これ以上は多くを刺激する可能性があるようでした
「確かにな。この屋敷でフェンリルを受け持つ数には当然限界があるだろう。それに、これ以上ここにフェンリルが集中すると、良からぬ事が起きそうでもある」
「良からぬ事ですか?」
「まぁ、簡単に言ってしまえば、フェンリルに対して利用しようと考える者達が群がる、とかだろうな。それにフェンリル達が協力するか、利用されるかはまた別だが」
「そうですね。フェンリル達は賢いので、そういった考えで近付けるのはほぼないと思っていいでしょう」
リーザやデリアさんのように、獣人としての感覚として悪い事や嫌な事を考えているのがなんとなく伝わる、というような感じだ。
フェンリル達も、感じ方などは違うにしてもそれはできるようだし。
屋敷の人やランジ村にはそういった人はいないようだけど、ブレイユ村ではデリアさんと同じく、フェンリル達が近付こうとしない人とかもいたからなぁ。
まぁ、大体はそういう人はデリアさんに対して何か悪い感情を持っている、もしくは口さがない事を言うような人で、俺もブレイユ村にいた時は距離を取ってあまり話さないようにしていたけども。
「でも、そういった人が村に来るのはあまり歓迎できませんね……」
「あぁ、領地を預かる貴族としてもそうだな。この村はこれから発展するだろう。悪いと言えるような人間が来る事もあるだろうが、こと最初の内はそういった人間が集まらないようにするに越した事はない。が、まだ別の問題があってな」
「別の問題ですか?」
フェンリルに対して何か思う人が近付く可能性、以外に何かあるんだろうか?
「ここにはユート閣下もおられる事だし、王家に対しては問題ないのだが……他の貴族がうるさそうだ」
「公爵家が何かを企んでいる、と考えるならまだしも、声高に言い始める貴族というのも出てきてもおかしくない。大半は、シルバーフェンリルやフェンリルと協力できている事に対しての、嫉妬や妬みなどだろうがな」
「羨ましい、と思うくらいなら問題はないのですが、父上の言う通り、そういった感情で動く貴族というのはいますな。まぁ表には出さないようにしつつ、裏で画策したりとかでしょうが……」
「はぁ、ほんとね、そう言うのって面倒なんだよね。できるだけ潰して来たし、裏であれこれ悪い事を考えたり、悪感情を爆発しないようにしてきたつもりだけど……もしそういうのがいたら、潰そうかな?」
「……閣下の言いたい事や気持ちはわかりますが、それはさすがに」
途中まで気楽に話している、という雰囲気だったのに急に剣呑な雰囲気を発するユートさん。
見れば、ルグレッタさんも同じく目を細めて鋭くさせているし……。
それを見てか、少し焦った様子のエッケンハルトさんが止める。
まだ何もしていないのに、潰す算段をするのはさすがにな。
ユートさんならできてしまうんだろうけど。
でもそうか……現状でも大量にフェンリルが集まっていて、他では類を見ないくらいの戦力になってしまっているから、それを知って悪い方へ考える人もいるのか。
それに加えて伝説としても語られるシルバーフェンリルのレオがいるわけだしな。
妬み嫉みなどが、俺やこの村、ひいては公爵家や公爵領に向く可能性というのもあるか。
特に、貴族の間では……。
「まぁなんにせよ、そちらの方は私の領分であり、タクミ殿が気にする必要はない。というか、気にしないで欲しい。何かあってレオ様が動くとなるとユート閣下も黙っていられないし、手が付けられなくなる」
公爵家の当主、つまり身分としてはこの国で王家を除けば一、二を争うくらい高いのに、手が付けられなくなるとは一体……。
と一瞬思ったけど、理屈とか全て吹っ飛ばしそうなレオがいて、既に理屈をどこかへ置き去りにしているユートさんもいるわけだからな。
エッケンハルトさんやエルケリッヒさん、だけでなくクレアも神妙な表情になってしまっているのは、わからなくもないかも。
「僕はそんな暴走機関車みたいな感じじゃないよ? ちょっと、いくつかの貴族が代替わりとか、一時的に領地を治める貴族が減るとかくらいだし」
「機関車、というのがなんなのかはわかりませんが……それは後々、そして民への影響が強すぎますからな……」
こめかみから汗を流しているエッケンハルトさん。
貴族の代替わりとか数が減るとか、ちょっとで済まない問題に発展しそうだし、させるんだろうなぁ。
うん、これはあまりレオに話したり、エッケンハルトさんが言っているように俺が気にしない方がいいのかもしれない。
ユートさんはレオを裏ボス扱いしていても、フェンリル達が村の人達とも穏やかに過ごせているこの場所が、かなり気に入っているみたいだし。
気に入らない場所だったら、何かするかそれとも長居せずさっさとどこかへ行っているだろうし。
「まぁ、大量のフェンリルがこの地にいるのだ、既にそういった動きをしている者もいるかもしれん。秘匿しているわけでもないし、噂という物は広まるのも早く、我々の動きを少し注視するだけでそれが真実だという事が伝わってしまうだろう。だから、ここはハルトではなく私が働きかける方が良さそうだな」
「エルケリッヒさんがですか? でも、一応当主はエッケンハルトさんですし、貴族との関わりとなると、そういった事も重要になるんじゃ……」
「一応とは、タクミ殿も中々言うではないか……」
おっと失言。
クレアに注意されたり、さっきエルケリッヒさんに溜め息を吐かれていたのもあって、ついつい一応なんて言葉を付けてしまった。
親子だからか似ている部分があるけど、どちらかというとエルケリッヒさんの方が落ち着いているように見えて、つい……。
エッケンハルトさんも本気で気にしている様子ではないようだけど、さすがに謝っておく。
「ハルトは公爵家の当主。それが動くとなるとそれだけで大事になりかねんし、警戒する者もいるだろう。それに比べて私は、既に当主の座を退いた老人だからな。裏での動きを探るなどに関しては、その方が適任なのだ」
「そういうものなんですね……」
「父上がとなると母上もとなりそうですが、確かに私よりも長年そういった動きを見定めてきたお二人の方が、加減も知っているでしょうし、適任ですか」
エルケリッヒさんの話に、俺だけでなくエッケンハルトさんも納得した様子で呟いた――。
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