レオが見張りをしていたみたいでした
「誰も部屋に入って来ないのは、ちょっと不気味だけど……逆に誰も呼びに来なかったのは、何も起こっていないって事だろうね」
「まぁ、お父様達もいますし、差し当って私やタクミさんが急いで何かしなければいけない、という事もありませんでしたからね」
「そうだね」
もちろん、やる事というのはいくつかあるし予定していたけど、現状はそのどれもが急ぎでというものじゃない。
だから、執務室から出て来ない俺達を誰も呼びに来ていないんだろうし……何かあれば、アルフレットさん辺りが来ていただろうしな。
とはいえ休んだ分、やらないといけない事はあるので今日の仕事量が変わるわけじゃないんだけど。
「とりあえず、部屋を出ようか。いつまでもここでこうしていると、エッケンハルトさんやセバスチャンさんとかから邪推されそうだし。もう遅いかもしれないけど……」
「そうですね……エルミーネも、場合によってはセバスチャンよりも深い邪推をしそうですから。誤解はさせないようにしないと」
確か、エルミーネさんもセバスチャンさんと同じく、他人の恋愛事情を楽しく観察するタイプなんだっけ。
クレアと同性、つまり女性だからこそ男性のセバスチャンさん達より、エグイ邪推の仕方をするとかあるのだろうか?
男同士より、女同士の方が結構エグイ話をするって聞くし……実際はどうか知らないけども。
「……あれ、レオ?」
「レオ様?」
「ワフ。ワッフ」
ともあれ、クレアを伴って執務室を出たすぐの廊下、扉の向かいの壁に体をくっつけるくらいの場所に、伏せをしているレオがいた。
顔を上げて俺達を見るレオは、やっと出てきたとでも言いたげに小さく鳴く。
「くぅ、すぅ……んー、パパ、ママ……」
そのレオの背中には、へばりつくようにしてリーザが寝息を立てていた。
何故か、尻尾がピンと立っているのがアンテナのように見えなくもないが、役割は果たしていない。
「ありゃ、リーザが寝ているのか。というか、どうしてレオはここにいるんだ? リーザが寝ているなら、寝室に行けば良かったのに」
「ワウ。ワッフワウ……」
リーザが寝ているなら、寝室で一緒に休めばと起こさないように小声で尋ねると、レオからはここで見張りをしていたとの答えが返ってきた。
なんでも、デリアさんとのお勉強が終わったリーザが、俺の所にレオと一緒に来ようとしたらしいんだが、執務室の前まで来てレオが中で俺達が休んでいるのを廊下から察知。
リーザも匂いだか音だかで、なんとなくわかったらしいけど……ともかくそれで、邪魔しないようにここで待っていようとリーザと相談して決めたらしい。
それから、執務室に来た他の人が入らないように廊下にレオが居座っているうちに、待ちくたびれたリーザが寝てしまったという事みたいだ。
リーザは勉強の後だから、体というより頭が少し疲れていたんだろうな。
「気を遣わせちゃったな。ごめんなレオ、それからリーザも」
「すみません、レオ様。リーザちゃんもごめんなさい」
「むにむに……んにゃー」
レオだけでなく、寝ているリーザに届くかは別としてクレアと一緒に謝る。
俺の声を聞いたからなのか、耳をピクピクっと動かしたリーザが返事をするように猫っぽい声を出す。
相変わらず狐の耳と尻尾を持っているのに、猫っぽい反応なんだよなぁ……性格は犬っぽいんだけど。
まぁそれは、デリアさんも猫っぽい耳と尻尾なのに、犬っぽい性格と声を出すのと似たようなものか。
獣人の見た目と、性格的な部分は完全に一致するわけではないんだろう。
猫でも、犬みたいに人懐っこいのもいるし、逆に犬でも猫みたいにそっ気ないのもいるから、個性なのかもしれないが。
「ワッフワフ?」
「あぁ、俺もクレアも、十分に休めたよ。ありがとう」
「そうですね。私もちゃんと休めました。ありがとうございます、レオ様」
レオとしても、俺やクレアが疲れて見えていたのかもしれない。
休めたかと鳴き声で示すレオは、気遣い気な表情だった。
「しかしこちらに来るより前なら、レオは遠慮なく俺を起こしていただろうになぁ」
「そうなのですか?」
「ワフ、ワッフワフ」
苦笑しながら、マルチーズだった頃を思い出しつつレオを撫でる。
もちろんリーザを起こさないようにで、クレアも一緒だ。
ただレオは、俺の言葉にあの頃とは違うと言うように抗議する鳴き声を上げていた。
まぁ確かに、体の大きさから何まですっかり変わったからなぁ……。
そんな事を考えながら、立ち上がるレオと一緒にリーザを寝かせるため、クレアも一緒に寝室へと向かった。
ちなみに、レオが見張っている間にアルフレットさんやライラさんが俺を、ヴァレットさんやエルミーネさんがクレアを探しに訪ねてきたりもしたらしい。
その時にはまだリーザも起きていて、レオと一緒に事情を説明してくれたらしいけど……。
「……エルミーネには、伝わっていしまっているようですね。これは後で、何か色々と邪推されそうです」
「それは防げなかったみたいだね。まぁ仕方ないけど……俺も、アルフレットさんやライラさんには謝っておかないと」
ある程度時間に余裕はあったとはいえ、ちょっと休み過ぎてもいるからな。
仕事そっちのけでお昼寝してしまっていたわけだし、アルフレットさん達には謝っておいた方がいいだろう。
あと、エルミーネさんからおそらくセバスチャンさんにも伝わっているだろうし、場合によってはエッケンハルトさん達にも……。
やましい事をしていたわけではないから、色々とからかわれるのは甘んじて受けようと、クレアと覚悟を決め、寝室へと入ってリーザをレオの背中からベッドへと移した。
多少恥ずかしいやら照れなどはあるだろうけど、悪い事をしていたわけではないからな……なんて、心の中で言い訳をしながら――。
「……そういうわけなんだけど、頼めるかなフェリー?」
「グル、グルルゥ!」
あれから、アルフレットさん達を探して話しているうちに、調査隊として出ていたルグリアさん達も戻って来た。
案の定というか、俺とクレアが二人きりで過ごしていたというのは、屋敷の人達に広まっていて、皆から見守るような、生暖かい視線を受けているけどそれはともかく。
報告に来たルグリアさんを連れて庭に出て、フェリーにとある提案を伝えた。
提案というのは、クレアとのお昼寝前にエッケンハルトさん達に話した事だな。
これで調査にはっきりとした結果が出ると言う程ではないかもしれないけど、進みを早める事ができるだろうというものだ。
フェリーは快く承諾してくれて、他のフェンリル達の所へと向かった――。
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