結局微笑ましく見られてしまいました
「ちょっと調べてみたかったので、ありがとうございます」
「だが、気を付けた方がいいぞ。書物になっているからと言っても、それが全て正しいわけではない。伝承関係は特にだが、真偽が不確かどころか、これはあからさまに違うだろうと思えるものもある」
この世界ではどうかわからないが、歴史書なんて後世の人の解釈で変わったりもするからな。
それこそ、歴史は勝者が作るという言葉があるように、その時代の人達の手によって実際とは異なる場合もあるし……まぁ、全てを信じるとかではなく、参考とまでにしておいた方が良さそうだ。
歴史家と言うのも少なく、歴史書の精査などもあまり行われていない可能性もあるしな。
それに……。
「真偽には気を付けるようにします。けど、歴史の生き証人とも言える人がいますから。もしもの時はその人に聞きますよ。まぁ、覚えているかどうかという心配もありますが」
「……そうだな。確かにその手段があったな」
キョトンとしているユートさんに、俺とエッケンハルトさんの視線が集まる。
シルバーフェンリルだけでなく、初代当主様の事も知っているどころか、ずっと生きて来て国内も回っているらしいから、歴史に関しての事を聞くなら一番だろう。
何かしらの刺激というか、とっかかりがないと思い出せなかったりと記憶に対しての不安はあるけど、歴史書のみで考えるよりは全然マシだ。
それはともかく、この場では話せない事でもあるので、とりあえずユートさんに何でもないと首を振って誤魔化しておく。
「それにしても、タクミ殿からこのような話をする事になるとはな。我が娘ながら、クレアは愛されているな……」
「え!? い、いえいえ、そんなつもりじゃ……!」
「む、なんだ? クレアの事を愛していないと言うのか?」
「そういうわけじゃ……ありませんけど……」
「タクミ殿がシルバーフェンリルに関して、興味を持って考えているのはほぼクレアのためだと思ったのだがな。もちろん、私もクレアのシルバーフェンリルに関する思いは知っているからな」
「……まぁ、全然ないわけじゃないです。考えるきっかけと言いますか、クレアのためと思ったのが始まりかもしれません。けど、レオがいますからね。レオの事を調べる、というのに俺の感覚としては近いです」
実際はクレアは俺にとって大きな動機になっているんだけど、ここでそれを言うのは照れてしまうからな。
あと、エッケンハルトさんだけでなく、セバスチャンさん達などを俺にとって恥ずかしい意味で、喜ばせるだけだろうし。
レオの事というのも嘘ではないし、理由の一つだから、とりあえずそれで誤魔化す事にした。
「タクミ殿がそう言うのなら、そういう事にしておこう」
「タ、タクミさん……」
とりあえず誤魔化せたかなと安心していると、何故だかクレアがこちらを見て目を潤ませている。
クレアのためじゃないって、否定的な事を言ったから変に受け止められたかな?
というか、これまで話に参加していなかったのにこういうのは聞かれているんだ……まぁ、すぐ隣に座っているんだから、聞こえていてもおかしくないんだけど。
「あ、いやその……クレアのためじゃないとか、そう言うわけじゃないんだけど……あれ?」
どうにか言い訳を、と考えて喋る俺に対してクレアは顔を真っ赤にしている。
なんだか、俺が不味い事を言ったのとは違う反応のような……?
「そ、その……タクミさんの気持ちは嬉しいのですけど、こんな皆が見ている、聞いている前でそれはさすがに、は、恥ずかしいです……」
「えっと……」
「今更何を言っているのよクレア。見せつけるように、タクミさんと抱き合ったりしているくせに……」
「お婆様! そ、そんな私は見せつけるだなんて……!」
「……そう思っていないのは、クレア達だけじゃないかしら? まぁそれはいいとして」
「流されました……」
やれやれといった様子のマリエッタさん。
俺もクレアと同じく、見せつけるためというのは抗議したかったけど、マリエッタさんの雰囲気はそれを許さない感じだ。
……多くの人に見られているのは間違いないし、実際に周囲に誰かがいても二人の世界に入る事があるのは否定できないけど。
「タクミさん、クレアはハルトとタクミさんの話に反応したのはわかっていると思うわ。その中の、ハルトの問いかけに対する答えが特に嬉しかったのだと思うわ」
「う、嬉しかったなんて……いえ、その通りですけど」
「エッケンハルトさんの問いかけ……」
目を潤ませて、チラチラとこちらを窺いながらも、顔を真っ赤に染めて消え入りそうになりながら照れるクレアを見つつ、先程の話を思い出す。
そういえば、エッケンハルトさんからの問いかけってクレアのためとかだけじゃなかったはず。
クレアの事を愛しているかどうかとか……って、あ!
俺自身ははっきりと口にしていないけど、でもあの答え方は否定もしていないわけで。
つい先ほどの会話を思い出した俺は、一瞬で顔が沸騰したように熱くなる。
周囲の皆、料理に夢中なレオやシェリー、リーザやティルラちゃんなどを除いて、微笑ましい物を見るような視線を感じる。
というか気付かなかったけど、他の人達は皆大体気付いていたようだ……それこそ、ユートさんやルグレッタさんまでも。
いやルグレッタさんは何やら、微笑ましいと言うより羨ましいという感じの視線だけども。
ただエッケンハルトさんはにやにやと笑っていて……これははめられたなぁ。
「その様子は、どうやら気付いたようね。まぁ受け取り方によってどちらとも取れたけれど、クレアは自分が喜ぶ方向で受け取ったようね」
「ま、まぁ……はい。その、違うとは言えませんし言う気もありませんけど……そうですね、はい」
遠回しに、俺がクレアの事を愛していると言ったようなもの、という事になっているんだろう。
それは多分間違っていないし、間違いだという気も考える気もないが、恥ずかしさと照れからしどろもどろになってしまう。
自分のこれが、クレアを好きだという気持ちが愛と呼べるのか、それはまだわからないけど、そうなるといいなと思っているわけで……その時点で愛していると言えるのかもしれないが。
ここまで、異性中心であれこれ考えた事がなかったので、こういう時どうすればいいのかわからないな――。
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