娯楽についての会議っぽくなりました
この世界の娯楽に関して、ユートさんからの補足で一部他にも広めようと娯楽を作ったんだけど、あまり広まらず年を追うごとになくなって行ったものもあるとか。
原因の多くは、先程からも話しているように国民に余裕がなく、日々の生活で手一杯。
しかも街や村の外に出れば魔物がいる世界だから、文化を作って国に広める障害が多い事などらしい。
そりゃまぁ、魔物は危険なのも多いし、だから気軽に旅をする人も多いと言える程ではないうえ、お金もかかるような娯楽だったりすると、時間やお金に余裕のある人達くらいしか楽しめそうにないよなぁ。
「タクミ君にだけ言うけどさ、僕もこの世界に来てから長くて、地球……日本にいた頃の娯楽とかもほとんど忘れているんだよ。そもそも、あまり娯楽に親しんできたわけでもないってのがあるけどね」
「そうなんだ、結構意外かも」
「僕はこれでも、昔は真面目一辺倒だったんだよ。毎日勉強ばかりでねぇ……」
エッケンハルトさんと一緒に、面白そうな事を見つけては他の人を……最近は特に俺を巻き込んであれこれやっているユートさんだから、娯楽に関して一過言あるくらい詳しいんだと思っていた。
まぁ自分でこれでも、と言っているあたり今が真面目ではない、という自覚はあるようだけど。
「俺も娯楽方面はあまり……多少ゲームをやったり、漫画や小説、アニメとかを見ているくらいかなぁ」
「ふむ……?」
「あ、ゲームとか言っても皆に伝わりませんよね。えーと、なんて言ったらいいのか。娯楽というか趣味の世界に近いんですけど」
「まぁタクミ君の方はここで再現できなさそうなのが多いと思うから、あまり気にしない方がいいかもね」
「ぬぅ、タクミ殿ならば参考になる何かを知っていると思ったのですが、残念です」
ユートさんのフォローもあって、とりあえず誤魔化せたかな?
漫画や小説くらいならまぁ説明できるけど、物語調の本もあるからね。
ただゲームとかアニメはどう説明したらいい物か……絵が動く、と言っても伝わらないだろうし、そもそもテレビとかもない世界で、実際に見せる以外で正しく伝わる気がしないし。
今後も再現できる可能性は低そうだから、教えようとしても話が逸れて長くなってしまうだろうから、ユートさんのフォローはありがたかった。
「他の娯楽と考えると……うーん、賭け事は一応こちらにもあるようですけど……美術鑑賞? あとスポーツ観戦とか? いや、スポーツはやる方も娯楽になるのかな?」
一言に娯楽と言っても多岐にわたるから、これがいいだろうというのが思いつかない。
俺は真面目ではなかった方だと思うし、それなりに勉強以外の事をしてきてはいたけど、多趣味ではなかったしなぁ。
あとレオと出会ってからは戯れる時間が、一番の娯楽になっていたし。
とりあえず、娯楽として思いつくものを列挙しては見るけど、どれもこれもピンとくるものがない。
「美術鑑賞は、そもそも芸術方面に熱心な人がほとんどいないね。昔はそれなりに増やそうという試みをした……じゃない、していたらしいんだけど、簡単に失われるからね……」
言い換えたのは、マリエッタさんがいるからだろうか。
ユートさんの事情は、俺とエッケンハルトさん、それにエルケリッヒさんと一応俺から伝え聞いているティルラちゃんも知っているけど、マリエッタさんは察していそうでも直接は伝えていないらしいし、表向きは知らない事になっているから。
それはともかくとして、簡単に失われると言った時のユートさんの表情は、どこか寂しそうだった。
魔物などもいるし、医療も十分ではないからなど、様々な事情があるんだろうと察する事ができた。
「んー、他には観光旅行とかも娯楽の一つだと認識していますけど……こちらではあまりそういった事は一般的ではないですよね?」
「観光ねぇ。いろいろな物を見て経験するというのは悪くないけど、用もないのに遊びに行く、というのはこの世界じゃ受け入れられにくいかな。まぁ、素地があれば別かもしれないけど」
「素地?」
「安全に旅行に行って戻れる保証、みたいなものかな? あと、それをするだけの日数の短縮も必要かもしれないけど。村はともかく大きな街とかは結構、平均的な街の作りが全体を占めているわけじゃなくて、都市ごとに特徴があったりするからね。自分達の知らない街に行くというのも大きな経験になると思うよ」
「成る程……そう言えば俺も、大きな街と言えばラクトスしか見た事がないから、他の場所の事はよくわからないね」
「ランジ村とか、人口の少ない場所は大体似たような感じにはなるんだけどね。人の多い街では、建物なり配置なり、区画もそうだし……他にもそこに住む人達の性質というか、考え方が違ったりするんだよ。……タクミ君にわかりやすく言えば、県民性とかみたいに、同じ国なのに違う風習や馴染みを持っているみたいな?」
コッソリと、最後は俺にだけ聞こえる声で伝えて来るユートさん。
県民性かぁ……日本でも、都道府県によって親しんでいる食べ物や、建物の特徴なりがあったりするもんなぁ。
まぁ建物に関しては、はっきりと大きな違いが出る程じゃないかも? だけど……。
違いでわかりやすいのは方言か、離れた場所で似ている方言になっている事もあるけど、本当に同じ日本語から派生しているのかと思う程、別物のような方言とかもあるくらいだしな。
「ユート閣下の言う通り、公爵領に限ってもそれぞれで多少の違いなどはあるな。山に近いか、森に近いか、はたまた平野にあるかでも当然違うものだ」
「地理的な違いっていうのは当然ありますよね。ふむ……観光旅行というのは悪くない線かもしれません。特に、これからは……今のところは、公爵領内の一部に限られてしまいますけど」
「……フェンリルによる駅馬の構想か」
駅馬のための建物を一緒に見たからだろう、エルケリッヒさんが顎に手を当てつつ口角を上げる。
「はい。フェンリルがいれば道中の安全は今より格段に上がりますから」
「というより、フェンリルそのものが危険と認識している者も多いかもしれんが……そのフェンリルを害せる魔物など、そう多くはいないな」
全くいない、というわけではないから絶対に安全とはエルケリッヒさんは言えない様子だった――。
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