皆興味と恐怖がせめぎ合っているようでした
「そうですね、思っていたより美味しいです。多分俺が知っているのよりも卵がいいからかもしれませんけど……」
卵の黄身だろうか、甘味を感じながらもしっかりと卵だと主張する味。
ゆで卵として食べるよりも、それは強く、そして醤油のしょっぱさとご飯の柔らかい食感をさらに柔らかくしており、日本で食べていた時よりもかなり美味しく感じた。
久々に食べたからっていうのはもちろんあるだろうけど、卵の味がはっきりしていてご飯とも合う味になっているからかもしれない。
スーパーとかで売っている一般的な卵よりも、卵かけご飯用に作られた卵に近いかもしれないな。
考えてみれば、溶き卵にする際黄身がしっかりしていたように思うから、次食べる時には黄身とご飯だけで食べてみてもいいかもしれないな。
黄身の甘みも、ゆで卵の時ほど強くないけどはっきり感じられるし、砂糖類とは違う甘味を感じる料理が好きな人にはお勧めしたいところだ。
……お勧めして、俺やユートさんみたいに躊躇なく食べてくれる人は、この世界には少ないかもしれないけど。
「うんうん、懐かしい味だなぁ。タクミ君は違うように感じたみたいだけど、僕はこれが卵かけご飯だって思うよ。まぁそれは、長い間記憶だけにあった物だから、とんでもなく久しぶりに食べて脳がこれだって思っているからかもしれないけどね」
俺だけでなく、ユートさんも満足の味になっているみたいだ。
まぁ卵かけご飯で、アレンジをしないなら大きく変わる程じゃないからな。
ユートさんの場合、長い間というのは数年どころでは済まないからっていうのもあるんだろう
「ユ、ユート閣下も満足する物……か。ほ、本当に平気なのだろうか? であれば私も食べてみたいとは思うが……いやしかしな……」
「まぁ、これまで食べて来なかったわけですし、危険性も十分理解しているでしょうから、あまり無理はしなくていいかなと思います。とりあえず、俺とユートさんが食べた後にどうなるか次第で、それから考えてもいいんじゃないでしょうか?」
「う、うむ。そうだな……さすがになんの躊躇もせずに食べる事はできないだろうが、美味しい物と言うのはやはり興味がそそられるものだな」
「タクミさんが平気なのあれば、私も食べたいとは思いますけど……私もやはり躊躇しないとは言えませんね。タクミ様のいらっしゃった場所で、食べられていた物というのは興味があるのですけど」
エッケンハルトさんはとにかく美味しい物、という方向で興味があるようだけど、クレアは俺が日本にいた時食べていた物だからという興味みたいだ。
それだけ、俺の事を知ろうと考えてくれていると思うと嬉しいが、無理はしないでいいかなとも思う。
生卵に対しての忌避感は、危険性をユートさんから聞いてアルフレットさん達の話から、よく分かったからな。
この先俺が薬のお世話にならず、安全性が確認されたらだけど、食べたい人が食べるくらいでいいんじゃないかと思う。
あ、けど……。
「ライラさんやヘレーナさん達には話したんだけど、プリンっていうのが甘くて美味しかったり……あれなら、加熱するからもっと安全だし、普段食べている卵とそう変わらないと思う」
「あ、甘い物、ですか!?」
甘い、と聞いたクレアが大きく反応。
それだけでなく、使用人さんや従業員さんなど一緒に夕食の席に付いている人達の多くが、先程まで生卵に戦々恐々としていたはずの目の色が変わった。
砂糖が貴重で高価なため、甘い食べ物というのはそれだけで魅力的な物みたいだからなぁ。
まぁ、簡単に砂糖が手に入って使える日本でも、甘くて美味しい物というのは当然のように人気だけど。
「クズィーリさんのおかげで、甘味はカンゾウという選択肢が増えそうだから……多少試行錯誤がいるかもしれないけど、多分作れると思う」
「そ、そうなのですか。プリン……なんでしょう、魅惑的な響きな気がします」
さすがプリン、その名称にも多くの人が惹き付けられる何かがあるのだろうか、クレアを含む一部の人が想像して楽しんでいるようだ。
砂糖は高価で使うのは躊躇われるけど、カンゾウがあれば代用できるだろうし……ヘレーナさんが他の甘いデザートを考えていなければ試すのにちょうどいいと思う。
まぁ地球の甘いデザートと、こちらの人が考えたお菓子で食べ比べてみるのも面白いかもしれないな。
……俺が、ちぁんとプリンを作れればだけど。
なんとなーく、作業工程みたいなのは以前教えてもらった事があるんだけど、ちゃんとした物ができるかどうかは試行錯誤次第だ。
砂糖と違って代用のカンゾウは俺自身が作れるものだし、まぁ色々試してみようと考えている。
あと、生卵が大丈夫だと確信できればマヨネーズを作っておくのも良さそうだな、アルフレットさんみたく興味を持ってくれる人はいそうだし、特に意識しなければ忌避感も少なそうなものだから。
「タクミ殿、甘い物以外には何かないのか? いや、私はハルトやクレア程の興味があるわけではないのだが、甘いのはあまりな……」
「私も、他に何かないかと思ってしまうわね。結果がどうあれ、食が豊かになるのは悪い事じゃないし」
「甘いばかりじゃなく、色んな物がありますよ。例えば、エルケリッヒさんやマリエッタさんには茶碗蒸しがいいですかね? 色んな具材を食べられますし、食感なども楽しめるかもしれません」
「ほぉ、茶碗蒸しとな……? それはどのようなものなのだ?」
「えっとですね……」
あまり興味がないような事を言っていても、やはりそこはリーベルト家というところだろうか。
卵を使った料理のバリエーションに、前のめりになりかけている。
そんなエルケリッヒさん達に、茶碗蒸しだけでなく、オムレツやオムライス、他にも目玉焼きなんてのも話した。
使用人さんや従業員さん達も、まだ忌避感や心配などはなくなったわけではなさそうだけど、興味深そうに聞いてくれたな。
レオはあまり卵関係は好きじゃない、というか嫌いでもないし、特別卵を食べていたわけでもないからあまり興味がなさそうに、自分の食事に集中していたけど、ティルラちゃんやリーザは甘いプリンにクレアと一緒に色々想像を膨らませているようだった。
リーザはあまり生卵は危ない、という事について知らないようで特に忌避感とかはなさそうだし、ティルラちゃんも持ち前の好奇心で大人達程ではないみたいだからだろうか――。
読んで下さった方、皆様に感謝を。
別作品も連載投稿しております。
作品ページへはページ下部にリンクがありますのでそちらからお願いします。
面白いな、続きが読みたいな、と思われた方はページ下部から評価の方をお願いします。
また、ブックマークも是非お願い致します。