服や小物を借りる事が出来ました
ゲルダさんの案内で部屋に戻り、中へ入る。
中ではライラさんが折りたたまれた服を持って待っていた。
「タクミ様、こちらのお召し物にお着替え下さい」
「ありがとうございます」
ライラさんから渡された服はさすがに執事服じゃ無かった。
これは……なんて言うんだったかな……確か、プールポワンという服だったはずだ。
以前歴史の勉強をしていた時に中世ヨーロッパの服装とされてたのを覚えてる。
確かこれって鎧とかの下に着る物じゃなかったっけ?
まぁ、今は鎧を着たりしないが、とにかくずっと同じ服を着続ける事にならなければそれでいい。
そのプールポワンのような服と、ウエストコート……チョッキの様な物を渡された。
「ブーツではないようですので、下はこれをお穿き下さい」
「はい」
ズボンを渡されたが、そちらは普通の長ズボンだった。
確か、膝下くらいまであるブーツに半ズボンが中世では主流だったはずだ。
けど俺はブーツを履いていないので、長ズボンにしたようだ。
これは、ブレーと呼ばれる物だったかな。
俺の歴史の勉強なんて結構適当な所があるから、正しいかどうかはわからないし、そもそもここはそれっぽいというだけで中世ヨーロッパじゃないけども。
ブーツを履いていて、ブレーに上はプールポワンとウエストコート、さらに上衣を着ればどこぞの貴族風になったかなと思う。
絶対似合わないだろうからこれで良かった。
そんな事を考えながら、早速とばかりに渡された服に着替えようとしたところで気付く。
「あの……ライラさん?」
「はい、何でございましょう?」
「着替えるところ、見るんですか?」
「……あ! これは失礼しました。直ちに退室させて頂きます」
「はい……」
「……その前にタクミ様」
「はい?」
ライラさんもおっちょこちょいなところがあるんだなぁと思いながら、退室しようとしてるのを見ていると、思い出したように振り返る。
「こちらでお髭の手入れをお願いします」
「……これは」
渡されたのは、小さな果物ナイフのような物だった。
せめて床屋さんのような剃刀が良かったが……そんな物は無いのかもしれない。
手のひらサイズのそれを受け取ると、ライラさんはそのまま部屋を出て行った。
「……これで髭って剃れるんだろうか?」
この世界ではこれが一般的なのかもしれないな……。
郷に入っては郷に従えという……けど……怪我をしそうで怖い。
とりあえずどうするか考えながら、先に着替えを済ませる。
服の生地は相当上質な物なんだろう、肌触りがとても良くてワイシャツやスラックスに負けない着心地だ。
文化レベル的に、もっと粗末な布で作られた服が出て来るかと思ったけどそんな事は無かった。
上流階級って凄いな。
さて、着替えも終わって後は髭を剃るだけ。
前に剃ったのはこちらに来る前日の朝、仕事に行く時の準備で剃った時以来だ。
2日ぶりくらいか、部屋にあった鏡を見ると指でつまんで引っ張れるくらい伸びて来ている。
無精髭でクレアさん達の前に出ていたのかと思うと少し恥ずかしいな。
改めて鏡を見てると、朝食前に髭を伸ばせばダンディかもと考えた自分が愚かしいと思えて来る自分の顔がある。
やっぱ髭って剃るべきだな、うん。
ナイフを持ち、覚悟を決めて顔に当てて髭を剃り始める。
10分後、何とか髭を剃れた俺の顔が鏡に映っている。
……所々血が滲んでるのは不慣れなせいだと思いたい、これから慣れて行こう。
ライラさんが用意してくれたのか、朝と同じように新しいお湯とタオルが置かれていたので剃った後の顔を洗い流し、ナイフも洗ってしっかり拭いた。
ベッドの横にある机にナイフを置き、もう一度鏡で顔の確認。
「洗った時ちょっとヒリヒリしたけど、大丈夫かな」
よく見れば小さい傷がいくつかあるが、もう血は出ていないし、髭も剃れてる。
「よし、大丈夫だな」
確認が終わり、裏庭でクレアさん達と合流するために部屋を出た。
部屋を出た時に、また扉の前で待機していたライラさんに驚かされたのをごまかしつつ、案内してもらって裏庭に向かった。
……ホラーとか脅かす系は苦手なんだよなぁ……。
「アハハハ、レオ様こっちー!」
「ワウワウ!」
裏庭に出ると、ティルラちゃんの元気な声が聞こえて来た。
ティルラちゃんが走り回って、それをレオが加減をしながら追いかけてるようだ。
「あら、タクミさん。見違えましたね」
「あぁ、クレアさん、セバスチャンさん。さっぱりして来ましたよ」
走り回るティルラちゃんとレオを見守るように立っていたクレアさん、後ろに控えていたセバスチャンさんが俺の所へ来た。
「タクミさん、そのお召し物とても似合っていますね」
「そうですか? なら良かったです」
「タクミ様、それくらいの物しかご用意できませんでしたが……」
「とんでもない、これで十分過ぎる程ですよ。セバスチャンさん、ありがとうございます」
「いえいえ、このような事でしたらいつでもお申し付け下さい」
セバスチャンさんにお礼を言うと、一礼をしてまたクレアさんの後ろに控えるように下がった。
「タクミさん、セバスチャンと話していたのは着替えの事だったのですね。それにお髭も」
「はい。まぁ男の着替えの事なんて女性に相談する事では無いですからね。髭なんて特にそうですよ」
「確かにそうですね。私はあのままのお髭も似合っていて良かったと思いますが」
「そうですか? 無精髭なんて不格好なだけですよ」
あまりおだてないでクレアさん。
調子に乗ってまたダンディを目指すとか考え始めそうだから。
「それにしても、ティルラちゃんが元気になって良かったですね」
「はい、本当に。こうして今ティルラが元気に走り回れるのも、ラモギを見つけて下さったタクミさんのおかげですね」
「ははは。一番はティルラちゃんを心配して屋敷を飛び出してまでラモギを探したクレアさんですよ」
「……クレアお嬢様、今回の事はこのセバスチャン、肝を冷やしました。今後屋敷を出る際はせめて護衛をお連れ下さい」
「あら、セバスチャンに怒られてしまいましたね」
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