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「ふむ、フェンリル達も、乗っている者も大体は慣れたようだな」
「そうですね。フェリー達の方からお叱りの鳴き声がほとんどなくなりましたし」
「兵士達の方からも、声が聞こえませんし馬と同じように乗りこなしているように見えますね」
しばらくして、フェンリルに乗る、またはフェンリルが乗られる練習が一定の成果を見せ始めた。
フェンリル達が興奮して速度を出す事がほぼなくなり、その証拠としてフェリー達から注意を促したり叱ったりするような鳴き声がほぼなくなっている……まぁ、一切ないという程ではないんだけど。
そして、クレアが言うように乗っている側の兵士さん達も、最初はしがみ付いていたのが今では背筋を伸ばしている状態で、結構な速度を出すフェンリルに乗っている。
これなら、お互い長時間の移動にも耐えられそうだな。
「予想より早かったか。では……」
「エッケンハルトさん?」
「お父様?」
何か呟いたエッケンハルトさんが、フェリー達の近く……様子を見ていた他の調査隊の人達の所へと向かう。
何をするのかと、俺とクレアは二人で見送るしかなかったが……。
「大体、あれで荷物を載せた状態よりも負荷が高い状態だろう。少々、調査隊の者達の到着まで間がありそうだったのでな。フェリー達に許可を取ってやってみた」
「……まぁ、練習だから本番よりも負荷を高くして試すのはありだとは思いますけど」
「フェリー達の許可を取っているなら、私から言う事はありません。けど……」
「あれは……」
戻って来たエッケンハルトさんが、何やらやっていた成果というか……練習しているフェンリル達、その背中に乗っている兵士さんの変わりように、思わずクレアと顔を見合わせる。
とはいえ、気になるのですぐに走るフェンリル達の方へ視線を向けたが。
「ワフゥ……」
「なんかいっぱい持ってるー! 背負ってる?」
俺達の横で溜め息を吐くレオも、俺やクレアと同じように言葉にし難く感じているようだ。
フェリーに乗っているリーザは、よくわからないながらも喜ぶような声を上げていたけど、やっぱりよくわからないようで首を傾げるような疑問の声がこちらまで聞こえてきた。
そのフェンリル達……はまぁ、エッケンハルトさんの言う負荷が追加されても、平気そうにこれまで通り走っているから大丈夫そうだが、問題はその背中の兵士さん達。
背中に交差するように背負っていた槍が取り外され、そこには紐でくくり付けられた一抱え程もある木箱が取り付けられている。
木箱って、抱えて運ぶ物でリュックみたいに背負う物だっけ? という疑問を湧き上がらせる格好だ。
しかもその木箱の中には何が入っているのかわからないけど、相当重いらしく、全身鎧なのもあって相当な加重が兵士さんに課せられ、慣れて伸ばされていた背筋が、今はペッタリと上半身をフェンリルの背中にくっ付けている状態だ。
もはや、フェンリルに乗っているのではなく、木箱などと同じく荷物として載せられていると言えるだろう。
「なに、鎧などの重量だけでも少々辛そうだったので訓練不足かと思ってな。どうせならと追加してみたのだ。フェンリルだけに負荷を持たせるのも悪いだろう?」
「……直属の護衛とかならまだしも、調査を担当する兵士にまで訓練を課さなくても……はぁ、お父様の悪い癖が」
「はははは……」
こともなげに言うエッケンハルトさんに溜め息を吐くクレアと、乾いた笑いしかできない俺。
何かあれば訓練にしようとしなくても……と思うけど、まぁ調査隊の人達は公爵家に所属する兵士さんだから、俺が何か言える事はないか。
ちなみにだけど、それを見ている他の調査隊の人達は次は自分かと、表情を強張らせていたりする。
フィリップさんがここにいれば、現在もエッケンハルトさんが滞在しているために森の調査と並行してそれなりの訓練をしているようだけど、さらに以前の苦しく辛い訓練を思い出して、遠い目になっていただろうと予想できた。
公爵家の護衛の人達……今は森の調査の方に人を割いていて正解だったのかもしれない。
そんなこんなで、さらにしばらく木箱と重装備の兵士さんを乗せた子供のフェンリルが走るのを眺めていると、遠くの方から何かの鳴き声が聞こえてきた。
「この鳴き声は……」
「キィ―……キィー……」
「ラーレ、ですね」
「そうみたいだ。ほら、あそこに」
声の聞こえた方向に目をやると、遠くで空を飛んでいる鳥……ラーレと思われる姿が小さく見えた。
おそらく、空の散歩から戻ってきているところなんだろう。
「ふむ、小さくラーレらしき姿が見えるな。しかしあちらは、調査隊が来る方角ではなかったはずだが」
「あっちは、ラクトスがある方角ですね。さっき追加の調査隊を発見した時は南方向を飛んでいたみたいですけど……」
俺やティルラちゃんに調査隊というか、多くの人間がこちらに向かってきていると報告をした後、再び空の散歩に出かけたラーレ。
だけど今度は、南ではなく西方面を飛んでいたんだろうな。
「うん? ラーレの下に、何かいるな」
「地面なので、何かが走っている、でしょうか?」
「結構な勢いでこちらに向かっているように見えますけど……」
「ワフ。スンスン……」
空を飛ぶラーレの下、地平線の上というか要は地面を走る何かが小さく見えるのがわかる。
それを見て首を傾げている俺達とは別に、レオがジーっとそちらを見た後鼻を天へと向けてひくつかせた。
まだまだかなり距離があって、多分歩くと一時間以上かかるだろう距離に見えるけど、レオはそれでもわかるのかな? と思っていたら、何やら伝えるように俺へ向かって鳴いた。
「ワッフワフワフ」
「あぁ、成る程、フェンリルかぁ……ってフェンリル!?」
「ワフ」
レオ曰く、ラーレの下を走る何かはフェンリルらしい。
ラクトス方面から、ラーレがフェンリルを連れて来た……とかか?
いやでも、フェリー達ならまだしも、ラーレはフェンリルの森に棲む他のフェンリル達と、特別親しいとかではなかったはずだけど……。
そもそもいくらラーレであっても、この短時間でフェンリルの森と往復をする事はできないだろうし。
「グルゥ、グルルルゥ!」
どういう事だ? とエッケンハルトさんやクレアとも顔を見合わせて考えている間に、さらにラーレ達が近付き、フェリーもそれに気付いたようだ。
だからだろう、それをこちらに報せるように鳴いた――。
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