クレアはタクミの寝顔観賞中
「も、もしかしなくても、寝ています……か?」
「すぅ……すぅ……」
小さく問いかける私の問いの答えは、タクミさんの規則正しい寝息。
どうやら、私に膝枕をして寝かせて起きながら、タクミさん本人も寝てしまった様子。
「もう、タクミさんったら……」
怒らせてしまたわけではない事や、焦っていた自分、恥ずかしい思いなどがまぜこぜになって、思わず口を出てしまうのは、お父様によくするような溜め息混じりの言葉。
でも、お父様に注意する時と違って、ホッとした気持ちなのはタクミさんの寝顔が穏やかだからでしょうか。
「ふふ、何度かレオ様とお昼寝しているところを見た事がありますが、やっぱり少し可愛らしいですね。タクミさんは、こんな風に私が思っている事をあまり喜ばれないかもしれませんが」
お父様曰く、男は可愛いと言われて喜ぶ生き物ではない……とかなんとか。
私は、可愛い、綺麗といった称讃をタクミさんに言われたら、飛び上がりたくなる程嬉しいのだけど。
女性と男性では、そういった感覚はやっぱり違うみたいね。
「タクミさんの寝顔、いつまでも眺めていられそうね……」
なんて小さく呟きながら、置いてある時計で時間を確認。
私が寝てから、そう時間が経っているわけではないようで、まだ余裕がありそう。
お昼寝効果があったのか、寝る前とは違って眠気などは一切ないのは、タクミさんのおかげかしらね。
まぁ恥ずかしさとかその他諸々で、寝起きから内心が大変だったせいもあるかもしれないけれど。
「うぅ……んー……すぅ」
「ちょっと、寝苦しそうかしら?」
笑っているような、幸せそうな寝顔は時折、しかめるように変わるタクミさん。
座って俯いた状態なのだから、寝苦しいのは当然よね。
「……いい事を思いついたわ。タクミさんもそうしたんだし、私がそうしてもいけないなんて事はないはずよね?」
ちょっとしたイタズラ、ちょっとした興味。
それだけでなく、もっとタクミさんの寝顔を堪能……もとい、ゆっくり寝かせてあげたい気持ちもあって、行動を起こす。
まずは一度立ち上がり、横になって少し皺になってしまった服や、乱れがちだった髪を直すわ。
タクミさんは寝ているけれど、女性として好きな男性の近くにいる時はちゃんとしていたいものよね。
お母様も、お父様といる時はいつにも増して凛としていらっしゃったし。
……床に臥せっている時以外、お母様の油断した姿というのを娘の私も見た事がないのだけれど。
ともかく、そんなお母さまを見習って、私もしっかりしなければ!
差し当って、タクミさんを起こさないように……。
「んしょ。そっと、そーっと……」
身だしなみをできる限り整えて、改めてタクミさんの隣に座り直し、小さく呟きながらタクミさんへと手を伸ばすわ。
確か、タクミさんはさっきこうして……。
「んん……? すふー……」
「あ、あら? ちょっと間違えたかしら……?」
不思議な寝息を続けたまま、タクミさんが天井へ顔を向けるようにしながら私へと倒れ込むのを、私の太ももで受け止める。
つまり、仰向けになったタクミさんの寝顔が、バッチリ私にも見える恰好ってわけよねこれ。
なんて素晴らし……いえ、見つめ合っているようで恥ずかしい気もするけれど、悪くないわね、えぇ。
ただ、タクミさんが私を膝枕して下さった時には、優しく横向きに倒れ込む私を受け止めたのに……体勢が変わったのは、私が間違えたのかしら。
「でも、これはこれで……というか、全然起きませんねタクミさん。いえ、起こしたかったわけではありませんけど……」
ゆっくりタクミさんの体を倒したおかげもあったのか、今も規則正しく寝息を立てているタクミさん。
やっぱり、慣れない事ばかりで疲れていたのかしら? 寝る時間が少ない、というのは聞いていないしそんな素振りは見せていなかったけれど。
「んー……すぅ、くぅ……むぐむぐ」
「くすくす……何か食べている夢でも見ているのかしら?」
モゴモゴと口を動かすタクミさん、食事に関してタクミさん自身はあまりこだわらないような事を言っていたけど、ヘレーナは刺激を受けて色々と頑張っているのよね。
タクミさんのおかげで、美味しかった料理がさらに美味しくなって……今はクズィーリさんと出会った事で、カレーという刺激的でも癖になる物、さらに甘くておいしいお菓子なども期待できそうなのよね……。
その代わり、食べ過ぎて色々と心配になるんだけど。
一応、タクミさんのおかげでカロリーという一番の原因らしいものを、減らすようにする事でなんとかなっているけど。
私も、ティルラやタクミさんのように、体を動かす何かを日課にした方がいいのかしら? お父様やセバスチャンには止められそうだわ。
「ずっと見ていられますね……」
お菓子という楽しみと、目の前の楽しみ……タクミさんの寝顔を見ているだけで、時間を忘れそうになってしまうわね。
あと、タクミさんの様子からは先程のような体勢で苦しそうな感じはなくなったようだから、それはいいんだけど。
「寝心地はいかがかしら?」
「すぅ……すぅ……」
「ふふ、寝ているタクミさんに聞いても、答えは帰ってこないわよね」
柔らかいと感じられるのはなんとなく、嫌な気もするけど……でも、硬いと思われるのもそれはそれで……とちょっと複雑な心境も少しあるわ。
タクミさんの方は、そっと私の髪を撫でてくれるあの手が気持ち良かった、というのもあるけれど、少し硬めでもしっくりくる感じがあったのよね。
私とタクミさんでは大分違うと思うから、そこは少しちょっと気になるし、起きたら聞いてみようかしら?
「……と思っても、できないわよね。私の太ももの寝心地はどう? なんてはしたない事……恥ずかしくて」
まぁでも、こうしてタクミさんの寝顔を見ながら、起きているタクミさんを前にしたら口に出せない事、聞けないことをソッと呟くのも、ちょっと面白いわ。
「タクミさん、言葉や行動で気持ちは伝えてくれていますけど、私だってできれば恥ずかしがらずに、伝えたいんですよ?」
誰も見ていないとわかっていながら、頬を膨らませ、寝ているタクミさんの頬を指先で少しだけ押してみる。
お父様たち程ではないにしても、時折私をからかって恥ずかしがったり照れたりしているのを楽しんでいるタクミさんへの、ささやかなお返しです。
私だって、タクミさんの色んな表情や反応を楽しみたいのよ?
クレア視点のため、エピソードタイトルもタクミ視点の時と変わっています。
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