数日内に森に入った何者かがいるようでした
「はい。これまでは何者かが森へと入り込んだ痕跡、フェンリルが発見した足跡などですが……それとは別の、間違いなく人が入り込んだと証明できる物が残っておりました」
「それは?」
「焚き火跡です。巧妙に隠す……つもりがあったのかはわかりませんが、間違いなく焚き火をした痕跡がありました。隠すつもりなのか、ただ森の魔物に見つからないためなのか、表面上は綺麗に片付けられてはいましたが」
「表面上というのは?」
「さすが鼻が利くフェンリル達、といったところでしょうか。我々だけでは、もしかしたら地面の違和感に気付けたかどうかなのですが。フェンリル達が、地面の中の匂いをかぎ取って判明しました。焚き火をした後、燃えカスが埋まっていたんです」
要は、焚き火をして消火した後に残った物を、土の中に埋めていたというわけか。
まぁ隠すためなのか、それとも魔物が見つけて人が近くにいると悟らせないためなのかはわからないが。
ちなみにだけど、魔物の中には人を与しやすい相手と認識していて、痕跡を発見したらその後を追うようなのもいるらしい……まぁそういった魔物は、この近くの森にはいないようだが。
ただ一応の心得として、焚き火など自分達の痕跡を残さないようにするというのは、よくある事らしい。
何はともあれ、燃えカスが埋まっていたという事は地面を掘ったという事でもあるから、そういった部分に人が森の中で気付けたかどうか……というのはルグリアさん達をしても微妙みたいだ。
運良く見つけるか、違和感に気付くか……どうしても土が掘られた部分は、何も触れていない地面とは様子が変わったりするからな。
それを、フェンリルが匂いで察知したという事だろう。
人にはわからないくらい、かすかに残った火を使った後の焦げた臭いとかからかもな。
「燃えカス、焚き火の跡、か……」
「はい。その燃えカス自体はそう珍しい物ではなく、薪などから割り出そうとする事もできないものでした。森の中ではありふれた物ですので」
「まぁ、そうだろうな」
薪が一部でも燃え残っていれば、ある程度どういった木が使われているかなどを調べる事ができるけど、焚き火に使ったのは森の木なんだろう。
煙を気にしなければ、森の中にはいくらでも焚き火に使える枝葉が落ちているし。
「ならば、その燃えカスなどからいつの物か、まではわからなかったか?」
「詳細まではさすがに。ですがおそらく数日程度の物かと」
「数日……そのくらいで調査隊の皆以外で、森の中に入った人がいるというわけですね」
「そうなります」
以前発見した森へと入る人の物と思われる足跡よりも新しいって事になる。
つまり、確実に俺達が調査を始めてから、別で森の中に入った人がいる証明というわけだな。
調査隊の人達は森の中で焚き火をしないし……フェンリル達もいるんだから簡単に戻って来れるし、わざわざ焚き火をする必要もない。
「森を完全に囲んで調べているわけでもないので、どこから入り込んだのか、というのはわかりませんが……少なくとも、調べ始めてからはランジ村付近の入り口は見張ってもいますし、誰かが森へ行けばわかりますから、他からでしょうね」
「タクミさんの言う通りですね。フェンリル達もいますし、森と村、そしてこの屋敷との間はほぼ何もありません。そんな中、こちら側から森に入るのはほぼ不可能でしょう」
ここから森との間には、薬草のための畑があるくらいで、草花は生えていても人が隠れて行動できるような物じゃない。
草花とかも高く育っても大体は膝まで届くかどうかだろうしな。
それに、フェンリル達が自由に過ごしているから、何かあればフェンリル達が気付くはずだ。
匂いや気配には人間以上に鋭い。
「他からか……だとすると西はほとんど考えられないな。東からの可能性もあり得るが、あちらには川がある。それを越えるとなると、もっと何かしらの痕跡が残るだろう」
「西は、ラーレがいた山とラクトスですか。東の川は俺も見ましたけど、泳いで渡れなくもないですけど結構川幅も広かったですからね」
「うむ。さすがにラーレのいた山や、ラクトス近くまで見張っているわけではないが、あちらからであれば、もっと目撃情報なりなんなり、ラクトスからの情報が入ってくる可能性が高い」
「そうですね……」
森自体はラクトスのすぐ近くから東に広がっているけど、あちら方面から入るような人がいるのであれば、もっと情報なり噂なりがラクトスで流れていてもおかしくない。
絶対にないというわけではないけど、かなり可能性は低い……魔物と遭遇する確率も高いし、そもそも人が歩けるような道、それこそ獣道すらも外に通じていないから、できるだけ痕跡を残さないように森へ入れるのは限られる。
ラクトス付近は人の往来も多いから、出入りしていれば目撃される可能性もあり、それが何かしらの噂になったりもするだろうし……カレスさんやラクトスからの調査隊によると、そう言った話はなかった。
その事から、ラクトス方面から森に入るだとか、ラクトスで何かしらの準備を整えるなどはしていないだろうと俺達は考えている。
……ただ森の中に入るといっても、奥まで行こうとするとそれなりに準備もいるし、活動拠点みたいなものがあるはずだからな。
そして逆の東方面。
そちらは川幅の広い川が流れていて、そこまでは調査隊の人達が見張っているため、こちらからの可能性も低い。
川を越えたさらに東から、という事もなくはないけど……ラクトス方面もそうだが、そんな遠くからわざわざランジ村の北の場所まで森を移動してくる理由がない、と思われる。
どうしてもランジ村の近くに来る必要があるのかもしれないけど、西は馬で二、三日、東は川までは馬で半日程度の距離だけど、さらに東からなら川を越える必要もあるし困難だ。
痕跡も残るし、フェンリルの森程木々が密集しているわけではないが、それでも植物が生い茂っているわけで、馬で入り込むのも現実的じゃない。
徒歩で森の中を移動となると、距離が長くなればなるほど難しくなるのは当然の事だ。
痕跡を残さないようにというのもそうだし、魔物もいる森なのだから、それと戦いながら移動しなきゃいけないし……。
って、そうだ、魔物だ。
森には魔物がいるんだから、とふと思い当たった事をルグリアさんに質問として投げかけた――。
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