アルフレットさん達は心配なようでした
「そこまでタクミ君が不安なら、大丈夫って事の証明に今ここでこれを飲み込んで見せようか? さすがに殻付きというのは初めてだけど……」
「いや、さすがにそれは……」
というか生卵をそのまま飲む、なんてのはあるらしいけど、殻ごと飲み込むなんてのは聞いた事がない。
俺が聞いた事ないだけで、実際にはあるのかもしれないが……。
「そこまで言うなら、信じてみようかな。ただ、対処というか薬は一応用意しておくけど」
「心配性だなぁ。薬なんか用意しなくても、絶対大丈夫だから安心して欲しいな。でもまぁ、タクミ君がそれで心置きなく食べられるって言うんなら仕方ないね」
なんとなく、ユートさんの絶対大丈夫は俗に言うフラグじゃないかと疑ってしまうんだよなぁ。
ともあれ、この後の夕食でとりあえず卵かけご飯を試してみる、という話で決着がついた。
念のため、ユートさんからもしもに必要な薬を聞き出しておくのは忘れない。
薬は、ありふれた薬草で俺も作った事もある腹痛用の物で、それを煎じて飲むだけでいいらしいのは、少し安心した。
あと追加の余談として、どうしてそこまでユートさんが安全だと言い張れるのかの理由として、以前からユートさんが使っていた魔力視に近い魔法によって、判別できるからだとからしい。
全ての菌を判別できるわけじゃないが、卵と食中毒に関する菌は百パーセント見抜けるらしく、それを使えば菌がいない事がはっきりわかるからって事みたいだ。
ちなみに、ギフトでどんな魔法でも使えるユートさん以外にもできるのかと聞けば、人間には本来不可能な魔法だという事だ。
ただ、その魔法効果を宿らせた魔法具を使う事で同じ効果を得られるらしく、そのおかげでユートさんが直接見なくても、危険かどうかの判断はできるとか。
そういうのは早く教えて欲しかったけど……まぁ、消毒する過程の漏れやミスの可能性はかなり低いようだし、あったとしても、そこからさらに検査してそれが漏れるのは低い確率だとの事だし、大丈夫なのかな?
両方で漏れる確率は、合わせたら一パーセントにも満たないだろうし……。
よっぽど運が悪いとかじゃなければ、大丈夫なんだろう……と考えると、これもまたユートさんみたいにフラグっぽくなってしまいそうで、すぐに考えないようにしたけども。
「旦那様……その、本当に大丈夫なのでしょうか」
「ん、何がですか?」
ユートさんが言いたい事を言って上機嫌で部屋を退室した後、しばらく書類仕事に追われていると、おずおずとアルフレットさんに尋ねられた。
ちなみに、ユートさんが出て行く前に一応椿油の方も聞いてみたけど、そちらも数日中には何かしらの話ができるかも? という事らしい。
エッケンハルトさん達が慄くというか、頭を抱える程の人を巻き込んじゃった事だけに、ユートさん以外ではそちらの方が重要なはずなんだけど、本人としてはあくまで生卵の方が重要みたいだ。
まぁ、食が豊かになるのはいい事ではあるとは思うけど。
「いえ、先程のユート様との話です。卵に熱を加えずそのまま食べるというのは……」
アルフレットさんの表情は暗く、生卵と聞いてからそちらに意識が向いてしまっていたんだろう。
よく見ると、いつもはさっさと書類を仕分けるなり確認しているのに、今は手がほとんど動いていない。
仕事どころではないくらい、気にしていたようだ。
ライラさんも、表情は変わらないけど俺に対して心配そうな雰囲気を向けているし……さっき、俺がユートさんと一緒に手本として食べると言ったからだろう。
「うーん……ユートさんが自信満々なので大丈夫だとは思います。それに、卵料理は全てが過熱しないわけではありませんからね。まぁ、最初に食べようと考えている卵かけご飯というのは、生の卵をそのまま使いますけど……」
料理にする過程で加熱するものも当然あるからな。
こちらでは、生のまま使う事がないからそういった料理は出て来ないけど。
とりあえずユートさんがあれだけ自信満々に大丈夫と言うのだから、信じて食べてみようと思う。
……ユートさんというよりも、消毒の過程や魔法具への信頼が大きいかもしれないけど。
「旦那様がそう仰るのであれば、とは思いますが……もしもがあったらと思うと」
「私も、差し出がましいようですがアルフレットさんと同意見です。卵というのはありふれており、広く食べられておりますが……ですからこそ、時折やってしまう人がいるものです。そしてそういった話や、近くで見る機会もあります。喜ばしい事では全然ないのですけど」
ライラさんの言葉に、アルフレットさんも頷いている。
事情があるのかはわからないけど、生卵を食べる猛者が時折出るらしく、それをアルフレットさんやライラさんも話で聞いたり、見たりする事があったらしい。
つまり、食中毒で苦しむ人をって事だ。
まぁ未処理の生卵を食べてそうなるのは、必然みたいなものだし、俺が知っている生卵の食中毒より酷い症状みたいだから心配になるのはわかる。
そもそも生で食べるという習慣がない中でなので、さらにもしもを考えてしまうんだろう。
「まだ試していないので絶対大丈夫とは、自信を持って言えませんけど……俺のいた場所では、日常的に生卵は食べれていたんですよ。まぁ、場合によってはお腹を壊すくらいはありましたけど」
探せばそれで亡くなった人、というのもいるかもしれないが……基本的にスーパーで出回っている卵で、酷い事になる可能性はかなり低い。
古くなった卵を食べた、とかでない限り。
というか、俺自身よく卵を使っていたし、卵かけご飯なんて手間のかからない物は手っ取り早くお腹を満たせるとして、よく食べていたからな。
それで当たった事はないし、だから楽観的に見ている部分もあるんだろう。
根本的に、生卵を食べて育った俺と、生では絶対に食べては駄目と言われて育ったアルフレットさん達とでは、見方が違うのは仕方ないか。
「旦那様のいた場所で、ですか?」
「先程のユート様のご様子もそうですが、旦那様も嬉しそうな表情をしていましたが……生卵を食べる事で、そこまで喜べるのか私にはわかりません。ですがそれは、旦那様がおられた場所でそうであるから、なのでしょうか?」
言葉少なに、でも確実に興味があるという雰囲気を出すライラさんと、微妙に訝し気な様子で言葉を重ねるアルフレットさん。
当然二人には俺が異世界の地球、日本という国から来ている事は伝えてあるからな――。
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