貴族のあれこれは面倒そうでした
「そういう事だ。ハルトはもう少し、貴族の裏という物を使い分けるか、考える事を覚えた方が良いだろうな」
「うむぅ……」
俺から見て、エッケンハルトさんは何というか一本気というか、裏表のない人で、それが貴族としてはエルケリッヒさんから見た時に少し頼りないのかもしれない。
俺としては、付き合いやすいし気安い人でもあるから、今のままの方が好ましいんだけどな。
「貴族の裏……考えといいますか、実際はどうあれ動く可能性……お爺様、クライツ男爵はそういった腹芸が得意な方だと聞き及んでいますが……」
俺やエッケンハルトさん達のやり取りを黙って聞いていたクレアが、何か思いついたようにエルケリッヒさんへと質問を投げかけた。
エッケンハルトさんではないのは、確か年齢的に結構上の方らしくエルケリッヒさんの方が詳しいと思ったからだろう、多分。
「そうだな。我ら公爵家とは深い関わりはないが、腹の内が探れない……いや、見せようとしない。いや、一部はとてもわかりやすいのだがな……男爵家であり、爵位としては低い事を特に気にしていた。表面上は取り繕っていたが、シルバーフェンリルと初代当主様のおかげで、公爵という地位についている我々公爵家の者を羨んでいた」
「大した事をしていないのに、爵位が高くなる事なんてないのにね」
小さく嘆息しながらそういうユートさん。
爵位がどうやって決まるのかは知らないけど、ただ羨んでいるだけで陞爵する事がないのは、俺でもわかる。
「クライツ男爵が、私達公爵家を羨んでいるのはわかります。そういった考えは、多かれ少なかれあってもおかしくありません。そのクライツ男爵ですが、カッフェールの街にあったクズィーリさんと取り引きしていた店との関わりも示唆されていました」
「うむ、そうだったな」
「先程の話ではありませんが、レオ様の事やフェンリル達の事が向こうに伝わり、羨んで何か動く可能性はありませんか?」
「クレア、もしかしなくともクライツ男爵の事を疑っているのか? 調査をしている異変との関わりを」
「……あまり他の貴族を疑うのはと思いますが、その材料はあると思っています」
「ふむ、あり得なくはないといったところか。貴族であれば多かれ少なかれ、他領にも目を向けている。離れている分、こちらからあちらの男爵領の情報は少ないが、逆に向こうはこちらを羨んでいる以上何かしらの手段で情報を得ている可能性はあるな……」
なんでも、ラクトスのスラムにいた公爵家の密偵のように、一般の民を装うとか、他にも様々な手段で他領の情報を得るというのはわりとよく行われている事らしい。
公爵家の方でも、近くの貴族領からの情報を得るため、直接以外でそういった手段を取っているとか。
それなら確かに、羨んでいる向こうからこちらへ情報を得るために人を送るなりなんなりしていてもおかしくないか。
「既に、国内にはレオ様の事はある程度伝わっているだろう。少なくとも、公爵領にシルバーフェンリルが現れたという話くらいはな」
「まぁ、僕も結構離れたところで噂を聞いてきたわけだしね」
……そういえば、ユートさんはランジ村にシルバーフェンリルが……という話を聞いて尋ねて来たんだったっけ。
ラクトスにも何度も行っているし、人の往来が激しい場所で見られていたんだから、噂が広まっていくのは仕方ないだろう。
レオが窮屈な思いをしないよう、そしてさせないよう公爵家の人達もしてくれて、屋敷の中に閉じ込めて外に出さない、なんて事もないしな。
「だからこそ、クライツ男爵がこちらの領内から情報を得ていれば、それは噂ではなく確証と共に伝わっているか……成る程な、クレアの心配がわかった。こちらも同じくハルトでは大きく動くのは難しいだろう、クライツ男爵の事もついでに調べてみる事にする」
「はい、お願いしますお爺様」
「……私の関わらない所で、クレアと父上の話が進んでいくな。当主は私なのにな」
「ま、まぁまぁ。ほら、エルケリッヒさんも言っているように、当主のエッケンハルトさんが動いたら大事になるかもしれませんし、目立つでしょうからね」
指をくわえて、というわけではないけど実際にそうしそうなほどの勢いで、落ち込み始めるエッケンハルトさんを励ます。
実際、エッケンハルトさんが悪いわけではなくて、ちょっと苦手な分野っぽいのはあるが、結局目立つからって理由が大きいからな。
当主であるエッケンハルトさんを、ないがしろにしたりとかそういうわけではないはずだ。
「やれやれ、当主を退いたはずなのににわかに忙しくなってきおった。まぁこれも、孫のクレアやティルラ。そして、婿殿のためであり、何よりレオ様のためにもなるからな。老骨に鞭打ってみるとするか」
「……あのう、さっきもチラッと言っていて自然過ぎたので、そのまま流れてしまいましたけど、その婿殿というのはもしかしなくても……」
「タクミ殿の事だぞ?」
「やっぱり……」
さっきも少し気になったけど、話しの流れ的に指摘しづらくてそのままになっていたけど、予想通り俺の事だった。
クレアの婿候補としての俺があって、婿殿って事だと思うけど……。
もちろん色々と先の事は考えていないわけじゃないけど、ティルラちゃんの義兄呼びといい、エッケンハルトさんの息子のようにという話といい、気が早すぎるんじゃないかなぁ。
まぁ、クレアと一緒にいる事を反対されるよりはものすごくマシだと思うけど。
「私とマリエッタ……一部の使用人もだが、その中ではもう婿殿で決まっているぞ? さすがにそれで呼ぶのは、今が初めてだが」
「いや、えっと……気が早いというかなんと言いますか……いえ、否定したいわけではないので、もういいです」
色々と諦めた。
これ以上訂正して欲しいとか、何か言っても俺が勝てそうな材料はないしな。
むしろ、俺やクレアが照れる展開しか見えない……今までがそうだったし。
「はぁ……俺の呼び方はいいとして、本腰を入れて調査を進める……もちろん、これまでも加減をしていたわけではありませんけど、調査を早めるために考えた事があるんです」
溜め息を吐き、話しを少し強引に変えて、ここで皆が集まって話をするまでや、話しをしている途中も考えていた提案をする事にした――。
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