卵には危険がいっぱいでした
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「それじゃ、今日の夕食は卵尽くしで決まりだね」
「数が多くないんだから、そこまではさすがに。それにもう、この時間なら夕食作りは終わりかけだろうし……献立は変えられないんじゃないかな。せっかく作った、もしくは作っている途中の物を急遽変えるのはヘレーナさん達に申し訳ないし」
「そんなぁ……せっかく、覚えている限りの色々な卵料理を伝授しようと思ったのに……」
「それは、ヘレーナさんが喜びそうではあるから教てえてあげて欲しいけど、また明日以降かなぁ」
新しい料理、という事でそういった探求を怠らないヘレーナさん達、屋敷の料理人さん達は喜ぶだろうし、料理のバリエーションが豊になるのは悪い事じゃないけど、さすがに今からはなぁ。
チラッと見た時計は、そろそろ夕食の時間になりそうなところを指しているから、料理ももうほぼ終わっている頃合いだ。
どうしても今から生卵を使うとしたら……。
「まぁ手軽で追加できそうなのは、やっぱり卵かけご飯かなぁ」
執着しているわけではないけど、食べたいのもあって卵かけご飯が頭に浮かぶ。
あれなら料理の追加とかではなく、炊いてあるご飯さえあればそこに卵とお好みで醤油をかけるだけで食べられるだろうし。
「あと、やっぱり他の人はこれまでと違う食べ方で、抵抗がある人が多いと思うし……まずはお手本みたいな感じで、卵かけご飯を食べるところを見せるってのがいいんじゃないかな?」
「んー、確かにそうだね。いきなり生卵を持って行っても、皆が喜ぶとは限らないか。消毒していない物は、命に関わるからね」
「……え、命に関わる?」
卵で考えられる食中毒って、サルモネラ菌によるもので稀に重症化する事もあるけど、はっきり命に関わると言う程酷い物じゃないって印象なんだけど……。
もちろん、場合によっては重症化して亡くなってしまう可能性がないわけじゃないし、そうでなくてもしばらく日常生活に支障が出たりはするだろうけども。
「あぁそうか、タクミ君にはそこまで話していなかったね。こちらでの卵って、タクミ君が知っているのと違ってかなり酷い食中毒になる可能性があるんだよ。というか、生卵を食べると、高確率で長い腹痛や発熱に悩まされる事になるね。対処法はあるし、僕も体を張って試した時はいっそ楽にして……なんて思ったくらいだけど」
「確率はともかく、長いっていうのはどれくらい?」
「まったく対処しなければ、一か月くらいかな」
「それ、もう重症って事じゃ……」
入院が必要かどうかが重症と軽症を分けるとは聞いた事があるけど、その他に快癒するまでの期間が三週間から一か月を越えるかどうか、でも判断されたりする。
というのを、何かで聞いた覚えがある……医者じゃないし、詳しくないうえ日本での基準だったと思うけど。
でも一か月も苦しみが続くのは、こちらでも重症と言っていいだろうし、もちろん命に関わると思って良さそうだ。
「そうだね。数日で症状が治まる事は適切な対処をしても、ほぼないと思っていいかな。それは、こちらの医療技術とかそういう問題ではなくて、卵が原因で引き起こされる食中毒がそういう物だからだよ。大体は、薬で症状を抑えつつ安静にして……あとは、運次第? 罹患した人の体力とか年齢などにもよるけど、半分くらいは生死をさまよって、さらにその半分は……ね」
ユートさんが明言を避けたようだけど、多分言いたいのは亡くなるって事なんだろう。
対処しても生死をさまよった挙句にそれなら、俺が考えていたよりもさらに深刻で、命に関わるというのは大袈裟でもなんでもないな。
「それは……ユートさんが食べられるって言っても、食べたいと思う人は多くないんじゃないかな?」
さっき、というか今でもだけど、アルフレットさん達が生卵と聞いて嫌そうな、むしろ恐怖している感じすらする雰囲気や表情になっている理由に、大いに納得した。
命に関わる食中毒になる危険性があるなら、そうなってもおかしくない。
「そうかなぁ? ジュウヤクがあれば、絶対安全なんだけどなぁ。そもそも、加熱したらむしろ日本での物よりも絶対安全と言えるくらい、食中毒になる事はないような弱いものだよ? まぁ感染したら話は別だけど……それに実際、以前はジュウヤクを少量ながらに見つけた時は大丈夫だったからね。僕だけでなく、食べてもらった人達も」
「そうは言っても、やっぱり怖がる人は多いと思うんだけど……本当に安全?」
さすがに今の話を聞いて、ジュウヤクがあるからと安心して食べる気は湧かないので、念のために聞いてみる。
「その、消毒したとしても絶対はないんじゃないかなぁって。それこそ、ヒューマンエラーじゃないけど、何かしら消毒漏れがあったりとか」
人間のやる事だから、絶対はない。
手違いとかミスというのは、どこでも、誰でも起こしてしまう物だから。
それが命に関わる食中毒を引き起こす可能性のある物なら、警戒して当然だろう。
「それは大丈夫。実はね、ジュウヤクがなくても多少食べられる生卵っていうのは、できかけていたんだよ。えっとね……」
ユートさんによると、一度食中毒として体内に入った菌に感染すると危険だが、食べる前というか殻に包まれた状態で茹だらない程度に温めて大体半分、その後凍らない程度に冷やすと菌がほとんどいなくなって安全になるらしい。
それでも大体十個に一個は当たる可能性が残っているとして、まだ生卵が一般に食べられるよう普及はされなかったとか。
まぁ生死をさまよう可能性のあるギャンブルを、十個に一個という確率で試したいとは思わないからそれは当然か。
ただその過程でジュウヤクから作った消毒液を散布する事で、確実に食中毒にならない物ができるとかなんとか。
俺としては、その過程の中でミスや漏れがあるかも? なんて考えていたんだけど、ユートさん曰く絶対にそれがないような仕組みにしてあるんだとか。
というより、いざジュウヤクが見つかった時などのために、そういう仕組みをずっと考えて少しずつ整えていたとか。
ユートさんが自信満々なのには、ルグレッタさんも不安そうにしているけど、俺も同じくちょっと不安ではあるけど……。
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