フェンリルはすぐに人と仲良くなれるようでした
「いやいや、公爵家との関わりがあったからこそ、だと思いますよ? レオがいる事は確かにそうですけど……多分ですが、俺が思うに公爵家と関わりがあるからこそ、すんなり受け入れられているんだと思います」
そもそも、クレアさん達との関わりがなかったら、レオや一緒にいる俺も恐れられたりなんだりで、最悪の場合は街に入る事も出来なかった可能性もあるからなぁ。
「ははは、いつものタクミ殿の謙遜だな」
「そういうわけではないんですけど……」
謙遜しているわけではないんだけど……エッケンハルトさんは多分、半分くらい冗談というか面白がっているように見えるけど、クレアの方は真面目にそう思っているようだ。
とりあえずこれ以上この話を続けると、俺がただただ照れるというか、気恥ずかしい思いをするだけのような気がする。
「ガフガフ?」
「まぁ、そういう事でいいです。よしよし」
タイミングよく、俺が頬をかいている様子を疑問に思ったのか、一体のフェンリルが俺に寄ってきて首を傾げたので、撫でて誤魔化す事にする。
「ガーフ……」
確かこのフェンリルは、顎の下辺りを撫でられると喜ぶんだったな……と思い当たり、重点的に顎の下を撫でると気持ち良さそうな鳴き声を漏らした。
さすがに、関わったフェンリルが撫でられて嬉しい場所を全て覚えているわけじゃないが、特徴的な部分だったり、撫でる回数の多いフェンリルは覚えていたりする。
あ、レオがこっちをジーっと見ているな。
レオを差し置いて、俺がフェンリルを撫でているのが気になるようだ、後で撫でてやるからなー。
「ふふふ、タクミさんに撫でてもらって嬉しそうですね」
「クレアも、同じように撫でてもらうのはどうだ?」
「お父様! そ、そんな事をこのような場で言わないで下さい!」
「何やら、想像したようだな……これ以上クレアに怒られてはかなわんから、ここまでにしておこう」
エッケンハルトさんにからかわれ、顔を赤くするクレア。
兵士さん達もいるのに、こんなところでからかわないでもいいのに……と思いつつ、フェンリルを撫で続ける。
何か言うと、巻き込まれそうだったからな。
「ガウ、ガウガウ」
「おっと。ははは、こちらもみたいです。えーっと、こうかな……」
「ガウー、ガウ」
「ほぉ。随分フェンリルと仲良くなったようだな」
レオではないけど、俺を見て羨ましく思ったのか兵士さんがここまで乗っていたフェンリルが、その兵士さんに体を寄せて撫でられている。
エッケンハルトさんじゃないけど、出発前は多少なりともフェンリルと接するのに躊躇していた兵士さんが多かったのに、この短期間でかなり仲良くなっているみたいだな。
「はい。なんと言いますか、ラクトスとの往復の間、馬車を曳く時以外はずっと誰かに寄りそうことが多かったので。輸送を担当している者達は皆、フェンリルと触れ合うことが多かったですね。特に、野営の時など、フェンリルがいれば毛布などもいらないくらいで……」
「ふむふむ。それは楽しそうではあるな。成る程、フェンリルと寄り添っていれば暖かいか」
レオもそうだけど、寄り添って触り心地のいい毛に包まれていると、それだけで十分暖かいからな。
もちろん野営のテントにフェンリルの体は大きすぎるので外になるし、焚き火がある事前提だろうけど。
夜の見張りの時や、誰かとテントの外で話すときなどは、レオなりフェンリルなりと一緒にいれば風をひく事もほぼないだろうなぁ。
そんなこんなで、エッケンハルトさんやクレア、その他の兵士さんもフェンリルを撫でたり、乱入してきたレオを撫でたりして、和やかな雰囲気で本来の目的である、調査隊の到着を待つ。
エッケンハルトさんがフェンリルを撫でながら、「移動や輸送だけでなく野営でもか。一度ためしてみたいな」などと呟いていた。
何もないのに野営というか、フェンリルと一緒に外で寝るなんて言い出さないかちょっと心配だ……ユートさん辺りを巻き込んだら、強行しそうだしなぁ。
そんな新しい心配事はともかく、その後すぐに後続の輸送隊が先に到着したけど、そちらはエッケンハルトさんに挨拶をした後すぐに馬車から物資を降ろし、調査隊の面々やランジ村、屋敷の方へと運び始めた。
ランジ村には、多くの兵士さんが滞在する事になるので、まぁ挨拶というわけじゃないけど、ある程度の物資というか食糧等々を融通する事になっている。
村の方で食事をする事もあるからな、あと宿もか。
それから輸送隊は、今日と明日はゆっくり休むため、野営ではなく宿と屋敷の一部の部屋を優先的に割り当てられる事になっている。
フェンリルのおかげで行程が短くなったとはいえ、ランジ村に到着するなりラクトスに折り返しての旅だったからな。
疲労もそれなりに溜まっているだろう。
「む、来たようだな」
「はい」
「えぇ」
「ワッフ」
「わぁ、いっぱいいるね」
そしてようやく、日もかなりかたむいて薄暗くなった頃に、待っていた調査隊第二弾の到着だ。
ラクトス方面からの調査隊の倍以上の規模で、人の数だけでなく馬車の数、馬の数も相当なものだった。
うぅむ、どんどんランジ村に戦力が集中していくなあ。
まぁフェンリルが大量にいる時点で、戦力という意味では過剰なんだけど。
「調査隊、ただいま到着いたしました! 公爵様におかれましては、こうして出迎えて頂き恐縮の至りであります!」
「気にするな。ついでの用もあったしな。それに、私が急かしたのもある」
「はっ!」
ラクトス方面の調査隊が到着した時と同様に、代表して数人の兵士さんがこちらまで来て、敬礼しつつ到着の報告。
それからは人数などの確認や、今後の話など、以前とほとんど変わらない流れだ。
基本的には俺が調査隊のトップだという、日本では数人すら部下を持った事すらない俺に、数十人どころか数百人規模の人が付くというよくわからない状況。
改めてこれでいいのかとか、色々大丈夫かなとか、自分に対して心配になるけど……今更か。
一応、エッケンハルトさんやクレア、それにアルフレットさんやライラさんのような使用人さん達もいてくれるからな。
俺一人だったら多分、今頃全力でレオに乗って逃げだしているだろうけど――。
読んで下さった方、皆様に感謝を。
別作品も連載投稿しております。
作品ページへはページ下部にリンクがありますのでそちらからお願いします。
面白いな、続きが読みたいな、と思われた方はページ下部から評価の方をお願いします。
また、ブックマークも是非お願い致します。