商人達を捕まえました
「貴方達の身柄は、私達が確保させて頂きますよ」
「おとなしくしなさい!」
「つぅ……何なんだお前達は!」
「ててて……くそ、何だってんだ!」
商人たちに駆け寄ったセバスチャンさんは、声を上げて牽制する。
心なしか、その声には怒りのような物が含まれてる気がする……いつものように丁寧な言葉なんだけど……微かに、ね。
そんなセバスチャンさん達を見て、落馬した痛みに耐えながら商人達は声を上げた。
しかし、落馬した時の衝撃からなのか、二人共立ち上がれずにいた。
「私達ですか……私達は公爵家の者……と言ったらわかるでしょう?」
「くっ、離せ……公爵家だと!?」
「暴れるな! おとなしくしないと……レオ様」
「ガウ!」
「ひっ!」
「なんだあの化け物は!?」
セバスチャンさんが商人を縄で縛りながら、公爵家の者と伝えると、にわかに商人が焦り始めた。
もう一人の男を縛ろうとしていたヨハンナさんは、暴れる男をおとなしくさせるため、叫んだあと静かにレオに声を掛ける。
レオの方もわかっているらしく、商人達を威圧するように吠えた。
暗くて今までレオの事が見えていなかった二人は、初めてレオを認識してその姿に怯える様子を見せた。
……暴れなくなったのは良いんだけど、レオを化け物だなんて、失礼な。
「こんなに可愛いのにな、レオ」
「ワフゥ」
化け物と呼ばれたレオを労わるように撫でてやると、顔をこすりつけて甘えるレオ。
全て終わったわけじゃないが、色々と終結しつつあるから、安心したんだろう。
もしかすると、まだ俺の怪我を心配してるのかもしれない。
「さて、貴方達には弁解する余地は与えられません。このまま連れて行きます……抵抗しても無駄な事は……わかっていますよね……?」
「くそ……」
セバスチャンさんは、縛られて自分で動けなくなった商人達の耳元で、脅すように低い声で囁く。
ちらりとレオの方を見る事も忘れない。
レオを化け物と言って恐れてる二人には効果は抜群なようで、暴れる気力も無くなりうなだれた。
「はーい、どうどう……落ち着いてねー。驚かせてごめんね、大丈夫だから」
「ワフワフ。ワフ」
セバスチャンさんが商人達を脅しているのを余所に、ヨハンナさんが怯えていた馬を落ち着かせてる。
それを見てレオも一緒に馬を落ち着かせるように、顔を近づけて行った。
しかし、よくレオに驚いて逃げ出さなかったな……まぁ、レオへの恐怖とか驚きで、逃げるよりも怯えしかできなかったのかもしれないが。
「さて、タクミ様。問題の二人は捕まえる事が出来ました」
「ありがとうございます。レオに乗せますか?」
「いえ……このような者達をレオ様に乗せるのは気が引けます。幸い馬が残っているので、私とヨハンナで馬と一緒に連れて行きますよ」
「わかりました。……確かに、レオを化け物とか言ってた人達を乗せるのは嫌ですね」
セバスチャンさんはレオに乗せるのではなく、馬で商人達を運ぶつもりのようだ。
レオを化け物と呼んだり、ランジ村にオークをけしかけたり、病の原因になったガラス球を置いたりと、色々暗躍していたあいつらを、可愛いレオに乗せるのは何か嫌だな。
「ですが、その前に……怪我の治療をしませんか?」
「あぁ、そういえばそうですね」
まだ頭はズキズキとした痛みがあるのだが、レオの急ブレーキでの痛みが強くて、それが引いた後は忘れてしまってた。
あの痛みと比べたら、今の痛みが大した事無いと思えるくらいだ……よく我慢出来たな、俺。
「では、『雑草栽培』でロエを……」
「少々お待ちください」
『雑草栽培』で早速ロエを作ろうとする俺を、セバスチャンさんが止める。
どうしたんだろうと思って見ていると、セバスチャンさんは商人達に近付いて、細長い布を取り出した。
……どこにそんな物をしまっていたんだろうか?
「貴方達にはこれをしてもらいます。……何も見えない恐怖に怯えなさい?」
取り出した細長い布で、商人達の目隠しをしたセバスチャンさん。
こういった相手をする時のセバスチャンさんって、何か背筋に冷たい汗が流れるような怖さがあるな……ニックの時もそうだったけど。
「これで大丈夫です。……この者達に見せるわけにはいきませんからね」
「それもそうですね。ありがとうございます」
セバスチャンさんは、俺が『雑草栽培』を使う所を商人達に見せないようにしてくれたようだ。
確かに、こんな奴らに俺がギフトを使える事を知られるのは、あまり良くない事かもしれないな。
口止めなんて、出来る相手じゃない。
「……よし、と」
「さすがですな、怪我をしていてもギフトには影響が無さそうです」
「……そう言えばそうですね。怪我とか体の影響はギフトには関係が無いようです」
地面に手を付き、すぐにロエを栽培して採取する。
その流れは屋敷で散々やって来たから、もう慣れたものだ。
俺が、ロエを作るところを見ていたセバスチャンさんに言われて気付く。
怪我をしているとか、そういうことは『雑草栽培』には関係無いんだな……頭の痛みから集中があまり出来そうに無いから、魔法とかには影響しそうだが。
「えっと……怪我は……んー、難しいな」
「私がやりますよ」
「あぁ、お願いします。自分では見えない場所ですからね」
「はい」
ロエの葉を裂くようにして有効部分を露出させ、それを怪我部分に当てようとするが、上手くいかない。
自分では見えない部分だから、感覚を頼りにするしかないんだが、痛みは頭全体に広がっているためすぐに探り当てるのは難しい。
見かねたヨハンナさんが、ロエを受け取って、代わりに治療してくれるようだ。
……馬の方は、レオが見てるから大丈夫そうだな……仲良さそうに顔を寄せ合ってる。
「すみません、セバスチャンさん。明かりを」
「そうですな。……ライトエレメンタル・シャイン」
「これでよく見えますね……ここですか……結構酷い怪我に見えますが……これでよくここまで動いていますね」
「つぅ……そんなに、ですか?」
「タクミ様……やはり無理をなさっていたのですね……」
ヨハンナさんがセバスチャンさんに明かりをお願いして、魔法を発動させる。
以前と同じように、剣に光を宿らせてそれを明かりにして俺の怪我を見たヨハンナさん。
剣に光を宿した影響か、手のひらに球として浮かべるよりも光は控えめで、あまり眩しくはない。
そんな事よりも、俺の怪我だ……ヨハンナさんは俺の怪我の様子を見て驚いているようだ。
……確かに結構な痛みはあったけど、そこまで酷いのか?
セバスチャンさんは俺が無理をしていたと知って、咎めるような口調になったが……まぁ商人を捕まえるためだから仕方ないと考えて欲しい、なぁ。
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