歴史を学ぶ必要があるかもしれませんでした
「公爵家にシルバーフェンリルを伝えていたのは……初代当主様、かな」
「もしくはその周辺にいた人、関係者だ。つまり本物のシルバーフェンリルを見た事のある人達。そして公爵家は代々、シルバーフェンリルを敬ってその伝説を大事にしてきた。だからこそ、正しく伝わっているとは考えられないかな? 僕が折に触れて、というか当主が交代するたびに色々と話しているけど、だからこそ変に形や内容が変わって伝わる事は少ないんじゃないかってね」
「うーん……そう言われれば確かに」
大事な事だからこそ、絶対に間に入った人の解釈や意訳で違いが出ないよう、正しく伝えているとも考えられるか。
「そして、もしその考えが合っているなら、タクミ君が考えた通りシルバーフェンリルは複数いる可能性は高いって事だ」
俺の考え、推測が多分に入っているけど、それを肯定しているという事らしい。
「だとしたらやっぱり、フェンリルの森の奥には今もシルバーフェンリルがいる可能性は高いだろうね。誰にも害する事はできない存在、もはや魔物という区分でいいのかすら実際に色々と見た僕には疑問だけど……ちなみに、一部では神と崇めるところもあるよ。ジョセフィーヌさんと一緒にいたシルバーフェンリルは、あがめられるのは嫌だって感じだったけど」
「神様かぁ……レオを見ているとそんな風には感じられないけど」
「僕も同意見。レオちゃん以外のシルバーフェンリルを見ていてもそう思うんだけどね。でも、実際にその力は人や魔物、この世界に生きるどんな生物をも凌駕している。そう思っても無理はないってわけだ。それに、人類を救ったのは間違いないから、崇められるのもわからなくはない」
「その崇めているところっていうのは、公爵家もですか?」
「いや、我々はあくまで敬うだな。レオ様を始め、シルバーフェンリルの事は他のどんな事よりも尊重する、とは伝わっているが崇めるとまでは言えないだろう」
「ジョセフィーヌさんから、そういう風に伝わっているからだろうね。嫌がっているようだったから、最低限敬うまでで、って感じで」
まぁそのシルバーフェンリル自身が、崇められるのを嫌だと言い、それをジョセフィーヌさんは聞くことができたんだから、敬うまではともかくとして崇めるまでは行かないように伝わるのか。
「うーん……」
「どうされました、タクミさん?」
「いやその、俺はシルバーフェンリルが最強だとか、公爵家の初代当主様との関係、それにユートさんからの話も聞いていたけど……知らないことが多いんだなぁって」
「それはしょうがないよ。だってタクミ君どころかエルケよりよっぽど長く生きている僕でも、わかっている事は少ないんだからね。むしろ、レオちゃんと一緒にいるタクミ君の方が多分詳しい部分もあると思うよ」
「それはそうなんだけど……レオがどうしてシルバーフェンリルになったのか、それは考えてもわからない事かもしれないけど、レオと一緒にいるなら、知ろうとする事は大事だと思うんだ。それに、クレアの事もあるし……」
「タクミさん……」
「ふむ、やはり私の予想した通りだったか」
「いやまぁ……ともかく、フェンリルの森にいるシルバーフェンリルを探してみるのもいいかもしれませんし、それ以外にも……エッケンハルトさん、本邸にある歴史書というのも改めてお願いします」
歴史を知ってもわからない事っていうのは多いだろうけど、それでもシルバーフェンリルという存在がどういう事ができるのか。
そしてどういう事をやって来たのか、というのは知っておきたいし、知りたい。
多分ユートさんの話にあった、よからぬ貴族を街ごと消滅させたなんて話もあるから、恐れられているのもあるんだろうし……知っているのと知らないのでは、違うからな。
「うむ。できるだけシルバーフェンリルに関する記述がある物を選び、持ってこさせよう」
「あーいえ、この国の歴史も知りたいですし、できればシルバーフェンリルが出て来ない物でも、読んでみたいです」
「えー、タクミ君。そこは僕に聞こうよ。歴史と言えば僕! 僕がこの国の歴史を作ったと言っても多分過言じゃない、はず! 多分!」
「そこは自信を持って言っていいんじゃないかと思うけど、だからこそかな。覚えていない事だってあるだろうし」
「むむむ、記憶に関して言われたら、確かに弱いね。仕方ない、タクミ君が歴史の勉強をする時は、僕が講師になるよ」
「……そ、それはちょっと……遠慮したいかなぁ」
「え、なんで!?」
大袈裟に驚くユートさんだけど、なんというかユートさんに講師をされて、真面目に歴史を学べる気がしないというのが本音のところだ。
ユートさん自身、長く生き過ぎているためか自分の記憶にある事すら、俯瞰して見ているような感じがするし。
本当に正しいかどうか、など参考に聞くことはあっても、できるだけ現存している歴史書を自分で読み解いていきたいし、その方が自分なりに考えられそうでもあるからな。
「まぁ、色々と聞くくらいはあると思うけど、その程度でいいかなって。ほら、ユートさんはここに来ても他に仕事もあるし、ね?」
「うーん、なんだかいいように扱われている気がするけど、まぁいいか。近々タクミ君に報告する事も出てきそうだしね」
「……できれば、お手柔らかに頼むよ」
俺に報告というのは、多分椿油に関してだろう。
確か『国境を持たない美の探究者』だったか……椿油を作ってくれたのはいいけど、その効果に並々ならぬ意気込みを見せている。
椿油を製造販売する事になりそうで、ほんの少しずつだけど隙を見て作っては、採取して貯蔵量増やして備えているけども。
ユートさんは今、その『国境を持たない美の探究者』と諸々の交渉を担当してくれているんだけど、あんまり大変な報告とかにならないといいなぁ。
「ともあれ、歴史に関してはエッケンハルトさん。申し訳ないですけどお願いします」
「あぁ、承った。存分にタクミ殿が学べるよう取り寄せる」
「……念のために言っておきますが、所蔵している歴史書全部ではなくて、できればわかりやすく全体を学べるような物をお願いします。あるかはわかりませんけど」
なんとなく、エッケンハルトさんの意気込みに不安を感じ、念のため釘を刺しておく。
エッケンハルトさんの事だからやりかねないし、いきなり大量の歴史書が来ても、全部読み切れないからな――。
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