クレアの告白
「んむ……むぅ、むぅ……」
「ふふふ、これでおあいこ……かな?」
頬を押されて、面白い寝息になっているタクミさんを見て、顔が綻ぶ。
タクミさんはよく、レオ様達の事を可愛いと口にしますが、それに負けず劣らずタクミさん自身も可愛らしいと私は思うのよね。
方向性は違うのだけど……なんて考えながら、押していた指を離してタクミさんの前髪に絡ませた。
「この体勢だと、あまり髪を撫でられませんが、これもお返しですね。ふふふ」
タクミさんの髪は、私のとは違って少し硬めでちょっと新鮮ね。
硬さで言えばお父様の方が上だし、タクミさんのは柔らかさもあるわ。
でもレオ様やシェリー、フェンリル達ともまた違って、さらに女の私やライラ達とも全然違う。
こうして、男性の髪に触れる機会、というのはかなり少ないからこうしてみて正解だったわ。
お父様の例を考えても、男性は無頓着な事が多いと思うし触らせてとお願いすれば、大体触らせてもらえるとは思うけど。
でも、誰でもというわけでもなくて、タクミさんのだから触れてみたいと感じるのは、きっと私の気持ちがそちらに向いているからよね。
「すぅ、くぅ……」
「なんでしょう、こうして可愛らしいタクミさんを見て、触れていると胸のあたりがほんわりと温かい気がするわね……ふふ」
頬から指が離れて、先程と同じように気持ち良さそうな寝息になるタクミさん。
そんなタクミさんを見て、髪に指を絡ませ、前髪を撫でていると、心臓は穏やかなのに気持ちが温かくなる気がする。
それは全然嫌な事ではなくて、むしろずっとこの気持ちを感じていたいと思うようなもので……。
その温かさと共に、自然と口が緩んでしまうのがわかる。
もしかしたら、私がタクミさんの足を枕にして寝ていた時に、タクミさんも同じ事を考えていたのかしら?
というのは、私の願望に近いかもしれないけど。
「何かで読んだ事や、エルミーネから少し話を聞いていたけど、これが愛しいって気持ちなのですか、タクミさん?」
「すぅ、すぅ……」
こんな気持ちにさせている張本人のタクミさんに聞いても、当然答えは返って来ない。
確かな答えを求めていたわけではなく、口に出したかっただけだからそれでいいわ。
愛しい、という気持ち。
それを口に出しただけで、胸の温かさがもっと強くなった気がするわ。
多分、問いかけたタクミさんではなくて、私自身の体が間違っていないという答えを出してくれているのでしょうね。
だからそう、いつもは恥ずかしくてタクミさん程はっきりと口にできない。
けど、ちゃんと伝えておきたいし、折を見て伝えている言葉でもあるそれを、言葉にしておきたくなった。
「タクミさん、好きです。いつからかは私自身もはっきりわかりませんが、こうして一緒にいて優しくいつも私の事を見てくれる。そして、私と一緒に色々な物を見て考えてくれるタクミさん。レオ様やリーザちゃん、他の人にも優しいタクミさんが、ただただ愛しいと思います」
始めての印象は、やっぱりレオ様の事が強かった。
でも、なんでしょう……森で助けてもらった時、もちろんレオ様が目の前に現れた衝撃とかもあったのだろうと思うけど、私を見るタクミさんの顔、そして瞳に惹かれていたのは間違いないわ。
シルバーフェンリルと思われるレオ様が現れた衝撃と同じくらい、大きな衝撃のようなそれでいて、優しく包まれるような、そんな感覚に襲われたのを今でも覚えている。
そしてそれは、日を追うごとに、タクミさんを近くで見ていると、タクミさんへの気持ちが私の中でどんどん大きくなって行った。
アンネ……アンネリーゼのちょっかいも、あの時は嫌な気持ちになったものだけど、自分の気持ちをはっきりと自覚するのには必要な事だったのかもしれないわね。
……タクミさんに迫ったのは、ちょっと許せなかったけど。
「一目惚れ、と以前タクミさんには言いましたし、タクミさんもそうだと仰って……そういう意味ではお互い似た者同士と言いますか、相性はいいのでしょうけど。でも、出会ってからもこの気持ちを、ずっと育てていたんですよ?」
芽生えた感情を、大事に育てる……私自身には最初、そうしている自覚はなかったけれど。
いつだったか、お父様からタクミさんは右も左もわからないこちらの世界に来たばかりで、考える事が多くて大変だろうから今は待てと言われたため、気持ちを伝えるのは我慢しつつやきもきしていたわ。
その時のお父様は、少しお酒の匂いをさせて酔っていたような気もするけれど……。
でもそのおかげで、今はこうしていられるし、タクミさんへの気持ちをゆっくり焦らない……わけではなかったけど、育てる事ができたと考えれば、あの時のお父様の言葉も助けになっていたのでしょうね。
……つらつらと考えているけれど、結局愛おしいと思えるこのタクミさんの寝顔を見ながら、伝えたい事は一言だけ。
「タクミさん、愛しています」
「すぅ……くぅ……」
「今はまだ、起きているタクミさんに伝える勇気は出ませんけど、いずれ私からこの気持ちを話せる日が来る事を願って……いえ、話せるように頑張りますね」
願わくば、タクミさんも同じ気持ちで、同じ感情を私に向けてくれている事を……。
きっとこれは、力を放出し終わったらしいプレゼントのネックレスで今は叶えられないし、叶えられる程の小さな願いではなくて大きいと思う。
だから、今はまだ口には出さず、自分の気持ちをこれからも育てていく事を考え、もう一度寝ているタクミさんに向かって愛を囁き、時間を忘れて寝顔を鑑賞した――。
――――――――――
「ん、んん……あれ?」
「ふふふ、よくお休みでしたね。おはようございます、タクミさん」
「え、あ、うん……おはよう?」
ぼんやりする頭で、とりあえず掛けられた挨拶に対して反射的に答える。
えーっと、俺はどうしていたんだっけ……ここが寝室ではないのはわかるんだけど。
確か、クレアに膝枕してお昼寝させたはずだけど、その時俺も眠くなったところまでは覚えている。
「俺、寝ていたんだ……」
「えぇ、私が目を覚ました時にはすでに。疲れがたまっていたのかもしれませんね、ぐっすりでしたよ?」
上から俺を覗き込むようなクレアの表情は、なんだか少しイタズラっぽかった――。
クレア視点のため、エピソードタイトルもタクミ視点の時と変わっています。
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