フェリー達は美味しい物が最重要みたいでした
――ある程度、注意などを含めた調査の確認を終え、ルグリアさんと最終確認。
「出発は……今日はもう遅いし、明日か明後日がいいですかね?」
もう日も暮れていて、夕食の前だから出発するには遅い。
まぁあまり目立たないように森を進むなら暗い方がいい、という考えもあるだろうけど。
「そうですね……こちらも、私以外に同行する者を選定せねばなりませんので。早くても明日がいいかと」
「わかりました。――そういう事だからフェリー、他のフェンリル達も。出発は明日まで待ってくれるか? もういつでも行けるような意気込みを感じるけど」
「グルゥ~?」
「ガフ~、ガッフガフ!」
俺の言葉に、少し不満そうな鳴き声を上げるフェリー達。
集まったフェンリル達はそれぞれ、舌を出してパンティングしたりしていて、今すぐにでも走り出したいという雰囲気だ。
けど、こちらというかルグリアさんの準備もあるからなぁ。
それに……。
「今から行くと、夕食を食べそびれるぞ? もちろん、調査へ行くにあたって食糧とかは準備するし、道中はルグリアさん達に任せるけど……」
「グル!? スンスン……クゥーン……」
夕食、という言葉にフェリーが大きく反応し、顔を空へ向けて鼻をひくつかせた。
すぐにレオが甘える時のような鳴き声を出した。
どうやら、今日の夕食の献立というか、メインがわかったようだ。
まぁ、もう庭で夕食の準備が始まっているし、美味しそうな匂いが漂い始めたのは俺でもわかるくらいだからな。
「察しの通り、今日はフェリーの大好物のハンバーグだ。作り方は簡単だけど、手間が少しかかるから森に調査へ行くと道中では中々な。食べておきたいだろう?」
「グル、グルゥ!」
慌てて何度も頷くフェリー。
ソーセージとかを前にしたレオもそうだけど、フェンリルも好物には弱いみたいだなぁ。
完全に餌付け完了している感じではあるが……他のフェンリル達も、ハンバーグが好きなのは多いので、そちらもおとなしくなった様子。
ハンバーグの力は偉大だなぁ。
レオがいなくても、もしかしたら食べ物で釣ればフェンリル達って協力してくれる可能性が高いんじゃないだろうか?
駅馬に協力する条件にも、ハンバーグを含む美味しい物を食べさせてもらうってのが入っていたし。
「よしよし、ちょっと待つくらいだから、今日はお腹いっぱいハンバーグを食べて明日以降に備えておこうな?」
「グルゥ!」
「いい返事だなぁ。ははは」
ハンバーグ、と聞いてから尻尾が激しく振られているフェリーのいい返事を聞いて、思わず笑ってしまう。
物で釣るというのは個人的にはあまり好かないけど、まぁこれくらいはいいかな。
「そういうわけですので、フェリー達には道中できるだけちゃんとした食べ物を用意した方がいいかなと。その方が、やる気も出るでしょうし」
「畏まりました。我々のみであれば、粗食で済ませる事が多いのですが……多少は心得もありますのでお任せ下さい」
「お願いします。食料とかを運ぶのはフェリー達が頑張ってくれると思いますので……」
「グル、グルゥ! グルルゥ?」
「えーっと……さっきも言ったけど、どうしてもの時以外は狩りは駄目だぞ? だから現地調達はできないと思ってくれ」
美味しい物のためなら、と意気込むフェリーが前足を上げ爪をアピールする。
通訳してくれるレオとかがいないので一瞬なんの事かわからなかったけど、雰囲気から狩りでの現地調達の事だろうと察した。
とはいえどうしても……それこそ食べ物が尽きたとかでない限りはできるだけ、狩りは控えて欲しいのはさっきもフェリー達に話した通り。
我慢してもらわないといけない部分もあるだろうけど、そこはなんとかフェリー達にお願いするしかない。
「まぁ、戻ってきたらお腹いっぱい美味しい物が食べられるようにするから。な?」
「グルゥ」
安易だけど、とりあえずヘレーナさんに頼んで特大のハンバーグを作れば、フェリー達は大丈夫だろう。
「っと、さすがにハンバーグは道中で用意する必要はありませんからね? 準備に手間が多少かかりますから」
「そうですか……フェンリル達が喜ぶのであれば、少しやってみたい気もしましたが」
「それは、屋敷に戻って来てからヘレーナさんを手伝うとかでお願いします」
何やらルグリアさんが、俺とフェリーが話すのを見ながら両手で何かをこねるような仕草をしつつ、ハンバーグの工程をボソボソと呟いていたので、一応言っておく。
挽肉があれば簡単に作れる物だけど、その挽肉を道中で用意するのが大変だからなぁ。
まぁ最初から食料として挽肉を持っていけばいいんだろうけど、保存が気になるし……中々生の肉はな。
調理した後の肉、ハンバーグも少し持って行って初日に食べるとかが限界だろう。
さすがに、調査に行ってルグリアさん達やフェンリル達がお腹を壊すなんて事をさせたくはないしな。
場合によっては、多少お腹を壊すでは済まない事もあるし。
食中毒、怖い。
「なら、限られた食料の中でも料理の上手い物を選びましょう。私も、ここに来てから特にですが、美味しい食事の強みというのを知りましたから。できるだけ粗食で我慢するのは避けるようにしたいですし」
「美味しい食事の強み、ですか?」
「はい。なんといいますか、最低限の食事で腹を満たせばいい、という考えもありますし有事の際には仕方ない部分もあります。ですがやはり、美味しい物を頂いた方が体ではなく、心が元気になると言えばいいのか……」
「あぁ成る程、それならわかります」
なんとなくどう言っていいのかわからず、考えながら話すルグリアさんの言葉に納得。
要は、美味しい物を食べればやる気にも繋がるし、楽しくなるとかそんな感じだろう。
俺も、こちらの世界に来てから色々と美味しい物を食べているけど、美味しくない物ばかりだったら、この世界でもやって行けるのか不安になってしまっていたかもしれないからな。
やっぱり食べる物っていうのは、栄養として以外にも大事だ……ルグリアさんの言っている粗食とはおそらく違うけど、カロリーや栄養を取る事だけを目的とした物で済ませていたら、色々と精神的にきつかった思い出もあるからなぁ……。
「俺も、美味しい物を食べられていると、元気になりますからね。それは多くの人だけでなく、フェンリル達も同じでしょうし」
「グルゥ」
深く頷くフェリー。
すっかり、ちゃんと調理されて味も調えられた食べ物に慣れちゃっている。
野生とかはもうどこかへ行っている気がするなぁ――。
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