーザもクズィーリさんに感謝しているみたいですね。もちろん、俺もですしユートさんとかも、凄く感謝しているって言っていました」
カレーをもたらしてくれたわけだからな、感謝をするのは当然だ。
さすがに俺とユートさんだけでは、カレーが複数の香料……香辛料で作れる事は知っていても、どういう物を使って作れるかまではわからなかったし。
ユートさんからも、くれぐれも感謝を伝えるようにと言われている。
マイカレースプーンを用意するくらいだから、カレーが食べられたのは本当にうれしかったんだろうと思う。
「シルバーフェンリルのレオ様に感謝される程の事では……いえ、それだけ皆様に香料の素晴らしさが伝わったわけですね」
「はい、その通りです」
「香料を広めるという夢を持って行商人になり、香料を探しながらいろいろな場所へ行ったのが、報われる思いです」
「いえいえ、香料は多くの可能性を秘めていると思いますからね。これからですよ」
「……そうですね。タクミ様のおかげで、価格も多くの人が手が届くものになるかもしれませんし」
大勢に、特に一般の人達に香料が広まらない可能性として考えられる要因の一つは、価格だろうからなぁ。
特別な味にはなるが、生活に必要不可欠という物ではない以上、どうしても一定以上に高くなる可能性のある香料は、手を出しづらい。
それを、俺と契約した事で一部の香料は量が用意できる見込みができ、価格を下げられるって寸法だ。
実際にどれだけ価格を下げられるかなどは、ラクトスでクズィーリさんと契約するお店やこれから次第だろうけど……そこはカレスさんが上手くやってくれるのに期待だな。
「香料が多くの人に届いて広まって行く事を願っています。もちろん、できる事は協力させてもらいます」
「はい、ありがとうございます! それでは……」
クズィーリさんがガバッと頭を下げた後、荷物を持たせてある馬に乗る。
馬は以前、駅馬でクズィーリさんと会った時に厩舎に預けてあった馬だけど、俺達が半ば強引に新馬車に乗せて連れて来たから、馬は置いてけぼりになっていたんだよな。
それを、レオの散歩がてらもう一度駅馬の方へ行って、連れて帰って来たってわけだ。
あのまま馬を預けっぱなしにしていると、クズィーリさんの移動手段がなくなってしまうし。
フェンリルに乗ってもらう事も考えたけど、今後もラクトスへ行った後別の場所へ行くとなったら困ってしまう可能性もあるし、本人が馬での旅をしたいとも言っていたから。
クズィーリさん的には、フェンリルで駆けるよりも馬に乗ってゆっくり進みつつ、移動中に香料になる植物などを探したいみたいだからな。
「道中は街道ができていますし、兵士さんも巡回しているようなのであまり危険はないとは思いますけど、それでも気を付けて下さい」
「一人での旅に慣れているので、警戒は怠りません。ただ、こんなに安全な旅が予想されるのは初めてですけど」
ランジ村とアクトスを繋ぐ街道はほぼ完成していて、今は南方面を整備中だ。
それに伴って、点検の意味も含めて兵士さん達が周囲警戒と近付く魔物がいないかの巡回をしているらしく、調査隊としてランジ村に来た兵士さん達も協力している。
街道は人間が使い、魔物は近付くなと示す事でふらふらと近づいてくる魔物が減るのも見込んでだ。
絶対ではないし、以前新馬車を初めて試した時の遭遇したトロイトのように、本来いるはずのない魔物が出て来て……なんて事がないとは言えないからな。
「安全なのに越した事はありませんからね。それじゃあ」
「はい。タクミ様、またお会いしましょう!」
「またねー!」
「ワフ」
俺が手を振り、それを受けて馬を歩かせて離れて行くクズィーリさん。
リーザもブンブンと手を振るのに合わせて、レオも挨拶をするように鳴く。
ゆっくりと、走るのではなく馬が歩く速度で徐々に離れて行った――。
「さて、と。クズィーリさんの見送りも終わったし、俺達は屋敷に戻るか」
「ワッフ」
「うん」
しばらくして、クズィーリさんを乗せた馬が見えなくなった頃、レオとリーザを連れてランジ村の中を通って屋敷へと向かう。
とはいえ、急ぐ用もないのでゆっくり村の様子を見ながらだけど。
「……兵士さん達がちらほらと村の中にいるから、少しピリッとした雰囲気があるけど……それでも、考えていた程じゃないかな?」
「皆のんびりしてるねー」
「ワフン」
ランジ村の中では、ちょっと視線を巡らせると兵士さんの姿があちこちに見える。
エッケンハルトさん達が集めた調査隊となった兵士さん達だけど、数が多いから一部村の中に入っているとこうなるのも当然か。
それでも、元々の村ののんびりとした雰囲気が完全になくなった感じがしないのは、俺としては嬉しい限りだ。
調査のためとはいえ、ピリピリした空気で村の人達に過ごして欲しくないからなぁ。
村の入り口にある大きな宿屋は、その兵士さん達が出入りしていて盛況なようだし、近くには二軒ほど新しい宿を建築する準備が進められていたりもするけど。
