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1920/1996

穏やかなお昼寝時間になりました



「ほら、クレアは無理しないでゆっくり目を閉じて……」

「は……い……」


 無理に起きていようとしても、抗えていないようだし辛いだけだからな。

 俺に促されて、ゆっくりと目を閉じて行くクレア。


「お昼寝……は、仕事の合間にする事は、あります、けど……こうして、撫でられながらというのも……いいもの、なのですね……」

「そうだね。誰かが一緒にいてくれる安心感があるのかもしれないね」


 俺の場合は、レオを撫でて寝かせていた側だけど、いつの間にか俺が寝ていた事もあったからな。

 一人ではなく、誰かがいるぬくもりみたいなのは、やっぱり安心するものだ。

 ……というか、クレアも昼寝とかする事があったのか……まぁ大っぴらにではなく時折こうして、他に誰もいなくて仕事に余裕がある時くらいなんだろうけど。


「タクミ、さん……ずっと、こうして……」

「うん、ずっといるから、安心して。どこにも行かないよ」


 クレアの髪を撫でている俺の手とは別のもう片方の手を、クレアがぎゅっと握る。

 それでさらに安心したのか、深くゆっくりとした息を吐くクレア。

 そういえば、母親が亡くなってから色々とクレア自身の考えが変わったとかって話を聞いたっけ。

 ずっと、こうして誰かに甘える事ができなかったのかも、なんて思うと、もっと甘やかしたくなってしまうなぁ。


「……すぅ、すぅ……」

「……寝たみたいだね」


 微笑んでいるような表情のまま、幸せそうな寝息を立てるクレア。

 それでも俺の手を握る力が変わっていないのは、一緒にいて欲しいという気持ちの表れなのだろうか。

 とにかく、このまま少しだけクレアを休ませておきたいという気持ちを込めて、髪を撫でる手は止めずにおく。

 クレアの寝顔を見ていると、胸のあたりがなんだか温かくなってくる気がする。


 これが幸せを感じているという事なのかもしれないな……。

 魅力的で、好きな女性が目の前で寝ているという状況に、男なら少しは邪な気持ちになるものかもしれないけど、クレアの寝息を聞きながらその幸せそうな表情を見ていたら、そんな気持ちは一切湧かない。

 むしろ、自分の気持ちよりももっとこうして、クレアが幸せそうにしている姿を見ていたい気持ちすらある。

 もしかしたら、愛しいと言うのかもしれないな……少し強引に寝かしつけたけど。


「ふわぁ……俺も寝不足ってわけじゃないけど、少し眠くなってきたなぁ」


 疲れているわけでもないし、睡眠時間が少なかったわけでもない。

 でも、クレアは寝ているけど共に過ごしているという実感と温かくて穏やかな気持ちが、眠気に繋がっているのかもしれないな。

 とはいえ、このまま俺も寝てしまうのはものすごくもったいない事をしてしまう気がするので、我慢しよう。


「こうしている時間が、きっとものすごく大切な時間なんだろうな……ゆっくりお休み、クレア」


 なんて、起こさないよう小さな声で呟きながら、クレアの寝息と幸せそうな寝顔、それから髪の柔らかさ。

 そして穏やかで幸せを実感できる貴重な時間を、楽しむ事にした。

 ……起きた後のクレアに言ったら、恥ずかしがって顔を真っ赤にしそうだな、なんて考えながら――。



――――――――――



「ん、んん……朝……?」


 ふわりと、とても幸せで温かい何かに包まれている感覚。

 ずっと包まれていたい、そんな気持ちすら抱かせる程の感覚の中で急速に、でも優しく浮かび上がるように目を覚ます。

 閉じている瞼には、弱い光を感じるからまだ完全に日が昇っていないのかもしれない。

 そう思いつつ、まだぼんやりしている中で目を開ける。


「あ、あら? ここは……私の執務室、ではないようだけれど?」


 目を開けて飛び込んできたのは、寝室のベッドからの見慣れた部屋ではなく、まず近くにあったテーブルね。

 そのテーブルには何も置かれていないから、私の執務室ではないことがわかる。

 常にではないけれど、長い時間をその部屋で過ごす場合は一緒に移動させる花……以前枯れそうになっていた、タクミさんがプレゼントして下さった大切な花が私の執務室であればあるはず。

 寝室だったらいつでも見られるようにベッドの近くに置いて、テーブルには置いていないけど。


 目の前にテーブルがあるという配置上、執務室で間違いないはずだけれど、という事は私、タクミさんの部屋のソファーで寝てしまったのかしら?

 あれこれ考えているうちに、もやがかかっていたような頭の中が、急速にはっきりしてくる。

 その中で、どうして寝ていたのか、寝る前はどうしていたのかが思い出されていくけど、その結果……。


「っっ!! わ、私……! す、すみません、タクミさん!!」


 普段とは違う、少し硬めの温かさを頬や頭に感じた瞬間、どういう風に寝ていたのかなどを思い出した私は、ガバッっと自分でもこんな動きができたのかと驚く程の勢いで、体を起こす。

 あれからどれくらい経ったのかはわからないけれど、私……タクミさんに膝枕をされてそのまま寝てしまったのね……。


「えっと、えっと……」


 勢いよく起き上がったせいか、寝ていたからか、少し乱れている気がする自分の髪を撫でつけて整えながら、寝てしまった失態をどう謝ろうか、タクミさんは怒っていないかなどを急いで考える。

 けれど、起きてすぐではっきりしてきたとはいえ、まだちゃんと動いてくれない私の頭は、どうすればいいかの答えを導き出してくれない。

 私自身が、焦っているからかもしれないけれど……。


「そ、その……あまりの心地良さに、ぐっすり寝てしまいました……みっともないところを見せてしまって、本当に申し訳ありません……」


 タクミさんなら、こうやって謝る私に苦笑いしながらも柔らかく受け止めて「気にしてないよ」なんて言ってくれるのを、卑怯にも思い浮かべながら、謝る私。

 けれど、急いで整えた髪を振り乱すように頭を下げた私の頭上からは、なんの声も聞こえない。

 言葉もない程、タクミさんは怒っていらっしゃるのかしら……?


 これはいけないわ……私が眠そうな姿を見せたばかりに、タクミさんに嫌われてしまうかも!

 なんてグルグルと頭の中で考えつつ、恐る恐る、どうかタクミさんが怒っていませんように、と願いながら顔を上げる私……。


「タ、タクミさん……?」

「ん、ん……くぅ……すぅ……」


 顔を上げた私が見たのは、俯いて静かに呼吸するタクミさんの姿だった――。




珍しく(WEB版では初)タクミではなくクレア視点となります。

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