輸送隊が先に到着しました
「向こうに行っていたフェンリル達が、戻って来たみたいだよパパー!」
「あぁ、成る程。ラクトスに行っていた輸送隊のフェンリルか」
リーザがすぐに通訳してくれて、皆がようやく納得できた。
ラクトスと往復して、物資の輸送をしてくれる輸送隊として出していたフェンリルか……多分ラーレが、空の散歩中に発見して一緒に戻って来たんだろう。
「しかし、馬車などの姿が見えないのだが……?」
「そうですね。さすがに馬車ともなるとフェンリルよりも大きいので、馬車を曳いていたらこちらからも見えると思うのですが」
確かに言われたように、馬車を曳いていれば小さいながらもそれが見えているはず。
けど、だんだん近づいて良く見えるようになっていくのは、走るフェンリルのみだ。
いや、背中に誰かが乗っているような……まだ遠いのでよく見えないが。
「さすがに、馬車とか輸送する物資を置いてきた、というわけではないと思いますけど……」
疑問に感じつつも、子供のフェンリル達の練習はとりあえず大丈夫そうだと止めておき、こちらに向かうラーレやフェンリル達を迎えるため、そのままでしばらく待つ。
「ガウガウ~!」
「公爵様、ラクトスの物資を持ち、ただいま到着いたしました!」
十分もかからないくらいだろうか、待っている俺達に嬉しそうな鳴き声を上げながら走って来るフェンリルと、その背中に乗っている兵士さん。
兵士さんは、すぐエッケンハルトさんがいる事に気付いたようで、まずはそちらへ報告するように声を上げた。
「キィー」
「ワフ、ワフワフ」
それと共に、ラーレが空から降りて来て着陸、レオから労うように声をかけられている。
「うむ、ご苦労だった。と言いたいところではあるが、その物資が見当たらないが?」
「はっ! そちらは後続として……」
兵士さんによると、ラーレが輸送隊を発見し接触した後、フェンリル達の中から一体と兵士さん一人が先触れとして、輸送隊より先にこちらへ来たって事みたいだ。
はっきりと意思疎通というか、通訳できる人がいなかったから誰がまではわからなかったらしいが、なんとなく村の外に人とフェンリルが集まっている事をラーレに伝えられたから、という事でもあるらしい。
ラーレ、俺達が外に出ている事を知っていたのか……もしかすると俺達が気付かなかっただけで、近くの空を飛んでいたりもしたのかもしれない。
もしくは、レオの気配とかが屋敷から動いたのを遠くで察知して、とかかもな。
「うむ。後続の物資が到着次第、皆に行き渡らせるよう手配しろ」
「はっ!」
兵士さんの話に頷き、次の指示を出すエッケンハルトさん。
だけどまぁ、後続の輸送隊は今ようやくうっすらと幌馬車やそれを曳くフェンリルの姿が、遠目に見え始めたくらいなので、到着はもうしばらくかかりそうではある。
つまり、兵士さんもまだやる事がない……と言うのを見越してか、続いてエッケンハルトさんが兵士さんに声をかけた。
「まぁまだ時間はあるようだから一つ聞くが、ラクトスまでフェンリルを使わせてもらい、他の者の反応はどうだった?」
どうやら、フェンリルに輸送隊を任せた事でどんな反応があったのかなど、エッケンハルトさんは気になるようだ。
それは俺も同じだな。
フェンリルに馬車を曳かせたら、という発案者の立場でもあるし……何か問題があったら考えないといけないわけだし。
謝ったりもしないと、かな。
「輸送を担当する兵士達は、私同様に皆最初はフェンリルと接するのに及び腰でしたが、すぐに打ち解けられました。フェンリルがおとなしく、我々と共に寄り添う姿勢があったからでしょう」
「成る程な。ならばこれからも、フェンリルに頼める時には頼むのも問題はなさそうか?」
「こちらから頼みたいくらい、何事もなかったと言えるかと。ですが……」
「む?」
何やら言いよどむ兵士さん。
何事もなかったと言ったけど、でもやっぱり何かあったのだろうか? と俺もクレアも、それにレオも兵士さんの次の言葉に注目する。
「本来なら約一週間程度……物資の量次第ではそれ以上も予想されたのが二日程度で往復できました。これは間違いなくフェンリルのおかげでしょう。ですがその、馬車の方がですね……連続でフェンリルに曳いてもらう事には耐えられそうにないかと……」
「むぅ、そうか」
「ラクトスに到着した時点で、一部の破損が見られました。今回は馬車そのものを交換して対処いたしましたが、いつでもできるわけではないと……」
まぁ、毎度毎度交換していたら、無事な馬車自体がなくなってしまうからな。
破損個所を修理するにしても、物によっては時間がかかる事もあるだろうし。
「部品交換などで対処できる物であればいいのですが、それが難しい部分の破損もありました。ですので、こちらに戻る際は少々速度を落としてもらってなんとか、と言ったところでしょうか。それでも、馬車自体が軋む事が何度もありましたから」
つまり、故障する可能性がなければもっと早く往復できたという事でもあるか。
「元々、フェンリルが曳く馬車としては現行の物は耐えられないだろうと予想していたからな。その範疇ではある。が、ラクトスとランジ村の往復二日程度……いや、片道で交換の必要が出てくる程か……」
最初にランジ村に到着した時点で、使い込まれた馬車ではあったし、ここまで一度は物資を運んでいたのだから多少は耐久が落ちていた可能性はある。
けどそれでも片道で交換ともなるとなぁ。
フェンリルが悪いわけじゃないんだけど、馬以上に重い物を早く運べるというのも、いい事だけではないか。
エッケンハルトさんも言っている通り、予想はしていたからこそ新馬車の開発が急がれているわけだけど。
「まぁそれに関しては、既に新しくフェンリルが曳いても故障しないような、丈夫な馬車を作ろうとしている。試作品はできているが、その試用段階だ。これが量産されれば、危惧する問題もある程度は解決するだろう」
エッケンハルトさんも言っているけど、ある程度……なんだよなぁ。
新しい馬車ができました、ではそれに全ての馬車を交換しましょう、なんてすぐできるわけじゃないからな。
金銭面でも、製造期間や材料その他でもまだまだ時間がかかるだろうなぁ……。
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