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1902/1996

心の引っ掛かりについて話しました



「確かに、もし森の中で他のフェンリルと遭遇しても、危険はないと思えますね」

「そう。今と以前では状況が違うし、知っている事も違う。まぁ別邸にいた頃のように近くとは言えないから、思い立ってすぐにというわけにはいかないだろうけど……定期的にか不定期かにしても、また行ってみるのもいいんじゃないかな。あの森に行くと、レオの機嫌も良くなるし」

「ワッフ」


 レオとしては特に何かがある、というわけではないみたいだけど、なんとなくあの森の中にいると気分がいいらしい。

 散歩的な意味で、森の中を歩くのが好きと言うのもあるんだろうけど……やっぱり何かシルバーフェンリルと関係する物があるのかもしれない、と思う。

 それが何かはわからないけど。


「キャゥー!」

「あ、シェリー?」


 クレアの膝の上からシェリーが飛び出し、向かい合うように立って勇ましい姿を見せるシェリー。

 まぁレオやフェリー達を見慣れているのもあるからか、頼もしいとかよりもむしろ可愛らしいと思えるんだけど。

 それはともかく、話しを聞いていたんだろう、シェリーが何を言いたいのかはその様子から俺でもわかるな。


「どうやら、シェリーもクレアを守るから大丈夫って言っているみたいだね?」

「はい、本当にそうみたいです」

「キャウ、キュゥ!」

「ワフ、ワウワフ!」

「ははは、レオもそうだな。ありがとう、頼りにしているよ」


 同じく立ち上がり、自分もと主張するレオに感謝しつつ撫でてやる。


「……そうですね、シェリーやレオ様もいますし、タクミさんもいてくれます。さすがに以前のように思い付きで感情に任せてどうしても森へ! というのは反省していますししませんが、計画を立てていずれ行ってみるのもいいかもしれません」

「そうだね」

「とはいえ、まずは北の森の調査が落ち着いてからでしょうか?」

「まぁ……さすがに、放っておいては行けないね」


 フェンリル達への悪影響を及ぼしたカナンビス、森の調査やその他との関連性等々、調査をそのままにしてフェンリルの森へ行くなんて事はできないよな。

 レオは今のところ大丈夫だけど、もしかしたらシルバーフェンリルに対しても何かしらの悪い影響があるかもしれないし。

 まだまだ謎が多いので、今のところサニターティムの丸薬のおかげで大丈夫ではあっても、絶対的な保証がされているわけではないからな。


「でもどうして、タクミさんはそこまでして下さるんですか? タクミさんもシルバーフェンリルがいるなら見てみたい、というのはわかりましたけど……」

「うーん、ほとんどさっき理由を言ったようなものだけど……なんて言うのかな、クレアにはできるだけ心に引っ掛かりを持たないようにして欲しい、って思うんだ。それは、生きていれば人間そういう事もあるだろうけど、取り除ける引っ掛かりならできるだけ取り除きたいってね」

「心の引っ掛かり、ですか。確かにそう言われば、どれだけ諦めようと、忘れよう気にしないようにしても、引っ掛かりと言うのは感じているかもしれません」

「うん。自分語りみたいになっちゃうけど、俺にはもうその引っ掛かりを解消する術がないから……だから、代替えって言うとクレアは嫌な気分になるかもしれないけど、俺が駄目ならせめてクレアだけでもって思うんだ」


 俺には、もう絶対に解消する事ができないだろう引っ掛かり、後悔と言ってもいい事がある。

 可能性のあるクレアとは違って、俺の方はもうそれを取り除く事はできないんだろうと、一生付き合っていく覚悟は、一人で考えて決めていた。


「タクミさんの心の引っ掛かり、ですか?」

「そのね、俺を育ててくれた人達の事だよ。家族として迎えてくれて、俺をここまで育ててくれた人達。いつか恩返しを、もう一つの親兄弟として孝行を、って考えていたんだけどね。こちらの世界に来ちゃったから」

「ワウゥ……」


 日本への心残り、とも言うんだろう。

 仕事に関してはまぁ働かせてもらった、という気持ちはあるけど色々と辛い事の方が多かったからあまり感じないけど、やっぱり育ててくれた人達にはちゃんと恩返ししておきたかったなぁと思う。

 いずれそうする、と焦っていたから仕事が辛くても、ブラックな環境だったと自覚があっても辞めて迷惑をかける事を恐れていたのかもしれないけど。

 今でこそ思うのは、恩返しできなくてもせめてお別れくらいは言っておきたかったな。


「俺の実の両親の兄夫婦である伯父さん、伯母さん。それからその子供の兄と姉と呼べる人達にね、感謝や別れくらいは言っておきたかったっていうのが、多分ずっと心に引っかかったままなんだろうなって思うんだ。だから、これはもう諦めている。ずっと付き合う覚悟もしているんだよ。こっちに来たのは急だったから」

「ワフ、ワウゥ……」

「心配してくれてありがとうな、レオ。レオも伯父さん達にはお別れを言っておきたかったよなぁ」


 俺を窺うように顔を寄せるレオを撫でる。

 俺がどうしても長くレオの世話ができない時とか、喜んで預かってくれた。

 預かってもらうたびに、レオのおもちゃが増えて行くくらい可愛がってくれてもいたからな。

 レオからしても、伯父さん達には懐いていたし、俺と同じような気持ちもあるんだろう。


「まぁなんていうか……だからね、もしかしたら俺の勝手な思い出の押し付けかもしれないけど、俺にはもう無理でもクレアは心の引っ掛かりを取り除けるかもしれない。その手助けをできるだけしたいなって、思っていたんだよ」


 なんというか古い考えかもしれないけど、男ならそれくらいの事を飲み込んで、背負って生きて行かなきゃという思いと、女性にはそう言った思いを持たせないように、笑っていられるように……なんて考えがある。

 全部、俺が勝手に考えている自己満足なのかもしれないが。


「タクミさん……もう! タクミさんは卑怯です!」

「え? うぷ……ク、クレア!?」


 俺の言葉がクレアにどう伝わったのか、わからないけど突然感極まったように、泣きそうな表情になったクレアが、俺を抱きしめる。

 色々と柔らかいものが……なんて邪な考えがほんの少しだけ浮かんだ俺は、エッケンハルトさん辺りに殴られた方がいいのかもしれない。

 いや、エッケンハルトさんに父親の鉄拳を発動させたら、俺が再起不能になるかもしれないけど――。



読んで下さった方、皆様に感謝を。


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