森を抜けた先には何もないようでした
「ルグリアさん、その焚き火までの間に魔物と戦ったような形跡はありましたか? ルグリアさん達調査隊やフェンリルが魔物と遭遇したの以外で、です」
「そのような形跡は一切ありませんでした。少なくとも、我々以外が森に入り、魔物と戦っている者はいないようです」
「成る程……その他に、魔物と遭遇しないように、細心の注意を払って移動はできそうですか?」
「フェンリル並みに鼻が利き、気配を察知して徹底的に魔物に近付かないか、それとも魔物に察知されないよう完全に身や気配を隠しながら移動すれば、もしかしたら可能かもしれません。ですが、それをしながらずっと移動をするというのは……」
「難しい、どころではないですね」
「少なくとも人には不可能だろうな」
俺の言葉に、エッケンハルトさんが頷く。
話を聞いていた他の人も同じく頷いているので、同意見のようだ。
森の中、細心の注意を払って移動したとしても、魔物と遭遇するのはほぼ避けられないだろう……それこそ、何らかの手段かとてつもなく運がいいとかでない限り。
魔物で溢れかえっているというわけではないけど、奥へ行けば行くほど魔物も多くなるし、オークなどでも人よりも遠くまで察知能力が高い。
フェンリルの森で、俺達が気付くより先にオークが気付いて近寄って来たこともあったしな……あれは、レオの強い気配が原因という可能性もあるが。
短時間なら、気配なりを消して移動するくらいはできるかもしれないけど、それをずっと続けて移動し続けるというのは現実的じゃないな。
しかも魔物の数自体はフェンリルの森が少なく、ランジ村北の森の方が多いらしいし……それは多くのフェンリルが棲んで狩りをしているからか、それともレオ以外のシルバーフェンリルがいた森だからかはわからないけど。
「だとしたら……エッケンハルトさん。森を抜けた先、北には何がありますか?」
「ふむ、タクミ殿も北からの可能性を考えたか」
「はい。南はここランジ村とこの屋敷、西はラクトスで東は川。それらの可能性は低いうえに、焚き火跡までに争った形跡がないとなると、まだ調査の手すら入っていない場所からとしか考えられません」
森の南側にその形跡がないのなら、北側から入って来たと考える方が自然だろう。
「私もタクミさんの意見に同意します。ここから北、森を抜けた先ですが……何もありません」
「何も?」
クレアの言葉に、首を傾げる。
いやさすがに、何もないって事はないんじゃ……?
「正確には、不便すぎるために何も作る事ができない、が近いでしょうか。誰かが住んでいるような場所でもないですし。森を抜けてずっと北へ行けば、バースラー領になるだけです。ですがそちらでも、バースラー領に入ってしばらくは村や街すらないので、何もないと言うしかありません」
「バースラー領……ですか」
バースラー領、元伯爵がいた領地。
その元伯爵の娘、アンネリーゼさんがいずれ受け継いでいく領地だな。
以前は病だとかを仕掛けてきていたけど、そのバースラー元伯爵はもういないし、事ここに至って、アンネリーゼさんなりなんなり、関係者とか関係ない人でも、北からリーベルト公爵領に何かしてきている、というのは考えにくいな。
回りくどすぎるし、それなら別方面だろう。
「不便と言っていましたけど、それは?」
「ここからは私が。北の森をさらに北へ抜ける事はできますが、それは森を抜けなければなりません。そして、その場所へ森を抜けずに行くためには、大きく迂回する必要があります。リーベルト領内では、森資源は他にもありますし、そのような場所にわざわざ人を集める利点もございません。さらに言えば、そこへ定住するようなものもいないようで……」
セバスチャンさんがここぞとばかりに説明を始めてくれたけど、それによると、森を通らない限り距離があり過ぎて、物を運ぶにも人が行き交うにも時間がかかり過ぎるという事みたいだ。
時間がかかれば当然、輸送も移動も費用が掛かってしまうわけで、不便と言うのはそういう事だろう。
特にその場所に特別何かがあるわけではなく、むしろ何もない場所だから人が住む事もなく、そのままになっていると。
さらに言えば、森を抜けてずっと北に行ってバースラー領に入ってもそれは同じ。
というより、向こうは向こうであまり大きくないながらも山と森が一体になった、険しい場所があり、あちらはあちらで不便なため、同じくそのままにされている場所との事だ。
ちなみに、それがあるからこそバースラー領から国の中心、王都へと向かうためにはさらに大きく北へ迂回するか、別の場所からリーベルト領に入り、ラクトスを通過するかのどちらかが移動経路となるとか。
そのためラクトスは俺が思っているより、かなり重要な街らしい。
あと、北へ迂回するのとラクトスを通るのでは、実際の移動距離にして倍以上の差が出るとか、もちろん、ラクトス通過の方が近い。
……どれだけ大きく迂回しないといけないのか。
以前、まだ屋敷ができる前にランジ村でユートさんと出会った後、ユートさんはバースラー領に寄って王都へ行く、というのを聞いた。
多分あれは、険しく本来なら人が通るような場所ではない所を無理にでも通って近道をしたんだろうな……。
「という事は、その場所には基本的に人は行かないし、いないという事ですか。だったら、そこを利用している可能性もなくはない、ですね」
「あくまで可能性としては、あり得るだろうな。森の中で生活しているわけでもあるまい。不便ではあっても、だからこそ身を隠しておくには相応しいか。回りくどくはあるが……」
「絶対に住めない場所、というわけでもありませんからね」
「だとしたら、そこも調べてみた方が……?」
もし何かあるとするなら、森を抜けた先と考えれば調べる価値はあるかもしれない。
「いや、場所が場所だからな。フェンリルがいたとしても森を抜けるのは時間がかかる。それに、森を抜けてどこまで調べるか、というのもあるしな」
「確かに。なら……」
森を抜けてすぐ、何者かの拠点なり痕跡があるとは限らないからな。
エッケンハルトさんの言う通り、ただ調べると言っても色々問題があるか。
森の広さを考えると、フェンリル達であっても一日で往復するのは難しいだろうし、道中でどれだけ魔物がいるかにも左右されるからなぁ――。
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