膝枕というものをしてみました
クレアの髪を撫でつつ、椿油について考えていたけどそう言えば……メイドさんや女性従業員さんとかが、お互いの髪や肌などを褒め合っている姿を何度かみかけたな。
ゲルダさんとか、気にしていたらしいそばかすが薄くなったなんてのも言っていたっけ……そばかすを薄くしたり消すような効果は、俺の知っている椿油にはさすがにないはずなんだけど。
まぁやっぱりこちらの世界の物とは、多少違う効果や強い効能だったりするんだろうな。
っと、いけないいけない、別の事を考えてクレアを撫でる手を止めないようにしないとな……。
「う、うー……わ、悪いとは全然思いませんが……でもこれは、なんだかはしたなくて、それに私が恥ずかしいかと……」
「まぁまぁ、慣れれば恥ずかしさもなくなる……かはわからないけど、ここには俺とクレア以外いないわけだしさ。誰かに見られているなんて考えなくてもいいと思うよ?」
どちらかと言うと朝には弱いはずなのに、毎日ちゃんと起きているし……時にはこうして、のんびりしながらお昼寝したって誰も悪く言ったりはしない。
「そ、それが一番問題だと思うのです。でも……ふわぁ……」
「やっぱり、疲れているか、眠いんだよね? 毎日いろいろな事があって、頑張っているんだしたまにはこうして休んでみよう。少しくらいなら、時間がありそうだからね」
「それは、私がタクミさんに言いたいのですけど。でも、確かに少し眠気が……恥ずかしいのは変わりませんが」
急な事だったから、多少恥ずかしいのは仕方ないとしても、やっぱり少し睡眠不足なんだろう。
ゆっくりとクレアの髪を撫でていると、だんだんと目がとろんとしてきているのがわかる。
なんだか、マルチーズのレオを乗せて撫でて寝かせていたのを思い出した。
よくこうして、レオが寝るまで撫でていたっけなぁ……。
「ん……ふ……タクミさんの手、気持ちいいですね」
「ふふふ、レオに鍛えられたからね。同じとは言わないけど、こうして撫でるのは慣れているんだ。おっと……」
横になっているクレアの髪が、頬にかかったのを指先で取り除く。
一瞬、クレアの綺麗な肌に触れてしまうのはいいのか、なんて躊躇して指先が震えてしまったけど、どうやらバレずに済んだみたいだ。
「ん……ちょっとくすぐったいです。でも、なんだか恥ずかしさも気にならなくなってきました」
「それだけ、クレアも疲れているんだと思うよ」
俺もクラウフェルト関連や、調査等々で色々と動き回っているけど、それ以上にクレアは仕事をこなしているようだからなぁ。
クレアの執務室に入った時は、俺以上に積み重なっている書類とかあったし、公爵家のご令嬢としてエッケンハルトさん達と何やらやっている時もあるし。
本邸から離れている場所なのもあって、今はともかくいつもは当主のエッケンハルトさんの目が届きにくいため、クレアが色々やっているとも聞いたからな。
俺より仕事ややる事が多くて当然だろう。
クレアにも、クラウフェルトの仕事も加わっているわけだし。
「余裕があればでいいんだけど、こうして時々は休んでみるのもいいんじゃないかな。ほんの少し、昼寝をするだけでも大分違うらしいし」
数十分……十五分前後かな? くらいでも昼寝をする、もしくは目を閉じて休むだけでもかなり違うからなぁ。
俺も以前は、昼食を取る時間を惜しんでそれくらいは体を休める事があったし。
まぁ、食事をするのと少しだけ休んで寝るのとは、どちらがいいかはその時次第だろうけど。
栄養よりも、頭や体を休める方が大事な時だってあるからな……クレアはそこまでじゃないだろうけど。
「私よりも、タクミさんの方が大変でしょうし……慣れない事ばかりでしょう? だから、タクミさんの方がこうして、少し休んで……いた方が……」
段々と、口調がゆっくりになり、途切れ途切れになっていくクレア。
眠気などに逆らえなくなってきているみたいだ。
こういう時は、撫でる手を止めないのは当然として、寝入る邪魔をしないように静かにするよりも、話し続けた方が安心できるんだよな。
個人差はあるかもしれないが、レオはゆっくり話しかけている方がよく寝てくれたし、むしろ話すのを止めたら気にして顔を上げていた。
レオとクレアを同じに考えるのはどうかと思うけど、犬も人間も、安心するとよく眠れるのに違いはないだろう。
「確かに慣れない事は多いけど、皆のおかげでなんとかやれているよ。クレアのおかげも大きいかな? アルフレットさんとキースさんは、ちょっと厳しい時もあるけど……こちらに来る前と比べたら、辛さも疲れも雲泥の差だしね」
とは言いつつ、疲労の蓄積も多少はあったんだろう、こちらに来て一度熱を出してしまった事はあったが。
あの時、クレアに看病してもらったけど、今回は病気とは関係なくてもそのお返しみたいなものだな、うん。
「そう、ですか……タクミさんのお役に立てるのは、すごく……嬉しい……ですね」
「うん、ありがとう。俺もこうして、クレアが安らげるなら嬉しいと思うよ」
「はい……どうかタクミさんも、安らいで……時にはお昼寝しても、いいと……思います……よ?」
「そうだねぇ。俺もちょっと休みたいなって思う事はあるし、その時はクレアを誘って、レオやリーザとかも一緒にお昼寝するのもいいかもね」
「……それは、なんだかとっても……楽しそうなお昼寝になりそう……ですね……」
もうほとんど、クレアは意識が夢の世界へ行っているようなものなんだろう。
言葉も途切れ途切れで、ゆっくり、かなりとろんとした声音になっている。
もう少しで、完全に寝入ってくれそうだな。
「うん。レオもリーザも、お昼寝は大好きだからね。またいずれ誘ってみよう」
レオとかよく、庭で日向ぼっこしながらフェンリル達とも一緒に昼寝していたりもするからな。
別邸にいた頃は、ティルラちゃんやリーザも一緒だったけど、最近はティルラちゃんはマリエッタさん達とラクトスについて話している事が多いし、リーザはリーザでデリアさんと勉強している事もあるから、揃って昼寝という機会は減っているのを思い出す。
ティルラちゃんやフェンリル達、それにシェリーも一緒に皆で庭でお昼寝会っていうのも、悪くないかもな……。
ちょっとしたイベントになってしまいそうだけど――。
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