負傷してしまいました
「ギャ! ギャ!」
「くっ!」
俺が反撃しない事に気を良くしたのか、オークは続けて俺に槍を振るい続ける。
それを何とか避けているが、それもいつまでもつか……。
怪我をした村人が落とした剣を拾いたいが、オークがそれをさせてくれない。
他の村人達は、自分達の前にいるオークの対処で精一杯だ……どうするか……。
「ギュア!」
「くそぉ!」
俺に槍が当たらないオークが痺れを切らしたのか、体ごとぶつけるように槍で突いて来た。
槍の方はなんとか避ける事が出来たが、オークの体までは避けられない。
体がぶつかり、一瞬だけ息が詰まる俺……。
オークはそのまま、俺を捕まえようと腕を回して来た!
「捕まったら……ヤバイだろ!」
オークの腕を避けるため、胸部分に手を当て、それを押すようにして自分の体を離す。
なんとか目の前で空振りにしたオークの腕を見ながら、やっぱり身体強化の薬草があればなぁと考えていた。
そうすれば、もしかしたら拳で時間を稼ぐことくらいは出来るかも……という淡い考えだが……。
「……ん?」
そう考えながら、手を付いているオークから離そうそした時、おかしなことに気付く。
オークが動かないのだ。
「何だ?」
不思議に思ってオークの豚の顔、その目を見てみると、そこからは既に光は失われており、生きていないような気配がした。
「どうしたんだ……? ん?」
オークが何故か急に動きを止めて、死んでしまった事に驚きながら、自分の手に違和感を感じた。
オークに付いている手は、先程まで脂肪を触ってるようにブヨブヨした感触だったんだが、そこに違う感触を感じたんだ。
「……まさか!」
その手を付いてる場所からは、見覚えのある葉っぱが顔をのぞかせており、少しづつ育って行っている。
「……『雑草栽培』……」
この現象は、俺がいつも使っている物だった。
いつもは固い土の地面に手を付いて、『雑草栽培』を発動させる事で、普通ではありえない速度で植物が育つ。
今、オークの体に触れている手の先で起こっている事、そのものだ。
「まさか……さっき身体強化の薬草の事を考えていたから……?」
オークの体に手を付いた時、身体強化の薬草があればと考えていた。
なんとなく考えて、それで発動してしまうのは、クレアさんと出会ってすぐのラモギ等、何度か経験している。
まさか……『雑草栽培』は地面でなくても発動するのか……?
「……まさか……な……ぐあ!」
「ギャッギャッギャ!」
『雑草栽培』の事に気を取られていた俺は、後ろから近づくオークに気付いていなかった。
そのオークは、槍の先で俺の頭を強打した!
その槍は、村人の誰かのおかげか、刃があったはずの部分が折れており、おかげで斬られる事はなかったが、それでも力いっぱい振り下ろされた槍……棒で頭を強打された衝撃は相当なものだ。
一瞬意識が飛び掛けるが、何とか持ち直し、俺を見て笑っている様子のオークを睨む。
「くそ……エッケンハルトさんから、戦闘中に動きを止めるなと教えられてたのに……っ!」
今は戦闘中だ。
オークの数は未だ半分も減っていない状況で、村人と入り乱れて戦っている。
その状況で、どこからオークが攻撃してくるかわからないのに、動きを止めてしまった俺の落ち度だろう。
エッケンハルトさんには、剣の鍛錬をする時、言われていたはずの事だが、今更思い出してももう遅い。
「ギュア!」
「……くそぉ……」
目の前のオークが、ニヤリと笑みを浮かべたように見える表情をして、大きく槍ではなくなった棒を振り上げている。
頭を強打された俺は、思うように体が動かなく、その棒を見るだけで避ける事が出来そうに無い……。
さすがに、もう一度あの強打……今回はさらに力がこもってそうなあれにあたったら、もう駄目だろう。
何とか絞り出すように声を出すが、誰かが助けてくれる余裕も無く、その振り上げられた棒は俺に向かって振り下ろされた。
村の人達に死ぬなと言っておきながら、その本人が一番危ないとはなぁ……俺以外の皆は無事でいて欲しいが……。
……レオ、ごめんな……。
振り下ろされる棒を見つめている事が出来ず、衝撃に耐えるように目を閉じながら考えた事は、残してしまう事になるレオの事だった……。
「ガウ!」
「ギャ!?」
心の中でレオに謝り覚悟を決めた俺の耳に、聞きなれた声が聞こえて来た……オークの悲鳴と共に。
死に際に、幻聴でも聞こえたかな?
「ワフワフ、ワフー?」
「……え?」
目を閉じたままにしていた俺に、覚悟していた衝撃が来る事は無く、代わりに顔を舐められる感触……これは何度も経験して覚えのある感触だ。
「……レオ? レオなのか!?」
「ワフ!」
その感触に促されるように目を開けると、そこにはここ最近で見慣れたレオがいた。
どうしてここにレオが……屋敷に戻ってたはずじゃあ……?
「ギュォォォォ!」
「ワフゥ……ワーウワフ。……ガウ!」
「あ、レオ!」
俺の事を覗き込むようにしていたレオは、突進して来たオークに気付くと、溜め息を吐くように声を漏らした後、俺に向かって頷き、オークへ風のような速さで飛びかかった。
一瞬にしてレオの爪によって細切れにされたオークは、悲鳴すら上げられず地面に散らばる。
そのままレオは、村人が対峙しているオークの方へ走って行った。
……レオが来てくれたんなら、安心だな。
「つぅ……ふぅ……生きてるん……だよな……?」
さっきオークによって強打された頭からの痛みに耐えながら、ゆっくりと深呼吸。
まだズキズキとした痛みは残ってるが、少しはマシになった気がした。
息を吐きつつ周囲を見回すと、その頃には村人達が対峙してたオーク達は全て倒されており、それを見ていた村人達は呆然としている。
皆、レオの強さに驚いている様子だ。
「良かった……誰かがやられたなんて事は無かったみたいだな」
周囲を見渡す限り、オークによってやられた人は見当たらない。
もちろん、多少なりとも怪我をしている人は見られるが、生きているなら何とかなるからな。
「タクミ様!」
「ハンネスさん! 無事でしたか!」
「そちらも、ご無事で何よりです。レオ様ですが……」
「何故ここにいるのかはわかりませんが、助かりましたね」
「そうですね……タクミ様には何とお礼を申し上げれば良いのか……」
今年最後の更新となります、皆様良いお年を!
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