その宿建築の準備にも、兵士さん達が手伝っていたりと村の人達とはいい関係が築けていると思う。
まぁ調査のために来たのに、建築の手伝いをするのは兵士さん達としてはいいのだろうか? と思わなくもないけど、元々そういった事をする役目もあるらしいし、公爵家の人達が指示している事でもあるから問題はないんだろう。
そもそもその公爵家の人達が屋敷に滞在しているわけで、現在ここは領主貴族のお膝元に近い状況だから、兵士さん達の士気も高く不満はほぼないらしい。
全くないわけではないようだけど、まぁ人間だからちょっとした不満などはあるだろうな。
派遣されてきているに近いから、家族と離れ離れになっている兵士さんだっているだろうし。
「タクミ様、村の見回りですか?」
「ははは、いえそんな。俺が見回るような事はこの村ではありませんし、そんな役目も俺にはありませんからね。ただ、のんびりと見ながら屋敷に戻ろうとしている途中ですよ」
「ワッフ」
様子を見つつ、すれ違う村の人や兵士さん達に挨拶をされたりこちらからしたりしながら歩いていると、一軒の家の軒先で談笑して休憩していた兵士さんに声をかけられる。
なんとなく見覚えのある人だなと思ったら、後から合流した調査隊をまとめている隊長さんの一人だった。
「ふふ、そう言いながら、いつも私達村に住む者達の事を考えてくれているんですよ。この間だってちょっと体調を崩した人のために……」
なんて、隊長さんと談笑していた村のおばちゃんも話に加わる。
村で体調を崩した人がいれば、使用人さんが届ける手筈になっているけど、俺の手が空いている時は様子見ついでに行くようにしていた。
もちろん、俺は医者などの専門家じゃないので手に負える症状の人に限りだけども。
「まぁ、薬草や薬を作っていますけど、村の人達にはそれに協力してもらっていますから。近くにいるのに、苦しんでいる人が薬を得られないのもおかしな話だと思いますし、そういった人に手が空いている時に届けて実地で見て経験させてもらっているだけですけどね……」
病になれ、なんて言って苦しませるわけにもいかないし、そんな簡単に病が発生するとは限らない。
だからできるだけ自分の目で見て経験する事は大事だと思っていて、だから俺が薬などを届ける役目もやる……というのが理由の一つだ。
一部、そんな村からの評判を上げるため、という目論見を考えている使用人さんもいたけど……歓迎されまくっているランジ村の中で評判を上げるも何もないんだよなぁ、と思ったり。
ともあれそのままちょっとだけ、おばちゃんや隊長さんと世間話を少しして、再び屋敷へ移動を始める。
「ワッフワフ~」
「レオ、ご機嫌だなぁ」
「ワフ。ワフワフ?」
「うん、リーザもなんとなく楽しいよー」
「ははは、そうかそうかぁ」
村の雰囲気がレオにとって心地いいのか、それとゆっくり俺が歩く速度でだけど散歩している感覚なのか、フェンリルの森に行った時と同じくらい上機嫌なレオ。
リーザも楽しそうで、レオと一緒にゆらゆらと尻尾を揺らしている。
「あ、レオ様とリーザちゃんだ!」
「ほんとだー!」
「レオ様ー、リーザちゃーん!」
「タクミ様もいますね……うふふ」
レオやリーザのご機嫌っぷりに目を細めていると、離れた場所から俺達……特に目立つレオを発見して駆けて来る子供達。
児童館で暮らす、孤児院から連れて来た子供達だな。
一部、というか一人だけ俺を見て怪しい笑みを浮かべているのは、なんとなくマセた感じのするマリエラちゃんだな。
児童館で子供達の面倒を見ているカイ君によると、普段はおとなしく控えめな子らしいけど……なんというか、俺を見る目や俺を前にした時は、何故か皆の前に出がちなんだよなぁ。
「ワッフワフ!」
「皆ー!」
子供達が駆け寄ってくるのを見て、レオが大きく尻尾を振り、リーザがレオの背中から飛び降りて迎えた。
相変わらずレオは子供好きでいい遊び相手なようで、それはリーザも同じみたいだな。
「ねぇねぇタクミ様?」
「うん、どうしたんだい?」
駆け寄って来た子供達の中から、男の子が代表して俺に話しかける。
何か聞きたい事があるみたいだ。
「フェンリルさん達、ちょっと減っている気がするんだけどどこに行ったんだろう?」
よく遊んでいるからか、フェンリル達の数が減った事に気付いていたみたいだ。
はっきりとではなくとも、なんとなく感じたのかもしれないが。
やっぱり子供達は、よく見ているなぁ。
輸送隊としてラクトスへ向かったり、カッフェールの街へ調査をしに行ったり、さらには森の北へと向かったりと、フェンリル達には色々動いてもらっているからな。
ラクトスへ行ったフェンリルは戻って来たけど、再度物資輸送をするために何体かのフェンリルが選出されて準備しているし、半分程も減っていなくても子供達にはわかったんだろう。
もしかすると、兵士さん達が多く村に来て雰囲気から何かを感じたのかもしれないが――。
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