歴史にも記されている事があるようでした
「父上が当主だった頃はそうでしたな。最近はそう言った事も減っているのですが……他にも、ウルフをフェンリルと見間違える、といった事もあり得る」
「あー、そういえばラクトスからすぐ南で、フェンリルがいるかもしれないって話を聞きましたね。まぁあれも、ウルフを見間違えただけのようでしたけど」
ユートさんが潰した野盗団というか、ウルフを利用した輩が、街に近付いたのを住民なり衛兵さんなりが見て、薄暗く視界の悪い森で見間違えたんだろうと思う。
話を聞いた時、森に狩りへ行ったフェンリル達からも聞いたけど、ウルフがいた形跡や匂いなどと共に人間の匂いなども残っていたらしいが、他のフェンリルがいたという匂いなどはないとの事だったし。
結局、レオやフェリー達がラクトスの中に入って見られた事で、似たような形の魔物をフェンリルだ、と思い込んだ事からの見間違いでもあったんだろう。
ウルフとフェンリルは、並べて見比べれば大きさから色々と違うけど、逆に言うならそうでもしないと見分けるのは結構難しいだろうし。
同じ犬種でも、飼い主からすると他の犬とは違うとはっきりわかるけど、犬に慣れていない人からすると見分けが付かないようなもの……かな。
「そういった情報が、各地から寄せられるわけだ。まぁこれからはさらに真偽の程を見分けるのは簡単になりそうだが」
「そうなんですか?」
「タクミ殿がいて、ここにフェリーを始めとしたフェンリルがいるからなのだがな。要は本当かどうか聞いてみればいい、というだけの事だ」
「成る程」
「それで全てがわかるわけではないが、これまでよりはマシだろう」
少なくとも、フェンリルの森にいるフェンリルに関してはフェリー達に聞けば、何かわかるって事だろうな。
フェリーがまとめている群れだけでなく、他の群れなんかの事も多少は知っているようだし、森のどの辺りならフェンリルがいるかもしれないくらいはわかるだろうから。
「っと、話しを戻すか。森の深部……誰も足を踏み入れない程の場所であれば、今もシルバーフェンリルがいる可能性はあるのだろう」
「そうですね。まぁ、その足を踏み入れない場所というのが広いようですけど」
「うむ。フェンリルの目撃情報などなどが真偽に関わらずあるとしても、本当に奥まで入るようなのはゼロと言っていいくらいだからな。それに、あの森は広い。反対側は公爵領ではないくらいだからな」
「あちら側は、子爵領だったか。フェンリルの森という、こちらではある種特別視されている森ではあるが、逆に向こうでは恐れられていて、調べなども行っていなかったはずだ」
「父上の言う通りです」
子爵領、つまりは公爵家の領地とは別の貴族が治める場所にまで、森は広がっているという事だ。
ちょっと想像しがたいけど、森の広さに関してあれこれ聞いてみると、俺の想像を含めると大体日本の都道府県、その一つが丸々余裕で入るくらいは広いと思われる。
試す事はないらしいが、横断するとしたら木々が生い茂っている事もあって馬ではほぼ不可能、ちょっとだけではあるが高低差があるところがあるらしく、徒歩のみで数十日はかかるだろうと予想されるとか。
魔物もいるわけで、フェンリルが獰猛と言われていた事もあって、実際にはそれをやった人物はいないわけだが。
ともかく、真っ直ぐ西に抜けると子爵領に行ける、というより複数の領地にまたがっているようで、多くは公爵領内ではあるようだけど、別方向では他の貴族領にもかかっていると教えられた。
そこまで広い森だったのか……。
「これは、奥まで調べてシルバーフェンリルを探す、というのは中々難しいかもしれませんね」
「まぁ、人の手には負えない森であり、多くの人員を投入したとて全てを調べ尽くす事はできないかもしれん。実際、公爵家以外では既に諦められており、森の奥までは行かないようにしているからな。浅い部分までは木材を得るために木の伐採くらいはやっているが」
公爵家は初代当主様の事があるため、神聖視とまでは言わないけど、特別な森として触れないわけではないけど特に奥まで調べようとはしていないって事でもあるか。
木の伐採に関しては、ブレイユ村とか公爵家側でもやっているけど……。
森を切り開くと言うか、広い森を狭くするほどまでではないとも言えるか。
そこは、ある程度決まりなどで制御しているのかもしれないし、その辺りに関しては俺がわからないけど。
「という事は、誰もシルバーフェンリルがいるともいないとも言えないってわけですね」
「そうだな。必要性がなかったとも言えるが、折を見てか、シルバーフェンリルが歴史に登場する事は他にもある。フェンリルの森にいるのかどうかはわからんが、存在しているのは間違いないのだがな」
「歴史に……?」
「狙っているのか偶然なのかわからんが、シルバーフェンリルだからな。存在が確認されるだけでも歴史に残りそうではあるが、それだけではなく何か行動を起こしただけで、後世に大きな影響を残す可能性を持っているし、実際にそうだ」
「つまり、誰かが残そうというわけではなくても、シルバーフェンリルが動いただけで歴史になってしまうという事ですね」
「うむ。それが、シルバーフェンリルが最強と言われる所以でもあるのだがな。そのシルバーフェンリルが、フェンリルの森に棲んでいるのか、そして初代当主様と関わった個体なのか、それとも別なのかはわからん」
公爵家に関してだけではなく、国の歴史に登場するのならまずそれを調べてみるのも悪くないかもしれないな。
クレアのためではあるけど、俺も興味はあるし……実際にどこかにレオ以外のシルバーフェンリルがいるとするなら、一度は見ておきたい。
いや、なんとなく見ておかないといけない気がする。
これは、クレアのような心の引っ掛かりとか義務感や使命感などではなく、レオがシルバーフェンリルになったからそう思うというのが大きいが。
「シルバーフェンリルの歴史というよりもうほぼ伝説だな。それに興味があるのなら、書物を取り寄せよう。確か、本邸には色々とあったはずだ」
俺の表情を見て察したのだろう。
この屋敷にある本は元々別邸にあった物が多く、歴史書の類は少ないようだしな。
別邸は初代当主様が過ごしたお屋敷で、歴史という意味では古い建物だけどあくまで、現在の公爵家の本邸は別だからな。
大事な本などはそちらに移してあるんだろう――。
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